ロクでなし魔術講師と呪術師の廻戦   作:嫉妬憤怒強欲

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最近執筆してる作品が色々設定がごちゃごちゃしてるのでリハビリとして書きました。


プロローグ

「ん………」

 

 薄茶色でツーブロックの短髪頭の少年が目を覚ました。

 深い熟睡によって、頭はぼーっと霞に包まれている。

 

「おはよう」

「?」

 

 飛んできた声の方向は正面。

 椅子の背に、声の主は顎を載せて座っていた。

 20代後半の長身の男だった。白髪を逆立てて、目を黒いバンダナで隠している。それなのに、しっかりと眼前に少年を認めて、如何にも不審人物である男はヘラヘラと軽い口調で尋ねる。

 

「今の君はどっち(・・・)なのかな?」

「あんたは確か…………」

「ノクティス=リアース。魔導省直轄祓魔局で呪術師をやっている」

「呪術………」

 

 聞き覚えのある単語の意味を思い出そうと眠る前の記憶を思い出そうとして……

 

「皆は!?先生や学院の皆は無事なのか!?」

 

 皆の状態を知ろうと体を動かそうとする。が、動かない。

 

「あ?」  

 

 自分の体を見てみると、椅子に座らされ、後ろ手に荒縄で縛られていた。

 

「なんだよこれ…………」

 

 身じろぎすると、ギッギチと荒縄と呪印の札が少年の腕を逃がさんと縛り付ける。

 点に近い三白眼で周囲も見回してみる。四方の壁をびっしりと埋め尽くす、呪印が刻まれた札。ランタンが正方形の室内を照らしているが、この光量では、真上に広がる、どこまでも昇っていけそうな闇を暴くことは叶わない。

 まるで深い井戸の底にあるような部屋だ。

 

「他人の心配をしてる場合じゃないよ、ユージ=タイラー」

 

 

「君の、秘匿死刑が決定した」

 

──なんと、言ったのだろうか。自分が、死刑…?

 

「は…?死刑って…」

「どうやら、少し混乱しているようだね。確認の意味も込めて、こうなった経緯を説明しようか」

 

 

 物語は一か月前まで遡る。

 

 

♢♦♢

 

 爽やかな朝。鳥がさえずり、空には雲一つ無い気持ちの良い快晴。

 

「いけねえ!遅刻遅刻ううううぅぅ!」

 

 大陸でも一、二を争う魔導大国アルザーノ帝国の南部、ヨクシャー地方に位置する学術都市フェジテの街道を口にパンをくわえたまま全力疾走する少年がいた。

 名はユージ=タイラー。アルザーノ帝国魔術学院の学院生だ。

 アルザーノ帝国魔術学院はおよそ四百年前、時の女王アリシア三世の提唱により、巨額の国費を投じて設立した国営の魔術師育成専門学校。常に最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎で、魔術を学ぶ者にとっては憧れの聖地とも呼ばれている名門校である。

 

 そんな名門校の学院生であるユージは現在絶賛遅刻中だった。

 時計の針が指すのは八時三十八分だ。ちなみに本日の授業開始時間は八時四十分である。

 

「くそ!もう時間がねえ!遅刻したら面倒くさいことになる!」

 

 ユージはくわえていたパンを吞み込み、ギアを上げる。

 突風が吹く程の速度で街道を走っていた馬車を追い越した。

 

「ほっほっほっ」

 

 授業開始まで残り1分。敷地を鉄柵で囲まれた魔術学院校舎が見えることによりさらに足を早める。

 学院に入ったところで残り20秒もない。だが、彼は自信に満ち溢れた顔をしている。なぜなら――――

 

「とう!」

 

 パリィィィンンン!!!

 窓から教室に入るからだった。ガラスが砕け散ることで教室内にいた者は全員驚いた顔でユージを捉える。

 その直後に授業開始の合図である鐘の音が鳴った。

 

「しゃあ!セーフ!」

「アウトよバカ!」

「あたっ」

 

 背後から頭を分厚い参考書で叩かれたユージは「イテテ」と頭を抑えたまま振り返る。 

 

「何すんだよシスティーナ。そんなもので頭を叩いたら馬鹿になっちまうだろ」

「馬鹿はもともとでしょうが!」

 

 ユージの頭を叩いた下手人であるサラリとした長い銀髪の少女、システィーナ=フィーベルは名門貴族フィーベル家の令嬢で、真面目な生徒の筆頭であり、『講師泣かせのシスティーナ』とも呼ばれるほど魔術に対して真摯で真剣だ。

