俺の異世界冒険譚   作:勢いでやりました

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不穏

 

 セレナとの鍛練を始めてから早4日、毎日毎日斬られ、殴られ、蹴飛ばされ、それでもめげずに頑張った。

 3日目辺りから反撃もできるようになったし、チャンバラごっこからは脱却したと言ってもいい程の剣術も身に着けた。

 今日はいつもの市壁の上ではなく、ダンジョンの入口付近の噴水広場でセレナと待ち合わせをしていた。最近は鍛練しかして無かったから久しぶりのダンジョンだ。

 いつもは一人で潜っていたが、今日は二人で組んで探索に行く予定だ。

 俺は噴水前で待ち合わせをするという行為にちょっとだけデートみたいだなと思い、嬉しくて笑顔が止められなかった。

 周りの冒険者達からは変なやつがいるとヒソヒソと話されているがそれも気にならない程ニヤニヤが止まらない。

 

「おはよう」

「おはよう、セレナ!」

 

 待ち人である白猫の少女が横からやって来て俺に声をかけると、俺はさっきまでのにやけ顔をやめて爽やかな笑みで返事をする。

 セレナは光一が嬉しそうで、なにか良いことでもあったのかな?程度にしか思っておらず、首を傾げていた。

 

「今日は七階層まで行く予定」

「七階層!?俺、まだ六階層も危ないんだけど……」

「問題ない。七階層は一年前から私が主に活動してる所。一対一はかなり出来るようになったけど、一対多はやってないから挑戦しよう」

 

 七階層まで行くと言う言葉に俺は驚いた。俺はヘスティア様が未だに帰ってこない故にステイタスを一切更新していない。そんな俺が七階層に行くなんて正直無理なものだった。六階層にいるウォーシャドウにも苦戦していたんだ。それより下の階層でまともに戦えるとは思えなかった。

 しかし、セレナは予定を変更するつもりは無いのか話を強引に進めていく。

 俺は不安な気持ちが拭えないが、セレナを信じて行くしか無いだろうと覚悟を決めた。

 

「……分かった、行こう」

「うん」

 

 俺達は眼の前に聳え立つ白亜の巨塔へと向かう。

 

「っ!」

「?」

 

 だが、そこでセレナが入口に入る前に全身の毛を逆立てて、一方向を警戒するように睨む。

 俺も彼女が視線を向ける先を見たが、大勢の冒険者達が行き交うだけで、特に警戒するようなものはない。

 

「何かあった?」

「…………大丈夫」

 

 俺はいつもと様子のおかしいセレナに問いかけるが、彼女は警戒を続けたままそれ以上何も言わなかった。

 セレナは何度も後ろを振り返りながら、バベルへと入って行く。

 俺もその隣を歩き、バベルの中に入った。

 

 ダンジョン七階層。

 五階層からそうだが、ダンジョンの外観が一階層から四階層までの薄青色の壁とは違う。色が薄緑色に変わるだけではなく、地形も変わり、モンスターの産まれ落ちる間隔(インターバル)がまるで違う。数歩歩けばすぐ横の壁から虫の頭を覗かせる。

 『キラーアント』だ。

 ギルドのモンスター資料集によれば、ウォーシャドウと同じ様に新米殺しと呼ばれ、その身に纏った頑丈な硬殻と、ゴブリンのような低級モンスターとは比べ物にならない攻撃力を持つ。

 体の表面を多ている外皮はまるで鎧のように硬く、半端な攻撃は弾かれてしまい、そうでなくてもあの殻の上から肉体に直接ダメージを与えるのは大変手こずる。 またピンチになるとフェロモンを発散し、仲間を呼ぶ。らしい。

 ギチギチと大顎を鳴らして、俺達二人を視界に捉えて威嚇する。

 幸い、一匹だけのようだし、速攻で仕留めれば仲間を呼ばれる心配はないだろう。

 

「丁度いいのが来た。半殺しにする」

「え?」

 

 一瞬だけ煌めいた斬閃は刹那の間にキラーアントの六本足を切断した。

 

『ギィィィイイイッ!』

 

 全ての足を失ったキラーアントは地面にひっくり返り、ワシャワシャと少しだけ残った足を動かし藻掻くが、起き上がることなどできず、怒りの鳴き声も必死に助けを求めているようにしか見えなかった。

 少し可哀想だと思ったが、直ぐに不味いことに気がつく。

 前述した通り、キラーアントはピンチになると仲間を呼び寄せるフェロモンを出すのだ。

 このままでは他のキラーアントがここに集まってくることになる。

 

「セレナ!速く止めを!」

「大丈夫。これで一対多の戦闘訓練ができる」

「え?……まさか」

「ピンチになったら助けるから」

 

 

 それだけ言うと、セレナはジャンプして壁を登って、上から俺を見下ろした。

 セレナがスパルタなのは知っていたが、流石にこれは死ぬ!

