俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
「クソっ、大分遠回りしちまった」
ダンジョン一階層。
巨大なバトルアックスを背中に装備し、セレナが入った袋を担いだギュリオスが悪態をつく。
ここに来るまで、冒険者がちらほらと存在していて、セレナの隠す為に少し遠回りしてダンジョンまでやって来た。
すぐ行ってすぐ帰る予定だったギュリオスは苛つきながらもダンジョンを進んで行く。
途中モンスターが現れても拳一つで粉砕する。
「もうここで始末したいが、入口に近いと怪しまれるか?チッ、面倒くせぇな。適当に五階層まで下りるか……」
ギュリオスは思ってた以上に面倒くさい仕事に舌打ちした。
殺人なんてどこでもいいだろと思っているが、ルキウスの指示を反故にすれば報酬の『
【ソーマ・ファミリア】に所属してないギュリオスが『
ギュリオスは頭が弱く、今のファミリアを脱退して【ソーマ・ファミリア】に入ることなど考えない。いや、ルキウスに考えさせないようにさせられていた。
ギュリオスは何度も舌打ちやため息を吐きながらダンジョンの下へと潜っていく。
●
どうしてこうなったんだろう。
手足を縛られ、抵抗するのも疲れたセレナは一定のリズムの揺れを感じながら、そんな事を考えていた。
七年前からずっとセレナは不幸に苛まれていた。
七年前に闇派閥が起こした大抗争でお母さんを失い、住む家を壊され、毎日泥水や腐った食べ物で生き繋いでいた。
お父さんが朝早くから夜遅くまで働き、迷惑をかけて、自分もお金を稼ぐ為にお母さんの形見を持ってダンジョンに潜った。
しかし、自分には才能がないのか、当初は一階層が限界だった。時間をかけて、到達階層を増やしていったが、それもおかしくなったお父さんのせいで制限がかけられて七階層より下には潜ったことがない。
あの日、死んだと思っていたお父さんが帰ってきて嬉しかったのを覚えている。が、お父さんは見た目は一緒だが、中身が全くの別人に変わっていた。
好きだったお母さんもお父さんも失ってセレナは絶望した。
夢だった英雄になることも諦めるしか無く、生きる希望は一切なかった。
それでも今まで頑張ってきたのはお父さんが元に戻ってくれるのを期待していたからだ。しかし、それも幻想だった。
もう、セレナには何も残っていなかった。
『君の名前を教えてほしい』
(……光一)
つい数日前に出会った黒髪黒目の青年を思い出す。
出会いはなんてことのないもので、ダンジョンでゴブリンに襲われていた所を助けただけだった。
突然逃げ出したゴブリンに呆気に取られて追いかけた先に彼がいた。
必死に剣を振って戦う彼の姿は昔の自分を想起させた。
『強くなりたいんだ。今より、もっと』
私もそう思っていた。
強くなって英雄譚に出てくる英雄みたいになって、恐ろしい怪物を倒すことを夢見ていた。
しかし、現実は残酷だった。
私に英雄になる道は七年前から閉ざされている。
『あの時、ゴブリンの群れから助けてくれた君は間違いなく俺の英雄だった!惨めなものか!』
嬉しかった。英雄に成れない筈の私を英雄だと言ってくれた彼の言葉が。
ほんの一時だけでも彼の英雄に成れたことが。
でも、もう無理だ。私は英雄には成れない。
『だったら俺が強くなれるようにする!君と一緒に英雄になりたいんだ!』
(……っ!)
止めて欲しい。私に希望を抱かせないで欲しい。
私は成れないんだ!英雄には成れないんだ!
ドサッ!
「んっ!」
突然地面に落とされる衝撃がセレナを襲う。
袋を開けられて外の様子が分かるようになる。
薄緑色の壁や地面、恐らく目的の五階層についたのだろう。
眼の前にいるギュリオスがニタニタと笑っている。
「ハッ!何だテメェ泣いてるのか?」
そう言われて私は初めて自分が泣いていることに気づいた。
七年前にお父さんやギュリオスから暴力振られてからまともに泣いた事など無かったのに、今になって両目から涙が溢れてきた。
「まぁ、無理もねぇか。実の親父に死ねって言われたんだ。しょうがねぇよ」
ギュリオスが初めて私に憐れんだ瞳を向けてきた。
そうだ。私は好きだった筈のお父さんから死を言い渡された。
アレはもう私の知るお父さんでは無いのだろう。
「恨むならあんな親父の元に産まれた自分を恨むんだな」
ギュリオスが背中に装備していたバトルアックスをゆっくりと振り上げる。
「あばよ、雑魚」
自らに迫るバトルアックスがゆっくりと鮮明に映る。
お母さんに英雄譚を読んでもらった記憶、お父さんに遊んでもらった記憶、家族みんなで私の誕生日を祝った記憶等、楽しかった僅かな思い出が走馬灯として頭の中を駆け巡る。
唯一幸せだったあの時。
もし、もし叶うならあの日々に戻りたい。
お母さんの膝の上に座って、大好きな『
そして、もう一度
今度あったらまた一緒に英雄になろうって言ってくれるだろうか?
