キオクヲタドリ、交差する【亀更新】   作:だけたけ

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大晦日投稿。


6話 悩みと動かぬ結論

「.....月歌、もういい。」

「今深にぃが甘えれるのはあたしだけでしょ。ほら、乙女の太もも堪能しろ!変態!」

「....」

 

月歌に抱きしめられてから15分後。俺は何故か彼女の太ももに頭を乗せて風を感じていた。

 

なぁ、どうしてこうなった?なんで?

 

「ほら、もう離れろって風も言ってる。」

「言ってない。」

「....ほら、鳥も「言ってない。」て.......る....はぁ....」

 

何がこうさせる。全くもって分からない。だがだな。

 

妹。うん。それは分かっている。妹分だけれど彼女は妹とほぼ同じぐらいには大切に思っている。兄として守って支えたいとも。でもだ。でもだぞ。

 

「はず、いからさ。」

「.......にししっ」

 

離れてくれたのは嬉しいがこの笑顔が恨めしい。なんだァ?見たことない顔で笑いやがって。んな優しい顔がお前に似合うかよ。いつもみたいにイタズラに成功した子供みたいな顔で笑ってろよ。

 

「.......お前みたいなガキにされても嬉しくねぇんだよ。」

「嫌だ?」

「いや、それは無い。」

「うぇえ....即答は.......ごめん。ちょっと引いた。」

 

どうしろってんだ。クソ。なんだこいつ可愛いな。前世は蒼井というめちゃくそどちゃクソ可愛い彼女がいて?で、今世では血が繋がっていない妹分とのラブストーリー?マジでそんなもの本心から望んでないんだよ。

 

「はぁ。よっ....と。」

「.....で?アリーナは?」

 

頭を起こして立ち上がる。

 

「....月歌。試したいことがある。」

「.......え?」

 

 

 

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「七瀬....さん。これから一緒に戦うことだし握手しないか?」

「うぇえ....兄貴不器用なの忘れてた....」

 

ド直球。控えめに言って男としては失格レベルの大やらかしだ。ただでさえ男がいないこの基地でそんなことをしたら.......

 

「ほらぁ!ななみんが不審がってる!!やっぱり無茶だって!」

「ならば押し倒すしか....」

「なんっでそうなんの?!色々言いたいことあるけどなんであたしがツッコミ役になってるの?!」

「冗談だ。」

「あの.......」

 

分かりにくいと声を大にして言いたい。確かに事前の話し合いではそれで条件を満たすのはわかっているが失敗した時のリスクが高すぎる。

 

 

 

 

20分前

 

「仮説だが俺の世界での記憶を取り戻す条件はふたつある。」

「条件....?」

「ああ。昨日試した上で情報を整理した。まぁこの仮説通りなら蒼井はまた別の例ということになるけど.......でもいちばん検証が簡単だからこれから試そうかなって」

 

アリーナに向かう途中彼は考え込むように右手を顎に添えてもうひとつの手はあたしの頭を撫でていた。

 

「ふーん....それで?」

「記憶を取り戻したのは蒼井を除いては1人。月歌しか居ないから例が少なすぎるけど.......」

「愛の力なんて言ったけどそんなものじゃ納得できないよねぇ.......」

 

記憶を取り戻したタイミングは彼に抱きつかれてから。あの行為のどこかの要素に理由がある。それはあたしも考えていたところだ。

 

「だからといって抱きつくなんて博打、おいそれとできるものじゃない。」

「条件は兄貴に触れるってこと?」

「そゆこと。」

「....痛い。」

 

心做しか頭を撫でる力が強くなった気がした。今までちょうど良かっただけあって少し痛い。

 

「握手、が妥当か。」

「ねぇ、痛い。」

「ほれほれぇー」

「うわぅ、うわぅ、うわぅ」

 

可愛がってくれるのは嬉しいけど真面目な話の時にはしないで欲しいというのも本音だ。だから今はこの手から逃れるために一旦後ろに下がろう。

 

「それでアリーナね。」

「ああ。もうひとつの条件が多分、前の世界での親密度だ。ユイナに接触を試したけど効果はなかった。」

「あ〜、納得した。.......って言ってる間についちゃった。」

「これ以外何も浮かばなかった。これが違ったらもう手打ちだ。行こう。」

 

 

_____________________________________________

 

 

 

