俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
俺はホームに帰ってきたが、セレナ
の事が心配で部屋の中をぐるぐると回っていた。
その様子をソファの上でヘスティア様がつまらなそうに仏頂面で眺めていた。
いつもより早めに帰還した光一に少しだけ話を聞いて、実はヘスティアが剣を作るためにヘファイストスの所に行っている間にセレナとかいう光一が一目惚れした女の子と仲良く鍛練したりダンジョンに潜っていたことを聞いたからだ。
聞いた直後はキレた。それはもう盛大にキレた。ヘスティアが汗水垂らして剣を作っていたのに、光一は他の女と仲良くデートしていたことにお冠だった。
長いツインテールをしならせ、器用に動いて連続髪の毛ビンタを食らわせた。
そして、現在もあれだけヘスティアが怒ったにも関わらず、光一はその女のことばっかり考えていることにヘスティアはかなり不満だった。
「光一君、そろそろ君も目が回ってきたことだろう?やめたらどうだい?」
「す、すいません。でも、やっぱり心配で……」
ソファーの上でだらけながらヘスティアは光一に忠告するが、光一はそれでも部屋中を歩き回る。
「はぁ……心配だとしても歩き回る必要は無いだろう?ソファーに座った方がいいんじゃないかい?」
「あはは……その通りなんですけど、落ち着かなくて……動いてた方が考え事が捗るというか……」
ヘスティアは仕方がないなと溜息をつき、その様子を眺めることにした。いくら言っても変わらないなら口を出しても無駄だからだ。
というか、光一から聞いた話ではその女の子の父親が解決に動いてくれているらしい。なら、後は任せて待つしか無いだろうに。
それなのに、光一は気が気でない様子で部屋の中をぐるぐると回る。
ヘスティアは少しだけ不満に思いながらも、光一が人を思いやれる優しい青年であることを知り、微笑んだ。
だが、その優しさを向けている相手が自分じゃないことにやっぱり文句を言いたくなった。
「ヘスティア様」
光一が急にピタッと動きを止めてヘスティアの名を呼んだ。
「なんだい?」
ヘスティアは本でも読んで気を紛らわそうとしていた所で声をかけられ、返事をした。
「俺、やっぱりセレナが心配です。俺も力になりたい」
「ふぅー、相手は君より何倍も強いんだろ?厳しいことを言うかもしれないが、君が行ったところで何もできることはないんじゃないか?」
ヘスティア様は俺の言葉に溜息をついてから、自分の思っていることを素直に告げる。
だが、俺も自分が言っていることがただの理想論であることは理解している。それでも、諦めたくなかった。
この数日セレナと過ごしてきて、彼女に対する感情は日に日に強くなっていることを感じたのだ。
だからもし困っているならば俺が助けてあげたいと思うし、力になりたいと思っている。それが自己満足だとしてもだ。
「ヘスティア様の言う通りです。俺が行ったところで何もできないかもしれない。でも、セレナが困ってるのに何もしないのはもっと嫌なんです!」
俺は真剣な瞳でヘスティア様に自分の思いを伝える。
じっとしていられないと視線で訴えてくる光一にヘスティアは束の間瞑目し、頷いた。
「分かった。行ってきなよ」
「ヘスティア様」
「ボクは君の
ヘスティア様は優しく微笑んで、俺の目を真っ直ぐに見つめて、そう告げた。
俺はその言葉が嬉しくて破顔する。
本当にヘスティア様が俺の主神でよかったと心の底から思う。
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げて感謝の気持ちを伝える。
そして、俺は念の為ライトアーマーを着て、ヘスティアソードを帯剣し、ホームを飛び出す。
「光一君!」
「ヘスティア様?」
ヘスティア様が俺の名前を大声で呼んだ。
俺は足を止めて後ろを振り向いた。
「今度、セレナ君に会わせてくれよ。……それと、頑張れ!」
「はいっ!」
俺はヘスティア様に強く返事をすると、セレナの家に向かって走り出した。
ヘスティアは背中が遠くなっていく光一を慈愛に満ちた目で見送った。
●
日は既に西の空へ沈んでいた。
月や星は分厚い雲に覆われ、少しどんよりとしている。
街は、仕事を終えた労働者や冒険者達によって賑わっていた。
灯りの付いた酒場から色んな人の笑い声が響き渡る。
俺はセレナと別れた路地裏を目指して駆け抜ける。人々の喧騒が前から後ろへと流れて行く。
路地裏はまるでダンジョンのように十メートル先は暗闇で覆われ、不気味な雰囲気を晒しだしている。
俺はダンジョンに潜る時と同じ面持ちで奥へと進んで行く。
「ここら辺、だったはず」
最後にセレナと別れた場所まで戻って来た俺は、石壁に囲まれた周囲を見渡した。
ここに来るまで、どれも同じ風景にしか見えず、何度も迷いそうになったが、必死に思い出してなんとか辿り着いた。
「……セレナ」
しかし、ここまで来たのはいいが、肝心のセレナの家を知らない俺はその場から動けずにいた。
真っ直ぐ進めば良いのか?それとも左の坂道を下るのか、右の上り坂か?
