俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
「おい、起きろ!」
「うっ、ぐっ……」
薄暗く、冷たい石の床に転がった手錠によって両腕を背中に回された光一が、謎の像のような仮面を被った男に杖先で突付かれる。
少し強めに突かれ、呻く光一は瞼をゆっくりと開けた。
「ここは……」
「ここは牢屋だ!貴様を閉じ込める用のな!」
「な、なんだって!?」
像の面を被った男に言われ、光一は自分のいる場所を見渡した。石の壁、石の天井、目の前の鉄格子、ボロボロのベットが左右に別れて二つ置かれている。鉄格子の先には淡い光を灯したランプが吊り下げられているが、それ以外は何も存在していなかった。
「お、俺は何で牢屋に!?」
「惚ける気か!?貴様は誘拐犯として捕まったんだ!既に被害者の親族から証言を貰っている」
「はあ?誘拐犯!?俺はそんな事してない!」
全く身に覚えのない罪で牢屋に入れられている事に俺は困惑し、直ぐに抗議した。
「ふんっ!嘘を付いているかどうかを判断するのは我らの主神であるガネーシャ様が来られてからだ。それまで大人しくしてろ!」
しかし、像の面を被った男は全く取り合わず、鉄格子の扉を閉じた。
像の面を被った男は牢屋の扉に鍵をかけると、さっさと出て行ってしまった。
俺は一人取り残されて茫然とした。
こんな所にいる暇はない。セレナがどうなったのか急いで確認する必要があった。
(というか、何であの場にギュリオスがいたんだ?あそこはセレナの家だったんじゃないのか?)
セレナの事を思い出して、俺は気絶する前の記憶を鮮明に思い出す。
路地裏でセレナの父親と出会って、案内された場所がボロボロの家で、その中にはギュリオスが恐らく待ち伏せしていた。
つまり、俺はセレナの父親に騙されていたのか!?
(いったい何がどうなって!?取り敢えずここから出なきゃ!セレナが危ない!)
俺はなんとか牢屋から出れないか、鉄格子をガタガタ揺らしたり、さっきの男の人に誤解だと伝えるために大声で叫んだりする。
だが、鉄格子は固く、まるでびくともしない。大声で叫んでも誰もこっちに来ることはなかった。
不安と焦りでだんだん苛ついてきた。
「おい、お前」
「っ!誰だ!?」
俺しか居ないと思っていた牢屋の中から男の声が聞こえた。
突然のことで臨戦態勢を整えるが、装備は全て没収されているのかライトアーマーも身に着けてないし、ヘスティアソードも持っていなかった。
徒手空拳で戦うにしても、腕は縛られて使えないし、セレナからは簡単な事しか教わっていない。
牢屋の中を警戒していると、右側のベットの毛布がモゾモゾし始めて、中から茶髪の顔に傷のある男が眠たそうな目で俺を睨んできた。
「さっきからガタガタ騒いでんじゃねぇ!俺が寝れねぇだろ!?」
男は苛ついた声で俺に文句をぶつけてくる。だが、現状に苛ついていた俺は普段なら謝る所を「煩い!」の一言で切って捨てた。
「お前、俺より後から来たくせに生意気だな?」
「俺はあんたに構ってる暇はないんだ!急いでここから出ないと……!」
牢屋から脱出することを優先すべきだと焦っていた俺は男の機嫌が悪くなるのを無視して牢屋の鍵穴を覗いたり、縛られた腕で鉄格子を回転させて取ることはできないか色々試す。
「はぁ?ここから出るなんて無理に決まってるだろ?ここは特に重罪を犯した奴が入れられる独房だ。見回りも食事の時くらいしかここにこない」
「何だって!?俺は何もして無いのにどうして!?」
男が語る真実に俺は驚愕し、俺は諦めれずに必死に牢屋の鉄格子に体当して、揺らす。
