俺の異世界冒険譚   作:勢いでやりました

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過去

 

「ふう、ようやく一息つける」

 

 猫人の男は光一を『神酒(ソーマ)』で洗脳した【ガネーシャ・ファミリア】の知り合い(奴隷)に受け渡し、自身のホームへ戻ってタバコを吸っていた。

 同じく洗脳したギュリオスは本人の我が強いのか、少量じゃ洗脳しきれかったが、ある程度は言うことを聞いてくれる優秀な手駒だ。Lv.1の中でもかなり強く、重宝している。

 猫人の男は今まで使えそうな人間にファミリアの神が作る『神酒(ソーマ)』を少量与え、他派閥に奴隷を増やしていた。団長のザニスが派閥内で『神酒(ソーマ)』を使って他の団員を魅了し、贅沢三昧をしていたのを見て真似をしたのだ。それも小瓶一つ分の量でギリギリ理性を失わず、言うことを何でも聞くように調整していた。バレたらとんでもないことになるのは分かっていたからだ。もちろん相手はちゃんと選んでいる。【ガネーシャ・ファミリア】の奴も比較的新入団員の頃から接触して時間をかけて奴隷にしていた。

 この事は自分以外にはザニスとギュリオスしか知らない。なお、ザニスは他派閥の人間与えている事は知ってるがどのように使っているかは言ってないし、ギュリオスは自分と同じ『神酒(ソーマ)』を分けてもらってる奴がいる程度にしか知っていない。

 

「今月も大分稼げたな……くくくっ」

 

 机の上に乗っている大量のヴァリスの入った袋を見て、猫人の男は喉を鳴らして笑う。

 一月でこの量のヴァリスがあれば遊んで暮らせるだろう。

 

「ルキウス、入るぞ」

「ザニスか、良いぞ」

 

 扉を叩くノック音が聞こえ、扉の先から【ソーマ・ファミリア】団長のザニスが部屋に入って来た。

 四角いメガネを光らせて、ザニスは大きめの酒瓶を携え、セレナの父親であるルキウスの前にやって来た。

 

「来月の『神酒(ソーマ)』を届けに来てやったぞ」

「ああ、助かる。金は既に用意してある」

 

 ザニスは『神酒(ソーマ)』の入った酒瓶をテーブルの上に置き、ルキウスはヴァリスの入った袋を一つ選んでザニスへ渡す。

 この会合は月に一度あり、ルキウスは奴隷を洗脳し続ける為の『神酒(ソーマ)』を、ザニスは設定したノルマを大幅に超える金銭を互いに貰っていた。

 最初期の頃、ザニスは他派閥に『神酒(ソーマ)』を与えることは反対だった。しかし、ルキウスはもう何年もこの方法で大量の金を稼いでいた。故にザニスはルキウスの行いを止めることはしなくなった。それに、万が一の時はルキウスだけ切り捨てれば良いと考えている。

 ザニスはルキウスが他派閥に『神酒(ソーマ)』を渡しているのは知ってるが、それ以外の事は敢えて何も知らないようにしている。

 そうすれば最悪の場合しらを切る事ができる。何せ本当に知らないのだから。

 

 金を受け取ったザニスは中身を軽く確認してニヤリと笑う。

 

「確かに受け取った」

 

 ルキウスはタバコを咥えて高級素材を使ったソファに深く座る。そして、既に出ていったと思っていたザニスがまだいることに気づく。

 

「まだ何かあるのか?」

「ルキウス、お前に娘が居るというのは本当か?」

 

 何か思案しているザニスに他に用があるのか聞くと、ザニスから思いがけない返答があり、驚愕に目を見開いた。

 自分の娘の事はギュリオスくらいしか知らない筈だ。ザニスにも言ったことは無い。

 その知らない筈のザニスから娘の話題が出てきて、ルキウスは警戒した。

 

「何故それを知っている?」

「小耳に挟んだのだ」

 

 情報の出どころを教えるつもりの無いザニスに更に警戒し、知らん顔をすれば良かったと後悔するが、既にザニスはルキウスに娘がいることを確信していた。

 せめて娘が死んだ後に来れば良かったのにとルキウスは思う。

 ここで嘘を言ってもザニスは主神(嘘発見器)を適当な名目で連れてくるだけだろう。

 

