虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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今更ですが、悠香君の見た目は……。

・髪型は兄と同じだが、髪色は毛先が薄茶色の黒髪。
・身長は兄と同じだが、戦闘時以外は若干猫背。
・目つきは宿儺寄り。

みたいな感じです。


今回は、宿儺さんお待ちかねの悠香君との戦闘です。


第4話:〝威虎(インドラ)

「我々の窓が呪胎を確認したのが、3時間程前。避難誘導九割の時点でも現場の判断により施設を閉鎖。半径500メートル内の住民も避難が完了しています」

 呪術高専東京校の補助監督・()()()(きよ)(たか)は、悠香達四人に3時間前に英集少年院で発生した呪霊について説明する。

「「受刑在院者第二宿舎」。5名の在院者が現在もそこに呪胎と共に残されており、呪胎が変態を遂げるタイプの場合、特級に相当する呪霊に成ると予想されます」

(特級……)

 伏黒と釘崎は、その言葉に顔を強張らせる。

 呪霊は力の強弱に応じて4級・3級・2級・1級・特級にクラス分けされており、呪霊が発生した場合、通常は呪霊と同等級の呪術師が任務に当たる。そして呪霊の強さは通常兵器が呪霊に有効と仮定した場合、4級は「木製バットで余裕」、3級は「拳銃があればまあ安心」、2級は「散弾銃でギリ」、1級は「戦車でも心細い」、特級は「クラスター弾での絨毯爆撃でトントン」とされているのだ。

 本来は呪霊と同等級の呪術師が任務にあたることを考えると、五条が出張らねばならない相手が現れるということだ。

「この業界は人手不足が常、身に余る任務を請け負うことは多々あります。ただ今回は異常事態です……()()()()()()()()()。特級と会敵した時の選択肢は()()()()()()()です。自分の恐怖には素直に従ってください、君たちの任務はあくまで生存者の確認と救出であることを忘れずに」

「いや、絶対死んでるでしょ」

「おい、悠香!!」

 ド直球で返す悠香の頭を、悠仁は引っ叩いた。

 こればかりは伏黒と釘崎も同意見なのか、特に庇い立てしなかった。

「あの、あの!! (ただし)は、息子は大丈夫なんでしょうか」

「いや、だからもう死ん――」

「悠香君!!」

 今度は伊地知が声を荒げ、改めて受刑者の親族に説明した。

 呪霊に襲われたなどという返答ではなく、施設内に毒物が撒かれた扱いらしい。

「伏黒、釘崎、悠香……助けるぞ」

「当然」

「だから、その5人はもう死んでるってさっきから――」

「あんた、人の心あるの!?」

 悠香の冷たい言葉に、ついに釘崎が激怒した。

 そんなこんなで生存者が取り残されているであろう宿舎の前まで行くと、伊地知が〝帳〟と呼ばれる黒いカーテンのような結界を展開した。住宅地が近いので、外から自分達を隠す隠ぺい性の高い結界のようだ。

 遮光カーテンの上位互換みたいなもんかな、と暢気に考えていると、伏黒が「玉犬(ぎょくけん)」と唱えて真っ白な犬の式神を召喚した。

「呪いが近づいたらこいつが教えてくれる」

「そっかそっか~! 頼りにしてっからな」

「早く帰りたいから、先に行くよ」

 竹刀袋から木刀を取り出し、置いていこうとする悠香だったが……。

 

 バチィン!

 

「……あれ?」

「え?」

 何と、帳の中に入ろうとした途端、呪具の時のように静電気のように呪力が発して弾かれたではないか。

 悠香は嫌な汗を一筋垂らし、悠仁達に謝った。

「ごめん……俺、戦力外だ」

「「「――ハァァァ!?」」」

 ここへ来て、悠香がまさかの戦力外通告だった。

 

 

           *

 

 

 戦力外になった悠香は、少年院の近くのベンチで待ち続けた。

 随分時間が経ったが、今のところ不気味なくらいに動きがない。

(やっぱ俺達、ハメられてるね)

 等級違いの任務を当てられた今回の件に、苛立ちを覚える悠香。

 どこまでが誰の差し金かはまだ把握できないが、まるでその特級に会うことが前提のように思えてくるので、自分達兄弟を殺すという線は確定だろう。

 しかも死ぬのが兄()()じゃなくても、任務の名目でプラスアルファ伏黒か釘崎か伊地知の誰かさえ死ねば、不審者モヤシへの嫌がらせになる上に勢力も削げる。まさに悪い意味の一石二鳥だ。