とはいえその生真面目すぎる性格や、キツイ態度のせいか折角モテる顔立ちにも関わらず、男子生徒からの評価は低い。『彼女にしたくない美女ランキング一位』を独走するとの事。

 

「だいたいあなたには学院の生徒という自覚はないの!?」

「あるから大急ぎで来たんですが!」

「だからって窓から入る馬鹿がどこにいるの!ていうかここ二階よ!?どうやって入ったの!?」

「?そんなの助走つけて普通にジャンプしたんだけど?」

「そのこいつ何言ってるんだって顔、止めてもらっていい!?」

 

 ユージの身体能力は魔術学院ではトップレベルだ。

 身体強化の魔術【フィジカル・ブースト】というのがあるが、ユージはそれなしで超人的、異常なまでの身体能力を有していた。

 その謎を解明しようとどこかの眼帯をしたヤバい教授に拉致られそうになったのは昔の話。

 

「まあまあシスティ落ち着いて」

 

 横からシスティーナを宥めようと金髪の少女が話しかけた。ルミア=ティンジェル。綿毛のような柔らかなミディアムな金髪と、大きな青玉色の瞳が特徴的な少女。清楚で柔和な気質がその容姿や立ち振る舞いから匂い立ち、その清楚と整った顔立ちはまるで聖画に描かれた天使のように可憐だった。

 親友のシスティーナとは対照的に、優しく素直な性格でスタイルもいいこともあり男子生徒からの人気は絶大だ。

 

「おっ、ルミアおっはー」

「おはようユージ君。今日は遅かったね」

「あー……実はバイトの数増やしてさ。昨日遅くまでやってたのもあって寝坊しちまったんだよ」

「遅くまでバイトって…身体とか大丈夫なの?」

「大丈夫だって。俺鍛えてっから」

「でも無理はしちゃダメだよ?」

「しないって」

 

 ユージがルミアに心配される様子を見て、嫉妬した男子どもが「ちっ」と舌打ちする。

 

「だからって遅刻するなんて弛んでる証拠よ!」

「はいはい!御免って!」

「まあまあシスティ」

 

 猛然と抗議するシスティーナに平謝りするユージは「あっ」と声を上げる。

 

「どうしたのよ?」

「やべえ!窓ガラス床に散らばったままじゃん!」

「今さら?」

 

 まだ講師が教室に来ていないが時間の問題だ。片付けた後の説明に怒られるのは明白だ。

 こうなったら――――

 

「なんとかしてぇ~ギブエも~ん」

「誰がギブエもんだ!?僕にはギイブル=ウィズダンって名前があるんだぞ!」

 

 ユージが助けを求めた眼鏡をかけた男子生徒の名はギイブル=ウィズダン。クラスではシスティーナに次ぐ成績を持つ。反骨心とハングリー精神の塊。皮肉屋で周囲となれ合おうとしないのだが…………

 

「ガラスの修繕くらい錬金術でなんとかなるだろ?」

「いやだってさ。俺錬金術下手くそだし。頼るならクラスで一番上手いギイブルかなって」

「………まったく君は」

 

 はぁとため息をつきながらも、ギイブルは錬金術の呪文を詠唱して窓ガラスを元の状態になるように修繕した。

 

「おお!元通り!」

「錬金術の基礎をちゃんと極めてればこのくらい簡単だぞ」

「耳が痛ぇ………でもやっぱギイブルは頼りになるな」

「……っ、褒めてもなにもでないぞ!」

 

 顔を少し赤くしたギイブルは照れ隠しに眼鏡をくいとずらしながら自分の席に戻る。

 

 その様子をクラスの生徒たちが温かい目で見守ってる中、教室の扉が開いて誰かが入ってきた。

 

「やあ、生徒諸君。元気かなー?」

 

 そう言って教室に入ってきたのは妙齢の美女だった。

 豪奢な金髪に、黒いドレス。完成されたプロポーションと圧倒的な美貌を持つ上品で魔性の大人の女性だ。

美女の正体はセリカ=アルフォネア。

 見た目は20歳ほどの美女だが、真の永遠者(イモータリスト)と呼ばれる原因不明の不老不死体質の持ち主。200年前の戦争で外宇宙から召喚された邪神の眷属を殺害した伝説を持つ、人外と評される第七階梯に至った大陸最高峰の魔術師で、現在は魔術学院の教授職に就いている。

 

 

「あれ?アルフォネア教授じゃん。おっはー」

「おっはーユージ。今日も元気だな」

「元気が取り柄なんで!」

 

