暗部前線   作:神無鴉

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私はMGS3とPWがダントツで好きです。はい、わざとです()
なお、作者はACをやった事はないです。レイブンの元ネタはMGS1のバルカン・レイヴンなので。


第一章
爪鴉、空を飛ぶってよ


第三次世界大戦停戦後、人類は人間と人形に二分された。

のちに「人形黎明期」と呼ばれる時代の幕開けである。

 

 

 

5:30 AM August 9 2062 AREA S-09 airspace

2062年8月9日 AM 5:30 S-09地区上空

 

 

〈S-09地区上空、高度3万フィート。間もなく、鉄血領域に近づきます〉

 

 パイロットの声が、ナノマシンによってもたらされた通信モジュール越しに鈍く籠って貨物室に響く。詰めれば25名を超える空挺隊員を収容できるその貨物室(カーゴスペース)は広い。だが、今日ジャンプするのは一人だけだ。

 その男は空挺装備に身を包み、くつろいだ様子で備え付けの長椅子に腰掛けていた。輸送員(カーゴマスター)達が慌ただしく働く中、ただ一人、自分のペースを崩そうとしなかった。

 

〈降下20分前……機内減圧開始〉

 

 通信モジュールから注意を喚起する声が、貨物室(カーゴスペース)のスタッフに送られる。20分後には機のカーゴハッチを開ける。その時に気圧差で機内のものが吸い出されないよう、高度1万メートルの環境と差がないレベルまで貨物室(カーゴスペース)の気圧を下げておくのだ。

 

〈装備チェック……〉

 

 酸素マスクを身に着けた輸送員(カーゴマスター)が、自分の装備を確認している。乗員は皆、精鋭で、訓練通りに整然と行動していた。

 だが、作戦の主役である男だけがまだ動き出そうとしない。身長は175cmを少し超え、鍛え上げられた肉体を降下用の野戦服で包んでいる。白い髪が深く被ったフードから垣間見える。顔は分からない。ぺストマスクによく似たマスクを着けているのだ。若々しい印象を受けるが、ベテランに囲まれているにも関わらず彼が最も落ち着いていた。

 

自動開閉傘装置のアーミングピンを外せ(アームメインパラシュート)

 

 ついに輸送員(カーゴマスター)から、男の通信モジュールに準備を促す指示が入った。

 それでも長椅子に腰掛けた男は泰然としたままだ。彼を動かす事ができる人物は、この機上にただ一人だけだからだ。

 そして、ついに無言の男を動かす声が通信モジュールから入った。

 

〈よし。準備はいいか?〉

 

 その声は、今回の作戦――角砂糖作戦の指揮官であり、信頼できる盟友のものだ。指示は機中のプレハブ式気密オペレータールームから出ている。

 パイロットの緊張した声が、男達の会話に割り込んだ。

 

〈高気圧、依然として目標地域に停滞中。雲底・視程無限(CAVOK)!〉

 

 煙がたなびく。減圧中で火気厳禁の貨物室(カーゴスペース)で、男は悠々と煙草を吸っているのだ。

 再び盟友からの声が耳に入ってきた。

 

〈いいぞ、視界は良好だ〉

 

 傍にいた輸送員(カーゴマスター)が作業の手を止め、苛立たし気に男に声をかける。

 

「煙草を消せ」

 

 フリーフォール用の酸素システムアセンブリは、高濃度酸素を扱う。降下直前は火気厳禁だ。

 輸送員(カーゴマスター)達は全員が酸素マスクを着け、酸素ホースを機体のコネクターに接続していた。慌ただしい貨物室(カーゴスペース)で、何も聞こえていないかのように男だけが平然としている。

 

「酸素ホースを機体のコネクターに接続…マスク装着せよ。……あの男素人か?」

 

 男が何者かは、機内の極一部の者にしか伝えられていない。これからこの男は、1万メートルの成層圏を飛行する航空機から高度300メートルまで自由降下し、パラシュートを開傘する。危険を冒して最新鋭機で鉄血領内に単機潜入するこの作戦自体が、最高機密なのだ。

 貨物室(カーゴスペース)に酸素供給開始を示すランプがついた。

 男はまだ煙草を吸っている。紫煙との別れを惜しんでいた。

 

降下実施地点(リリースポイント)に接近中…〉

 

 パイロットからの無線が響く。輸送員(カーゴマスター)の動きが慌ただしくなる。

 

「降下10分前」

 

 ついに気密オペレータールームにいる作戦指揮官も急かしだした。

 

