「で....どうしてこうなった」
「「「イェェイ!!」」」
「はぁ.......」
ユキ、気持ちは分かる。でもこのバカどもが馬鹿やってる時は相手をする方が損だぞ。
「お前ら、いい加減落ち着け。何十分「イェェイ」だけ言ってるつもりだよ!」
「あと2日?」
「馬鹿かバカなのか?!休むつもりないのかッ?!」
「あ、そっか....これが最後の晩餐ね....」
「諜報員!お前諜報員ッ!!何言ってんだお前!」
「ナーイス、ハッキィング!」
「なんもしてねぇわ!」
こちらに視線を向けて来るユキ。やめろ。俺は関わらないぞ。歓迎は嬉しいがもう耳が限界なんだ。おい、目をうるうるさせるのはやめろ!情に訴えるなよ....目を伏せるな!
「あ、あ〜....この唐揚げ美味いなぁ.......」
「裏切り者がああああああああぁぁぁ!!!!」
限界だったのだろう。色々と。そこで希望の俺がいたがその俺も無視を決め込んでいる。ごめん。でもな。無理なんだ。ほ、ほら、キャンサー相手に震えもしない俺の手がこんなにこんなに震えてんだぜ?震度七超えて八だよこれ.......
「へたれ」
「おいこら、めぐみてめぇ」
「なんや?やんのか?」
「え?え?」
カッチーン来た。でもこんな日々も懐かしく思える。関係性は以前と変わらなさそうだ。俺の事をみな知らなくてもやはり皆は皆だった。
「何笑ってんだ....?」
「お前らが眩しくてな....」
「そんな気持ち悪い顔してんなや。飯が不味くなるやろ」
「みんなごめん。この眩しさ、めぐみの頭からだったわ!」
「ッ!」
「ど、どうどう!めぐみさん!ダメです!」
やっぱりこいつとだけはウマが合わない。世界が違えどそれは同じだった。ってかまじで腹立つ。
「サイコキネシスで髪の毛生やせよ!バーカバーカ!」
「サイキックや!ってかサイコキネシスは物動かすだけやろ!なんやこいつめちゃ腹立つッ!!」
「と言っておりますがこの2人、連携がすごいのです」
「「な訳あるかッ!!!」」
被ってしまった。これでは本当に相性バッチリなんてレッテルが貼られかねない。それだけは絶対嫌だ。
「そうなのか?」
「うん。というか31Aに合わせるのが上手いんだよ。兄貴は」
半信半疑という顔だ。まぁそうだろう。相手からしたら得体の知れない男。しかもソロ部隊などと名乗っている者など連携が出来るなどというのは想像がつかないのだろう。
「今後、指揮はあたしと兄貴がとる。」
「なッ.......おい、正気か?月歌」
「うん。大マジメ。幸いなことにあたしと兄貴は同じ世界の記憶を持ってる。あっちで指揮系統が混乱したことなんて1度もなかったし」
「1つ訂正しようか。みなを動かす事においては俺よりも月歌の方が上手い。接している年月もあるのだろうけどいちばんは才能だろうな。第1、俺の命令じゃめぐみが動かない。」
認める能力をこの部隊は一人一つは必ず持っている。主人公補正と言っても過言では無い突出した才があるのだ。それは決して無視できる練度ではない。
「だが先読みすることに置いては俺の方が上だ。」
「きっとみんなもびっくりするぜ?兄貴の未来予知」
「未来予知....それはどういうことですか?」
「ただ単に経験.......と言いたいところだがな。蒼井と同じだ。多分1部の脳のリミッターが外れてるんだろうさ。」
蒼井はハイパーサイメシア。俺は脳のリミッター。
メカニズムは単純。アスリートなどが使っているリミッターの外し方と似たようなもの。ただ得られる効果は絶大だが。
「一般が1割。アスリートが外した時脳の5割を使えると仮定した時、俺の場合は8割。つまり、簡単に言うと頭の回転が早くなるだけって考えていい。」
「「想像つかないな....」ッ?!」
「ひぇっ.......」