「……つまんないことすんねぇ、お上は」

 これだから権力争いは醜い、と反吐が出そうになる。

 悠香はこの界隈に引き込まれた以上、ロクな死に方は期待してない。兄に至っては宿儺が大爆笑するような遺言でも言いそうだ。

 それでも、どこの馬の骨とも知れない老害にサイコロを任せっきりにするのはダメだ。サイコロは自分で投げたいものだからだ。

「……これを凌いだら、いつ仕掛けてくんだろうね……」

 諦めの悪い上層部にどう抗おうか考えていると、すぐ近くに見慣れた車が止まった。

 運転しているのは、伊地知だった。

「伊地知さん?」

「悠香君、呪霊は特級に変態していました! 悠仁君が時間稼ぎで残り、釘崎さんが負傷しています!」

 伊地知の言葉に、悠香は瞠目する。

 兄がたった一人で、特級呪霊と戦っているのだ。

「避難区域を10キロまで広げ、1級以上の術師を寄こしてもらうよう要請します。それまで伏黒君と共に待っていてください」

「……やっぱり……」

 悠香は頭を掻きながら、伏黒の元へ向かった。

 

 

(生得領域が閉じた! 特級が死んだんだ!)

 不完全な生得領域が閉じたことで、特級呪霊が祓われたのを確信する。

 あとは悠仁が戻ってくるのを待つだけだが――

「残念だが、小僧なら戻らんぞ」

「!」

 現れたのは、爪が黒くなって尖り、顔を含めた全身に紋様が浮かび上がり、両眼の下にもう一対の眼が開眼した悠仁。

 否、悠仁の姿をした災い――宿儺だった。

「そう怯えるな。今は機嫌がいい……ようやく顔合わせできるのだからな」

「顔合わせ、だと……?」

「ああ。お前も望んでいただろう? 虎杖悠香」

 宿儺は目を細めて笑う。

 振り返ると、そこに立っていたのは帳から弾かれ戦力外だった悠香が。

「初めまして、虎杖悠香です。……で、何で顕現なさってるんで?」

「これは何の縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっているようだ。しかしまぁ、それも時間の問題だろう」

「ハァー……あのバカ兄貴……見返りくらい考えておけよ……」

「どうやら俺が受肉する前から、小僧は愚かなようだな」

 お前の気苦労が目に浮かぶぞ、と宿儺はケラケラと笑いながら服を破り捨てる。

 何で上半身裸になるんだろうか、とジト目で見つめると、宿儺は少年院で回収したであろう指を飲み込んだ。

(宿儺の指! 中に居たあの特級呪霊が取り込んでいたのか)

「最初は小僧を人質にしようと思ったが……気が変わった。晴れて自由の身だからな、お前の味見をしよう」

「……宿儺さん、性癖とんでもないですね……」

「何を勘違いしている」

 誤解が生じたことに、真顔でツッコむ宿儺。

 確かに言い回しは少し危なかった気もするが。

「先日はお前の戦いを見れなかった。小僧と同様に他の人間より多少頑丈なのはわかるが、小僧の方は今際の際で怯えに怯え、ごちゃごちゃと御託を並べていた。お前はどうだ?」

「怖いもんは怖いですよ、死にたくないし……だから、俺はあなたと戦います。身の丈相応の強さかもしれませんが」

 悠香は木刀に呪力を込め、脇に構える。

 呪いの王と、多少腕に覚えのある高校生。どちらが勝つなど一目瞭然だ。

 だからこそ、王の興味を引かねばならない。自分はあなたが思っている程の弱者ではないと、あなたを飽きさせない人間だと、この場で示さなければならない。

 それが、自分達兄弟の地獄の中の光明となり得るのなら。

「フゥー……」

 深呼吸してから、強く踏み込んで地を駆け、木刀を振るう。

 宿儺は両手をポケットに入れたまま、笑みを浮かべて流れるように次々に躱していく。悠香は途中から蹴り技を織り交ぜて攻撃していくが、掠りもしない。

 それならばと、すかさず突きの連発で関節を狙いに行く。いくら呪いの王といえど、肉体は兄であり、人間である。関節が外れれば思うように動けなくなり、動きに制限がかかるはずだ。

 そんな狙いを看破したのか、宿儺は手を出し始め、最小限の動きで捌いていく。

「もっとだ、もっと呪いを込めろ!」

 宿儺は裏拳で悠香を殴打する。兄と喧嘩した時とは比べ物にならない重さだが、どうにか耐える。

 出し惜しみしてはいけない――そう判断した悠香は、木刀に呪力を込めていく。

 宿儺は呪力の密度が濃くなったのを感じ、目を見開いた。

 

「〝威虎(インドラ)〟!!」

 

 ドォン!!

