俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
ネタバレですが、ヒロイン登場回です。
早朝、【ヘスティア・ファミリア】の本拠である教会の裏庭で俺は廃材を的にして剣を振っていた。
初めてきた時は裏庭は雑草だらけで小さなジャングルと化していたが、時間をかけて雑草を引っこ抜き、俺の訓練場に変えた。
「ふっ!はっ!」
地面に突き刺し、縄で廃材をくっつけてゴブリンに見立てた的は訓練用に使っている木剣で元々ボロボロだったそれを更にボロボロにしたが、案外頑丈で半月経った今でも完全に壊れる様子はない。
「とうっ!やっ!」
縦、横、斜めに様々な方向から剣を振って的にぶつけていく。
カァンカァンと木材同士がぶつかり合う音が鳴り響くが、この辺りは俺とヘスティア様しか住んでないし、廃教会の地下にもあまり音は響かないので周りを気にせず剣を振るう。
「せいっ!おりゃ!」
弱ったモンスターに止めを指すかのように全力で木剣を叩きつける。今日一番の音が鳴り響き、鍛錬を終えた俺は汗を拭い、用意していた水を手に取り飲み干した。
「ぷは、こんな訓練でもファンタジーを感じるよな〜」
普通の人は剣なんか握らないし、剣を握る一部の人もモンスターと戦うために鍛錬なんかしないだろう。
俺は異世界でファンタジーな事をやっていることに少しだけ可笑しく思い、笑いながら剣を地面に突き刺した。
そして、俺は登ってきた太陽を見てもうそろそろ時間だと気づく。
ヘスティア様もバイトがあるので案外朝早く起きる。その為に朝食は共に取ったりする。朝食を作るのはだいたい先に起きる俺の仕事だ。
俺は木剣を片付けて廃教会の中へと戻る。
朝食を作ると言っても朝はだいたいパンを焼いただけのものになる。焼くときにチーズの乗せたり、ジャムを塗ったりするだけだ。
今日はいちごのジャムを焼いた食パンに塗ってテーブルの上に置き、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
準備ができたらベットで寝ているヘスティア様を起こす。
「ヘスティア様、朝ですよ。朝食ができました」
「うーん……ふぁ」
ベットで仰向けになって寝ているヘスティア様を揺する。
ヘスティア様ほゴシゴシと目を擦り、大きな欠伸をした後にゆっくりとベットから起き上がった。
「おはようございます。ヘスティア様」
「うん、おはよう。光一君」
俺はヘスティア様とテーブルを挟んで向かい合うようにソファーに腰掛け朝食を食べ始める。
牛乳をゴクゴクと飲むヘスティア様を見て、俺もコップに注いだ牛乳を一気に飲み干す。
朝食を食べ終えたら食器を片付けて、顔を洗い歯を磨く。そして、ライトアーマーを装着し、ヘファイストス様からヘスティア様の初めての眷属ということでお祝いに貰ったブロードソードを携えてダンジョンに行く準備を整える。
「ヘスティア様、行ってきます」
「行ってらっしゃい!気をつけるんだよ!」
髪を整えているヘスティア様に見送られ俺はダンジョンへと向かう。
●
ダンまちの世界のことは実を言うとそんなに詳しくは知らない。ラノベも持っていたが、知っているのはアニメと同じ四期までの知識のみ。しかも、うろ覚えなところもあるから、あまり頼ることは出来ない。
目の前に立つ巨大な
『グギャ!』
「ふんっ!」
モンスターが溢れ出すダンジョンの上に街を建てるなんて昔の人達って凄い度胸を持っていたんだなと考えながらダンジョンの三階層でゴブリンを斬りつける。
『ギャギャギャッ!!』
「うおっ!?」
傷が浅かったのか、ゴブリンは仰け反ることなく光一に鋭利な爪を振りかざす。
反射的に後ろへ飛び退いた俺は狭いダンジョンの通路の壁にぶつかる。
『ギャギャ!』
『グギャ!』
「増えてる!?」
硬い壁に背中を打ち付けて痛がっている隙にもう一匹ゴブリンが通路の曲がり角から出てきて光一を囲う。
(二匹ならなんとかなるな。これくらい想定内だ)
剣を構え直し、視界内に二匹のゴブリンを入れて、どっちから襲いかかってきてもいいように警戒する。
『グギャ!』
『グギッ!』
『ギャッギャッ!』
「は?」
おかしい。また増えてる。
『『『『グギャ!』』』』
あれ?
『『『『『『ギャギャ!』』』』』』
ヤバいかも。
『『『『『『『『グオオオオッ!!!』』』』』』』』
「うおおおおおっ!!?」
八体に増えたゴブリンの群れに背を向けて全力疾走。
無理無理無理無理無理無理無理無理!!
