虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

55 / 56
悠香と無惨、二度目の邂逅。


鬼滅の刃×虎杖弟 第三章その3

 悠香が上弦の壱と接触・交渉をしたことで、鬼殺隊の情勢は大きく動いた。

 ――一週間以内に、鬼舞辻無惨が現れる。

 当主の直感に柱たちや一般隊士たち、後方支援の隠たちなど鬼殺隊の全関係者に緊張が走り、その準備は日毎に異常な速さで進んでいく。

「悠香、本当に大丈夫なのかい?」

「使いの者も来て、交渉の末に俺が決めたんです。……あなたこそ、何で逃げなかったんです?」

「…そうだね……私も、鬼舞辻が面食らったところを、見てみたかったから…かな」

 産屋敷邸にて、微笑みながら病床で語る耀哉に、悠香は「いい趣味をしてますね」と返した。

 すると、せめて傍に居させてほしいと残った耀哉の妻・あまねは悠香に疑問をぶつけた。

「…我が一族も含め、皆が鬼舞辻無惨を憎んでいる中、あなたはあの男を助けたいと考えている…なぜそこまで、彼を――」

「あなたには死んでもわかんないと思いますよ。不死身の化け物になった人間の気持ちなんて」

 いつになく強い口調に、あまねは失言だったとすぐに察して「申し訳ございません…」と謝罪した。

 悠香はまだ炭治郎と差して変わらぬ年頃の少年なのだ。そして母の欲望と大人の裏切りにより、不死身の化け物になってしまった現実に心をズタボロにされてるのだ。可視化できない癒えぬ傷は、言葉なき慟哭と共に彼を蝕み続けているのだ。

 だからこそ、彼は無惨を気に掛けてるのだ。自分と同じ運命を辿るのではないのかと、心を壊してしまわないかと。

「……さて、一応約束の時間だ。ここから先は俺の出番です」

 悠香がそう告げると、門が独りでに開き、白いスーツを着こなした端正な青年がゆっくりと足を進めてきた。

 鬼舞辻無惨だ。鬼殺隊及び産屋敷一族が千年追い続けた鬼の始祖が、とうとう鬼殺隊中枢に姿を現したのだ。しかも、彼の背後には自身の部下である上弦の鬼を全員連れて。

「また会ったな、悠香。それと……何とも醜悪な姿だな、産屋敷」

「一人で来いと言ったんですけど……まぁドタキャンして逃げなかっただけ良しとしましょう」

 挑発するように言い放つ悠香に、上弦の鬼たちは一斉に顔を強張らせた。

 本来ならば無惨の逆鱗に触れている言動だが、当の本人は癇癪を起こすどころか悠香の無礼を咎めることもせず、耀哉に目を向けた。

 無惨にとって産屋敷は、千年にも渡って自らの非願成就を邪魔し続けてきた因縁深き一族。その長が顔を醜く爛れさせ、包帯まみれで布団で横たわっている。

 ――心底興醒めした、と。

「……産屋敷。私は今にでも屍になりそうなお前に興味はない。殺す気も失せた」

「あなたはそうでも、外にいる奴らはそうじゃなさそうですね。噓はいけないなぁ」

 悠香は黒い笑みを浮かべ、全てお見通しだと言わんばかりに釘を刺す。

「――少し、俺と話せますか?」

 

 

 産屋敷邸襲撃の報せを聞き、一斉に結集する柱たち。

 幸いにも全員間に合ったが、彼らが乗り込んだ先の光景は、文字通り目を疑うものだった。

「太平洋戦争?」

「ええ。もう二・三十年もすれば、国土は焼け野原と化し大日本帝国は滅亡する。この国の寿命が長くないってことです」

『…!?』

 産屋敷邸の縁側で、悠香と無惨が月の下で並んで腰掛け、静かに話していたのだ。

 不俱戴天の仇が、穏やかに一人の少年の言葉に聞く耳を傾けている状況。あまりの不可解さに誰もが思考停止していた。

「俺があなたに人間に戻るよう言ったのは、俺みたいな末路を辿ってほしくないからです。不老不死の化け物がいる事実、軍部が見逃すはずがない。必ず侵略兵器にされてしまいます」