「チッ、居る。だが、もうすぐ死ぬ」

「そうか。お前の娘ならファミリアに入れようと思っていたのだがな」

「娘を?ファミリアに?」

 

 ゾッとした。

 それは父親として娘をこの悪辣な地獄(ソーマ・ファミリア)に入れる事に対してではなく、あの天才(化け物)恩恵(ファルナ)を与えられる事に対してだった。

 

「アレに神の恩恵を与える訳にはいかん!」

「?……何をそんなに取り乱している」

 

 急に怒鳴り声を上げて狼狽するルキウスにザニスは不審に思った。

 

「アレはダメだ。神の恩恵等与えてしまえば手がつけられなくなる」

「どういうことだ?」

「アレはオラリオに蔓延っている偽物達(冒険者)とは違う!アレは紛れもなく本物(英雄)なのだ!」

「ルキウス、質問に答えろ!」

 

 頭を掻き乱し、何かに怯えるルキウスにザニスは声を荒げて怒鳴りつけた。

 ザニスに怒鳴られ、一瞬硬直し、ルキウスは心を落ち着ける為にタバコを吸って煙を吐くと語り始めた。

 

 

 七年前、まだルキウスが正常(・・)だった頃の話。

 闇派閥の大抗争で冒険者だった妻を亡くし、ルキウスとセレナはオラリオの街を彷徨っていた。

 ルキウスは大抗争のせいで仕事を失い、食い扶持を稼ぐ事ができなかった。

 明日を生きる事に必死だったルキウス達は抗争のせいでボロボロになった家に残っていた食べ物でなんとか生き繋いでいた。

 しかし、それも無くなるのは時間の問題だった。妻と違い戦う才能の無いルキウスは娘を生かす為に働き口を探す毎日を送っていた。

 なんとか仕事を見つけても、一日の給与は少く、二人で生きていくには不足していた。

 それでもルキウスは必死に汗水垂らして働く毎日を送っていた。

 ある日、仕事を終え、夜遅くに帰って来たルキウスは娘が1500ヴァリスもの大金を抱えているのを見た。

 

『セレナ!それはどうした!?』

『お父さん!これ、私が稼いだんだよ!私ね冒険者になったんだ!』

『何だと!?』

 

 ルキウスが朝から夜まで仕事に勤しんでいる間にセレナは自分にも何かできないか幼いながらも考え、偶然自分と同じ年齢の子がダンジョンに潜っているのを見て、セレナは母親の形の剣を持ってダンジョンに潜ったのだ。

 

『ゴブリンとかコボルトをいっぱい倒したんだよ!』

 

 そう笑顔で大金の入った袋を渡すセレナにルキウスは危ないことをするなと一度怒鳴った事があった。

 だが、娘は自分だって力になれると反論し、ルキウスが仕事に行っている間、毎日のようにダンジョンに潜っていた。

 どれだけ止めろと言っても聞かない娘にルキウスは諦め、ついには認めた。

 娘には母親と同じく冒険者の素質があるのだろうと。

 そして、ルキウスとセレナは十分な食い扶持を稼ぐ事ができるようになった。

 ある日、いつものように仕事に向かっていたルキウスはとあるファミリアの団員募集の用紙を見つける。

 そのファミリアは探索系と商業系を両立させており、様々な仕事をやって来たルキウスなら商人としてある程度働けると思い入団することを決意した。そのファミリアはある程度のノルマを達成すれば今より何倍も稼ぐ事ができると知ったからだ。

 ここで十分な金額を稼げればセレナが危ないことをしなくても良いという考えもあった。

 そしてルキウスは酔った(魅了された)

 仕事も、亡き妻も、大切な娘も全て全身に巡る快楽に塗り潰され、ルキウスは『神酒(ソーマ)』を求める亡者となった。

 だが、ルキウスは戦う才能が無い。冒険者のサポーターになんかなれば体の良いはけ口にされるのは目に見えていた。

 ルキウスは必死に考え、団長のザニスを見て、閃いた。

 自分に与えられた『神酒(ソーマ)』を他の派閥の者に与え、自らの奴隷に変えたのだ。洗脳した奴隷達に金を稼がせ、『神酒(ソーマ)』を与える。ザニスと同じようなことを自分もやった。

