俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
セレナからポーションを貰い傷を癒やし、ルームの壁にモンスターが産まれてこないように傷を付けて疲れた身体を休ませる。
ポーションで傷は治っても疲労は溜まったままだ。無理して連戦しようものなら集中力が途中で途切れて確実に死ぬ。
ダンジョンの壁に腰かけて俺は俺は水分補給の為に
「……はぁ」
こうして何もしないでいると自身の弱さを思い出して彼女の前だとい言うのにため息をついてしまう。
ダンジョンのゴツゴツとした地面を眺めながら、どうやったらもっと強くなれるのか考える。
手っ取り早いのはベル君のように成長促進系のスキルを目覚めさせる事だが、そんな簡単に芽生える訳がない。
自分で言うのも何だが、俺はセレナに恋をしている。ならばベル君と同じ【
あれは主人公だから発現したのであって、主人公の器ではない俺に都合好く出てくるはず無い。
そんなればもうコツコツと地道に鍛えるしか無い。やはり、戦いを教えてくれる師匠と呼べる存在が欲しいと思ってしまう。いっその事ダメ元で彼女に頼んでみようか?いや、彼女にも生活があるし、なにより告白したい相手に強くなるのを手伝って欲しいとか恥ずかしくて言えない。
俺はどれだけ思案してもいい案が思い付かず何度目かのため息を吐く。
「えっと……本当に大丈夫?」
「へ?あ、うん。大丈夫だよ」
「さっきからずっとため息吐いてる」
「ごめん。もう吐かない」
心配してくれている彼女に嬉しくもあり、それ以上に恥ずかしくて悔しくなる。もう吐かないって言ったそばからため息を吐きそうになる。
「貴方は……その、なんで強くなりたいの?」
「え?そ、それは……」
セレナの質問に俺は思いっきりたじろいだ。
君が好きだからとか恥ずかしくて言えないに決まっている。
何とか誤魔化そうと色々考える。
「え、英雄になりたいんだ」
(何言ってんだ俺ぇ〜〜〜〜〜!!!)
思わず出てきた言葉がそれだった。
ベル君の事も考えていたからついベル君みたいなことを言ってしまった。
英雄なんてそんな大それたものには程遠い俺が言うなんて烏滸がましい。
(馬鹿じゃねぇの!?)
自分で自分にツッコミながら俺は恐る恐る彼女の方を見る。
だが、彼女は俺が思っていた冷やかな表情ではなく、きょとんとしたまるで本当に?と聞きたそうな顔だった。
「えっと……」
「……私も、私も英雄になりたい」
「え?」
俺が何か言う前に、彼女はそう言った。
今度は俺がきょとんとする。
ダンジョンの暗闇の中で、彼女のマリンブルーの瞳が爛々と輝いているように見えた。
「私ね、英雄譚が好きなんだ。物語の主人公達が強いモンスターに挑んで倒しちゃうの。時には街を救ったり、時には村を守ったり、時には人々を鼓舞したり、色んな英雄がいて凄く憧れてる。……子供みたいだよね」
「……」
セレナは少し恥ずかしそうに頬をかいて、それでもどこか嬉しそうに笑う。
彼女の笑顔に俺は見惚れていた。
「どうしても昔お母さんが読んでくれた英雄譚が忘れなくて夢見てたんだ」
彼女は俺の横に座って壁に背を預けながら懐かしむように語る。
しかし、突然彼女の顔から笑顔が消えて悲しむような暗い表情となる。
「でも、八歳の頃からずっとダンジョンに潜ってるんだけど、まだ七階層までしか行ったこと無いんだ。……弱いんだよ私」
「なっ!?」
八歳からの部分でも十分驚きだが、あれだけの剣術を持つ彼女が七階層までしか行けてない事実に驚愕する。
嘘をついているようには見えないが、正直信じられない。
彼女程の実力者ならLv2くらいは当然あると思っていた。