「そんなもの――」

「それだけじゃない。今後10年以内に大地震が日本を襲う。家々は軒並み崩れ、首都は炎に包まれる。……あなた自身に残された時間も少ないと思いますよ?」

 悠香が告げた未来に、無惨は目に見えて動揺した。

 これからの日本を襲う災禍が、無惨に牙を剥くと。それによって鬼殺隊も大勢犠牲になるが、鬼たちは鬼殺隊に滅ぼされた方がマシな目に遭う可能性が高いと。

 自分が唯一気を許した少年の言葉に、無惨の表情がどんどん険しくなる。

「無惨さん…あなたは手繰り寄せられている。運が向いてる気がしないんですよ。だから俺は、一刻も早く人の体に戻って欲しいんです。あなたを慕う者たちの為にも」

 説得する悠香に対し、無惨は……。

「断る…!! 鬼狩りも産屋敷も滅ぼし、私は不滅になる!!!」

「そうかよ…!! 上等だ、この分からず屋!!!」

 様々な思いを押し殺して非願成就を優先する無惨に、悠香はとうとうブチ切れた。

 しかし、そこには確かに哀しみがあり、義勇と駆け付けた炭治郎は彼の無念を悟った。

「悲鳴嶼さん、二人を!!」

「うむ!! 全員、屋敷から離れろ!!」

 どこからか、鬼殺隊最強の男が屋敷に上がって耀哉とあまねを抱えて離脱。

 その直後、悠香は己の切り札を発動した。

「〝(カミノ) (フーガ)〟」

 炎を灯し、弓矢のように構えて放った直後。

 

 ドガァアン!!!

 

 凄まじい大爆発と共に、産屋敷邸と共に無惨と上弦が吹き飛んだ。

 破壊力抜群の爆炎は相応の衝撃波をもたらし、離脱の最中の柱たちも巻き添えにした。幸いにも受け身を取っていたおかげで大怪我には至らなかったが、全員が咄嗟に目を瞑ってしまい、肝心の状況を見逃してしまった。

 爆炎が収まり、土煙が晴れたとき、柱たちの目に飛び込んできた光景は信じ難いものだった。

「ハァ…ハァ…流石に、これでやられるタマじゃないか……」

「っ……虎杖、悠香……!!」

 炭化した肉体を再生させながら木刀を構える悠香に、これまた再生させて上半身裸となった無惨が爪を立てて睨み付ける。

 その周囲には、全身に致命傷クラスの火傷を負った上弦の鬼たちが各々苦痛に悶絶しており、まともに動けるのは黒死牟・童磨・猗窩座の三体だけだ。

(あまりの火力に上弦の再生能力が追いついてないだと!? これでは無限城に引き摺り込むのも寿命が尽きるのを待つのも悪手ではないか!!)

 無惨は怒りを露わにした。

 禰豆子の爆血という「鬼だけを焼く炎」ではなく、文字通り「全てを焼き尽くす業火」を悠香は放てる。自分自身も焼いてしまう程の規格外の火力となるとその分消耗が多いはずだが、彼は問題なさげだ。

 それはつまり、上弦の鬼を殺しかねない爆轟を連発できるという事実が意味しているのだ。そして悠香は太陽が届かない世界でも関係なく鬼を単騎で滅ぼせる可能性を秘めている上、不死身ゆえに寿命がいつ尽きるかわからないのだ。

 悠香の要求を断った無惨が取るべき選択肢は、ただ一つ。悠香をここで確実に殺すことだ。

「お前は鬼狩りや産屋敷より目障りだ!! 私自らの手で殺す!!!」

「そうかよ…!! 上等だ!!」

 呪力を解放し、悠香は殺気立つ。

 急激に圧が増した四ツ目の少年に、敵も味方も息を吞んだ。

「――っ!?」

 不意に、炭治郎は嗅ぎ取った匂いからおぞましいモノが見えた。

 悠香の背後に、異形の巨漢の影が見えたのだ。

 逆立った髪、四本の腕、真っ暗な姿に浮かぶ四つの眼光、そして上弦の鬼すらかわいく思える威圧感――それが幻覚なのか何なのかはわからないが、見てはいけないモノに触れてしまった炭治郎は顔色を変えた。

「炭治郎、何を惚けてる!! 構えろ!!」

「っ!! はいっ!!」

 兄弟子に叱咤され、日輪刀を鞘から抜き放って身構える炭治郎。

 そんな彼を余所に、戦いの火蓋が切って落とされる。

「かかって来いよ、鬼舞辻無惨!! あの時言った通り、全員叩き潰してやる!!!」

「できるものならやってみろ!! 虎杖悠香!!!」

 鬼の殲滅を宣言する悠香に、無惨は両腕を肉塊の如き極太の管に、背中から伸びる先端に骨のような刃が着いた血管状の細い九本の管を生やし、体の大半が大量の口が付いた赤黒いものに覆われた異形の姿に変貌を遂げた。

 無惨もまた、全力で悠香を殺すことへ舵を切ったのだ。

「命乞いしてももう遅いからな!!」

「貴様こそ、許しを乞うても許さんぞ!!」

 互いに臨戦態勢となり、攻撃を仕掛ける。

 

 この時無惨は、悠香が泣いていることに気づいたが、なぜかそれを指摘して動揺を誘おうとする気にはなれなかった。




交渉はやはり決裂。日本一哀しい鬼退治が始まることに。
この物語に救いはあるのか……?

一応次回で最終回にしようと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。