キオクヲタドリ、交差する【亀更新】   作:だけたけ

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はい。月歌と深の過去編。数話続きます。その後月歌救済編、お楽しみを.......


閑話 過去編 《月譚恐歌》

「よ、待ったか?」

「んや?全然。」

 

連絡を受けて待ち合わせ。いつも明るい彼女の顔がどこか曇っていた。瞼はいつもよりも少し空いていない。中学の制服に身を包んだ少女が柵によりかかって黄昏ていた。

 

「んで?話って?」

「.......ねぇ、焼肉奢って?」

「はぁ?」

 

いきなりだった。遠慮なんて微塵も感じられないその声音と言い草。何時もの彼女だ。ただなにか違和感がある。詳しく説明など出来はしない。鈍感なつもりは無い。きっと話とは悩みかなんかなのだろう。

 

その少し影が落ちた顔に笑顔が一瞬戻ったのを見て、気づいたら焼肉屋のテーブルについていた。

 

「店員さーん!ビール.......いでっ」

「未成年だろアホ。」

 

ふざけたことを言い出した月歌の頭を軽く叩いてその言葉を止める。頭を抱えてテーブルにうずくまるその姿は何時もの月歌ではなくやはり無理しているように見えた。

 

「まぁ、一応は聞いてやる。何があった?」

「....前、お兄ちゃんはさ、夢、追いかけろって言ったよね?」

「言ってねぇ。」

 

どんな主人公だよ、それ。何の話かほんとに分からない。マジで記憶ないんだけど。

 

「それであたしの背中押してくれて」

「押してねぇしそんな事実ねぇ」

「あたしは目指そうとしたわけよ」

「話聞けよお前。」

 

頑固というか、もう厄介者扱いしたい気持ちでいっぱいだった。ぶっちゃけ真剣に悩んでそうだったのでこちらもスイッチ入れて覚悟をそれなりにして来たのにこれだ。

 

「....お母さんとお父さんに反対された。」

「..そうか.......って言いたいんだけどマジで話見えてきてないからな?」

「メンバー集めてさ、最高のメンバーなんだよ?ほんとに」

「うん。何をやるメンバーなんだよ。俺が聞いてる側なのにもう話し置いてかれてんのやばくない?」

「あ、バンド。」

 

もうこれ、時間かかるやつじゃん。2時間の食べ放題の間に終わるかな.......悩み聞く方が解読必要って....

 

「....俺さ、バンド始めるとか全然聞いてないんだけど。」

「え?...........」

 

あ、ほんとにふざけてる訳ではなかったらしい。何時もの彼女も相まってマジでボケてるだけだと思ってた。

 

うん大丈夫。ほんとに真剣なんだな。わかるよ、その真っ赤にした顔見れば。本気で相談しに来たってことは伝わった。

 

「....一旦忘れて?」

「いや、普段可愛くない妹分の可愛いシーンを忘れるなどとてもとても.......ひぃっ!」

「....」

 

いや、ごめん、今回は俺が悪い。真剣な話を茶化したのは俺だ。謝るからその箸を下ろそうか。もう少しで目に入りそう.......

 

「お兄ちゃん、本気で相談。」

「おう。ごめん。どしたんだ?」

 

1呼吸おいて肉を焼きながら話し始める。その目はずっと伏せられていてそれがどうにも余裕の無さの表れのようで見ているだけで悲痛だった。

 

「この前、カラオケ行った時あったでしょ?」

「ああ、あったな。月歌が滅茶苦茶上手くてびっくりした。」

「そう、それ。その時、バンドとかやらないのか?って聞かれたんだけど.......」

 

うん、そこから俺の記憶が無い。そんなこと言ったっけ。待てよ....?記憶を掘り起こせ。大丈夫。思い出せるはずだ。

 

「覚えてないんだ....」

「面目ない.......」

「まぁ、それで組んでみようと思ってネットにメンバー募集かけて....」

「....ん?待て?カラオケ行ったのっていつの事だ?直近のやつじゃないよな?」

 