〈おいっ! 聞こえたか? 煙草を消してマスクを装着しろ〉

 

 男が溜息を()く。煙草を床に投げ捨てる。迷いのないプロの動きで、顔を見られないようにしながらペストマスクを外して懐に仕舞い、ヘルメットアセンブリと酸素システムアセンブリを装着する。遮光性の高い黒いゴーグルに、機内の計器類の明かりが映っている。

 貨物室(カーゴスペース)内部が緊張に満ちていた。それほどまでに重要な作戦であるという事を、輸送員(カーゴマスター)達も理解しているのだ。

 

「機内の減圧完了」

 

 輸送員(カーゴマスター)達が所定の位置に着こうとしていた。

 

「酸素供給状態確認」

 

 手続き通りに報告が響く。

 

「降下6分前! 後部ハッチ開きます!」

 

 貨物室(カーゴスペース)の照明が一斉に消え、照度の少ない赤色灯に切り替わる。既に機は鉄血領空にある。赤いランプに浮かび上がる男は、単身で鉄血領内に降下するのだ。だが、同じ姿勢で座り続けて怯む様子もない。蠅男のようなフェイスキャップに顔を覆われて表情は見えない。ただ、緊張感の中、たくましい肩に自信がみなぎっていた。

 最初の光は、黒いゴーグルに映り込む太陽の赤だった。曙光が猛烈な勢いで貨物室(カーゴスペース)に押し寄せてきた。カーゴハッチが開いていくにつれて、外界から薄暗い貨物室(カーゴスペース)に漏れ入る光の四角形が大きくなっていく。ハッチが完全に開き切った時、強烈な輝きが遥かな雲海の果てにあった。

 朝日が、昇り始めていた。

 

「日の出です…」

 

 輸送員(カーゴマスター)の讃嘆が、風の音の中、同じ陽光を浴びる機内に無線越しに聞こえる。

 

〈外気温度摂氏マイナス46度〉

 

 藍色に染まりつつある空から、温度差で寒風が一気に機内に吹き込んでくる。その冷たさが、彼らを現実に引き戻す。機内の輸送員(カーゴマスター)達は個人的な繋がりはゼロだが、同じグリフィン職員だ。

 無線でカウントダウンを続ける全スタッフが、その時が近づくにつれて有機的に動き始める。

 

〈降下2分前…起立せよ(スタンドアップ)

 

 男がついに立ち上がり、厳重な装備を慣れた手つきで点検する。グローブをはめた手で、機体の酸素コネクターからホースを外す準備をした。背中には主傘(メインパラシュート)アセンブリのシルエットは産卵前の蠅のようだ。

 男は一切声を出さない。マスクを通して息遣いだけが聞こえた。気密オペレータールームから注意が伝えられる。

 

〈時速200kmで落下する。風速冷却での凍傷に注意しろ〉

 

 輸送員(カーゴマスター)が、カーゴハッチの脇で安全確認をしている。ハンドサインで男を誘導した。さっき捨てた煙草が、強風に押されて小さな火花を散らしながらカーゴの床を転がって戻ってきた。歩き出した男の、頑丈なブーツの第一歩が煙草の火を踏み消す。

 

〈降下1分前…後部に移動せよ〉

 

 男が成層圏の激しい風に逆らって足を進めていく。解放されたカーゴハッチ上を歩いて、その先には青空しかなくなるランプドアまで移動する。エッジから1メートルの所まで出て、立ち止まった。

 

酸素装置(ペイルアウトボトル)作動〉

 

 オペレータールームから、指揮官が作戦開始を告げた。

 

〈これから、たった一つの角砂糖探しが始まる……〉

 

〈降下10秒前…スタンバイ〉

 

 輸送員(カーゴマスター)による降下前準備も大詰めだった。そして、最終アナウンスが発せられた。

 

〈全て正常、オールグリーン!〉

 

 レッドライトが緑に変わる。

 男がハッチの端に足をかける。朝日と高空の強い向かい風へと体を倒していく。

 パイロットによる最終カウントダウンが聞こえた。

 

〈降下準備…カウント…5 4 3 2 1――〉

 

 そして、作戦指揮官の号令が――。

 

〈鳥になってこい! 幸運を祈る!〉

 

