虎杖弟の地獄旅   作:悪魔さん

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ついに最終話。
これで今度こそ、本作は完全終了です。


鬼滅の刃×虎杖弟 最終話

 人間と鬼の未来をかけた決戦は、二人の男に委ねられていた。

「るおおおおお!!」

 出力を上げた衝撃波攻撃が、襲い来る無数の触手を吹き飛ばす。

 かと思えば、巨大な肉塊が押し潰そうと振り下ろされ、そこに生まれた大口が一飲みにしようと迫り来る。

 鬼殺隊と人喰い鬼の総力戦は、悠香と無惨の一騎打ちへと移行していた。

「しつこいぞ、虎杖悠香!! お前だけは異常者ではないと思っていたというのに……!!」

「俺だってこんな戦い、嫌なんだよっ!! あんたが人間に戻れば、後味の悪い結末を辿らずに済むんだっ!!」

 互いに主張し合いながら応酬を繰り返せば、余波で周囲を巻き込んで被害が拡大する。

 すでに鬼殺隊の戦力はガタガタだ。悠香の特大の火炎攻撃による援護こそあったが、柱を何度も屠り喰らってきた上弦の鬼の強さは想像を絶し、産屋敷耀哉を以てして「始まりの呼吸の剣士以来の精鋭たち」と称された柱全員が戦闘不能に陥っている。

 どうにか全ての上弦を撃破したものの、それは悠香の術式が鬼の再生能力が追い付かない程のダメージを与えたおかげ。もし彼がいなければ、鬼殺隊は壊滅して鬼の完全勝利だっただろう。

(義勇さんも煉獄さんも、皆動けない……!! でも悠香だけじゃ、無惨は……!!)

 どうにか立ち上がれる炭治郎は、周囲が異次元となっている悠香と無惨の死闘を前に何もできずにいた。

 自身も無視できない傷を負い、今割り込もうとしたところで足手まといだ。

 しかし、悠香も捨て身の攻撃を続けている為、自身の鬼に匹敵する再生能力が追い付かず、いつ倒れてもおかしくない状態である。このままではジリ貧だ。

 そんな中、無惨の上半身に身体を斜めに横断する形の巨大な口ができ、そこから稲妻上の衝撃波が放たれた。

 あれを食らったらマズい――そう思った時、悠香が叫んだ。

 

 ――ヴォオオオオオオオオ!!!

 

 激しく音割れした、人間が発するものとは思えない禍々しい音が〝圧〟として放たれ、無惨の衝撃波攻撃を相殺する。

 直撃を受ければ大ダメージのみならず、神経の動きを狂わされる大技だというのに、それを正面から打ち破った悠香に無惨は戦慄した。

「貴様、本当に人間か!!?」

「俺だって、好きでこんな身体に生まれたわけじゃないんだけどな!!」

 一瞬の隙を突き、悠香は特攻。

 木刀に呪力を帯びさせ、渾身の一撃を見舞った。

 

 ズドォン!!

 

(黒い稲妻…!!?)

 木刀が直撃した途端、黒い火花が散り、無惨は桁違いの衝撃に顔を歪めた。〝黒閃〟が発生したのだ。

「うおおおおおおおおお!!!」

 黒閃をモロに食らってよろけた無惨に、悠香は死力を尽くして猛攻を仕掛ける。

 

 ドォン!! ドゴォオン!! ドゴン!! ドォン!!

 

 上半身を振りながらその遠心力と反動を利用した、起死回生の滅多打ち。

 膨大な呪力を持つ悠香の最大出力の連撃は、叩き込まれる度に黒い火花が散り、鬼の始祖に必死に食らいつく。

 触手を振るう隙も、衝撃波を放つ隙も、逃げる隙も与えない、文字通りの執念の猛攻。たとえ無惨であっても、容易には凌げるものではなかった。

「おおおおお!!」

 

 ブシュゥゥ!!