こればっかりは信じてもらわないと連携もクソもない。仲間の言葉を信じて即座に反応出来なければ死んでしまう場面などこれからいくらでもあるのだから。ただ、その反面それがどれだけ難しいことかもわかっている。今、平然と仲間ずらして喋れているのはひとえに月歌への信頼の賜物だろう。なんというか、本当にカリスマの塊だと再認識する。
「だが滅多に使わない。普段の戦闘や長期間の作戦とかなら尚更だ。」
「どういうことですか?そこまでの恩恵があるなら....」
「....何かしらの副作用があるんだろうさ....」
「その通りだ。さすがユキだな。ナイス」
「ハッキィング!」
「してねぇわ!」
月歌が被せたことで少し空気が軽くなる。なるほど。やはりこの部隊は月歌が中心で成り立っている。この点は前の世界と同じか。今のところ差異はない。むしろ似すぎているくらいだ。
「使いすぎると死ぬ。」
「重いッ!」
「ドンとヘビーやないか.......」
「詳しく言うと脳が沸騰する。冷水に頭突っ込んでれば別だがそんな状態で戦闘なんて出来ない。」
一般人の8倍の速度でやり取りする神経が耐えられず焼き切れるのだ。本当に使い勝手の悪いクソ能力。
「はい....」
「はい。可憐」
「えっと、使わないなら指揮もできないんじゃ.....」
「へっへぇん!兄貴は蒼井よりも前の古株!ぶっちゃけると司令官とおなじ世代!経験がパパッと何とかしてくれるんだよなぁ。これが。」
説明しないで事実あげただけじゃねぇか。そう突っ込みたかった。だがそれをしたら負けだ。月歌ワールドに突っ込んで自滅する趣味はない。ユキの二の舞にはなりたくないのだ。ごめん。ほんとに。全部任せる。
「呼びました?」
「ッ?!」
不意に後ろから声がかかる。頭の中が真っ白になって後ろを振り向くのが怖い。
「おっ、蒼井〜」
「蒼井の名前が聞こえたんですけど....ん?」
「ッ.....と、とりあえず俺は七瀬のところ行ってくるわ。試したいこともあるし。」
「え?っ、いいの....?ってちょ!はやっ!」
もう無理です!ほんとに。俺の事知らないなんて言葉が出てきただけで死ねる気がする。というか心臓がバクバクなりすぎてまともに耳が機能しやしない。鼻腔をくすぐる匂いが鼻に届いた瞬間ダメだった。
甘い匂い。
甘くて爽やかな蒼井の匂い。
記憶の中でしかもう再生されなかったその感覚は頭が痺れるほどに脳を刺激してきた。
「はぁ.....故人にここまで惚れ込んでるとは。まぁ、今も後にも蒼井以外考えられないが....」
「待ってくださいッ!」
はぁはぁ吐息を切らしながら走ってくる音がする。体が動かなくなってしまった。俺は逃げられないらしい。
「ッ.....や、やぁ。えっと....」
「深くんッ!」
彼女が俺の名前を呼んだ。その事実はすぐには頭に入ってこない。視界が真っ白になってつい後ろを振り向いてしまった。
「ッ......」
「やっと....こっち向いてっ....くれました.....はぁ、はぁ....」
待って、無理無理無理無理!絶対無理!こんなに直視出来なかったか?こんなに心臓ってバクバクなるもんなの?!もう自分の体が自分のじゃないみたいだ。
「む、いて欲しかったんだ」
いや、何言ってんの?!俺!ダメだ。頭が混乱してまともな話すらできてない。これってあれか?蒼井にも俺の世界の記憶があるってことか?
いやいやいや、待て。
俺が希望的観測をしてるだけかもしれない。でも俺の名前を呼んだよな?月歌に教えてもらった?いや、追ってきたのは月歌が指示をして....
「....はいっ!」
「あら可愛い笑顔♡....」
おい、俺はいつ女になった?はぁ?ふっざけんな。こんなの冷静で入れるわけねぇだろ。蒼井が目の前にいるっていう事実を処理するだけで脳のキャパを95%ぐらい使ってんだ。それ以外考えられるはずないだろ!
