では、本編どうぞ。
「はぁ....はぁ....はぁ....」
ただただ走った。自責の念に駆られながら肺が痛くなろうとも転びそうになってもただただひたすらに。皆との別行動。2部隊分の人員で3手に分かれる愚行。それでも必死で希望に向かって手を伸ばす。
蒼井のせいだ....
蒼井のせいだっ
蒼井のせいだッ!
自己嫌悪で押しつぶされそうになる。司令部からの通信で彼の反応が消えたと伝えられた時から自害しそうな衝動を必死に抑えてひたすらに同じことを心の中で繰り返す。
「蒼井の.......せいだ....ッ!」
後悔で過去がやり直せるならどれだけ良かったか。茅森さんのバイタルも弱っているらしい。何かがあったに違いない。想定していなかった何かが。
『蒼井さん!戻りなさい!』
「ッ.......はぁッ.......はぁッ.......」
『あなたが指揮から欠けたら元も子もないでしょうッ?!』
通信先から焦った声が聞こえる。だが構いやしなかった。雑音だと切り捨てて森を駆けていく。
『戻ってすぐに探....ブチッ....』
もう通信なんて必要ない。彼のことだから茅森さんを守って今は一緒にいる。きっとそうだ。きっと.......いや、絶対に。端末が壊れただけだ。通信機器が使えないだけ。
何度も自身を落ち着かせようとするが意味なんてなかった。むしろ考える度に恐怖心が煽られるように焦りが増していく。
視界が開けてきた。隠れる場所なんてない。ここでキャンサーに見つかれば単独行動をしている蒼井は一網打尽。袋のネズミだ。
「たち.......どまらないッ!」
駆け抜ける。足を動かす。ただひたすらに。丈が伸びた葉が足をきりつけてくるが関係ない。あの人が蒼井の知っている人と違っても関係ない。
ーーおっさん、ストロベリーパフェとチョコソースパフェ1つづつーー
好みを知らないはずなのに好きな物を頼んでくれた彼の姿。
こんな時にあの人の幻聴。やめて。縁起でもない。まだあの人は死んでない。
ーー気をつけろよ?ーー
デートの時、人混みに流されそうになった蒼井の手を引っ張ってくれた彼の姿。
あなたが似てるのが容姿だけなら良かった。仕草も、匂いも、行動も。ほぼ全てが蒼井の知ってるものと同じで.......
「だからッ....だから蒼井はッ」
未だ捨てられぬ希望が己のこの行動の原理だ。
「ッ....痛ッ.......」
足に植物の針が刺さっているのが見える。目に見えないほどの速さで動かせた足は疲れで今ではトゲなんて小さなものが見えるまで遅くなっている。
そんな中ただ彼のことだけを考えていた。
世界はちっぽけだ。そんな歌詞がまだ平和だった頃にあった。それでも人間が世界を支配できなくなってからは圧倒的に広くなった。
彼の心は分からない。前の世界の彼ならばわかっただろうにこの世界の彼の心は分からない。
もしも彼が....
ーーやっぱり....キレイだな。お前は。ーー
聞き間違いだと思って聞き直したあの時の言葉。あの時の彼の顔は.......
「ッ....ひどい....ひどいよ....深くんッ!」
気付いてしまった。ずっと願ってやまなかった彼が前の世界の彼であって欲しいという願いが本当だったことを。なんでこんなことをしたのかは分からない。
目的がもうひとつ出来た。彼を救う他にもうひとつ大事な用事が。
この事を彼に聞く。そして.......