 

「が…っ…!!」

「いい加減にしろ…!!」

「悠香ーーーーーっ!!!」

 不意に、悠香の動きが止まった。

 彼の腹を、無惨の右腕が貫いていたのだ。

「これで終わりだ、虎杖悠香……!! 鬼にならないのなら、ここで竈門炭治郎と共に死ぬがいい!!!」

 無惨が右腕を引き抜こうとした、その時だった。

 悠香が木刀を捨て、無惨の腕を掴んだ。

「何!?」

 鬼の始祖は、信じられないものを見るように悠香を見た。

 この小僧に、ここまでの力があるとは――無惨は驚きと困惑を入り混じらせながらも、必死に抜け出そうとするが、ビクともしない。

 そこへ追い打ちをかけるように、東の空が白み始めた。

「!!!」

「ゲホ……寂しいこと、考えないで…くださいよ…せっかくの…日向ぼっこ、なんですから……!」

 四つの目に涙を浮かべながら、全力でその場に留めようと腕に力を入れる悠香。

 日の光を浴びれば、どんな鬼でも消滅する。それは無惨も例外ではない。

 むしろ日光だけが、無惨を殺せる唯一の存在だ。

「離せェェェェェ!!」

「離さない…!! 〝(カミノ)〟!!」

 悠香は術式を発動。

 掌から炎が発生し、一気に燃え広がった。

「〝(フーガ)〟!!」

 

 ドゴォオン!!!

 

 唱えた瞬間、悠香と無惨は爆炎に包まれる。

 その火力は凄まじく、熱波が爆風となって周囲に襲いかかり、中心地は消し炭になってしまうのではないかと錯覚する程であった。

「あ……がは…」

「……」

 土煙が晴れると、そこには全身が黒焦げになった二人の姿が。

 互いに少しずつ再生が始まっているが、術式への耐性がない無惨の方が再生が遅い。しかし、あそこまでの高火力の攻撃を連発したことで、悠香の疲労は限界を超えようとしている。

 このままでは無惨を逃がしてしまう。炭治郎はそう悟り、最後の力を振り絞った。

「〝ヒノカミ神楽 円舞〟!!」

 無惨を討ち果たすべく、炭治郎が放った赫刀の斬撃。

 しかし自身の体力も限界が近かったからか、足を斬り落とすには威力が欠けていた。

「竈門、炭治郎!!」

「っ!!」

 懐に飛び込んだ炭治郎を仕留めんと、無惨が手を上げた。

 しかし、炭治郎の顔の真横を木刀の切っ先が通り、無惨の額に伸びた。

 

 ドゴォン!!

 

「ぐあぁぁっ!!」

 渾身の突きが、黒閃となる。

 無惨は脳を揺らされ、もんどりを打った。

 そして……!

 

 ジュウゥゥ!!

 

「ギャアァァァァッ!!!」

 日光が、無惨の身体を焼き始めた。

 焼けた肌が黒く焦げ、灰となり、散っていく。

 悠香は炭治郎と共に無惨を押さえつけ、鬼の始祖を確実に殺そうとする。

「貴様ら……っ!」

 無惨は必死に暴れようとするが、何かに気づいて固まった。

 悠香は、また泣いていたのだ。それだけでなく、炭治郎もどこか悲し気な眼差しをしている。

「無惨さん……もっと早く、あなたと会っておきたかった…」

「お前がしてきた事は決して許される事じゃない……でも、お前が悠香に特別な思いを抱いてたのだけはわかったんだ…。だから……」

「…………知った口を…」

 それがトドメになったのか。それとも、もうすでに無惨は限界を迎えてたのか。

 鬼の始祖の身体は突如として弛緩し、一気に脱力した。

「……あなたのことを、俺は決して忘れない。無惨さん、どうか安らかに……」

「……悠香……私は……」

 無惨は徐に手を伸ばし、涙を流す悠香の頬に触れた直後。

 

 シュウゥゥゥゥ……

 

 肉体が一気に崩壊し、灰となって消えていった。

 1000年以上も日本の夜に君臨した、恐ろしき鬼の始祖の最後だった。

「……無惨さん、俺は……」

「……」

 項垂れる悠香に、炭治郎はそっと背中に手を添える。

 すると、戦闘不能状態だった鬼殺隊の面々が、意識を取り戻したのか少しずつ起き始めた。

「……これ、は……」

「終わった、のか……?」

「やったんだ……やったんだな!!」

 生き残った隊士達は歓喜に沸いた。

 無惨との壮絶な死闘を乗り越え、彼らは勝利し、ついに宿願を果たしたのだ。

「……虎杖少年」

「無事か」

「!」

 ふと、意識を取り戻した杏寿郎と義勇が悠香に声を掛けた。

「君のおかげで大勢の命が救われた。鬼殺隊として、心から感謝する」

「……助かった」

 柱二人からの感謝に、悠香は静かに「そうですか」とだけ答えた。

 

 ――カッ!

