どうしてこうなった。
今、俺は商店街の入口に立っている。そしてその隣には蒼井。2人きりのこの間には気まずい雰囲気が流れておりどちらも喋り出す最後の勇気の一歩が足りない。
「「えっと....ッ」」
しまった。本当にやらかした。というか無理だろ。初対面の振りしてるとはいえ、実際は惚れて愛している相手が横にたっている。嘘をついている罪悪感の分だけ喋りずらい。
「えっと....い、行こうか?」
「は、はい!」
初々しいと言えばそれまでだが外で蒼井をからかってあーんをする仲だったと思えばこの雰囲気は新鮮なものだ。しかしそれは居心地がいいかと言われればその逆で....
「深くんは....」
「ん?」
「深くんは蒼井の知ってる深くんじゃないんですよね?」
「あー....うん。」
ただこれだけは譲れない。守るためにここで自身の弱さを作ってはそこでボロが出る。あの命を燃やした蒼井の力に一瞬動きを止めたあの後悔をもう二度と味わいたくはない。
「ん?あれは.......」
「....パフェですね....」
「あれ行こうぜ!!」
さっきの空気はどこへやら。でもそんなの関係ない。パフェは俺の好きな物で思いでのあるものなのだ。いや、気にしていない振りをしているだけかもしれない。これ以上の沈黙は耐えられないものがあった。
「おっさん、ストロベリーパフェとチョコソースパフェ1つづつ!」
「えっ....?」
「はいよー」
しまった。やらかした。昔の癖というのも言い訳だろう。気まずさをテンションで誤魔化そうとして、勢い余って蒼井のいつも頼むメニューごと頼んでしまった。凡ミスというより最早バカの領域だ。思考の中で頭抱えるしかないぞこれは....
「る、月歌が蒼井、好きなんじゃないかって....」
「なるほど、ここのパフェは食べたことないですがたしかに美味しそうですね。」
メニューの写真をみてそうつぶやく蒼井。やや下にあるメニューを見るために少し前屈みになるその姿を見て「動いてる....」と涙が出そうな思いになる。
「写真だけだったからなぁ....」
「え?」
「あ、いや....パフェが写真だけだったらなぁって。実物はもっと美味しそうだぞ?」
「そうなんですか??ならなら、深くんのも食べてみたいので交換しませんか?」
「そうしよう。」
ここで少し渋るのが正解だったか?と思いはしたが当人は特に気にした様子もなくこちらを見てくる。
「はい、お待ち。カップル2人とも頑張ってな。」
「....カップルじゃないです。」
「....」
ごめん、えりか。でもこれしか答えられる返答はない。その悲しそうな表情に罪悪感が溢れ出してすぐに肯定したい気持ちに駆られる。しかしせめて守りきるまではこれは明かせない。責められようと、罵られようとこれは変えられない。前回と同じじゃダメなのだ。
戻りかけた俺らの雰囲気がまた気まずいものになる。
「蒼井....さん。映画館に行こう。何か見たいものある?」
「....じゃぁ....」
ほんとに、辛い。そんな言葉で言い表せられればどれだけ楽だったか。俺が初対面の振りをする度に少し顔が陰るその動作一つ一つが申し訳なくて、でも謝り、許しを乞うことも許されない。これは言ってしまえば俺のエゴであり、ワガママなのだろうが、それでも突き通すことに意味がある。
何度目だろう。蒼井が亡くなってからずっと夢見てたデート。それが今叶ったというのに達成感や喜びは1ミリも湧いてこない。
「....どんなジャンルが好き?」
「えっと....これとかですね。」
指さしたのはサメの映画。今では新作なんて出てこない世の中。過去のことを忘れることができない彼女にとってどんどんと娯楽の手段が減っていく。それを知っていて俺は映画に誘った。俺は彼女の支えになり得ないのに、それを承知で誘った。
「B級だな。面白いのか?」
「え?えっと、はい!たぶん....」
「お、おう.......」
「終わったら感想言い合いましょうね!」
店員が「2名ですか?」と聞いてくる。それに蒼井が答えて、俺は思考に沈む。もうダメだ。何をしても裏目に出る気しかしなくなってきた。
「....ん?蒼井。」
「ぇ.......?」
人波に流されそうになる蒼井の手を掴んでこちらに引き寄せる。この動作だけでどうしようもなく抱きしめたくなるがそれを努めて隠す。
「気をつけろよ?」
「うん。ありがとうございます。」
もう、どうしようもなく虚しい。
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「ねぇねぇ、あれ隠せてると思う?」