違和感があったのだ。俺が褒めたことなんて最初の頃くらいだ。一緒に行けば行くほど月歌の歌は上手いと言うのが常識になって褒めることはなくなっていた。となれば褒めたその出来事は最近では無いはずだ。

 

「ん〜、2年前ぐらい?」

「んなもん覚えてねぇよ?!ってかそのバンド、今どこまで成長してんだよ....」

「プロの声かかった。」

「プロぉぉお?!?!?!」

 

周りに見られようがもう知ったことじゃない。俺の妹がいつの間にか遠くに行ってしまっている件について。

 

「まぁ.....親がプロになっても生活は安定しないでしょ?って.......」

「あ〜...」

「深君と結婚するなら大丈夫だけどって。」

「ありえない。」

 

同感と月歌も一言。続けざまに焼肉を頬張ってん〜!と美味しそうな声を漏らす。そのリアクションは大袈裟な程で容姿の良さも相まって周りの客はチラチラとこちらを見てくる。

 

「まぁずっと一緒に居るとは言ってるけどねー」

「何勝手に言ってんだアホなのか?だから付き合えとか言われんだよ。お前の場合は自業自得だ。」

まっへ、ほうへほいははいほ(だって、そうでも言わないと)

「静かに食べろ.......ほら、ほっぺについてんぞ。」

ほっへー(取ってー)

「はぁ.......ほら。」

 

傍から見ればカップルみたいだ言うのもわかる。再三言うが鈍感系主人公では無いのだ。それくらい気づく。でもさ、俺はムッツリシスコンである。自覚はある。でも月歌の方に至っては.......

 

「ん〜、優しく〜」

「....」

 

このとおり、オープンブラコンである。なんで元々は赤の他人の俺にここまで懐いたのか.......猫か犬かと言われればもう断然犬。パワーのある甘え方にはこっちが疲れるほどだ。もちろん俺は男、最初は「役得すぎん?こんな美人の年下に甘えられるとかどんなご褒美だよ」とか思ったりした。でも四六時中やられたらウザイって感情も出てきて.......

 

「....ま、そういう訳だからバンドをどうするかってね。」

「........なんで悩むんだ?」

「え?」

「いや、やりたいって心は決まってる訳だろ?」

「いや、そうだけど....」

 

歯切れが悪い。そんな遠慮する間柄でもないだろ。

 

「兄が妹助けるなんて当たり前なんだし。妹が路頭に迷ったら支援ぐらいしてやるよ。だから安心してプロ目指せ。」

「え、えっと.......」

「なんだよ、俺の金目当てで話したんだろ?」

「あたしそんな悪女じゃないよ?!」

 

え?.......

 

 

....え........?

 

 

_____________________________________________

 

 

 

ゆっくりと体の感覚が戻ってくる感覚。離れていた意識が戻ってふわふわした感覚が熔けていく。

 

「....朝か.......」

 

ギラギラと輝く太陽が登り始めた頃だった。寝っ転がったまま青い空が見れるキャンプ並みの風情。

 

ーーお兄ちゃ....ッ.......しんにぃッ!!!行かないでッーー

 

「ああッくそッ....」

 

無意識に力の入ったては土を握り締めていた。さっきまで見ていた幸せな夢のせいで目覚めは最悪だ。

 

目が地面に落ちる。震える手を必死に押さえつけて記憶に映る映像が消えるのを待っていた。

脳裏に浮かんだのは最後に見た月歌の顔。

 

悲痛に歪んだ懇願するような泣き顔。こちらに必死に手を伸ばして俺のどこかをつかもうと必死な月歌の姿。

 

「....しんにぃか....子供っぽいから辞めるって言ってたのに....」

 

缶ずめを缶切りで開けて直接火にかける。思い出なんて今の時代には無駄なものだとはわかっている。それでも月歌の思い出だけはどうにも色褪せてくれない。

 

「独り言が多くなったな....」

 

この荒廃した世界で、人類の覇権がおわったこの世界で孤独というのは毒だ。徐々に蝕んで本人の知らないところで燻る。独り言が多くなったと気付けてもまだこの頃の俺はそれが色々と限界になっている故のものとは気づけなかった。

 

「....なにか探しに行くか。」

 