慣れ親しんだ風景が目の前にある。操作盤の前に立つ七瀬の姿にこの味気ない部屋。一目見て近未来の技術であることがわかるその環境で異質に感じるのは七瀬と俺、あと月歌の3人だけだろう。

 

「やぁ、」

「深さん。アリーナへようこそ。今日はどう言ったご要件で?」

「あ〜、用があるのはアリーナじゃ無くて七瀬、お前だ。」

「私に?」

 

無表情で首を傾げる彼女は記憶との差異はあれど、それは俺に対するものだけだった。

 

「ああ。これからお世話になるからな。挨拶をと思って。お前からしたら知らない男かもしれないけど俺からしたら昔一緒に戦った仲間だからな。」

「昔....なるほど。違う世界での事ですか。」

「握手だ。」

「いや、なんのひねりもないッ!」

 

横からなにか聞こえるがこれ以外の方法がない。戦闘以外はてんでダメなのは自覚ある。それに七瀬は下手な腹芸をしてバレたら怖い。前の世界の知恵だ。

 

「....よろしくお願い致します。」

「....よろしく。」

「いいの?!ななみんそれでいいの?!」

 

思ったよりあっさりと手を差し出してきたな。ただ、まだ足りない。なるべくあの時のような状況に近づけなくてはならないのだ。接触とあとなんだったか.......

 

「あ....」

「え?」

 

思い出したのは七瀬の手を取った時だった。

 

あの、罪悪感というかもう自分外野になるという負の感情で死にたい。

 

興奮とかそれどころかもうそんなもの置いといてただ死にたい。

 

不誠実とかその前に社会的に死ぬこと必至だ。これで無理だったらどうするべきか。そんなもの後になってから考える他ない。1種の現実逃避だった。

 

「ッ....」

「ど、うした?」

「いえ.......なんでもありません。少し用事を思い出しましたので失礼します。」

「え?あの、アリーナは.......」

 

行ってしまった。突然態度が変わった気がしたのだがなんなのだろうか。

 

そんなことを考えた最中。彼女は振り返りこちらに早歩きで近づいてきた。そして胸ぐらを掴んで一言。

 

「生きててよかったです。」

 

顔を離した彼女の頬は少し赤くなっていて無表情が少し崩れている。

 

立証だ。

 

そんな結果など霞むようなその衝撃は.......

 

 

金のモミジのように落ちて消えていった。

 

 

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部屋に戻ってからというもののそれからずっとあることに頭を悩ませていた。

 

歩いている間はまだ月歌と会話していたのもあり気が紛れていたのだが部屋にひとりだともうダメだ。何もすることが無いのもあいまって余計なことに思考が回る。

 

具体的に言うと....

 

待て。おい待て。ほんとに待ってくれ。さっきの反応はなんなんだ。最後の言葉を考えると成功したととってもいいだろう。だが何故それを隠すのか。

 

生きててよかったと。それほどに彼女の中で俺は大きい存在だったのか?

 

「ああ、自己嫌悪で押しつぶされる.......なんなんだよ。いや心配かけたのもわかるしあの赤くなった顔は涙を堪えてのものだってわかってるけどさ....」

 

あの表情の理由はなんだ。自分があいつの中で大きな存在だったとか己惚れる気は無いが、元仲間として、それは望んでもいいものである筈だ。仮説としては、もうひとつある。彼女が俺に惚れて....

 

ああッ、ほんとにクソ野郎!死んじまえこんな煩悩ッ!

 

「はぁ.......セラフ部隊全員ヒロインですかってんだこのやろ....」

 

ため息が出るのは仕方ないだろう。ここまで取り乱すのはいつぶりだ?自分の部屋だからって気を抜きすぎてるのはわかってる。今でもいちばんは蒼井だ。それは絶対で動かぬ自信がある。でもだ。でも.......

