俺の異世界冒険譚   作:勢いでやりました

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初恋

 

 ドキドキとゴブリンと戦っていた時と同じ様に鼓動が早くなるが、それは戦闘の興奮ではなく、俺を助けに現れた少女の可憐さに見惚れてのことだ。

 ダンジョンの中なのに日の光が当たっているかのように煌めく白髪と尻尾の毛並み、モンスターの血で少し汚れた肌は冒険者であることを示すように汚れているが、それすらも彼女を彩り美しさを引き立てるアクセントとなっているようだ。

 整った顔立ちはまるで人形のように整っているが、クリっとした瞳や可愛らしく首を傾げる姿に愛嬌を感じる。

 こんな可愛い女の子見た事ないと俺は思った。というか、この世界に来てからヘスティア様以外で初めて可愛い女の子を見た。

 

「あの……」

「ひゃい!」

 

 最悪だ。変な声でた。

 少女は俺が奇声を発したことにポカンとした表情を浮かべ、俺は羞恥心から顔を背ける。

 嘘だろ俺!女の子に話しかけられて緊張して変な声出すとか陰キャ中学生かよ!日本でサッカーやってた時、後輩のマネージャーちゃんに話しかけられても普通に返してたやろ!

 今すぐ時間を巻き戻して最初からやり直したい。

 しかし、そんな願いが叶うわけもなく現実は無情である。

 少女は顔に不安そうな表情を浮かべ、恐る恐る俺に尋ねてくる。

 

「もしかして、怪我とかしてますか?」

「い、いえ、大丈夫。大丈夫です!」

 

(あああああああああああああああああっ!!!!!落ち着け俺!深呼吸しろ!ひっひっふー、ひっひっふー……ってラマーズ法じゃねぇ!)

 

 当然一人で百面相し、奇行に走る光一に少女は困惑する。

 その様子を見て不味いと悟った俺は一旦動きを止めて、機械のようにギギギと身体を動かして、両足をくっつけ、手を下にぴーんと伸ばし、綺麗な直立の姿勢をとる。

 そして、そのまま九十度のお辞儀をする。

 

「その……助けてくれてありがとうございます!」

「ううん、貴方が無事なら良かった」

 

 俺がお礼を言うと少女は嬉しそうに微笑む。

 こんな変な奴を心配してくれるとか聖女か!

 

(可愛い……)

 

 俺は完全に彼女に心を奪われていた。

 今この瞬間まで運命の出会いなんて存在しないとか思っていたが、撤回しよう。運命の出会いはある!

 

「あっ、えっと、これお礼にここまで来るのに集めた魔石です!」

 

 俺は少女に三階層まで来るのに集めた魔石の入った小袋を差し出す。

 だが、少女は困ったような表情を浮かべて、首を横に振った。

 

「お礼なんていらない。ゴブリンがここまで来たのは私のせい。戦ってたゴブリンが逃げて貴方の所まで行っちゃったからむしろ私の方がお詫びしたい」

 

 少女は申し訳なさそうに謝ってくる。

 だとしてもあの疲れた状態で残りのゴブリンを相手取れたかも怪しい俺としては少女が助けに入ってくれたのはありがたかった。

 

「そんな!お詫びなんて大丈夫ですよ!」

「ううん。これで貴方に一生消えない傷を負わせていたかも知れない。何でも言って」

 

(何でも!?いや、やましいことは考えるな!)

 

 一瞬、彼女がなんでもしてくれると妄想しかけるが頭を振って煩悩を捨てる。

 でも、こんな美少女なんて一生に一度、お目にかかれるか分からない出会いだ。

 でも、助けてもらったのに更に請求するとか男として、人間としてゴミすぎる。

 どうすれば………………っ!

 

「なら、一つだけいいかな?」

「うん」

 

 俺は少女に一つだけ願いを要求してもいいかと聞く。

 少女は肯定するように頷いた。

 

 俺は深呼吸し、出来るだけ真面目な表情を作り、俺の知っているとある物語の主人公と同じセリフを吐く。

 

「君の名前を教えてほしい」

「えっ」

 

 どんな要求が来ても良いように身構えていた少女は呆気に取られたような表情で目を見開いていた。

 そして暫し沈黙が流れて、少女はふふっと笑い、口を開いた。

 

「セレナ。私の名前はセレナ・アイズナー」

 

 これが俺とセレナ・アイズナーとの出会いであり、俺の異世界冒険譚(アナザーアドベンチャー)の始まりでもあった。

 

 

 夕刻、あの後お互いダンジョン内で別れて探索し直し、今日の稼ぎを終えた俺は廃教会へ帰って来ており、キッチンで鼻歌を歌いながらフライパンの上でチャーハンを振っていた。

 

「……ふふっ」

「……光一君、そろそろキモいよ」

「酷い!?」

 

 俺はあまりのショックに手に持っていたチャーハンが宙を舞う。が、しっかりフライパンでそれを受け止める。

 ヘスティア様はソファー上で寝っ転がり、ジトーと俺の方を見てくる。

 俺はチャーハンをお皿に盛り付けて、テーブルの上へと置きながら弁明する。

 

「違うんですよ。別に可愛い女の子と出会った訳じゃなくて……そう!稼ぎが!稼ぎが良かったから気分が良かったんです!」

「へー、可愛い女の子と出会ったんだね」

 

 俺の下手な嘘にヘスティア様は更にジト目になる。

 不味い!これじゃあ俺はベル君と同じじゃないか!ダンジョンで可愛い女の子に助けられて一目惚れとかまんまベル君じゃん!