 左右前後の道からギチギチと大量のキラーアントの鳴き声が鳴り響いて来た。

 

「来たっ!」

『ギィィイイイイ!!!』

 

 仲間を傷つけられ、怒り狂ったキラーアントの大群がやって来る。

 仲間を呼ぶフェロモンの影響でどんどんと増えていくキラーアントの数は留まることを知らない。

 前から三匹、右から二匹、左から五匹、後から三匹。

 

(不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い!?)

 

 ここに来る前にキラーアントの倒し方は教わっている。頭部と胸部の隙間の細い所を斬れば一撃で殺すことができる。

 だが、当然ゴブリンやコボルトよりも速いキラーアントの弱点に剣を直撃させ続けることなんてできるわけがなく……なく…………ない、はず?

 

『ギィィッ!』

『ギグゥ!?』

『ビュギ!?』

 

 見える。俺よりも断然速い筈のキラーアントの動きが正確に、ゆっくりと見える。

 キラーアントの鉤爪が俺の頭目がけて振り下ろされる。

 しかし、俺は一歩動くだけでそれを綺麗に回避し、すれ違いざまに一閃。

 真っ二つになったキラーアントは紫色の血を流し、断末魔を上げて灰に変わる。

 それも何度も何度も繰り返す。

 避けて斬る避けて斬る。

 キラーアントの動きは速い。けれど、俺はもっと速いもの(セレナの剣)を見てきた。

 既に動揺は無くなっていた。俺は精神の落ち着きを取り戻して、迫りくるキラーアントの大群を一人で相手取った。

 

「……光一は既に私の剣を見切れるようになってきてる。キラーアントの素早さ程度なら問題ない」

 

 新たに前後左右から計十匹のキラーアントが襲いかかって来るが、全て軽くいなして反撃し、セレナよりは上手くないが、綺麗な舞踏(剣舞)を踊っているように見えた。

 

「……」

 

 英雄になりたい。その気持ちに嘘はない。

 でも、自分が何年もかけて到達した境地をたった数日で登られた時、夢を保ち続けることなんてできるのだろうか?

 

「光一は……英雄になってね」

 

 これがきっと自分の役目なのだ。

 怪物を倒す英雄ではなく、英雄と共に行き支える仲間でもなく、英雄に助け出される姫でもない。

 私は英雄に剣を教える師……いや、あっという間に抜かされる私が師匠なんて烏滸がましすぎる。私は戦う術を与える村人A(チュートリアル)。時間が経てばあっという間に忘れ去られる存在。

 これで良いんだ。自分が英雄の一片を構成する一部になれたのならそれで構わない。

 そう私は自分に言い聞かせた。

 

 

 かなりの数のキラーアントを狩って大分疲れてしまったので、最初に半殺しにしたキラーアントにとどめを刺して一旦この連戦に終止を打つ。

 

「はぁはぁ」

 

  朝の鍛練でかなり鍛えられたと思ったが、流石に肩で息をするほど体力を消費してしまっていた。

 

「凄いね光一。これ、ポーション。最初は無傷で凌いでたけど、最後あたりは掠り傷が多くなってた。体力も限界に近いだろうし、暫く休んでて」

「ありがとう」

 

 俺は上から降りてきたセレナからポーションを貰い一気に飲み干した。

 腕や脚、顔に付いた傷跡が魔法のように消えていく。

 俺はダンジョンの壁に傷を付けてその場にドサリと腰を下ろした。

 

 壁に傷を付けても左右前後の通路からモンスターが現れる。

 キラーアントを始め、角を生やした兎『ニードルラビット』や毒の鱗粉を撒き散らす『パープル・モス』等のモンスターが現れるが、セレナは慣れたように魔石のある位置を的確に狙って太刀を浴びせる。

