俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
すいません。忙しくて少し遅れました。ちょっと雑かも……
結局俺達はあのままダンジョン探索を続ける雰囲気では無かったので帰路につく事になった。
泣いているセレナを一人で帰すわけにも行かず、俺はセレナの住んでいる所まで付いていくことにした。
「……」
「……」
お互い何を言えばいいのか分からず、無言の時間が流れる。
暫くして静寂を破ったのはセレナだった。
「……ギュリオスは私でも敵わない冒険者なの」
「っ!」
セレナよりも強い。そんな存在はこのオラリオに大勢いるだろうと心の中ではちゃんと分かっていた。
原作の【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】の二大派閥や都市の治安維持を務める【ガネーシャ・ファミリア】、歓楽街を支配する【イシュタル・ファミリア】、ヘスティア様の神友のヘファイストス様が主神の【ヘファイストス・ファミリア】にだってセレナより強い冒険者は沢山いる。
だから、あんな奴がセレナより強くても何もおかしくないのだ。
「ずっと昔、ギュリオスと戦った時、私は手も足も出なかった。殴られて蹴られて、得意の剣で反撃してもギュリオスを斬ることはできなかった」
ギュッと拳を握りしめるセレナ。その手が僅かに震えていた。
俺はギュリオスに殴られて壁に叩きつけられた時を思い出した。七階層に出てくるモンスターよりも速く、重い一撃だった。
「……誰かに助けて貰うことは」
「無理だよ。一度、【ガネーシャ・ファミリア】の団員の人に助けてって言ったことがある。けど、助けてもらえなかった」
「なっ!?」
「私が助けをもとめたことは直ぐにギュリオスにバレた。そして、私は死ぬ寸前まで痛めつけられて……」
俺は憲兵の役割を持つ【ガネーシャ・ファミリア】の対応に驚いていたが、セレナが肩を震わせ、涙を流す姿に優しく背中を撫でてあげた。
「……それからずっとギュリオスは私のトラウマ。ギュリオスには逆らえないの」
「セレナ……」
泣きながらギュリオスの影に怯えるセレナに俺はどうすれば良いのか分からなかった。
俺がギュリオスを倒してセレナを救い出す。なんてことができたら良いが、現実は脆弱な俺がギュリオスを倒すことなんてできず、寧ろ叩き潰され、ミンチにされるだろう。
俺は彼女の英雄にはなれない。
「ごめんなさい。私、やっぱり英雄になんてなれない。……私は弱いから」
「あっ!セレナ!」
セレナは走り出して入り組んだ路地裏の中へと入っていった。
俺は咄嗟に追いかけたが、別れ道や十字路が何度もあり、見失ってしまった。
「………………セレナ」
俺は無力だ。セレナを救うことができない弱い自分が恨めしかった。
「そこの君、大丈夫かい?」
俺が打ちひしがれて佇んでいると、背後から、見知らぬ男の声が聞こえた。
振り返ると、そこには紺色のローブを纏った白い髪をした
何処となくセレナと似ている気がする。
「あ、貴方は?」
「私は娘に会いに来たただの一般人さ」
「はあ、娘?」
娘に会いに来たと言っているが、ここは路地裏で殆どの者が荒くれ者である危険な場所だ。冒険者でも無い一般人が立ち寄る場所ではない。
「ああ、セレナと言う私と同じ髪色の
「セレナの父親!?」
俺は目の前にいる人物に驚きを隠せなかった。確かにセレナと似ている部分はあると思っていたが、こんな丁度良く会うものなのだろうか?
