俺の異世界冒険譚   作:勢いでやりました

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何のために強くなるのか

 

ダンジョン五階層。ウォーシャドウとの戦闘後、さらに三体戦ってみたが、どれもギリギリ寸前の勝利で、もし、二体同時に出てこられれば敗北必須故に五階層まで戻ってダンジョン・リザードやフロッグ・シューターを相手に戦っていた。

 

『ゲコ』

「はっ!」

 

 それなりに広い通路で二体のフロッグ・シューターが前後で俺を挟み撃ちにしていた。

 単眼のカエル型のモンスターであるフロッグ・シューターは長い舌を撃ち出して攻撃してくる。

 その舌で冒険者を絡み取り、丸呑みにしてくるため、見た目も相まって女性から嫌われている。

 俺はその長い舌を屈んで避けると二体の内、一体に剣を振るった。

 

『ゲギャッ!』

 

 柔らかい頭が潰れて、汚い断末魔を響かせながら絶命した。

 しかし、もう一匹のフロッグ・シューターは長い舌を鞭のようにしならせて俺に振り下ろす。

 俺はその舌を避けて、その伸びる舌を剣で切り裂く。

 

「ふんっ!」

 

 そして、一匹目と同様に距離を詰めて頭めがけて剣を振り下ろした。

 

 ふう、と吐息を出して魔石を拾う。

 その際、ウォーシャドウによって切り裂かれた肩に痛みが走り、思わず反対の手で抑える。

 朝からダンジョンで冒険することばかり考えてポーションを補充するのを忘れていてポーチの中は空っぽだ。

 持っていた大きめのハンカチで傷口を縛っているが、血が滲み出ている。

 

「一旦帰るべきか?」

 

 問答するまでもない。普通の冒険者なら間違いなく帰るべきだと答える。しかし、強くなるためにこのくらいの痛みで立ち止まる訳にはいかない。

 俺は魔石を拾い終え、五階層の探索を続ける。

 

 少し進んだ先、広めのルームで誰かがモンスターと戦闘する音が聞こえる。ここは比較的浅い階層だから同業者と出会うことなんて日常茶飯時といえるだろう。

 道は一本しか無いので俺はそこへ向かって歩き出す。

 

「ふっ!やっ!」

『シャア!』

 

 そこには白髪の少女がコボルト三匹相手に圧倒して剣を振っていた。

 まるでダンスを踊るかのように舞い、華麗にステップを踏み、剣を滑らす。

 その美しい剣舞は思わず足を止めて魅入ってしまう。

 スッと豆腐を切るかのようにコボルトの首を剣が抵抗無く通り過ぎていき、一拍遅れて三匹のコボルトの首がズレ落ちた。

 俺は感嘆の息を呑んだ。

 

「っ!」

「あっ」

 

 彼女が俺の視線に気づいて此方に振り向く。

 そして、俺は戦っていた少女が誰なのか気づいた。

 

「セレナ」

「貴方は!……って酷い怪我!」

 

 服ごと切り裂かれて真っ赤に染まった肩を見てセレナはギョッとする。

 そして、彼女は自分のポーチからポーションを取り出して俺の腕を掴んでそれを振りかける。

 流れるような作業で止める暇も無かった。ポーションがかかった肩の傷口はゆっくりと閉じていき、ズキズキとした痛みが消え去った。

 

「何でこんな風になるまで……」

「あはは、ポーション忘れちゃって、でもこれくらいなら平気だったから……」

「ダメ!ポーション忘れたなら速く地上に戻らなきゃ!大した事ない傷でもそれが積み重なれば重傷になる!」

「ご、ごめん」

 

 俺はセレナの剣幕に思わずたじろぐ。

 でも、それ程俺を心配してくれると思うと少し嬉しくなる。

 

「何でこんな無茶したの?」

「強くなりたいんだ。今より、もっと」

「だからって……」

 

 セレナはギュッと自分の胸の前で手を握る。その目には心配と悲しみの感情が滲んでいた。

 

「えっと……これポーションのお代」

 

 俺はそう言って昨日のように魔石の入った袋を渡そうとする。

 

「これくらい大丈夫」

 

 しかし、彼女は昨日と同様受け取ってくれなかった。今回は完全に助けてもらったからポーション代くらい貰って欲しい。じゃないと俺が助けてもらったのに何もしないクズ男になってしまう。

 

「助けてもらうだけじゃ俺が納得いかないから」

「でも…………それならちょっとだけ手伝って貰って良い?」

「え?ああ、勿論!」

 

 セレナはいらないと答えようとしたが、少し思案して何か思いついたようにそう言った。

 そして、セレナはこっちと俺を手招きする。

 俺はそれに従って歩く彼女に着いていく。

 すると、彼女はルームの端っこにある壁を剣で叩きつけて壊した。

 そこは意図的に脆く造られていたようで、直径一メートル程の大穴が空く。

 

「ここ、私の秘密の狩り場で、この壁を壊したら……」

「壊したら?」

 

『オオオオオオオッ!!!』

 

「っ!」

「来るよ!」

 

 暗闇の穴の奥からギョロリと赤色の双眸が俺達を睨みつける。そしてさらにそれがいくつも現れ、計三十程の赤い輝きがこちらを見つめる。

 

「離れて!」

「っ!」

 

 この声に俺は後ろは下がり、穴から毛むくじゃらの腕が伸びて、ルームの中へと入ってきた。

 穴から出てきた十五体のコボルト達は、俺達の周りを囲んで餌になる動物を逃さないようにするハイエナのようだった。

 

「…………怪物の宴(モンスターパーティ)っ!」

「これが一番効率がいいから。普段は一人でやってるから危険だけど、二人なら少しは安全になる」

 