「貴方、なかなかにいい笑顔持っているわねぇぇぇええ?!?!?!ちょ、え?!」
「ッ.......」
ごめん。待ってやわらッ.......じゃなくていい匂いでも無くてッいやいい匂いなんだけども!抱きついてくるなんてもういいのか?記憶持ってるでいいのか?これ、確定か?!
「ッ....あああッ?!」
「...会いたかったッ....」
「ッ.......」
「んっ....」
冷静になった原因はひとつ。服越しに震えているのが分かったから。そして胸あたりが濡れているという事実。分かっていたはずだ。俺を追っかけてあんなに必死に俺の事を呼んで。俺が立ち止まればこっちを向いてくれて嬉しいと。
俺の事を知っている。事実を
ダメだ。
「.......君は.......」
「はい。」
「.......」
もうダメだった。トロトロに熔けた頭をフル回転させる。
匂いは変わらず。
背丈も
温かさも。
記憶以上のそれがあった。
ダメだ。
想像、妄想などただの幻想で事実はそれに優る。あんなに望んでやまなかった存在が今懐に居る。どれだけ幸せか言葉を並べてもあらわせ切れるわけが無い。このやまない胸の鼓動もこんな思考をする自身の女々しさも。全て受けいれてくれたそのやわらかさがそこにあった。
「....き、みは......」
「....はい。」
だからだろうか?自分の頬を伝う水が妙に生暖かく、胸に押し付ける彼女の涙がより熱を持つ。いや、もしかしたら自分の体温が上がっただけかもしれない。でもそれで十分だった。
思い出が現実になって、思い出が過去になって。
それでもきっとこの行動は間違いだったのだろう。我が人生、自身の恐怖で公開するであろう選択肢を選ぶ。この温かさで溶けないように。今度こそ彼女を守るために。自身の心を殺す。
それでも、
ダメだ。ダメだダメだッ
それでも真実を知った時、蒼井は許してくれるんだろうな。黒い髪を持った陽だまりのような彼女のことだ。きっと守りきって真実を告げた時、あの美しい笑顔で許してくれる。だから.......
やめろ.......誰か、止めてくれ....ダメだ....誰か....
ごめん。
「だれ....ですか?」
「ッ........」
.......ごめん
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「どういうことだよッ!」
「.......ダメだ。ダメなんだ。」
「さっきからダメダメだけ言ってたって分からないよッ.......深にぃッ」
蒼井を送り出し、そして泣き腫らした顔で戻ってきた彼女。それだけで彼が何をしたのかあたしには分かってしまった。
あれからもう冷静なんてものは忘れてしまったのだ。全てを投げ捨てて、皆の制止も聞かずに飛び出してアリーナに続く道を走ってきたあと、彼の姿を見つけたあたしは躊躇なく彼の頬に手のひらをぶつけた。
「ッ....なんっでッ....そんなに辛いなら.......」
「もっと辛い事を起こさないためだ。」
「そんなのッ」
「....」
「ッ...........」
正常な思考が出来ていない。そんなものは100も承知だった。ただ自身の想いを相手にぶつけているだけの子供になっていることも自覚している。でも、でもだ。
「分からないよッ、なんでそんな拒絶するような....」
「じゃぁッ!じゃあもしも前の環境に戻ったとして、せっかくのこのチャンスを棒にふるってッ!そんなことしたらもう俺はッ....お、れは....ッ」
弱った兄の姿。いつもは気丈に振る舞うくせに蒼井のことになったら途端に弱くなる彼は震えていた。でも、それを見てもあたしは納得できない。
「なんでそんな....ッ.......きっと許してくれるとか思ってるんでしょ?!自分から切捨てたくせに、その相手に自分から甘えるなッ!!!!!」
「ッ...........」
正論だ。冷静ではない今の自分でもわかるような正論。論破。
言いすぎた。そんな後悔が頭をよぎる。
ほら、彼の視線が地面に落ちた。覚悟など到底なく発した自身の言葉を取り消したい。
でもこれは深に対する情で、蒼井に対する情は依然として許せないと叫んでいる。彼女のことを考えれば胸が張り裂けそうになり、それでも彼のことを考えればここでやめとけと心が説得してくるのだ。
「かく、ごのうえだ。嫌われようと....それでも....ッ」
周りの草が揺れる音がうるさい。頼むから今は黙ってて欲しい。
「だからって....それはないよッ....」
「.......なぁ、月歌....俺は間違ってるか?」
「ッ.......」
間違ってると感情は叫びたがっている。けれどあたしの理性は間違ってはいないと説得をしてくるのだ。ああ、息が詰まって苦しい。何が正しい?そもそも答えなんてあるのか?無難な回答が、こんなに出ないなんてことはあったか?