しかし、これはチャンスだった。
セレナの家が分からない俺に、
「セレナを知っているのかい?」
「信じてもらえないかも知れませんけど、セレナは俺の仲間なんです!俺、セレナに会いたくてっ!」
「おっとと、落ち着いてくれ。私は一般人だから冒険者の君に詰め寄られると驚いてしまう」
詰め寄る俺の肩に手を置き宥めてくるセレナの父親は、落ち着いた様子で俺を見つめる。
よく見るとセレナと似ているが瞳の色や目つきは似ていなかった。きっとそこは母親似なのだろう。 俺は少し落ち着きを取り戻して身を引き、「すいません」と深く頭を下げた。
そして、これまであったことを全て話すことにした。ギュリオスと言う男にダンジョンで出会ったこと。セレナがギュリオスに暴力を振るわれていること。セレナを助けたいこと。
セレナの父親は落ち着いた表情を一転させて、驚きながらも俺の話を真剣に聞いてくれた。
「なるほど、君がセレナの仲間だって言うことは信じよう」
「ありがとうございます」
「そして、ギュリオスか……聞いたことのない名前だ。今まで気づかなかったとはいえ、父親として放っては置けない。虫のいい話かと思うが、この件は私に任せてくれないだろうか?」
「で、でもっ!」
「頼む。きっとセレナも君を巻き込みたくないから逃げ出したんだと思う。どうかセレナの意図を汲んでやってくれないか?君が心配していることはちゃんと伝える」
俺はセレナの父親の言葉に何も言え無かった。俺がセレナを追いかけて何を話すのかも決めていなかったのだ。
俺は今自分にできることなど無いのだと理解した。
だから、俺は目の前にいるセレナの父親に頼むことした。
「お願いしますっ!」と深く頭を下げる俺にセレナの父親は任せろと優しく頭を撫でてくれた。
「安心してくれ、セレナのことは私がなんとかしよう。君はこれからもセレナの仲間でいてあげてくれ」
「はいっ!」
俺は少しだけ名残惜しい気持ちがあったが、セレナの父親を信じて自身のホームへと帰ることにした。
「……」
光一が去った後、セレナの父親は手を振るのを止めて優しく微笑んでいた顔を無表情にした。
「ギュリオスめ、待機しておけと言っただろうに!仕方が無い。計画は今夜実行するしか無いな」
セレナの父親は路地裏の奥へと進み、一つのボロ家の前に立った。
石の壁は崩れ、窓は割れ、木の屋根は腐りきっていた。
中は最低限の清掃が施されていたが、それでも人が住むには不適切な場所だった。
家の奥へと歩み、一際綺麗な扉の前に立ち、それを開ける。
「っ!お父さん!」
「私を父と呼ぶなと言っただろうっ!」
「ご、ごめんなさい」
部屋の奥では隅っこで身体を丸めて蹲っていたセレナがいた。
セレナに父と呼ばれ、怒鳴ったセレナの父親は部屋に転がっていた英雄譚の本を蹴り飛ばした。
頭に本をぶつけたセレナは怯えた震え声で謝る。
「今日の稼ぎを回収しに来た。さっさと寄越せ」
「そ、それは……」
セレナは渡すことができなかった。今日はギュリオスに運悪く出会ってしまい、稼いだ魔石やドロップアイテムは全て奪われてしまっていた。
そして、セレナの父親もその事は知っていた。光一から今日あったことは全て聞いていたから当然だ。
セレナの父親はその上でセレナに金を要求した。
「どうした?さっさと渡さないか!」
「ごめんなさいっ!今日は調子が悪くてダンジョンに行ってなくてっ!」
セレナは咄嗟に嘘をついた。
だが、事情を知っているセレナの父親は下卑た笑みを浮かべた。
「おかしいな。さっき会ったお前の仲間から今日は一緒にダンジョンに潜ったと聞いたぞ?」
「えっ?」
「確か光一といったか?ふふふっ、嘘はいけないな」
「なんで?どうして?」
「私に嘘を付くとはふざけているのかっ!」
「うぐっ!」
セレナはどうして父親が光一の事を知っているのか分からなかった。だが、最悪なことに自分が父親に嘘をついたことがバレてしまったことは分かっていた。
父親に容赦なく蹴られてセレナは痛みで顔を歪める。
セレナの父親はそんな娘の姿に気分を良くしたのか更に蹴り飛ばす。
だが、セレナが殺気を含ませて睨みつけると、父親は顔を青くして飛び退いた。
そして、自分が娘に怯えて逃げ出した事に顔を青から赤に変えて、怒りに染まる。
「こ、この私をっ!」
「……」
「くっ!こんなカビ臭い所、いつまでもいられるか!ふんっ!」
セレナの無言の圧力に臆し、父親は捨て台詞を吐いてボロ家から出ていった。
セレナは父親のことは怖いが、自分より弱いことは理解していた。本当に怖いのは父親の言うことを聞くギュリオスだ。
ギュリオスから受けた暴力の数々を忘れることはできない。ギュリオスがセレナの全てを支配した。だから、ギュリオスが従う父親にも逆らうことができなかった。
助けては言えない。それは何年も昔に試して失敗したからだ。
地面に転がっている英雄譚の本が目に入る。
表紙についた泥を手で払い、最初のページを捲る。
「……お母さん。私は
まだ幼い頃、母親がいた時代に母親が言ってくれた『セレナなら英雄になれる』という言葉を思い出して、セレナは涙を流した。