「ッ.......生きてますよね.......?深くん」
こころなしか足の回転速度が上がった。
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チョロロッという音が聞こえた。
「水....か。」
手の感覚はもうない。かろうじて感じるのは生ぬるいものが足を伝う感覚と背中の確かな重みだけだった。
歩いてどれくらいだっただろう?数時間?もしかしたらまだ数十分かもしれない。この歩く速度ならまだ差程洞窟からは離れられてないだろう。
「しんにぃ....後、もう....少しだから.......」
インカムは洞窟の中で無くし、頼りはこの身とセラフのみ。背中の上で意識を失っている彼は戦力には数えられない。
「というか....あたッ.......しも戦えるかどうか.......」
出血の量が尋常ではない。兄の血が入って靴の中は血の海状態だ。あたしもボロボロ。キャンサーに見つかれば一貫の終わり状態だ。
それでも洞窟を出た理由は救援を呼ぶため。蒼井たちと合流するため。色々あるがどれも彼のことを考えた結果だ。
「眠りこけて.....心配させんなよ、苦労したんだよ?助けるまで。」
僅かな岩の隙間からキャンサーがいなくなったのを確認して岩を掘り起こして、彼を見てまだ息があるとわかった時は泣きそうになった。死んでしまったとあったら蒼井にどう言えばいいか分からなくなるところだった。いや、今の状態でも言うべき言葉なんて分からないけど。実は彼は蒼井の知っている彼でした。なんてものだけは口が裂けても言えない。
「そうだ.......別働隊.......」
ユイナ先輩辺りに連絡すれば本部に報告してくれるだろう。そう思い立ってできるだけ優しく兄を柔らかい草の地面に下ろす。その横に地震も腰を下ろして一縷の望みをかけてメッセージを送った。
ーー現在、ドーム南西で遭難中。被害甚大。急所求む。ーー
「....既読にならないか....当たり前だよね。」
作戦中にデンチョを確認などするはずが無い。連絡なんてつかないとは思っていたがもうあたしにできることが思いつかない。
「.......ねぇ、帰ったらしんにぃは何したい?蒼井とデート?本当の事打ち明けて晴れて正式にイチャイチャできるんだもんね.......」
当然帰ってくる言葉は無い。でも声を出していなければ気でもおかしくなりそうだった。軍に入って強くなって世界を渡って。そんな浮世離れしたことが起きて勘違いしていた。
「やっぱり.......あたしは女なんだ。」
こうなってしまえば何も出来ないか弱い女の子。ただ願って涙を流すしかない心が折れそうな1人の一般人だった。
「ははっ、人じゃないのにね、あたしたちは.......」
涙が出てくる。もう何で泣いているのか分からない。兄が死にそうだから?それともこの絶望的な状況で自身の努力が全て無駄だったとわかったから?
「もう、なにがなんだかわからないよ....助けて、しんにぃ、蒼井.......」
嘆いても自体は好転しない。この絶望は覆らない。わかっているのに体が震えることを辞めない。言うことを聞かない。
「もう、ダメな....ッ?!」
後ろから音がした。セラフを向けて警戒する。
同じ剣が4本。あたしの剣と彼が使った技による産物。本人でないとしまうことが出来ない性質上、自分の剣をしまって彼のを使っているが見た目は同じでも重心やら何やらは全然違う。慣れていない剣で戦うのはこの体の惨状も考えて到底無理だ。
「ッ.....」
だがその心配は杞憂に終わった。草の間から出てきたのは小さいリス。茶色い小動物だった。
可愛いなどと思う余裕は無い。だが心はだんだんと落ち着きを取り戻していく。先程の弱音はどこかに捨ておいて必死で何ができるかを考えた。そうして導き出した答えは.......
「しんにぃのインカム.......」
希望が見えた瞬間だった。
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「ッ.....作戦は中止よ!31A!31B!隊長と最上さん以外の全員回収しなさい!」
「司令官ッ」
顔をしわくちゃにした七瀬は恨めしそうに咲を見た。それを確認して少し怯みそうになるが意地でこらえる。この決断をできるように私は握手をしなかったのだ。これは善で握手では無いはず。
「ここまで壊滅的だったらどっちみちこのまま建て直したって意味が無いわ!幸いレッドクリムゾンの居場所はわかって今は沈黙しているのだしまた挑めばいいはずよ!」
別行動はさせるべきでは無かった。私の判断ミスだ。このままの関係だと作戦に支障が出ると思った私が馬鹿だった。今の状況の方が酷いでは無いか。
「残った人達はどうするんです.....?」
「残ったほかの部隊で捜索するわ」
「ッ.......!」
七瀬が無言で胸元につかみかかってくる。彼の何が彼女たちの行動をこんなにも変えたのか。いつでも冷静な七瀬までもが彼に毒されてしまっている。普段動かない表情をこんなにも歪めてこちらを睨んで来たことなんて初めてなのでは無いだろうか?
「毒....言い得て妙ね。」
彼はこのセラフ部隊という人類の希望にとって悪か否か。戦力としては欲しい逸材。でも全体の能力を落としてしまうならば悪材だ。
今まで性差が問題になるなんて言うことは無かった。
個人的には子供たちは幸せを知るというのは尊い、私も含め、守るものだと思いながらも司令官としてはそれを認められないというこのジレンマ。
「以前の私はどうしていた?」
ぼそっと呟いた言葉を小さく首を振ってはらい落とす。今はそんなことを考えているときではない。全力を尽くして基地に全員帰す。
それが今私にできること。
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「ダメか.......」
彼のインカムをあたしの端末と繋げてみるも壊れているのかノイズしか聞こえない。
考えろ。考え続けろ。あたしは天才ロッカーだろ?普通の人が考えつかないような発想を持ってる人間だ。大丈夫、必ず何かあるはず。
「なんで司令官は
デンチョからバイタルを確認している?壊れてる彼のデンチョを加味して考えるに壊れてない状態で生命反応が消えると回収に来る....