困ってしまった俺はキョロキョロを顔を動かすことしかできなかった。
「おや、貴方は……」
突然後から声をかけられてバッと、その場から距離を取って剣に手をかけた。
しかし、後ろにいたのは今日この場で会っていたセレナの父親で俺は直ぐに警戒を解いた。
「セレナのお父さん、すいません」
「いえいえ、この辺りは暴徒が良く出ますからね。警戒するのは当然です。それより、どうして光一君がここに?」
俺が謝ると、セレナの父親は優しく笑い、ここにいる理由を問うてきた。
「じ、実は俺、やっぱりセレナの事が心配なんです。あっ、お父さんが信じられない訳じゃなくて……その、俺も何か力になれないかなって……」
「なるほど……」
俺は正直に話した。決してセレナの父親が信用できない訳じゃない。ただ、俺も力になりたい事を打ち明けた。
「す、すいません。ご迷惑ですよね。でも、俺もセレナを助けたいんです!」
俺は頭を下げてセレナの父親の反応を窺った。
もしかしたら、迷惑だ!お前の力は必要ないって言われるかもしれない。だが、そう言われるのも覚悟で俺はこの場に来ていた。
しかし、そんな俺の杞憂を他所に、セレナの父親は俺に向かって深く頭を下げた。
「セレナの為にそこまで思ってくれてありがとう」
「えっ、いえ、俺は仲間として当たり前というか……その、えっと」
こんな反応をされるとは予想していなかった俺はしどろもどろになる。セレナの父親にセレナの事が好きだから助けたいなんて言うことはできず、口がごもる。
「そうだな、君が居てくれるともしかしたらセレナも安心するかもしれない。ついてきてくれるかい?」
「っ、はい」
セレナの父親は俺をこっちだと手招きして迷路のような路地裏をスラスラと進んだ。
俺はセレナを助けると心の中で再び決意して、セレナの父親の後をついて行った。
月が僅かに雲から顔を出して夜道を照らす中、その月明かりに照らされているあるボロボロの家の前で俺達は立ち止まった。
「ここだ。ここは昔、セレナと妻と三人で暮らしていた場所なんだが、見ての通りボロボロになってしまってね。セレナに新しい家に引っ越そうと言っても、死んだ妻との思い出が残ったこの家を出て行きたくないと言って、今は別れて住んでいるんだ」
セレナの父親から告げられる情報に、俺は辺りをぐるりと見渡す。
確かに古い建物で、所々壁や屋根に穴が空いていて、柱は腐食してボロボロだった。壁の隙間からは雑草が顔を覗かせていて、地面も踏み固められていないからか凹凸があった。
とてもじゃないが人間が住める環境とは思えない。
いくら何でもここに娘を一人にするのはどうなんだろうと思ったが、親子の事情に他人が首を突っ込むわけにもいかず、俺はセレナの父親の後をついて行く。
「この部屋の中にセレナがいる」
ボロ家の中でも綺麗に掃除された扉の前で歩みを止めた。
この先にセレナがいると思うとドキドキして緊張する。
だが、あの泣いたセレナがそこにいるなら戸惑っている場合じゃないと、俺は意を決して扉の取ってを捻って開けた。
「よう、雑魚。久しぶりだな」
「っ!ギュリオス!ごふっ!」
扉の先にいた猪人の大男に驚き、無防備な状態であの時と同じ様に腹に一撃貰う。
そして、あまりの強烈な攻撃に俺の意識は朦朧とし、膝を付いて一気にうつ伏せに倒れた。
「フッ、ゴミが手間を取らせやがって」
光一が戦闘不能になったことを確認して、セレナの父親は忌々しそうに吐き出した。
そこには優しそうな雰囲気は微塵もなく、冷徹な顔で光一を睨んでいた。
「んーーっ!」
手足を縄で縛られて口を塞がれていたセレナは光一が倒れた様子を見ていて、必死に助けようと縛られた手足を動かして藻掻いた。
「煩い!黙れ!」
暴れるセレナに向かって怒鳴る父親は足元に倒れた光一をゴミのように踏んづける。
「あぐっ!」
急な出来事で光一は理解が追いつかなかった。
どうしてギュリオスがいるのか?
何故セレナの父親が自分を踏んづけているのか?
「ギュリオス、分かってるな?」
「分かってるっつたろ!ダンジョンで殺せば良いんだろ?ったく、面倒くせぇな……」
ギュリオスの言葉に光一は目を見開き、必死に身体を動かそうとする。
「や、めろ……」
だが、ギュリオスは光一を無視して、抵抗する縛られたセレナを大きめの頑丈な袋へ詰め込んで肩に担いで部屋を出ていこうとする。
「まて、待って……セレナっ!あがっ!」
父親はまだ喋る元気が残ってる光一を更に強く踏みつけ、完全に気絶させた。
父親は既に光一に意識は向けておらず、雑に袋に詰め込むだけのギュリオスに夜故にダンジョンに潜る冒険者は少ないが、ちゃんといることが分かっているのかと注意仕掛けたが、ここで文句を言ってこれ以上機嫌を損ねられたら困る。
父親はギュリオスに聞こえない程度に舌打ちをして見送った。
「……後はこのゴミだが……良いことを思いついたぞ。クククッ」
父親はあくどい笑みを浮かべてとある場所へと光一を引きずって行った。