早くこの独房から出なければと焦る俺に男は欠伸をしながら、怒りを上回ったのか面白そうに俺の様子を見ていた。
「何もして無いってことはないだろ?じゃなきゃ捕まらねぇ。それに、犯行が確実じゃなきゃこんな地下の独房じゃなくて上の部屋に案内されてる」
「本当だ!冤罪なんだ!俺は誘拐なんかしてない!俺はこんな事してる場合じゃないんだ!セレナを助けに行かなきゃ!」
焦りから早口になり、必死に訴えるが男は信じていない様子だった。
そして、その反応を見て俺の中の不安がどんどん大きくなり、焦燥感が募る。このままここに居たらセレナだけじゃなく、ヘスティア様にまで迷惑がかかってしまう。
「俺は神じゃねぇからお前の言ってることが本当かどうかなんて知らねぇ。兎に角ガネーシャって言う神が来ない限り俺達は永遠にここだ。まあ、俺はもう一週間も水と僅かな食事だけでここで生活してるがな」
「そ、そんなっ……」
ここに来てやっと自分の状況を理解する。そして、それは同時に絶望感へと変わった。
俺はこんな所で無駄に時間を過ごす訳には行かないんだ!早く助けに行かなきゃセレナが危ないのに! 焦燥感が絶望感に変わり、牢屋の中で脱力する。
男は俺に興味を失ったのか鼻を鳴らしてベッドの上で再び横になった。
――何でこうなった?
――何を間違った?
――何が悪かった?
(決まってる。俺が弱かったからだ。俺が馬鹿だったからだ。俺に……覚悟が足りなかったからだ)
ずっとそうじゃないか、ヘスティア様にもセレナにも助けてもらうばかりで、俺から何かした事はあったか?甘えてばかりで口先だけで今まで何もしてこなかったじゃないか!
『私も英雄になりたい』
『君なら絶対できるよ。ボクが保証する!』
(ちくしょう!俺は、俺は……っ!)
「……ないんだっ」
あの日見たセレナの笑顔とヘスティア様の笑顔が俺を奮い立たせる。
俺は再び立ち上がった。
「諦めるわけにはいかないんだっ!うおおおおおおおっ!!!」
俺はできる限り助走を付けて鉄格子に体当たりをぶちかます。
ガァンッ!ガァンッ!
と何度もぶつかり、頭から血を流しても、身体がアザだらけになっても、痛みで苦しくなっても手を緩めること無くぶつかり続けた。
「……お前」
「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
ガァンッ!
僅かに鉄格子が歪んだ。
「貴様っ!何をやってる!?」
何度も聞こえる大きな音で先程の像の面を被った男が戻って来た。
「今すぐ止めるんだ!」
「俺は、セレナを助けに行かなくちゃならないんだっ!頼む!ここから出してくれ!」
「巫山戯たことをっ!」
俺は必死に頼み込んだが、男は戯言だと、持っていた杖を俺に向けて突き出した。
突かれると思った瞬間、衝撃は来ず、いつの間にか俺の前には茶髪の男が杖の先端を掴んで立っていた。
「ふんっ!」
「なっ!がはっ!」
茶髪の男は杖を思いっきり引っ張り、杖を持っていた像の面の男を引き寄せ、そのみぞおちに拳を叩き込んだ。
像の面の男は膝から崩れ落ち、地面へ倒れ、気絶した。
「……なんで?」
「……俺もいい加減脱獄しようと思ってたところなんだ。お前に協力してやるよ」
茶髪の男はニッと不敵に笑った。
茶髪の男は倒れた像の面の男の腰にあった牢屋の鍵を奪い取り、鍵を一つ選んで鍵穴に差し込んだ。
ガチャッと音がなり、牢屋の扉が開く。
「後ろ向け、手錠も取ってやる」
「えっ、ああ……」
俺は言われた通り後ろを向いて、茶髪の男によって手錠が外される。
「俺はオルド、ただの盗人さ」
「えっと、お、俺は光一。冒険者です?」
「よし、光一、さっさとここから出るぞ!」