 担当クラスを持ってなく、良くも悪くも様々な噂や逸話を持っている生ける伝説に対して呆気に取られる生徒を他所に、ユージはフランクに話しかけた。

 

「それで、なんで二組に?」

「私がホームルームをやるんだ。お前も席につけ」

「はーい」

 

 軽い感じでユージは自分の席につくと、隣の席に座る男子生徒カッシュ=ウィンガーに話しかけられた。

 

「お前ホント怖いもの知らずだよな…」

「え?そうか?」

「だってあのアルフォネア教授に普通に話しかけるなんて我らが天使ルミアちゃんかお前くらいだぞ」

「えー?話したら面白い人なのに、この前なんか邪神の眷属をぶっ飛ばした時の武勇伝なんか話してくれたぞ」

「面白いってあのな………」

 

 どこかずれてるユージにカッシュはやれやれ、と改めて呆れる中、セリカが教壇に立ってホームルームを始める。

 

「さて、もう知ってると思うが、今日はこのクラスにヒューイの後任がやってくる。1ヶ月の非常勤講師としてだがな」

「アルフォネア教授一つ良いですか?」

「何だ?ルミア」

「今回、来る非常勤講師の先生はどんな人なんですか?」

「あー、まあ、そうだな……」

 

 ルミアからの質問にセリカは顎に手を添えて考え込む。

 何気ない仕草でも、セリカほどの美女がやると画になる。 

 

「まあ、なかなかに優秀なやつだよ」

 

 そう言い、笑みを浮かべる。

 にわかにざわつきだす教室。

 セリカほどの魔術師が『なかなかに優秀』というのだ。

 生徒たちの期待も、相応に高まる。

 

「では、来るまでの間は自習だ。以上」

 

 そんな状況に目もくれず、セリカは手早く要件を済ませ、教室を出ようと扉に向かう。

 

「あっそうだユージ。急いでいたとはいえ、窓を突き破って教室に入るのは禁止だからな~」

「バレてた」

「私はともかく他の講師連中はそういうの五月蠅いだろうから注意しろよ」

 

 それだけ言い残してセリカは教室から出た。

 

 

♢♦♢

 

 

「……遅い!」

 

 システィーナが苛立ちを隠すことなく吐き捨てた。

 

「どういうことなのよ!もうとっくに授業開始時間過ぎてるじゃない!?」

「確かにちょっと変だよね……」

 

 学院の授業時間も半分が過ぎたが、未だに今日から新しく来る非常勤講師は現れないでいる。

 基本的にこのアルザーノ帝国魔術学院は講師、生徒問わず皆、この学院の在籍者であることに誇りを持っている。なので、この学院の講師が遅刻するという事態は極めて稀である。しかも五分程度の遅刻ならいざしらず、授業時間の半分を過ぎた遅刻などこの学院始まって以来前代未聞なのではないかと考えてしまう。

 

「あのアルフォネア教授が推す人だから少しは期待してみれば……これはダメそうね」

「そ、そんな、評価するのはまだ早いんじゃないかな?何か理由があって遅れているだけなのかもしれないし……」

「甘いわよ、ルミア。いい?どんな理由があったって、遅刻するのは本人の意識の低い証拠よ。本当に優秀な人物なら遅刻なんか絶対ありえないんだから」

「そうなのかな……?」

「まったく、この学院の講師として就任初日から大遅刻なんて良い度胸だわ。これは生徒を代表して一言言ってあげないといけないわね……」

 

 

「うわー…システィーナの奴いつになくご立腹だ」

「そりゃ後任の講師が来ないから苛立ってんだろ」

 

 システィーナ程ではないが、ユージとカッシュ、クラスの生徒たちの『なかなかに優秀なやつ』というイメージは早々に崩れ去りそうだった。

 

「アルフォネア教授って実はテキトー?」

「本人の前じゃなくてもそういうこと言うなよな!」

 

 怖いもの知らずのユージにカッシュが注意したとき、  

 

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

 がちゃ、と教室前方の扉がまったく悪びれる様子のない声とともに開く。 

 すでに授業時間の半ばを過ぎた、前代未聞の大遅刻である。

 

「やっと来たわね!ちょっと貴方、一体どういうことなの!?貴方はこの学院の講師としての自覚は──」

 

 宣言通り一言言ってやろうとシスティーナが男を振り返って、硬直した。

 

「あ、あ、あああ───貴方は───ッ!?」

「…………………違います。人違いです」

 

 自分に指をさしてそう言うシスティーナの姿を認めると、抜け抜けとそんなことを言った。

 