 最初はどのくらいの『神酒(ソーマ)』を与えるかで洗脳した奴隷の理性が吹っ飛んだり、途中で酔いが醒めたりで上手く行かなかった事もしばしばあったが、いい感じの案配を見つけ、着実に手駒を増やして金を得ていた。

 そして、その金で自ら飲む『神酒(ソーマ)』や与えられた部屋に家具や美味い飯を買い、贅沢三昧を味わっていた。

 既に昔の優しい心を失っていたルキウスはいつの間にか忘れていた娘の存在を思い出す。

 娘は今も必死にダンジョンに潜って日々を僅かな金で生きつなぐ生活を送っていた。

 

『お父さん!』

 

 娘はある時から父親が帰ってこなくなり、父親が死んでしまったのではないかと心配していた。

 父親である自分にめいいっぱい抱きつき泣く娘を見てルキウスは『使えるな』と思った。

 ルキウスは娘に提案した。

 

『今、世話になっているファミリアがある。そこに改宗(コンバージョン)しないか?』

 

 娘はきょとんとして言った。

 

『ふぁみりあ?こんばーじょん?なにそれ?』

 

 ルキウスは既に娘が他のファミリアに入っているものだと思っていた。娘は今までずっとダンジョンに潜って凶悪なモンスターと戦い、勝利し続けていた。それは自分達に超人的な力を与える神の恩恵があるからだと思っていたが、娘はあろうことか何処のファミリアにも所属しておらず、恩恵すら刻まれていなかった。

 ルキウスは有り得ないと驚愕した。恩恵を刻まれたからこそ分かる。ダンジョンのモンスターを倒すには神の恩恵は必要不可欠だ。恩恵を刻まれた冒険者です何人も死者が出ている。刻まれてすらいない娘にダンジョンのモンスターを倒せるはずがなかった。

 ルキウスは自身の奴隷を使い娘の実力を測らせた。

 圧倒。

 その一言に尽きた。娘は恩恵を刻まれたLv.1の冒険者を剣一つで無傷で下した。

 ルキウスは娘を恐れた。だが、ルキウスには考えがあった。

 『神酒(ソーマ)』を使おう。

 ルキウスは自分の娘を洗脳してしまおうと考えた。洗脳し、恩恵を刻み、自分の都合のいい手駒に変える。

 ルキウスは娘に『神酒(ソーマ)』を与えた。そして、それを飲んだ娘は……

 

『これ、美味しくないよ』

 

 ルキウスは娘に恐怖した。

 ダメだ。これはダメだ。許されない。あってはならない。恩恵も無いただの幼い子共が『神酒(ソーマ)』の魅了に一切かからなかった。子共にも『神酒(ソーマ)』が効くことは知っていたが、娘はそれを不味いと評した。

 ルキウスは暴走した。自分の理解の及ばない存在に恐れ、自分の持つ奴隷の中でも最も強いギュリオスを使って、まだ手のつけられる娘を調教した。

 絶対に娘が逆らわないように徹底的に痛めつけ、万が一の事も起こらないように恩恵を刻まないようにした。

 

『止めてよお父さん!助けて!』

 

 娘の必死の懇願も無視して調教を続け、娘を恐怖と言う名の鎖で縛り付けた。

 更に、娘に命令して、自分の許可なく到達階層を増やすことを禁止した。娘がが強くなる環境を潰したのだ。

 次第に娘は感情が薄くなり、現在までその関係は続いていた。

 

 

「そして娘は今まで恩恵を刻ますダンジョンに潜り続けていた」

「……」

「だが、娘はどれだけ縛ろうとも強くなり続けた。もう間もなく手がつけられなくなる。だから始末する」

 

 ルキウスは娘の報復を恐れていた。

 娘が最も強いギュリオスを超えた時、自分も娘に殺される事を確信していた。

 ザニスは話を聞いて馬鹿なことをしたと思った。

 娘は父親であるルキウスに懐いていたのだから無理に暴力で従わせず、そのまま優しさで懐柔すれば良かったのだ。

 勿体無いことをしたとザニスは思った。

 

「……話は終わりだ。明日からはもう関係なくなる」

「……そうか。ならば私は帰るとしよう」

「ああ」

 

 ザニスは部屋から出ていき、ルキウスは短くなったタバコを灰皿に押し潰した。

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