 

(やっぱり強いなぁ)

 

 前よりも動きが見えるようになったとはいえ、セレナの方が俺よりも強いことは変わらない。

 ちゃんと近づけているのは分かるのだが、あの美しい剣戟を見ていると、自分の戦い方にどれだけ無駄があるのか理解させられる。

 

(俺もあれくらいできるようになって、いつか肩を並べて強敵と戦いたいなぁ)

 

 そんな夢想をしながら俺は疲れが癒えるまでの間、セレナの姿に見惚れていた。

 

 

 薄暗い路地裏で身長が二メートル程の巨身の猪人(ボアズ)の男とほっそりとした痩せ型の白髪の猫人(キャットピープル)の男が人目から逃れるようにひっそりと密会していた。

 

「旦那、今回の稼ぎですぜ」

「ふむ……」

 

 猪人の男から硬貨の入った革袋を受け取る猫人の男は中身を見て入っている硬貨の数を数える。

 

「14000ヴァリスか、上々だな」

「旦那、何時ものやつをくれよ」

「急かすな。ちゃんとやる」

 

 猫人の男は満足そうに頷き、ローブの内ポケットに革袋を仕舞う。

 猪人の男はもう我慢できないといった風に厚く広い手を差し出す。猫人の男は反対のポケットから五センチ程の小瓶を取り出して、猪人の男に渡した。

 猪人の男は小瓶の栓を抜いて、一目散に中身の液体を飲み干した。

 

「プハァ!これだこれ!三日もダンジョンにいてもう限界だったんだ!」

 

 猪人の男はまるで酒に酔ったかのように顔を紅くしてテンションを上げる。

 

「なぁ、もっとくれよ旦那」

「駄目だ。それは契約違反だろ?」

「そうだけどよ。これっぽっちじゃ全然足りねぇぜ」

「前からその量だったろ?」

 

 猫人の男は面倒くさそうに顔を顰める。

 しかし、猪人の男は納得がいかないのか更に突っかかってくる。

 

「頼むよ旦那」

「はぁ〜、なら次回から量を増やしてやる。その代わり、一つ依頼を受けろ」

「本当か!?話がわかる旦那でよかったぜ」

 

 男は満面の笑みを浮かべて猫人の男の肩に手を回した。

 既に意識は酒の方に向かっているようで呑気に笑っている。

 猫人の男はため息を吐きながら、猪人の男の手を払い落とす。

 

「私の娘は知っているな?」

「勿論だぜ、一度痛めつけてやった事がある恩恵なしの雑魚だろ?」

「そうだ。そろそろ娘の稼ぎが無くても問題なくなって来た。始末しろ」

 

 猫人の男はフードの奥から冷たい視線を猪人の男に向ける。

 猪人の男はニヤニヤと笑っていたが、一瞬で顔を引き締める。

 

「いいのか?血の繋がった唯一の娘なんだろ?」

「そうだ。だが、それだけだ」

「でもよ。何で始末するんだ?俺様よりも少ないが金を稼いで来てくれるんだろ?放置しとけばいいじゃねぇか」

 

 猪人の男は自分の思ったことを正直に言った。だが、猫人の男は血相を変えて怒鳴る。

 

「駄目だ!お前は娘の恐ろしさが分からないのだ!あの娘は天才だ。後一年もすればお前も越えてしまう可能性がある」

「はあ?俺様が負けるだと?いくら旦那でもそんな冗談言われちゃキレちまうぜ?」

 

 猪人の男の額に青筋が浮かび上がり、猫人の男の襟首を掴む。突然のショックで猫人の男が呻く。

 

「うっ、悪かった。だが、娘は必ず始末してくれ」

「しょうがねぇな。まあ、雑魚一匹殺すだけで次からブツの量が増えるんだ。いいぜやってやるよ」

「始末する時期は私が指示する。それまでは待機しておけ」

「へいへい、早くしてくれよ」

 

 猫人の男は言うことだけ言ってその場を後にする。

 その場に残された猪人の男も鼻で笑いながら路地裏の奥に消えていった。





 一応言っときますが、猪人の男はオッタルさんではありません。別人です。
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