兄は....彼はどんな気持ちで彼女を拒絶した。
きっと悲しかったはずだ。きっと躊躇いもしただろう。冷静でいたはずがない。それでも彼女にとっての最善を選ぼうと努力したはずだ。
「でもッ.......」
「....ああ.......」
彼の支えは?彼女を切り捨てた彼の支えはあるのか?壊れはしないか。
あぁ.......そうか。
やっとわかった。自分が自分を覆い隠していたものが。
彼が壊れてしまわないように。
蒼井というもうひとつの本心を使って彼を責め立てて。
彼を支えたいんだ。あたしは....あたしは........
心の中で兄と蒼井が戦う。どちらが大切か。優劣などつけたくはない。全員大切で全員守りたい。そんなものはとっくに分かっている。だがあたしが今生きる場所は戦場だ。どちらを助けるか迷った日にはどちらも失う。
いい加減わかっただろう?
だって、あの時、蒼井を殺したのは
あたしなんだから....
どちらも助ける。償いを。
彼に対する償いを。
彼女を殺してしまったことに償いを。
結果なんてわかっていた。どちらを助けるなどそんなもの選べるはずがない。だって、助けることなんて出来ないから。その資格がないから。だから償いを。
彼は顔を顰めながらこちらを見ていて、いつもの自信に満ちた顔とは大違いだった。
そうか。深にぃも分かっているんだ。間違っていながら合ってもいると。これが最善かは分からないが限られた思考の中で導き出された解なのだと。だからだ。こんなにも悲しそうに顔をしわくちゃにして私を見ている。
「ッ....方法はもっとあったはず。」
「ああ。」
「方法という意味では最悪だと思う。女の敵。」
「.......ああ。」
「でも.......本当の最悪では無いと思うよ。蒼井を救えない最悪と比べたらいくばかマシ。」
「.......」
周りはあたしみたいに考える前に深にぃを切り捨てるだろう。でも生憎、血は繋がっていなくてもあたしは彼の妹で、あたしを救ってくれた人でもあるから。見捨てるなどという選択肢は、はなからなかった。
「....あたしも分からなくなっちゃった。全部終わったら謝ろ?」
「....月歌?......」
気づいたら彼の頭を掻き抱いていた。細かく震えるその頭から声が飛んでくるが無視。思春期。そんなもので兄が辛そうにしている時に味方にならない妹はごまんといるだろう。こんなにも血が繋がっていないという事実に感謝したことは無かった。
味方でいれる。
その事実だけで儲けものだろう。
「このバカアホ兄貴....」
「.......おう。」
「一日で女子に2回も抱きつかれる感想は?」
「....ありがとう。」
絞り出したような答えだった。でもその言葉を聞けただけであたしは満足だ。恋慕には発展しなかったこの心は枝分かれしたもう一つの方向に向かった。親愛に傾いて、そして大切な人になった。それはある意味純粋な気持ち。なにか与えるというのには興味は無いけれど。何かをしてあげたいというのは本心なのだから。
だから、彼のつらさを和らげるのがあたしのやるべき事。そう思う。
だから努めていつも通りのあたしを演じよう。
「この変態.......」
きっとあたしは今すっごい意地悪な顔をしていることだろう。でも、あたしの優先順位は.......蒼井よりも深にぃの方がうえだから。
任せて。あたしが支える。
あの時みたいに壊れてしまわないように
2章からはどんな雰囲気が良い?
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蒼井とのイチャイチャ多め
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月歌とのイチャイチャ多め
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蒼井と月歌とのイチャイチャ多め