大人しくしているのが1番。それは鉄則だろう。しかしそうもいかない理由がある。物資がつきかけているのだ。成人男性の燃費は最悪と言ってもいいだろう。成長期の子供ほどでは無いが食料は必要、贅沢生活になれている日本人には風呂なし生活は堪えるものだった。

 

「どこか天然の温泉と川は無いものか.......」

 

あったら何としても安全を確保して入りたい。周りに堀をほったり、何日かかってでも。そのお湯を安全な所まで引いてくる。

そんな現実味のない話を妄想しながら場所移動の準備が整った。音が鳴らないように金物は布にくるんでリュックの中へ。色あせたコートを羽織って目深くフードを被り、ネックウォーマーをたくしあげる。

 

「....よし。」

 

願うは食料。贅沢を言うなら保存食をください。

 

その日その日を必死に生きていた。明日なんて見えない。先が真っ暗なこの世界で

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

なんなんだこれは....

 

「助けッ!ぎゃああああッ!!!」

 

意味がわからない。分かりたくない

 

「やめッ!ウグッ.......」

 

なんであの人は宙を舞ってるの?

 

「....ぇ....?」

 

なんで化け物があたしをミテルノ....?

 

 

「ッらァァァァァァ!!!!!クソが!こっちだバケモンがッ!!!」

 

横から影が飛んできた。働かない頭はその声を聞いて少しづつ動きだした。

 

目の前の化け物は視線をあたしから彼へと変わる。

 

「ッ、ダメッ!!」

「んなもんやってみないとわかッ.......ふぇっ、っぶねぇ!!!」

 

化け物が横凪に前足を動かしてくる。幸い良けれたみたいだが当の本人はなんで避けれたか理解出来てないようだった。素人でもわかる。これが絶望的状況って言うやつだと思う。

 

自身の体の震えを止めようと必死で目を瞑って全身に力を入れる。

 

「月歌ッ!逃げろ!!!」

「こ、こしが.......」

「ちッ!」

 

兄の声に目を開いてそちらを見る。

 

最初に感じたのは驚愕。疑問、そして安堵。風切り音がここまで聞こえてくるほどの凶悪な攻撃。そんないくつもの攻撃を何故か避けれている彼が目の前にいた。

 

だがそんなものは長くは続かないのが現実だろう。彼のシャツの胸元が大きく引き裂かれる。鮮血が飛び散り、痛みに慣れていない彼はその場で大きく地面を転がる。

 

「ウグッ.......ふっ.......はぁッはぁッ.......いっっ.......クッ.......」

 

言葉にならない音を口から発しながら胸の当たりを押える彼の姿。体の震えは止まり、気がついたら体が動いていた。

 

「ッ.......何やってんだ....お前」

「....何やってんだろね、あたし。」

「体動くなら早く逃げろっ!」

 

必死に立ち上がって割って入ったあたしの肩を掴んで来る。その力は最早掴んでいるかも怪しいほどだった。

 

「逃げれはしないかなぁ.......」

「なんでッ.......」

「だって、お兄ちゃんが居るじゃん、ここに。」

 

あたしの軽いノリだったかもしれない。でもお母さんに言った一緒に居たいって気持ちは嘘じゃない。恋愛感情は無くても彼は大切な人だ。こんな見栄っ張りなあたしを本気で守ろうとしてくれる人はこの人しか思いつかないくらい、眩しくて、尊敬できて。いつでもあたしの目標みたいな人。

 

「ふ、ざけんなッ!!!」

「何っ.......ぇっ.......」

「妹は兄にまもられてろってんだ.......」

 

後ろを見ると片方の口角が上がっている彼の姿があった。ちょっとカッコつける時の仕草。しょうもない事から意外と頼りになることまで何度も何度も見たその顔。今は何か嫌な予感がする。

 

そこまで考えた時不意に嫌という程重く感じていた自身の体重が消えた。体が横になって次の瞬間自身の体に当たる風が強くなる。

 

「ッ何してんの?!」

「逃げんだよッ!あいつなんなの?!まじで硬ぇしナイフ刺さんねぇし!」

「....逃げれるの?」

「なんだってぇ?!」

 

