最○チームVS執行部F組
先鋒戦
禪院直哉VS穹徹仙
暗黒武術会『予選会』第1回-先鋒戦-
〈コホン。只今より『暗黒武術会』予選会を開始します。此度の大会へ参加する選手は特設リングにお上がり下さいませ。またリング内は殺害をはじめとして、あらゆる行為を黙認しています〉
豪華客船の内外を問わず女性の声を無理やり真似た機械音声じみたアナウンスが響き渡り、野球ドームなんかに有りそうな掲示板に映ったのは禪院家の未来を担う最速の呪術師・禪院直哉である。その彼の相手を務める細身の美青年は五条悟を含めて『最○チーム』は誰一人して彼の素性を知らない。
「よろしゅうな、穹徹仙クン」
「ああ、此方こそ宜しく」
二人はにこやかに微笑みながらリングの真ん中に歩み寄っていく。まだ、試合開始の合図はなく。彼らは他愛もない会話を繰り広げつつ、お互いの動きを余すところなく観察している。
暗黒武術会に参加する選手の野次馬を無視して直哉と徹仙はリングの端に戻る。直哉はゆっくりとイメージをする。確実に最速で徹仙を殴り飛ばす位置・角度・距離をイメージした動きを24分割────。約1秒毎に増やし投射する。
対して穹徹仙はゴムのチューブを身体に巻き付けた特殊な出で立ちでダーツ弾を構える。おそらく彼の武器は弓矢なのだろうと直哉は考えつつ、その弾を避ける動きを更に追加した。
合計10秒間、この10秒間だけ───。
禪院直哉という少年に暗黒武術会の予選会に参加する選手は誰一人として追い付くことは愚か視認する事さえ不可能になる。
〈コホン。只今より第1回戦開始です〉
そのアナウンスを聴いた次の瞬間、禪院直哉は音すら置き去りにした。穹徹仙は動いていない。否、彼の脳は直哉の動きに『撃ち落とす』や『迎え撃つ』等と云った意識を起こせていないのだ。音を置き去りにした無音の世界で、直哉は勝利を確信した。
直哉は確かに確信していた。だが、彼は10秒間の加速を終えると同時に出血した。豪華客船で貸し出された袴と着物がズタズタに裂けている。
「穹クンって、水を操るんかあ」
「おや、よく分かるね。如何にも我が龍は水だ。この海上と云う場所に於いて僕は間違いなく絶対的な強さを誇っている」
「はあぁ~っ、嫌やわ。泥臭くなるで?」
「じゃあ、棄権をオススメするよ」
「知んでぇ……このボケがッ!」
徹仙は水の弾とダーツの弾を連続で放つ。
しかし、直哉は術式を使うためには落ち着いて、確実に徹仙を倒す動きをイメージしなくてはいけない。泥臭くなる。そう発言したように、直哉と徹仙は受けと攻めで完全に別れてしまった。
ダーツの弾を叩き落とす。水の弾を紙一重で避ける。その作業を繰り返しながら直哉はイメージを一つに固めていく。もしも下手をすれば1秒間、直哉は完全に動きを停止させてしまう。
そのデメリット込みの勝負だ。
「術式完了…ッ!!」
ピタリと直哉は動きを止めて、超前傾姿勢のリングにぶつかる寸前まで身体を傾け、音速を越える速度で真っ直ぐに一直線に徹仙の懐に両拳を突き出すように構えたまま飛び込んだ。
空気の炸裂する音───。
何かを落としたような濁音───。
そして、リングにいるのは両の拳を突き出したまま動かない直哉だけ。穹徹仙の姿はどこにもなく豪華客船の外側、20メートルほど離れた海上に胸部を潰された彼は浮かんでいた。
「悟クン、どないよ?」
ニヤリと直哉は笑みを浮かべる。
「マジで最っ高だぜ!!」
そう五条悟は答える。
〈穹徹仙〉
出典・天上天下
統道学園生徒会執行部。『F』の一人。お友だちに面白いゲームをしようと生徒会のメンバーとして選抜され、生徒会長の率いるチームの先鋒である。直哉の諸手突きで胸部を粉砕されてKO負け。禪院直哉の境界線を越える為の糧になった。
〈第1回戦『先鋒戦』〉
勝者・禪院直哉
敗者・穹徹仙