 

「はぁ....多分こりゃ....心配させた申し訳なさの裏返しだな。うん、そうだ。きっとそうだ。余計なこと考えんな。」

 

思考が変な方向に行くのを無理やりに抑える。その時だった。

 

窓から本が飛んできた。床にドカッと落ちると同時に中から紙が出てくる。

 

「ッ.......」

 

無言で駆け寄って平静を装ってポケットにそれを入れる。

 

「はぁ.......便所行って寝よ。」

 

そう呟く。そうせざる負えない。なぜならこれは俺と七瀬。そして咲との秘密のやり取りの合図なのだから。この基地は上に見張られている。それをもかいくぐって話をしたい時に持ち出される連絡法。

 

トイレに入り中を開けて黙読。中にはこう書いてあった。

 

ーーあなたならわかるでしょう。七瀬から話は聞いたわ。夜12時に着くように隠れて司令官室に来てちょうだい。ーー

 

このまるっこい字は咲の物だ。

 

悩み事は一旦お預け。とりあえずルートの訂正がないということは前の世界と監視位置は変わらないということ。なのであれば何回も通った道だ。

 

「でも問題もあんだよなぁ.......」

 

監視位置が居室から続いてるのは31Aの部屋のみ。つまりまず31Aにはバレる。月歌ならいい。連れてけばいいからだ。ユキも....まぁ大丈夫だろう。ただ、それ以外を連れていけばアウトだろう。具体的には今回の作戦で冷静さをかいてしまうということだ。自身の中で噛み砕いて理解してその理解という飲み込みができるのは月歌とユキのみ。

 

「あ〜もう。行くしかねぇけどさ。」

 

今は11時30分。そろそろ行かなきゃ行けない時間帯だ。ここから月歌たちの部屋まで15分。その内、月歌を連れていくにも月歌は記憶が戻っているためルートを知っている。迷うことは無いだろう。ユキは....足でまといか。時間がかかる。となれば....

 

『もしもし。どしたの?兄貴。』

「ふざけはいらない。今からそっち行く。都合の悪いものしまっとけ。」

『ち、ちょっ!ま、待って!い、いい一旦待って?!』

「待たない。悪いが時間が無いんだ。もう部屋の前着いたぞ。」

『ち、ちょちょっ!』

「お邪魔しま.......はぁ....」

 

案の定、部隊全員の集団生活だと言うのに月歌が座っているベットの中はぐっちゃぐちゃ。お菓子の袋にティッシュ箱。口には佐藤と思われる粉末ががついている始末だ。

 

「お前.......はぁ。」

「だからあたしは片付けとけって言ったろ....普段からだらしないんだ。こいつ」

「あぁ....知ってるよ.....ほんとお前は」

「え、えへへ....おねがーい?」

 

呆れているユキの言葉に答えて月歌を見ると異常にキラキラとした目を向けて手を合わせながらこちらを見てくる。片付けて欲しいと頼んでいるのだろう。久しぶりに見た風景だ。

 

「はぁ....」

「んうんうんう....」

「要件が済んだらやってやるから着いて来い。」

「へーい」

「ほら、着替えろ。」

「ほんとに兄貴なんだな.......」

 

窓に手をかけて皆に「ごめん、こいつ借りる。」と一言断り、困惑するメンバーを後ろに俺と月歌2人は司令官室に向かったのだった。

 

 

_____________________________________________

 

 

「へーい!司令官ー!準備OK?音声映像切ってるぅ?!」

「うるせぇ月歌。少しは静かに出来ねぇのか。お前は」

「ご存知の通りで....いったぁ?!?!」

 

頭にゲンコツ1つ。目の前には司令官と七瀬。こちらを見据える七瀬の顔は普段と変わらない無愛想。

 

さて、呼ばれた理由はほぼ分かっているが。

 

「なぁ、俺を呼んだ理由は?」

「手塚司令官と握手を.......」

「断る。」

「....ッ」

 

気持ちはそう。でも俺の優先順位は圧倒的に蒼井が上。咲には申し訳ないし、七瀬も可哀想だとは思うが今は無理だ。そう、今は。

 

「待て。まず冷静に話を聞け。七瀬」

「ッ....はい。」

「お前は前の世界の司令部はこの世界と比べてどう思ってる?」

「腐ってます。まだ司令官の主導で動いた方がましな程に。」

 

即答だった。確信なのだろう。事実意見は同じく、俺もそう思う。だがわかっていない点がひとつある。

 

「最近、色々ありすぎてな。手短に結論だけ言おう。あの世界の咲は腐りきっていなかっただけだ。つまり.......」

「そう.......腐りかけていたって言いたいのね。」

「ああ。今のあんたの方が指示の鋭さと冷静さ。どれをとっても上だろう。」

「腐ってでも記憶の知識を得るか、それとも腐らず堅実に行くか.......」

 

本当に面倒臭い。この二択。人類のための分かれ道。断ると言ったが記憶を取り戻したとてこちらの記憶が消える訳では無い。行動にどう影響があるかなんて検証はしていなかった。