自身の肩と膝裏に回された手の力が強くなる。後ろを見ると化け物とは距離が確かに開いてはいる。まだ追ってきてはいるが。

 

「そんなに足早かったっけ?!」

「なんか分かんだよ!頭が今までにないくらいクリアになってどうしたら効率よく動けるか分かんだ!!」

 

火事場で能力に覚醒した主人公みたいなことを宣う彼に少し安堵したが少し経ってから今までのままだったらダメじゃんと思い直す。

 

「.......ほんとに、逃げれるの?」

「うひぃっ?!」

「うぎゃっ.......ち、ちゃんと走ってぇぇえええ?!?!」

 

この状況に対してか、それとも彼に対してか。お姫様抱っこされてから状況に似つかわしくない気持ちがあたしの中で暴れ回っていた。

どこかイライラしてきたので仕返しに耳元で囁いてやると彼の肩がはねる。それと同時にバランスを崩したのか車の気分から一気にジェットコースターに早変わり。ぶっちゃけマジで怖い。化け物に殺されるよりはマシだけど。

 

「お前が悪ぃだろ今のマジふざけんなよ?!ここふざける場面じゃねぇからな?!」

「あははっ!もっとやれー!!」

「やめろぉぉおおお!!!!!!」

 

楽しまないとやってられない。あたし一人だとこんな振る舞いはできなかった。けれど今は兄が居る。兄のそばならこんな絶望的な状況でも笑える。

 

必死な顔....頬を引っ張りたいけど流石にマジ切れされそうだから我慢しなきゃ.......

 

「んァァァ!鬱陶しい!頬っぺをツンツンすんなッ!」

「あー、化け物が少しづつ近づいてきたよー」

「お前ふざけんなぁァァァァ!いきなりなんでキャラ変わんだよ!ふざけんなよ、マジでお前後で覚えてろッ!!!」

 

行くあてはあるのだろうか。まぁ大丈夫だろう。いざとなれば頼りになる兄の事だ。きっと安全なところを知っているのだろう。

 

「信頼してるね。」

「その信頼、裏切るわ。どこに逃げる?後、もう貧血で、ぶっちゃけ、げん、かい.......」

 

....前言撤回。兄の前だと笑えないかもしれない。ほんとに、誰か助けてください。ほんとにふざけ無しで兄の胸から血が.......有り得ない量出てるんです。お姫様抱っこなんかしているもんであたし横っ腹と兄のお腹ら辺に小さな血溜まりが.......

 

「お兄ちゃん、下ろして。病院行こ。」

「え?いやでもばけも「いいから」.....わかった」

 

この血の量は輸血しないとダメなレベルだろう。素人でもわかる。

 

「ほら、お兄ちゃん」

「いや、でも.......」

「早く、追いつかれるよ。」

 

ぶっちゃけ怪我してる兄よりもあたしが抱えた方が早い。あたしはその場でしゃがんで早く乗っかれと手をヒラヒラさせる。

 

「い、いや....」

「何?!」

「.......病院、目の前.......」

「オーマイガー.......」

 

呆然と大きい建物の前で立ちつくす。

 

「で....あれはどうすんだ?病院行くってことはあいつをどうにかできるってことだろ?」

「....」

「おい、まさか.......」

 

はい。そのまさかです。何も考えてませんでした。ぶっちゃけ仕返しやらあたしには兄が居なきゃダメだとか兄の出血の量とかでもうそこまで頭回ってなかったです。

 

「おまッ、ふざけんなよ?!マジかよ?!....」

「とりあえず....木の裏に隠れる?」

「....お前、まじかよ.......」

 

最後までしまらないのはあたしらしい。自分で言うなって?うん、あたしもそう思う。

 




はい。ちょい時系列前後して読みづらいかなぁ.......とは思ってますすんません。次話もお楽しみを.......その後月歌救済編にて蒼井とのイチャイチャ補充が来ますよ。念願の.......

2章からはどんな雰囲気が良い?

  • 蒼井とのイチャイチャ多め
  • 月歌とのイチャイチャ多め
  • 蒼井と月歌とのイチャイチャ多め
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