オルドと名乗った男はそう言うと、俺を置いて走り出し、独房を出た。
俺は急な展開に訳も分からず、置いていかれたので兎に角慌てて付いて行った。
「んで?なんで光一は冤罪なんかで捕まったんだ?」
オルドは薄暗い通路を走りながら俺に尋ねた。
「信じてくれるのか?」
「まあな、あの時のお前の目は薄汚れたゴミのような色じゃなかった。力強い意志を感じさせられた。そんな奴が嘘を吐くとは思えねぇ」
俺はオルドが急に信頼を寄せてきたので不思議に思ったが、オルドはまるで嘘を付いている奴を散々見てきたかのようにそう断言した。
「……俺はセレナ、俺の仲間なんだけどその子を助ける為にその子の家に向かったんだ。途中でその子の父親に会って、家まで案内されて、家にいたのはセレナから魔石を奪ったギュリオスって悪い奴で、セレナも縛られていて、それから父親からも攻撃されて……気がついたら牢屋にいたんだ」
「成る程な、そりゃお前間違いなくその父親って奴もグルだろ。となると、その娘も……」
「セレナはそんなんじゃないっ!俺の為に朝早くから鍛練に付き合ってくれて、ダンジョンにも一緒に潜ったんだ。それに、一緒に英雄になるって約束もした」
俺がオルドの推測に反論すると、「悪い悪い。つい疑っちまうんだ」と謝った。
セレナからは沢山のものを貰っている。俺を嵌める為ならもっと速くやってるし、ゴブリンの時とやボロボロになった時にわざわざ助ける必要など無い。
セレナは俺の大切な仲間だ。
「それで、ここから出たらどうすんだ?」
「気絶する前にセレナをダンジョンに連れて行くって聞こえて、そこでセレナを殺、す……」
セレナの殺害するという話を思い出して俺は血の気が引いた。
どうしてセレナの父親が娘を殺そうとするのが分からず、頭の中は高速回転して、なんで?どうして?と交互に連続して浮かび、グチャグチャになる。
俺が動揺しているのを他所に、オルドは語り続ける。
「そりゃ急がねえとな。最悪もう殺されてる可能性もあるが……」
もはや思考が定まらない俺はダンジョンに急いで行かなきゃと焦燥感を募らせる。
「待て、まずはこっちだ」
「うおっ!?」
懸命に走っていた俺の襟首を掴んでオルドは強制的に方向転換させる。
「荷物を回収するぞ。その格好で行っても返り討ちに合うだけだ。それと、今は間に合うことだけ考えとけ」
「わ、分かった。ありがとう」
感謝されるとは思っていなかったオルドはキョトンとした顔をして直ぐに笑った。
「お前、俺に気を許しすぎだろ。一応俺は犯罪者だぞ?」
「えっ、そっか、ごめん。なんか全然そういう風に見えなくて……あっ、これは良い意味だから!なんか良い人って雰囲気が出てて……」
「ふっ、変な奴だな。っとこの部屋だ」
オルドがゆっくりと扉を開けると中には誰も居らず、部屋の隅っこに俺が装備していたライトアーマーとヘスティアソードが無造作に置いてあった。
俺は一目散に駆け寄り、ちゃんと無事かどうか確かめた。
オルドは壁にかけられていた斧を手に取り、その下に置いてあった大きめの袋を掴んだ。
「さっさと準備しろよ!見つかる前にずらかるぞ」
「うんっ!」
俺はライトアーマーを装着し、腰にヘスティアソードを携える。
オルドは袋の中から一本の黄色の短剣を取り出して俺に投げ渡した。
「ほらよっ、これ持っとけ」
「こ、これは?」
ギリギリ落とさずに済んだ俺はこの短剣が何なのかオルドに聞く。
「雷の魔剣だ。恋人を助けるんだろ?使えよ」
「こ、こここここ恋人ぉ!?」
「話聞いてりゃ分かるっつーの。ほら、行くぞ!」
「あっ!待って!」
俺はオルドから貰った短剣をヘスティアソードの反対側に装着し、オルドの後を追いかけた。