比較的地上に近い階層なら群れでモンスターが出てくることなんて有りえないのだが、何故か俺は運悪く計八体のゴブリンが集まって群れを形成し俺を追いかけてくる。
早朝故にダンジョンに潜っている冒険者は殆どおらず、俺は誰にも出会わずにダンジョンの中を駆け抜けて別れ道や十字路を抜けて少し広いルームと呼ばれる小部屋へ辿り着いた。
しかし、そこは行き止まりで追いかけてくるゴブリンの群れを迎え撃つ以外の選択肢を消し飛ばす。
やらかした。
俺はこうなる前に速攻を仕掛けるべきだったと後悔した。
だが、ここまで来てしまったのなら覚悟を決めなければならない。
『『『『『『『『グオオオオッ!!!』』』』』』』』
「っ!」
雄叫びを上げるゴブリン達、俺はブロードソードを両手で構えてゴブリンの群れと相対する。
先ずは一番前のゴブリンの首を狙って剣を降る。しかし、狙った位置には当たらず、少しズレた胴へと攻撃が当たる。
「くっ!」
いきなり失敗したことに鼓動が早くなり手汗が滲む。
だが、ここでがむしゃらに動くわけにはいかない。冷静さを失えば視野が狭くなり、ゴブリン達のお世辞にも綺麗とは言えない連携攻撃の餌食となる。
一度深呼吸して気持ちを落ち着かせるとゴブリン達へ視線を向ける。
『ギャギャ!』
『グギャ!』
醜い顔を歪ませ嗤うゴブリン。
(っ!駄目だ!冷静さを失うな!)
心に言い聞かせるが、身体は言う事を聞かない。
兎に角ゴブリンに剣を当てようとして前に出る。
『『ギャッ!?』』
無茶苦茶に振った剣は二匹のゴブリンを斬りつける。
「あぐっ!」
『グオッ!』
が、焦って視野が狭くなった俺の横から一匹のゴブリンが爪で肩を引っ掻く。
中学の友人の家に遊びに行った時にいた猫に引っ掻かれた時よりも断然痛い。
「くそっ!おりゃ!」
『グギッ!?』
ゴブリンの胸を一刺し、魔石が割れて一瞬で灰に変わる。漸く一匹。
間を置かず左右から二匹のゴブリンが襲い掛かる。
俺は思い切って前へと転がり、完全にそれを避ける。
だが、避けた先にもゴブリン。
『ギャッ!』
「はっ!」
俺は敢えて勢いを殺さずに突っ込んで、偶然ゴブリンの首に剣が刺さり刺殺した。これで二匹。
『グギギ!』
そして、突き刺したゴブリンが消えてしまう前に固まっているゴブリンに向かって剣を振って投げ捨てる。
自分達に向かってくる仲間の死体に動揺したゴブリン達を無視して、背後から迫ってきていた二匹のゴブリンのうち片方のゴブリンの顔面を蹴り飛ばし、残った方に剣を突き刺す。
『グギャ!?』
『グゴッ!?』
魔石を砕いた感触を剣越しに感じ取り、目の前のゴブリンは灰になって消滅した。三匹目。
次に蹴り飛ばしたゴブリンが地面に転がっている内に剣を突き立てる。確実に首を狙って殺した。四匹目。
「はぁ、はぁ……」
残り半分となった所で疲れが出てきた。ダンジョン内を全力疾走し、ゴブリンの群れとの戦闘で精神が研ぎ澄まされ、体力を大量に消費していた。
仲間の死体に呆然としていた残り四匹のゴブリン達は漸く再起動し、仲間を殺した俺に殺意を向ける。
(……大丈夫。いける)
自分に暗示をかけて、息を整え、ゴブリン達を睨み返す。
「うおおおおおおおおっ!!!」
自身を奮い立たせるように大きな雄叫びを上げてゴブリンへと突撃する。
一匹のゴブリンが正面で立ち止まり、俺に向かって腕を振り上げる。
その腕をギリギリで躱し、すれ違いざまに横腹に剣を突き刺す。五匹目。
残りの三匹もそれぞれ俺を挟むように位置取り襲い掛かってくる。
前方、左方、右方にそれぞれ立ち、同時に駆け出す。
「ふっ!」
残り三匹、焦ることはない。一旦後ろに退いて一匹ずつ確実に……
『『『『グオオオオッ!!』』』』
「うそ……だろ……」
新たに通路から四匹のゴブリンが飛び出てくる。
勝てると思ったのに、まるで勝たせないと言わんばかりの出現に絶望が浮かび上がる。
「畜生っ!ちくしょおおおおっ!!!」
諦めるもんか!
絶対に諦めてたまるか!
勝つ!
俺が勝つんだ!
涙を滲ませ、恐怖を理不尽への憤りで塗り潰してゴブリンを殺すために大地を踏みしめる。
そして……
『グギャ?』
一番後ろにいた一匹のゴブリンの頭が宙を舞った。
ゴブリンの後ろに雪のように煌めく白い長髪と海のような綺麗な蒼をした眼の少女が剣を振り切っていた。
少女は猫耳と長い尻尾を揺らして瞬く間にゴブリンとゴブリンの間を駆けて、すれ違い座間に的確に首を切り落として行く。
そして、十秒も経たない内に俺を殺そうとしていたゴブリンの群れは魔石を残して灰に変わっていた。
俺が呆然としていると猫人の少女はトコトコと俺の方に向かって不思議そうに首を傾げた。
「えっと、大丈夫ですか?」
この出会い方は思いついた時から決めてました。