もし、それを許してくれるなら私は……
「セレナァーーーーーーーッ!!!」
「あ?」
「……光一?」
バトルアックスが私の頭上間近まで迫った瞬間、私の名前を叫ぶ声が耳に届く。
●
駆ける駈ける翔ける。
ダンジョンの中を死力を尽くし走り回る。
急げ、何処に居る?
一階層、二階層、三階層とひたすら駆け巡ってセレナを探す。
ダンジョンにいることは知っているのに、どの階層にいるかは分からなかった。ダンジョンは上層だろうとかなり広く、全ての通路や部屋を探し回るのは効率が悪すぎだ。だが、何処に居るかもわからないセレナを探す方法はこれしかなかった。
「クソっ!クソっ!頼む!見つかってくれ!」
焦りが募り、必死に駆け回りながらセレナを探す。
もう足が限界だ。横腹が痛い。息が上がってきた。
でも、それでも俺は止まっちゃいけない!
「セレナッ!返事してくれ!」
大声で名前を呼ぶが、反応は一つも帰ってこない。
それどころか、俺の声に反応したモンスター達が道を塞ぐかのように集まってきた。
『ガアッ!』
「邪魔するな!」
モンスターは極力避けて行き、躱せない敵は首、もしくは魔石を直接狙って一撃で仕留める。
俺は一切のスピードを落とさなかった。
そして前方の曲がり角から新たな影が現れ。
「うおっ!」
「っ!」
モンスターだと思った影は同じ冒険者のパーティで、危うく勘違いして切ってしまう所だった。
俺はここで初めて足を止める。
全身汗だくで、身体から湯気を発生させ、モンスターの返り血を浴びた俺は冒険者達から見れば完全にヤバい奴だった。
「き、気をつけろ!」
「すいません!」
「ったくよ。死ぬかと思ったぜ」
「そうだそうだ!詫びの一つぐらいなくちゃなぁ?」
今は波風を立てている時間が勿体無かった素直に俺は頭を下げる。
しかし、相手の仲間の一人がニヤつきながら俺に突っかかって来た。
(クソっ!時間がないってのに!)
「本当にすいません!お詫びにここに転がってる魔石とかは全部あげます!」
「本当か?やっぱ無しってのはダメだからな?」
(待てよ、こいつ等下から来たよな。もしかしたら……)
「あの、白髪の猫人の女の子か大柄の猪人の男を見ませんでしたか?」
俺は一筋の望みをかけて四階層からやって来たと思われる冒険者達にセレナ、もしくはギュリオスが居なかったか問いかける。
これ以上時間をロスしている場合じゃ無かった。だから少しでもセレナがいる階層が分かればと、藁にもすがる思いで聞いた。
冒険者はお互いを顔を見合わせた後、思い出したかのように一人の男が答える。
「そういえば、五階層の途中でデケェバトルアックスと大きめの袋を担いだ猪人の男を見たな」
「っ!ありがとうございます!」
「えっ、おいっ」
間違いない、ギュリオスだ。
俺は冒険者達に礼を言って、最短で四階層に降り、疾走し、五階層へ向かった。
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ!
薄青色の壁が薄緑色へ変わる。
そして、ついにバトルアックスを振り上げ、セレナを殺そうとするギュリオスと涙を流し、嗚咽を堪えるセレナの姿が見えた。
「セレナァーーーーーーーッ!!!」
「あ?」
「……光一?」
俺は腹から叫び声を上げてセレナの名前を呼ぶ。
それに気づいたギュリオスの動きが止まり、セレナも俺のいる方向へ振り向く。
「雷の魔剣ッ!」
雷光が轟く。
「なっ!?グオオオオオオオオオオオッ!!?」
魔剣から放たれた白雷はジグザグな軌道を描きながらも、真っ直ぐにギュリオスへ向かって迸る。
ギュリオスは雷に押され、ダンジョンの壁へ勢い良く打ち付けられた。
そして、俺は彼女の前に立つ。
「君を助けに来た」