 男が機上から虚空へと身を投げた。

 フェイスキャップで顔を覆った男のゴーグルに、朝日がまばゆく反射する。空中で回転してから落下姿勢を作った男の視界が雲海に突入する。

 高高度から、空気抵抗による減速を避ける為真っ逆さまに落下する。

 雲を抜けると、眼下にはただ緑の大地が横たわっていた。そこには国境など見えない。敵地鉄血領域の地面に着地するまでの数十秒間だけ、男はあらゆるものから解放されていた。

 ただ、鳥のように――。

 

―――――――――

 

 HALO降下作戦……角砂糖作戦が開始する三日前。

 

 PMC『G&K(グリフィン)』本社の社長室にて、二人の男が話をしていた。

 モニターや地図、使い込まれた資料に壁に掛けられたSMG……そんなPMC(傭兵)らしい部屋の中、説明するのは髭を生やした初老ほどのスラヴ人だ。第三次世界大戦は、彼の顔つきを歴戦の軍人のそれに変えていた。

 彼、ベレゾヴィッチ・クルーガーが慎重に声を発した。

 

 

「エイハブ。突然だが、お前に出向を命じる」

 

「出向? 生憎俺も暇じゃない。他を当たれ」

 

 クルーガーのデスクの向かい側には来客用のソファとテーブルがあり、ペストマスクを被った男が軽く足を組んで座っている。エイハブと呼ばれた彼は、高度な訓練を受けた兵士だ。現在までにおよそ14年にも渡る実戦経験を経た彼の肉体には、無尽蔵の体力と経験に裏打ちされた自負が満ちている。

 

「お前にしか頼めない事だ」

 

「聞くだけ聞こうか?」

 

 クルーガーが務めて軽い口調で口火を切る。

 

「事の始まりは今からおよそ2ヶ月前。16Labから貸与されているAR小隊にある任務を与えた」

 

「AR……ね」

 

「続けるぞ。AR小隊は無事に任務目標――パッケージを発見した。……そこまでは良かった」

 

「トラブルか」

 

「そうだ。S09地区にある第三セーフハウス……パッケージはそこにあった。それは、言わば――」

 

「過去からの助力、あるいは遺産…」

 

「……そう。リコリス博士が遺したものだ。これが我々の手に入れば、戦況を変えるきっかけになるだろう。そこまでは良かった。トラブル――つまり襲撃だ。AR小隊がパッケージを見つけた直後、エージェントとスケアクロウ率いる鉄血勢力一個中隊が彼女達を急襲した」

 

「情けない話だ。グリフィン陣営が誇る特殊部隊がその様とは…」

 

「いや、そうも言っていられん。確かにお前の言う通りだ。中隊を率いているエージェントとスケアクロウが第二番機(セカンドモデル)でなければ、な」

 

第二番機(セカンドモデル)? ……第一番機(プロトタイプ)のデータを基に作られた、最高位機体(フルエンドタイプ)か。なるほど……確かにそれならいくらARと言えども……ってわけね」

 

「フルエンドモデルは量産に向かない。一度破壊すればもう出会す事もないだろう」

 

 現在、世界はとても素晴らしい(クソッタレな)状況にある。2031年に第二次ロシア革命が起き、再びソ連がこの世に生まれた。だが、その前後で人類の生存が致命的となった出来事がある。

 

 事の始まりは1905年のロシア、『遺跡』と呼ばれる由来不明の施設が見つかった。内部には崩壊液(コーラップス)という、錬金術を現実のものにする夢の物質が存在したのだ。だが、それは人類には過ぎたものだった。崩壊液(コーラップス)は人類に多大な恩恵をもたらしたが、同時にどうしようもない傷跡を残した。

 

 2030年、封鎖されたはずの北蘭島遺跡内部にて、大規模な崩壊液(コーラップス)の流出事故が発生したのだ。流出した崩壊液(コーラップス)は周囲の物質を崩壊させながら莫大なエネルギーを生み出し、やがて破滅的な大爆発を引き起こした。爆発により崩壊液(コーラップス)の粒子は対流圏まで巻き上げられ、ジェット気流に乗り、全世界へと拡散。粒子が降り注いだ地域は人間の生存が不可能なレベルにまで汚染された。その結果として第三次世界大戦が勃発し、最終的には鉄血工造として知られる戦術人形メーカーがAIの反乱を起こし、PMCであるG&K対反乱を起こした鉄血という構図を作りだした。

 

「それと出向がどう関係してる? まさか、『S09地区の基地に着任して指揮官としてARを救出しろ』ってわけでもあるまいに」

 

「そのまさかだ」

 