 

「なぁ、音声は切ってあるのか?」

「ええ。大丈夫よ。」

「.......なら俺の考えを言おうか。人間じゃない俺らが記憶をふたつ持ってる。ふたつの差異のある人生観を持ってるのに混乱を起こしてない。」

「....そう、ね。そういうことよね。」

 

記憶が1人分入ってくる。そんなもの、普通に考えて常人に耐えられるわけが無いのだ。どれが自分でどれがほかの自分なのか分からなくなって混乱を起こすなんて簡単に想像がつく。だがなんで起こしていないのか。

 

「あたしたちの適応能力のおかげ....」

「ッ....茅森さんは記憶を持っているのよね。いずれ伝えることになっていたということ.......?でも、わかったわ。少し考えさせて。決心がついたら握手を求めるわ。外で。」

「司令官、自身のことを優先した方がいいと思う。あたしは今、この世界のあたしなのか、それとも兄貴の世界のあたしなのか自分でも分からない。それでもあの時抱きついてきた兄貴を恨んだりしてない。兄貴を知ったあたしと兄貴を家族と慕ってるあたし。2人のあたしは兄貴が好きだから。だからこれでよかったと思ってる。」

「.......」

「あたしが言うのはひとつ。後悔無いようにね。」

「....えぇ....見違えたわね。」

「そら、そこらのセラフ隊員より経験は3倍ぐらいありますからっ!異世界で2倍、ここで1倍!!」

「.......帰るぞ月歌。」

 

表情を優しいものに変えて無言で後ろを着いてくる月歌。それはふざけている彼女ではなく、真面目に、冷静な隊長のそれであった。この頃には決して見せなかった頼りになる顔。この世界の月歌にあの世界の月歌を感じる。

 

「.......」

「何にやにやしてんの?」

「んや?お前も立派になったなって。」

 

月歌が素直に微笑む。滅多に見れない珍しい光景だ。当たり前の世界を生きれなかった彼女にとって家族とは大切でかけがえのないものなのだろう。だが月歌は今世でも失い続ける。蒼井、彼女がもなにゃんと呼ぶ先輩。そして俺。他にも失った。

 

それでも前に進むのはなぜか聞いたことがある。それはただ一言。「自分の為。」

 

信用できると思った。義妹だとしても、信頼に足るかは別だ。でも、月歌は違った。子供ながらに自身の考えを持って行動する。若くして数あるバンドの中でトップにたったのもその根性と努力の賜物だろう。

 

「しんにぃはさ、バンドで食べるって決めた時、真っ先に応援してくれたよね。速攻でバイト入れまくったのはびっくりしたけど。」

「あ〜....そんなこともあったな。」

 

懐かしそうに下を向きながら話す彼女。髪の間からちらりと見える頬は少し赤みがかっていた。柄じゃないことをしているのは自覚があるようだ。

 

「反対するあたしのお母さんとしんにぃのお父さんに「月歌が食えなくなったら俺が養う」って豪語した時、流石に重ってなったけど。」

「はぁ?んな事あったか?」

「どーでしょー?」

 

三角座りから足を崩して横に倒す。手は後ろにおいて今度は空を見上げた。

 

「もうあたしに家族はしんにぃしか居ない。けど大切なものが他にも出来た。」

「兄貴が好きだから....ねぇ?」

「ハイハイ。だいすきー」

「はぁ....さっきまで可愛い妹だったのになんですぐこんな残念になるかね.......」

 

まぁどんな反応も期待してた訳じゃない。自分でも思う。シスコンという四文字は俺にふさわしいと。ただこれでいい。こんな荒れた世界ではいつ死ぬか分からない。今のうちに愛を伝えるどこが悪いのか。

 

「あ、恨んでは無いけど後悔してることがあった。」

「ん?」

 

1呼吸おいて月歌が口を開く。こちらを向く彼女の笑みは整った顔もあいまって他の男が見れば惚れるレベルである。

 

「もうバンドの新曲を知っちゃってるところ!」

 

最後のピースがハマるまであと3日。

 

 

 

 




はい。やっとですね。ピースという名の三つの要素が明かされる話を経て日常回を1.2回やって作戦開始です。お付き合い下さい。

2章からはどんな雰囲気が良い?

  • 蒼井とのイチャイチャ多め
  • 月歌とのイチャイチャ多め
  • 蒼井と月歌とのイチャイチャ多め
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