「あー....そっか。上のやつらか.......」
やっとわかった。今になってやっと。このスマホっぽいなにかの用途が。
デンチョで生命反応が消えると回収に来れる。それ以外は来れない理由がある。壊れて確認できなくてもあのワープゲートのようなものを見られてはいけないからと上層部か何かに言われているのだろう。結局人間じゃない司令官を含めたあたしたちは監視からは逃れられないってことだ。
「しんにぃ....」
少し彼の頬を撫でる。血塗れたそれは砂が付いており、ジャリっとした感覚が少し痛い。
「やっぱり....しんにぃと蒼井は見捨てられないや。」
あたしにとって大切なもの1位と2位だ。順位をつけるなんてネットで叩かれそうなものだけども今の時代そんなものは無いのだから構うものか。こんな時ぐらい自分に素直になってもいいと思う。
剣を手に取って自分の首筋に当てる。これでしんにぃの為の助けが来る。支えると言ったあの誓い。
「....仲直り、してないなぁ.......」
決心は固い。
ちゃんとやる。死ぬ。会えなくなる。やれる。助けを。死なないと。ダメだ。死ね。泣いてくれるかな?やめたい。
食い込む刃。一筋の血が剣を伝って指に流れてくる。
「やめ....ろ.......ッ.......」
不意に隣から声がした。彼の目はほんとにうっすらとだが開いており、その手はあたしの行動を止めようともがいていた。
「ッ.......しんにぃ.......ごめんね。」
「....」
痛いだろうに.......辛いだろうに。それでもあたしのことを心配するその優しさに甘えた結果がこれだ。喧嘩してなくて、正常な判断ができる状態でのあの状況なら切り抜けられたかもしれないのに。
ああ、血が足りない。
思考が止まる。
ボロボロになったね。でも大丈夫。今まで助けられた分を返すよ。
あたしが助ける。
ねぇ.......
泣かないでよ。
「....お兄ちゃん、ごめんね。大好き。」
あたしの首が宙を舞った。
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「ッ....起きたらベットかよ。夢か。」
あれは悪夢だったらしい。縁起でもない話だがよくできた夢ではあった。きっと不安やら緊張やらで俺も不安定だったのだろう。子供っぽくて嫌になる。
「ん?....ああ。あお....い"ッ?!」
ガララっと音がしたので視線を向けるとあおいが立っていた。起きている俺の姿を見て血相を変えてこちらに飛び込んでくる。
「バカです....深くんはバカです....」
「え、えっと....何があったか聞いてもいいか....?」
絶賛頭の中は大混乱中。現在の俺と蒼井の関係ではこんなイベントなんて起きるはずないと思って油断していた。
「い、一旦はな....れ....ぇ?」
蒼井と距離を取ろうと手を肩において軽くおそうとしたところでやっと気づいた。
なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
だってあれは悪夢で、これが現実で。腕の感覚だってあるし.......
「ッ....あ、蒼井....月歌は?」
彼女の体がビクッと震える。
その反応だけで十分だった。あれが現実だったと理解するには。
「....蒼井は味方です。何があっても深くんを守ります。」
「な、にを.......」
「ナービィのことも聞きました。深くんが蒼井の事を知ってたことも今は聞きません。」
頭が理解しようとしない。努めて優しい声で話す蒼井の声は震えていて、親友の死を受け入れられてないのは明白だった。
「ッ.......要らない.......」
「え....?」
「蒼井の支えなんて、要らない。」
「ッ....」
「蒼井は自分のことだけ考えてろ。お前のことは俺が守る。」
「....」
ニコッと笑って蒼井が外に出ていった。どういう反応だろう。俺は1ミリも立ち直れていないが彼女は立ち直れたのだろうか?
「....月歌....お前ならどうしてた?」
きっとぶつかっていたはず。なら、やることはひとつ。
「もう1回あのキャンサーと戦って過去に戻る。2人を守る。」
俺の最終目標だ。
はい。すいませんした。月歌がこの章でのヒロインと言っておきながらこの章で亡くなりました。でもご安心を悪い様にはしません。
ぶっちゃけ自己解釈とか勝手に設定追加したりとやりたい放題な話になったなと読み返して思ってます。不快に思った方は申し訳ありません。
アンケート実施します。良ければ投票を
2章からはどんな雰囲気が良い?
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蒼井とのイチャイチャ多め
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月歌とのイチャイチャ多め
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蒼井と月歌とのイチャイチャ多め