「冗談だろ? S09の司令基地にはウィジェットと脱兎がいる。それにジャンシアーヌだの石軍(イーシャン)だのカモロフだの川崎だのとかいう新人も前線基地にいたはずだ。わざわざ俺を動かす理由は?」

 

「S11地区統括指揮官の席が現在空席になっているのは知っているな?」

 

「ああ。先月の頭頃、基地を強襲されたと聞いてる。所属の人形達もほとんどが破壊され、人間のスタッフは全滅……基地機能が停止しているらしいな」

 

「お前にはその基地に着任し、AR小隊の救出と基地機能の回復をしてもらいたい」

 

「……はぁ。報酬(見返り)は?」

 

「近いうちに404を向かわせる。それに人形の製造や装備の調達など、便宜を図ろう」

 

 

「……情報部に確認は取ったのか?」

 

「『問題無し』だそうだ」

 

「……仕方ない、か。わぁーったよ元帥殿。だが、ウィジェットのところにゃある程度事情を説明しといた方がいいんじゃないのか? あいつらは機密接近資格(セキュリティクリアランス)レベルも高いしな」

 

「もちろんそのつもりだ。明日の午前中に到着するようにしてくれ。私は通信で参加する」

 

「了解。で、どうやって救出する? 話から察するに、ARは今バラバラだろう。最優先救出目標(パッケージ)はM4A1としても、ある程度の居場所が分からなきゃ探しようがない」

 

「それは問題無い。本日未明、M4A1本人から救援要請の通信が入った。情報部の解析によるとS09地区の軍事境界線(ノーマンズランド)から北東に50kmほどのところにある廃墟街(ゴーストタウン)から発せられていたそうだ」

 

軍事境界線(ノーマンズランド)から北東に50km……見事に鉄血の勢力圏内だな。どうやって入る? 高高度降下低高度開傘(HALO降下)か?」

 

「その方向で話を進めている。作戦開始は三日後。当日の午前3時までには準備を終えておけ」

 

「OK、話はこれで終わりか?」

 

「ああ。……なあエイハブ」

 

 エイハブは答えない。だが、視線で続きを促した。

 

「ARは本当に鍵なのか?」

 

「ああ。彼女達がいなければ詰む。俺達はゲームに敗北する。AR……Anti-Rain()の名には意味がある」

 

「お前は……一体何を見てる? 誰と勝負してる? ――何を知ってる?」

 

「それを今教えるわけにはいかない。ただ、今のところ”物語”はおおよそ史実の通りに動き始めた。想定の範囲内だ」

 

「……そうか」

 

「んじゃ、俺はこれで」

 

「ああ、また明日」

 

 エイハブが社長室を出ていったのを確認して、ため息をついた。

 

「……お前は、一体何をしようとしている?」

 

 

 今までは全く分からなかった。だが……エイハブの言を借りるなら、”物語は始まった”んだろう。彼の言い様からして、その主人公が彼女(M4A1)なのだろうか?

 

 ほんの少しずつ、クルーガーはエイハブの目的を察し始めていた……。

 

 

―――――――――

 

〈いいか、君の任務は鉄血領域のど真ん中に単独潜入。M4A1の安全を確保、S09地区内の基地に奪還する事だ。彼女が捕まる前に回収しなければ大変な事になる。残された時間はわずかだ。M4A1救助確認後、回収地点(リカバリーポイント)で待て! 回収用気球をポイントに投下する。ヘリウムが噴出して気球を膨らませる、その間20分。その後ガンシップの(アーム)で引っかけてつり上げる〉

 

「フルトン回収システムだな。理論は聞いた事がある」

 

〈安心しろ、実績もあるシステムだ〉

 

「M4は耐えられるのか?」

 

〈衝撃はパラシュート降下時より少ない。アームの強度も500ポンドまでは大丈夫だ。何より、16Labが誇るハイエンドモデルは柔じゃない〉

 

「つまり、コンバットタロン一機で国境を越えてくるつもりか?」

 

〈本機は六連装20mmバルカンカノンを二門と、40mm機関砲を二門装備している〉

 

「戦車隊に追撃されても蹴散らしてもらえそうだ」

 

〈予備タンクの燃料を考えてもタイムリミットは四時間。順調にいけば数時間で終わるミッションだ〉

 

「夕食には帰れそうだな」

 

〈もしスムーズに運ばなければ……夕食だけではなく朝食も、今後の食事は敵地で取る事になる〉

 

 

―――――――――

 