 

 悠香は片手持ちで木刀を一閃し、前方に高密度の呪力を弾丸のように飛ばした。

 シンプルな一撃だが威力は凄まじく、吹き飛ばされた宿儺は木々を次々と突き破って外の建物に叩きつけられ、瓦礫と土煙の中に消えていた。

「なっ……」

 悠香の思わぬ実力に、伏黒は言葉を失った。

 先程戦った特級呪霊と同じ、呪力のみで戦うスタイルだ。しかし呪力の密度も量も明らかに格上だ。こんな奴が、今まで一般人としてストレス発散がてら呪霊をシバきながら生活していたのだ。

(独学であそこまでの呪力操作か……)

 もし帳に弾かれなければと思うと、悠仁はあそこまで傷つくことはなかったのだろうか。

 そう思った時。

「――いい一太刀だ」

 宿儺があっという間に戻ってきた。

 多少の傷はついているが、ほとんどダメージを負った様子を見せない。

「密度を高めた己の呪力を飛ばして破壊する「遠当て」……物足りんが悪くないぞ」

「つまらないのは勘弁してくださいな……」

「そう畏まるな。これでも少しは脳を揺らされた、ぞっ!」

 眉を下げる悠香に、宿儺は気にするなと言わんばかりに笑いかけたかと思えば、一瞬で距離を詰めて飛び蹴りを見舞った。

 悠香は咄嗟に呪力を込めた木刀を盾にするが、威力を殺しきれずに吹き飛ばされ、木々を薙ぎ倒しながら壁に叩きつけられた。

「っ!!」

「――お前は失せていろ」

 宿儺は伏黒を思いっきり殴り飛ばすと、レンガの壁に叩きつけられ血を流す悠香を見下ろした。

「けほっ……ごほっ……」

「おい、どうした? もう終わりではないだろうなぁ?」

(高校受験のブランクが……)

 受験シーズン中は呪霊サンドバッグやらなかったからなぁ、と心の中で悪態を吐く。 

 どうにか起き上がると、木刀の切っ先を向けて呪力を込める。

「怠けていると、やっぱり勘と腕が鈍るなぁ……」

「そうだ、ほら頑張れ頑張れ」

 宿儺は容赦なく蹴りつけるが、それを躱して〝威虎(インドラ)〟を仕掛ける。

 が、すかさず腕を掴まれてしまい不発に終わってしまう。

「一芸だけでは俺には届かんぞ?」

「っ!」

 次の瞬間、呪力を込めた宿儺の拳が鳩尾を穿った。

 悠香は為す術もなく吹き飛ばされ、勢い余って木刀を落としてしまい、木々を薙ぎ倒しながら宿舎に激突する。

 こればかりは相当堪えたのか、悠香は力なく倒れてしまう。

(想像以上の化け物だ……生物としての格が違い過ぎる……)

 どうにか悠香は竹刀袋に入れた予備の木刀を取り出し、杖のようにして体を支えながら起きると、すでに宿儺が目の前にいた。

 今の自分は、誰が見ても満身創痍だ。口元からは血が顎を伝って落ち、荒い呼吸を繰り返す度に胸が痛みを覚え、立っているだけでも精一杯。この状態で戦えるとは思えない。まさに絶体絶命だ。

 それでも悠香は、絶対的な強さや理不尽を前にしても、最後の最後まで見苦しく抗おうとする。そんな〝珍獣〟の真っ直ぐな眼差しに、宿儺は笑みを深めた。

「いいぞ……それでこそ、この小僧に受肉した甲斐があったというものだ!!」

 これだから、虎杖悠香は面白い。

 小僧(あに)は死を前に弱すぎるだの死にたくないだのと喚き散らしていたが、弟は一度死んだ経験があるからか、死が目前に迫っても大きくは動じない。むしろどんなに惨めだと嗤われても、どんなに無様だと嘲られても、見苦しく足掻いて立つことを止めない。

 身の丈に合った不幸を噛みしめ享受しながら、強者に抗い続ける。こういう曲者は、ただの人間(ムシケラ)とは一味も二味も違うし、退屈させないのだ。

 

「さあ、抗って魅せろ!! 虎杖悠香!!」

 