「....隠せてねぇな。まず、スーパーサイメシアってことを知ってるってのも蒼井からしたらおかしいし、パフェとか色々やらかしてる。」
「だよねー.....蒼井のことになると兄貴、とことんポンコツだからなぁ....」
ウンウンと頷きながら顎に人差し指を付けて普段やらないようなあざといポーズをする月歌。すっごい腹立つ。
「作戦開始だぞ?♡」
「うわぁぁぁぁあああああああッ!!!」
「ち、ちょっ!バレるって.......」
「お前のせいだろ!!」
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「今、和泉の声したか?」
「え?蒼井には聞こえませんでしたけど....」
おかしい。そう思いながらもここで他の事を気にするとまた行動をミスってしまうかもしれない。
作戦まで今日をあわせてあと三日。
それまでに必ずしないといけない質問。答えは分かりきっている質問でもしないといけないのが辛いところである。いつ切り出すかはまだ掴めていないが、悪いことにはならないことがわかっているだけで気持ちは随分と楽だ。問題はいつ切り出すかだが....
「あー、月並みだけどあっちの俺の第一印象ってどんなだった?」
「第一印象、ですか.....弟?」
思わずずっこけそうになる。
「かっこいい!」とかそういうプラスなものを望んでいたのだがマイナスでもプラスでもない微妙なラインが来た。
「あ、わ、悪い意味じゃないですよ?!えっと....蒼井よりも先輩なのに何故か同期扱いとか....ミステリアスって部分もあったと思います。」
慌てて体の前で小さく両手を振って否定をする彼女を見ながら
「でも、あの時の深くんはかっこよかったです。」
「え?どの時の?」
質問を飛ばしてみた。純粋な疑問だったがそれによって彼女から繰り出されるパンチ力を舐めていた。若干天然も入っている彼女は平気でこんなことを言う。
「それは蒼井だけの思い出です!いつか、この世界の深くんが.......いえ....なんでもありません。」
「ぁ....えっと....ほんとにごめん.....」
少し椅子から前傾姿勢になり、こちらの顔を覗き込んでくる蒼井。キメ細やかな肌、色白と言ってもいいほどの綺麗な色、制服をしっかりと着こなしていて青いイメージカラーを身につける彼女が美しくて....思わずジッと見つめてしまう。これがきっと目が吸い込まれるというものなのだろう。全くもって目が離せない。
「やっぱり....キレイだな。お前は。」
「ぇ....?」
「ッ....あ〜....ごめん、忘れてくれ。会った時から思ってたんだ。」
嘘は言っていない。本当に嘘は。
真実かと言われるとそうでも無いのだが今はこれで精一杯。失敗をリカバリーするのはもう諦めて自然に話題をすり替えることにした。
「ぽ、ポップコーン買ってくる!」
前言撤回。ちっとも自然じゃないし誤魔化せてもいない。裏声でどもってその声が恥ずかしい。
「えっと....いってら....行っちゃいました....」
そんな声が後ろから聞こえて歩みを止めないまま後ろを振り返ると膝の上には箱のようなものがひとつ。それを両手で包み込んで俯いている。
俺は鈍感では無い、と思っている。丁寧に包装され、ラッピングされたそれはきっと俺へのプレゼントのようなものなのだろう。質問のタイミングが掴めない俺と同じく、蒼井も渡す機会が掴めないのだろう。しっかり者の蒼井とどうでもいいところは大雑把な俺。正反対だが実の所相性がいいのはそういうところだと月歌に言われたことがある。
後ろから抱きしめたい。そして謝りたい。この思考も何回繰り返しただろう?数え切れないほどの同じ後悔と罪悪感。男として失格で、100人見たら100人が俺が悪いと言うであろうこの所業。
「.......ごめん。」
小さな声でしか言うことが出来ない。過去にあった関係性は今では当たり前ではない。それ故に蒼井はまだ俺の事を想ってくれている。1からまた関係を築こうとしてくれている。
健気。
そんな言葉が可愛く見えるほどに尽くしてくれる蒼井に俺はどう恩返ししたらいい?命を救う?いや、それは俺のエゴであって恩返しにはなり得ない。
目の前でブンブンと頭を小さく振って目線をあげる蒼井を見た瞬間、一瞬悩んでいたことが頭から飛んでいった。
「くっそ可愛いッ....はぁ....」
なんというか、自分でも末期なのはわかる。悩むべきことをかなぐり捨てて悶えていることへの自己嫌悪が頭の中を支配する。
ザザッ....