 上空1万メートルのコンバットタロンから、ほぼ垂直に落下する。

 大気はまるで壁のようだ。身を切るように風が冷たい。

 エイハブの任務は、鉄血領内へ単独潜入し、M4A1の安全を確保してS09地区内の基地――最寄りは794基地なわけだが――へ奪還する事だ。鉄血のハイエンドモデルがわざわざ動くほどの情報だ。彼女が捕まる前に回収しなければ、グリフィンは多大な損害を被る羽目になるだろう。残された時間はわずかだった。

 上空300メートルでパラシュートが開いた。強風に流されて、降下地点がズレつつあった。広葉樹の木々が、減速した風景に見る間に迫ってくる。

 森の木々に身体が突っ込んで、パラシュートバックがもぎ取れそうなほど引っ張られた。高さ6メートルを超える高木の密林に、枝を折りながら着地する。

 着地のスムーズさは、降りる時の速度に左右される。HALO降下による潜入降下作戦は、エイハブの経験によって成功した。

 

 着地と同時にパラシュートは切り離されていた。エイハブは蠅男のようなフェイスキャップとゴーグルを外す。降下装備のグローブとツナギを脱ぎ捨てる。仕事着である、ナチス武装親衛隊のオーバーコートを基に製作された戦闘服と、腰に吊られたホルスターに収められた特製のモーゼルM712――M53とナイフが一本。それと自分の肉体。それが彼の持ち込んだ全てだ。

 雨のように緑の葉が降り落ちていた。生命に溢れた、むっとするような森の香りに包まれていた。森の気配が、歓迎してくれているように温かい。顔にかいた汗が外気に触れて爽やかだ。天を仰いだ彼は、我に返って近くにあった太い木の陰に隠れる。

 S09地区北東部の地面に着いた彼はグリフィン兵に戻った。人間は鳥になどなれない。縛られず自由でいられるのは、制度(システム)に発見されていない間だけだ。

 

 パラシュートの始末を手早く終える。そして、懐にしまっていたペストマスクを再び着ける。

 これはエイハブにとって重要な事だ。彼の所属は、数々の基地と指揮官が連なる前線戦備部ではなく、諜報(エスピオナージ)を担う情報部だ。情報部において上層の立場に在る者は、鳥類の名を冠した暗号名(コードネーム)とマスクを与えられる。渡鴉の爪にして爪鋭き鴉(レイヴンクロー)、それが彼――エイハブのコードネームだった。

 マスクを着け終えると、体内に流れる通信用ナノマシンが自分を呼び出していた。

 

〈聞こえるか? そこは既に敵地内だ。傍受される危険性がある〉

 

「ああ、社長」

 

〈私は鉄血領域に侵入する事はできないが、機内にいる。そちらから話がある場合はこのチャンネルに頼む。本ミッションでの君のコードネームはレイヴンクローだ。以降はレイヴンと呼ぶ。私のコードネームはベレーだ。呼び捨てで構わん〉

 

 この任務で支援は期待できない。全てはエイハブ一人にかかっている。だが、それは彼にとっていつも通りだ。普段と何も変わらない。

 

〈レイヴン。悪いニュースだ。M4A1から1時間前には来ているはずだった連絡が、大幅に遅れている。トラブルが発生したようだ〉

 

 レイヴンと呼ばれる男、エイハブは前方の森を睨む。降下予定地点より南に2kmズレたのだ。目の前の森を抜ける他ない。

 M4A1がまだ移動していないのであれば、ここから北に3kmほど行った所にある廃墟街(ゴーストタウン)にいるはずだ。トラブルが起きているのなら、最早一刻の猶予もない。

 

「これより、任務を開始する」

 

 エイハブは任務の開始を宣言する。だが、仕事を告げる合図がまだだった事に気付き、ソレを口にする。

 

「……Raven's in His CIPHER, All's right with the world(鴉は空に在り、世は全て事もなし)




今回の話だけ投稿しますが、しばらくの間は更新されますせん書き貯めを作るのです。なお、書き貯めが貯まらなかったら永遠に更新されません。頑張ります。

うちのエイハブはフリー素材です。



最後に……AR-18は何とかお迎えしました。
また会いましょう。作者が書き貯めを作って帰還するのを祈っててください。



2023/10/13追記
ドルフロ本編の漫画が届いたので少し修正しました。

2023/10/19追記
活動報告の「暗部前線のお知らせ-1」に伴って修正しました。あ、エイハブとイシュメールは鷲獅子の影の中に潜んでいるので多分どこにでも現れると思います(こいつらフリー素材だし)。
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