 セレナはそう言って剣を構えて、コボルトに相対する。

 怪物の宴(モンスターパーティ)はこんな浅い階層で起こるものではない。そこら辺なら多くて三匹が通常だ。ゴブリン八匹に追いかけられたのはイレギュラーだっただけだ。そんなのはそうそう起こらない。

 はっきり言ってステイタスも低い俺に相手取れる数じゃない。けれど、強くなるならこれくらい対応して見せないと。それに、彼女が見ている。情けない真似はできない。

 俺もセレナと背中合わせになり剣を引き抜いた。

 

『グオオッ!』

「うおおおっ!」

 

 一閃。

 今までで一番の一撃がコボルトの首を飛ばした。

 格上との戦闘と体力が戻った事によって最高のパフォーマンスを行えている。

 自分が強くなっていることを実感して俺は口を釣り上げる。

 

「よそ見しちゃダメ!」

「っ!」

『グルアッ!』

 

 背後から迫っていたコボルトの爪の一撃を剣で受け止める。彼女の叱咤によって油断しかけていた気を引き締め、反撃する。

 剣で押し返してコボルトの胸を深く斬り裂き一撃で落とし、他の襲いかかって来るコボルトの喉笛を貫く。

 

「ダンジョンで気を抜いちゃダメ!相手は常に格上だと思って!油断した時が一番危険!」

「はいっ!」

 

 セレナの叱咤激励に俺は師から教えを受ける弟子のように無意識的に返事をした。

 彼女の戦闘スタイルは一撃必殺のヒット&アウェイの戦法だ。

 コボルト達が連携を取る暇も与えず、確実に一撃で落としていく。

 その洗練された動きはまるで踊っているかのように美しく見えた。

 

『グオオオッ!!』

「クソっ!」

 

 一方俺はコボルトの爪を避けて、その近くにいたもう一匹に気づくのが遅れ、一撃もらっていた。

 幸いライトアーマーで守っていた部位に当たり、怪我はしなかったが、爪痕が付いてしまった。

 

「もっと視野を広く持って!正面だけじゃない!モンスターはどこからでもやって来る!」

「はいっ!」

 

 彼女から注意されてなんだかいつの間にか彼女に師事して貰っているみたいだ。

 近い方のコボルトに蹴りを入れて、残った方に剣を振るう。

 肩から腰へ袈裟斬りにし、蹴り飛ばしたコボルトの胸へ剣を突き刺す。

 

『グルアッ!!』

「痛っ!」

 

 突き刺した剣を引き抜く前にコボルトが俺に迫ってウォーシャドウに切り裂かれた傷が治った位置をもう一度爪で抉られる。

 俺は痛みを耐えて、反撃する。

 少しふらついて上手く剣が振れず、剣身ではなく腹の部分でコボルトに攻撃した。

 

「その長さの剣で突き刺すのは乱戦では隙になる!ナイフや細剣ならともかく今は使わない方が良い!」

「ごめん!」

 

 俺はセレナのアドバイス通り、今度は剣を縦に振りかぶりコボルトの頭を叩き潰した。

 

 ビキビキッとダンジョンの壁が割れる。

 そこから産まれてきたのは緑色の鱗を持った巨大なトカゲのような姿をしたダンジョン・リザードが四匹。

 この状況で追加のモンスター。まるでダンジョンが俺達の様子を見ていて、殺そうと(モンスター)を送っているようだ。

 

「問題ない!」

 

 セレナは地面を蹴って戦っていた三匹のコボルトの腕や脚を切り飛ばし、隙間を駆け、未だ半身がダンジョンの壁に埋まっているダンジョン・リザードの首を跳ねる。

 一匹のダンジョン・リザードが仲間の死を見て彼女に喰らいつこうとするも、彼女は飛び上がって回避し、背後へ着地し、下から左上へと逆袈裟斬りで背中を切り裂いた。

 

「くそっ!」

『グオッ!』

 

 悔しい。

 彼女の方が強いのは分かっていた。俺が一匹コボルトを倒してる間に彼女は二匹倒してる。新手に驚いてる間に彼女は既に動き出し、速攻で対応している。

 俺と彼女には思っていた以上の差があった。

 

「おおおおおおおっ!!!」

 

 俺は力一杯に剣を振って、目の前のダンジョン・リザードの硬い鱗ごと叩き割り、そのまま力押しで魔石まで届かせる。

 

(これじゃあ駄目だ!鈍器で殴ってるのと同じだ!セレナはちゃんと剣で斬っていた)

 

「これで……終わり!」

 

 そして、俺がダンジョン・リザード一匹倒している間にセレナは残りのモンスターを全て切り裂いた。

 ルームはモンスターの灰で溢れ、魔石やドロップアイテムがそこら中に転がっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫?」

 

 初めて数十匹以上のモンスターと戦って俺は息が上がっていた。しかし、彼女は俺の倍の数のモンスターを相手してなお俺を気遣う余裕があった。

 

(弱いなぁ俺。ダサ過ぎだ)

 

 脆弱な自分が情けなくて嫌になる。

 たった一回冒険しただけで強なってる?

 馬鹿言うな。

 足りない。俺には何もかも足りてなかった。

 弱い自分が、手を差し伸ばしてくれる彼女に助けられる自分が、こんなにも悔しい。

 

「もっと……強くならなきゃ」

 

 拳に力が入る。

 もっと、もっと強くならないと。

 彼女に釣り合う男になる為に。

 

「……」

 





 今更ですが、感想や評価等ありがとうございます。
 返信しても感想ありがとうございますしか言えないと思うのでここでお礼を言っておきます。
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