「人違いなわけないでしょ!?貴方みたいな男がそういてたまるものですかっ!」

「こらこら、お嬢さん。人に指をさしちゃいけませんってご両親に習わなかったかい?」

「ていうか、貴方、なんでこんな派手に遅刻してるの!?あの状況からどうやったら遅刻できるって言うの!?」

「そんなの……遅刻だと思って切羽詰まってた矢先、時間にはまだ余裕があることがわかってほっとして、ちょっと公園で休んでたら本格的な居眠りになったからに決まっているだろう?」

「なんか想像以上に、ダメな理由だった!?」

 

 その男にシスティーナが喚き立てる。ルミアもその男の姿を見て驚いている。どうやらこの二人は知り合いのようだ。ユージがルミアに話しかける。

 

「なあなあ、ルミア? システィーナはあいつと知り合いなの??」

「う、うん。ちょっと…ね」

 

 ルミアは今朝の出来事をユージに話した。システィーナと二人で登校していると飛び出して来た男にシスティーナが魔術でぶっ飛ばしその後ルミアにセクハラに近い行動を働いたというそしてシスティーナが再びぶっ飛ばしたようだ。

 

「ふむ、成程………カッシュさんや、判決はいかに?」

「我らが天使に手を出したんだぞ?ギルティに決まってるだろ。なあお前ら?」

「「「「おう!野郎、ぶっ殺してやる」」」」

「ちょっ!?なんか男子どもが殺気だってんだけど!?ごめんなさい!もうしないので勘弁してください!」

 

 クラスの男子生徒達の殺気にびびったその男は教壇の上で土下座をする。その姿に学院の講師としての威厳は微塵も感じられなかった。

 

「も、もう皆やめなよ。私は気にしてないから。向こうも反省してるみたいだし」

「ルミアちゃんがそう言うなら…………」

「けっ、命拾いしたなセクハラ野郎」

「次やったら容赦しねえぞ」

「なにこのクラスの男子ども!?無茶苦茶怖ぇんだけど!?」

 

 就任早々辞めたくなった男は取り敢えず自己紹介する。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から約一ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせていただくつもりです。短い間ですが、これから一生懸命頑張っていきま………………………」

「挨拶はいいから、早く授業を始めてくれませんか?」

 

 苛立ちを隠そうともせず、システィーナは冷ややかに言い放った。

 

「シ…システィ」

「あー、まぁ、そりゃそうだな……かったるいけど始めるか……仕事だしな……」

 

 対してグレンは、頭を上げてかったるそうに頭を掻く。取り繕った口調は消え、たちまち素の態度が現れる。

 グレンはチョークを拾い、スタイリッシュにかっこよくコントンコンっ!と、黒板に文字を書き記した。

 

『自習』と。

 

「「「「…………ん…?」」」」

「ハイ、本日の授業は自習にしまーす……眠いから」

「「「「はぁぁ!?」」」」

「いやいやいや、ちょっと待ってくれよ先生!そりゃあねえだろ!」

 

 バンッ!と机を叩き、ユージがいの一番に声を上げた。それを見て、普段は成績の悪いユージがこの事態に立ち上がったことにクラスメイトから驚愕の視線が集まる。

 

「いきなり自習とか酷すぎるだろ!」

「ユージ……あなた遂に学院生として自覚を…………」

 

 システィーナが正直感心するも…………

 

「ここで自習にされたら……単位はどうなるんだよ!!?」

「「「「ん?」」」」

 

 若干ユージの発言に首を傾げるが、広義的な意味では授業をしてほしいということになるのでとりあえずスルーする。

 

「んあ?」

 

「俺は自慢じゃねえけど、単位1つ1つが進級に関わってくるほど成績がヤバいんだよ!前の担任のヒューイ先生は目を瞑ってくれたけど………この授業が自習になった場合……単位はどうなるんだよ!!」

((((そっちかよ!))))

 

「えっと……お前、成績まずいのか?」

「正直、ぎりぎりで…はい……」

 

 どこか遠い目をするユージを見たグレンは、う〜んと考えるような仕草をする。

 

「あー……出席さえしてれば単位くらいやるぞ。……追試験とか作るのメンドイし」

「あ、ならいいや」

 

 グレンの答えが意外にもユージ的にかなり嬉しいものだったので、すぐに着席する。

 

「いやーこれでひと安心、よかったよかった」

「よかったじゃないわよこのおバカぁああああ!!」

 

 

 ブチちぎれたシスティーナが大声を上げながら2人の頭頂部に教科書の角をお見舞いしたのであった。

 




イメージOP『廻廻奇譚(呪術廻戦より)』

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