 

『!!?』

 不意に、悠香の全身が淡く白く輝き始めた。

 それと共に、悠香の身体が段々と透けていく。

「どうやら……俺の呪いが解除されたようだ」

「それって……」

「ああ…お別れだ」

 悠香は炭治郎に向け、穏やかに笑いかける。

 彼の元の世界に戻る条件は、無惨を――この世界に蔓延る人喰い鬼を全て倒す事だったのだ。

「……禰豆子さんや皆に、よろしくね」

「……ありがとう!! 本当にありがとう!! 俺は一生忘れないよ!! 悠香のおかげで、鬼のいない世界になったんだ!!」

「じゃあ、ね」

 悠香はその言葉を最後に、目の前が真っ白になるのを覚え、意識を失った。

 

 

           *

 

 

 ――……きろ…………い!!

 ――…君!! ゆう……!!

 ――……が!!

 

「悠香!!!」

「…?」

 自分を呼ぶような声がして悠香は目を覚ました。

 まず目に映ったのは白が広がった、しかし青白くはない、純白の天井。窓から差し込む日の光は赤くて外は夕暮れ時であることが伺いしれた

 そして自分の寝ているベッドとそれを囲うカーテンから、ここは病室――いや、見慣れた女医がいるので保健室だという事を理解した。

「家入先生!! 悠香が起きました!!」

「……兄さん…?」

「ああ!! そうだぞ、虎杖悠仁だ!!」

 悠香は横になったまま目を向ける。

 周囲には伏黒や釘崎、沙奈がベッドの近くに集まっていた。

 悠香と目が合ったことに気が付いた彼らは一斉に距離を詰め、わんさかと口を開く。

「悠香君!! 悠香君悠香君悠香君悠香君悠香君」

「沙奈ちゃん、わかったからお口にジップロック」

「よかった……みんな心配したんだよ? 母さんも先生たちも」

「順平君、隈スゴいね」

 余程不安だったのか、順平をはじめ何人かは目の下に隈が出来ていた。

 そんな様子を苦笑で返す悠香に、悠仁は思わず声をかける。

「ホントに大丈夫なのか?」

「うん、ただ()()()で夜通し暴れたから疲れが異常」

「そっか、でも……起きてほんっとーによかった!!」

 その言葉と共に悠仁は悠香に抱きついた。

 悠香は受け止めた際に一瞬顔を歪ませたが、やがて優しく悠仁の背中をさする。

「俺も嬉しいよ、兄さんと会えて……」

「そりゃ、俺の弟だからな!!」

 その言葉に悠香は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 そんな二人を横目で見た家入は、改めて悠香の方へと向き直る。

「悠香、報告書とかそういうのは後でいい。傷を癒すことに専念しろ」

「御意…」

 

 

 誰もいなくなった保健室。

 そこへ、着物姿の男が悠香のベッドに近づいた。

 呪いの王――両面宿儺だ。

「……随分、痛めつけられようだな」

「満面の笑みで言わないでください……今更だけど…」

 ケヒケヒと嗤う宿儺に、悠香はジト目で睨んだ。

「貴様が飛ばされて一週間、小僧共がうるさくて敵わんかった。ようやく静かになるというものだ」

「それはとんだ御迷惑を……」

「まあいい、俺としてもあそ…弟子が戻ってきて助かる」

(今〝遊び相手〟って言おうとしてましたよね?)

 悠香は小さく溜め息をつく。

 丸くなったとはいえ、悪辣さは健在である。

「……ところで悠香よ。あの服は何だ」

「服……ハッ!」

 宿儺の言葉に、悠香はガバッと起き上がる。

 そうだ、自分は確か鬼殺隊の隊服を着てたままだったはず――

「あの服は布切れ同然だったが……今回の一件の証拠品として保管してあるようだ」

「……そうですか」

「……どうした?」

「いや……〝上〟に提出するの辞めて後生大事にしようかなって……五条さんとか悪ノリして破きそうだし」

 その言葉に、宿儺はゲラゲラと笑った。

 

 悠香はあの大きな戦いを生き抜いた者たちの安寧を、そして自分が救えなかった一人の哀しい鬼の魂の安らぎを静かに祈るのだった。




というわけで、ようやく完結。
今までの鬼滅作品と違い一番原作に近い終わらせ方でした。
ただ、最後の無惨とのやり取りは、まだ救いはあったのかもしれません。

特別連載を始めて訳5ヶ月。
お付き合いしていただきありがとうございました。
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