 

「た、確かに可愛い女の子と出会いましたけど、別になんとも思ってませんよ!?」

「ふーん、一目惚れだったんだ」

 

 ヘスティア様はそう呟いて、ソファーから起き上がる。スプーンを持ってチャーハンを一口頬張る。

 

「いや、あの、その、あっ!これ見て下さい!コボルトの爪とゴブリンの牙!今日はこんなにドロップアイテムが手に入ったんですよ!」

 

 俺は今日の成果ををヘスティア様に見せたくて残しておいたドロップアイテムを小袋から取り出してテーブルに乗せる。

 

「……光一君、話を変えても無駄だよ。君がダンジョンで出会った女の子に恋をしたってのはバレバレだ」

「ぐふっ!」

 

 ヘスティア様は無表情でチャーハンを食べ続ける。

 俺はヘスティア様に完全に俺がセレナと出会って浮かれていたことを見抜かれて机に伏せる。

 

「はぁ、まったく。君にはボク(・・)というとっても可愛い女の子がいるのに他の子供に目移りするなんて!」

 

 ヘスティア様はぷんぷんと可愛らしく怒りながらチャーハンをスプーンで掬って口に運ぶ。

 何か「ボク」という所が強調された気がしたが気の所為だろう。

 俺は机から顔を上げてヘスティア様と同じ様にチャーハンを食べだ。

 

 

 後日、昨日と同じように朝の鍛錬をし、ダンジョンに出かけた俺はダンジョンに入る前にセレナがいないか不審がられないように注意しながら周りを見渡した。

 しかし、セレナらしき人物はおらず今日は休みなのか、まだ来てないのかなと思いながらダンジョンへ入った。

 

『……』

 

 そして、ダンジョン六階層。

 俺は目の前の人形の影と対峙する。

 それは『ウォーシャドウ』のと呼ばれる新米冒険者殺しの怪物。

 大きさは俺よりも少し背が低く、全身影のように真っ黒に染まっており、唯一顔面に赤く輝く手鏡のようなパーツが存在している。

 

「あの子とお近づきになりたい。なら……冒険しなくちゃな」

 

 ゆらゆらと揺れるウォーシャドウ。

 俺は剣を構えて戦闘態勢へと入る。

 

 何もせずにセレナに近づけるとは思わない。彼女は七匹のゴブリンをたった数秒で全滅させた。

 ゴブリンから逃げ出して、ボロボロになりながら戦って、下手っぴな剣を降る俺とは違う。

 セレナに近づきたいなら、追いつきたいなら、ベル君のように冒険するべきだ。

 俺はここに立って何となくだが、ベル君の気持ちが分かった気がした。

 

『……』

 

 発声器官の無いウォーシャドウは無言で距離を詰めてくる。

 ゴブリンやコボルトよりも速い。

 

「くっ!」

 

 しっかり避けたと思っても僅かにウォーシャドウの鋭利な指が左腕を掠る。

 正直今の俺が敵うようなモンスターじゃないことは知っている。でも、だからこそ超えなきゃならない。

 俺は流れるように剣を振るうセレナの姿を思い出し、袈裟斬りに剣を振る。

 

『……』

 

 だが、ウォーシャドウはそのナイフのような指先でそれを受け止め、残った方の腕を俺に向かって伸ばす。

 

「っ!?」

 

 今度はかすり傷じゃない。肉を抉られた感覚があった。

 痛い。叫び出したい。今すぐ背を向けて逃げ出したい。

 けど、それじゃあ何のために冒険しているのか分からない。痛みを堪え、恐怖を押し殺して馬鹿の一つ覚えのように剣を振る。今の俺には彼女が見せた剣を思い出して真似ることしか出来ない。

 他の冒険者が見たら自殺願望者だと言うだろうか。

 でも、仕方ないだろ?今の俺にはこれしか無いだ。この下手くそな剣技でモンスターを狩り続けるしか……無いんだ。

 

「おおおおおおおおおっ!!!」

 

 だから俺は叫ぶ。自分の心の中を曝け出すように、無理矢理にでも自分を鼓舞するように叫んだ。

 その想いが通じたのかは分らない。だが、今までよりも剣撃の速度が上がり、鋭さが上がった気がする。

 

『……!』

 

 ウォーシャドウは光一の勢いに呑まれていた。光一の出す気迫に気圧されていた。

 俺の剣とウォーシャドウのナイフのような指が何度もかち合い。拙い剣戟を生み出す。

 ウォーシャドウの方が速くて、力が強い。でも、拮抗していた。そして、今、光一が押し始めた。

 

「ふっ!」

『!』

 

 バキッとウォーシャドウの指が折れる。

 そして、自分の指が折れたことに動揺したウォーシャドウに向かって大きく剣を振りかぶった。

 

 縦一直線に斬撃が通り、ウォーシャドウの体が左右に真っ二つに別れた。

 そして、大量の灰とウォーシャドウの残した指がポトリと落ちていた。





 今後、色々ご都合主義とかあるかもしれないけど、小説なんて殆どご都合主義なんで許して下さい。
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