瞬きをした瞬間、視界に移る光景全てに少しのノイズが走った気がした。
「は?....」
気のせいだったか?いつの間にかその異変は消えており、自然な光景に戻っている。目の当たりを触ってみるが傷もなければ頭を打ったわけでもない。
「....気のせいか。」
違和感をぬぐえないまま売店へと歩いていき、席に帰る頃にはこてんっと頭を傾かせた蒼井の姿があった。
やっぱりつまらなかったんじゃん.......
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自身の体が揺れている。ゆりかごよりも少し固く、それでも体を支えるものは少しの熱を帯びて。優しく揺らしている。
「....ん?起きたか?」
「し、ん....くん.......?」
まどろみの中で声を出すと頼りない自分の声が出てくる。
「もう少しで寮に着くぞ?」
「んぅ....」
声が思ったように出ない。意味もなく声を出してみるが安心する温もりと声。それが眠りの道に戻そうと引っ張ってくる。
「仕方ない....月歌」
「うぇっ?!」
近くの草むらがかさっと揺れて声が聞こえた。これで確信がもてた。やけにスムーズにデートが進むなと思っていたのだ。なんでかは知らないが着いてきて色々とバックアップをしてくれたみたいだ。基本必死だったので何をやってたのかまでは分からないが裏で色々余計なことをしていたのだけはわかる。
「蒼井を頼む。」
「送ればいいんじゃないの?」
ゆっくり首を振ってみせる。蒼井を起こさないように優しく受け渡し、俺は来た道をもどる。
「俺はやる事がある。」
「....コン詰めすぎ。」
「やらないと行けない事だ。心配するな。やることが終わったら寝る。」
「....」
あからさまに呆れた顔になって無言で歩いていく月歌。背中には蒼井が気持ちよさそうに寝ていた。それを見て絆されかけていた覚悟を決め直す。
「はぁ....ダメだ。今世は蒼井と関わったら守れない。」
いつからそんなことを考えるようになっただろう?きっとその時が俺が蒼井に惚れた瞬間なのだ。なのに思い出せない。どこかに消えてしまったかのようにすっぱりとそこだけ記憶が抜け落ちている。
「創作とかだとこれは敵の仕業だ。とか他人の記憶を戻したからだ。とかなるんだろうけど....」
未知の力。キャンサーの存在自体が未解明の今ではまだ確証はない。記憶が無くなるとしたら蒼井を守る理由さえ俺の中から消えてなくなる。
そんなことは絶対耐えられない。いや、そんなことも考えられなくなるのか。惚れてることが無かったことになった俺はどんな存在なのだろう。
「答えは出ない.......出ないけど.......」
きっとここまで強くなることはなく、どうしようもなく流されるまま、ただただぼーっと生きて戦ってるだけだったのだろうか。
「俺の生に2度も意味をくれた君が好きだ。だから俺は君を拒絶する。」
きっと否定の言葉を繰り返す事に辛さは重みになって肩にのしかかるだろう。
この思考も何度も女々しいと切り捨てたものだが結局は考えて悩んで自分を苦しめている。即断即決がいい男なら俺はくだらなくてダサい男なのだろう。
だが、君はそんな俺を好きだと言って愛してくれていた。相当なものを彼女から受けとっていた。
だから.......
だから。
「悪者は俺だ。」
2章からはどんな雰囲気が良い?
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蒼井とのイチャイチャ多め
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月歌とのイチャイチャ多め
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蒼井と月歌とのイチャイチャ多め