 挑発とも激励とも受け取れる言葉で、嬉しそうに叫ぶ宿儺。

 悠香は攻撃の構えを取るが、ふと宿儺の紋様が薄くなるのを見て、構えを解いた。

「くっ……小僧め……!」

「……続きは、また今度しましょう……その時は……茶の、一杯くらい……奢りますから……」

「……ケヒッ」

 邪悪さとかけ離れた含み笑いを浮かべ、呪いの王は消えていった。

 それと共に、緊張の糸が解れて疲労が一気に襲い掛かったせいか、悠香はうつ伏せに倒れた。

「……え? ゆ、悠香!? しっかりしろ、悠香!!」

 悠仁は顔面蒼白になり、悠香を揺さぶる。

 すると、小さな声で言葉を返した。

「……クソ兄貴、め……」

「ク、クソ兄貴……」

 血だらけで真っ赤でも通常運転の悠香であった。

 

 

           *

 

 

 任務後、高専に戻った一行は医師の(いえ)(いり)硝子(しょうこ)の治療を受けていた。

 家入は反転術式――「負のエネルギー」である呪力を掛け合わせることで「正のエネルギー」を生み出す高等な呪力操作――の使い手で、負傷した体を回復させることも可能とする。特に家入の反転術式による治癒能力は非常に高く、さらに他人の治癒もできるため、貴重な人材だ。

 今回もいつものように負傷した生徒の治療にあたったのだが……。

「おい、悟」

「うん……」

 予想だにしない展開に、家入だけでなく、同行した伏黒と釘崎、出張を終えた五条も困惑した。

 悠香だけ、反転術式による治癒が異様に遅いのだ。

「多分、天与呪縛の影響だと思うんだけどなー……」

 止血は済んだが生々しい傷痕が残る悠香は、ぐっすりと眠っている。

 自分がもっと強ければ――悠仁はそう責任を感じたが、伏黒と釘崎に宥められた。

(この前の任務では、悠香が呪具に触れた途端弾き飛ばされた。単に呪具に触れられない天与呪縛だと思ったけど……今回は伊地知が張った帳にも弾かれた。何の縛りもなく、だ)

 今まで悠香に起こった出来事を推理し、五条は一つの仮説に辿り着いた。

「……これ、もしかしたらとんでもない縛りかもしれない」

「とんでもない縛り?」

「悠香の天与呪縛はね、自分以外の呪力的干渉を拒絶する縛りだと僕は思う」

 悠仁だけは首を傾げたが、それ以外は大きく目を見開いた。

「孤軍を強いられる、とでも言えばいい。術式や呪力は呪霊を祓うだけじゃなく、硝子のように他の術師に干渉して恩恵をもたらすモノもあるし、帳を始めとした結界術もある。それを拒絶するとなると、場合によっては恐ろしく不利になる」

「だが、今までこれといった傷は負わなかったらしいじゃないか」

「それこそおかしいんだよ、硝子。一度や二度は負傷するはずなのに、一切傷痕がないのはあり得ない。だから、それが悠香の縛りの引き換えだと思うんだけど……天与呪縛が複数ある可能性もゼロとは言えないしなぁ」

「……俺はあり得ると思います」

 五条の言い分に、伏黒も同意した。

「あの時、宿儺に放った一撃は単に呪力を飛ばす技。術式じゃなかったし、宿儺自身が言っていた」

「……術式を使えない縛りもあるのかもしれないな」

「それだけじゃない……悠香の天与呪縛はあくまでも不完全だ。魂の繋がりがあるからね。完全になる時は悠仁が死んだ時だけだろうけど……」

 こればかりは、任務や授業での手合わせなど、色々な角度から情報を収集するしかない。

 宿儺の器である悠仁も然り、様々な憶測の対象となる悠香も然り、虎杖家の謎が深まるばかりだ。

「まあ、しんみりしてても仕方ないし! 今日はここでお開きね! ……上には僕から苦言を呈しておくね」

「五条先生……」

「大丈夫! 弟君の青春も守ってあげる。だって僕、最強だから」

「せんせーーーー!!」

 悠仁は思わず、五条に抱き着いた。

 その光景に家入は眉をひそめ、伏黒と釘崎は呆れ返った。

 

 実はこの時、宿儺だけが悠香の秘密を一番最初に把握していたのだが、まだ誰も知る由も無い。




という訳で、ボロクソに負けましたね悠香君。
でも、宿儺の興味好意はレベルアップしたのでモーマンタイかも。
ちなみに今回出た悠香君の必殺技〝威虎(インドラ)〟は、二級呪霊ぐらいなら秒殺できる威力があります。ただ今回は相手が悪すぎました。(笑)

次回は生得領域での宿儺と悠香君のやり取りです。
そこで悠香君の秘密が暴かれますよ。

あと、もう少し経ったら、裏梅に触れようかなと思ってます。
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