「私はアルバートに憧れてたんだ。精霊アリアと共に黒竜を撃退してオラリオを守る英雄。私もそうなりたいって思ってた。けど、現実の私はちっぽけで大した強さもない惨めな存在」
「そんな事無い!」
「えっ?」
「あの時、ゴブリンの群れから助けてくれた君は間違いなく俺の英雄だった!惨めなものか!」
自分を卑下するセレナに俺は大声で怒鳴り声を上げだ。
突然の大声に呆然とするセレナに俺は自分の想いをぶちまける。
俺は彼女に、セレナ・アイズナーに恋をしていた。だから自分を悪く言うような事は言ってほしくなかった。
君は弱くなんか無い! だからそんな悲しいこと言わないでくれ! 自分を否定しないで欲しい! 英雄譚に出てくる黒竜を撃退したアルバートよりも、ゴブリンの群れから俺を助けてくれた君のほうが俺にとって一番の英雄なんだ。
「……ありがとう」
「あっ、ごめん。急に大声出して」
セレナは微笑み、英雄と言ってくれた光一に感謝を伝える。
俺は急に怒鳴ってしまったことに謝った。
「貴方は誰が好きなの?」
「へあ!?」
唐突な彼女からの問いに俺は変な声を出してしまう。
誰?そんなの言える訳が無いだろ! 俺の想い人が目の前にいるなんて言えない!
顔が真っ赤に染まっていることを自覚しながらどうやって答えようか必死に悩む。
「英雄になりたいなら英雄譚も知ってるでしょ?」
「え?あ、勿論!」
(なんだそっちか〜焦った)
彼女からの質問は英雄譚で出てくる主人公達についてだった。俺はてっきり恋愛的ものかと勘違いしてしまった。俺はホッと胸を撫で下ろしながら彼女の質問に答える。
「アルゴノゥト……かな」
日本でダンまちのアニメを視聴していた時、偶然ダンまちのゲームの二周年シナリオを知って動画で視聴してからダンまち世界の英雄譚で一番好きなのはアルゴノゥトになっていた。というかそれしか知らない。
「アルゴノゥトか……変わってるね」
「ぐふっ!」
そう言えばこの世界でアルゴノゥトの本当の物語は語られてないんだっけ。
俺は自分のミスに気づいて呻き声を上げる。
「アルゴノゥトは正直ちょっとダサいかな?だって色んな人に騙されて、なし崩し的に王女を助ける滑稽な英雄?でしょ。私はやっぱりモンスターと格好良く戦う英雄の方が好きかな」
「そ、そっか……」
アルゴノゥトがダサいと言われるとまるでアルゴノゥトの事が好きな自分もダサいと言われているようで心にグサッと棘が刺さったような気分になる。
「……あの」
「?どうかした?」
「えっと、今更何だけど……貴方の名前。知らないなぁって……この前は私だけ名前を教えたから」
そう言えばあの時はセレナの名前を聞くことしか考えて無かったから自分の名前を伝えることを失念していた。
好きな子の名前聞いて満足するとか恋愛初心者過ぎるだろ。
「ごめん。えっと、俺の名前は西田光一。光一のほうが名前なんだ」
「光一。……よろしくね光一」
俺は自分の行いに呆れながら彼女に名乗る。
名前を聞くと彼女は嬉しそうに微笑む。
その表情が妙に愛らしくてドキリとした。
(なんか名前教えただけなのにめっちゃ恥ずかしい!)
また自分の顔が赤くなっているのを感じる。
「私、光一に英雄になって欲しい。英雄になりたいって言う人居ないから。私みたいに英雄に憧れてる光一になって欲しい」
「セレナ?」
「もし、もしよかったら光一に剣を教えて上げたい。私の剣が光一の力になって英雄になってくれたら、私の頑張りも無駄じゃ無かったって思えるから」
彼女は不安そうな表情で俺に聞いてくる。
(そんなの答えは決まってる)
俺は迷わず彼女の手を取った。
「なるよ。君の剣で俺は英雄になる」
「本当?ありがとう!」
「そして、君の事も英雄にする」
「え?」
「俺、凄く弱くてこんな事言うのも烏滸がましいかも知れないけど、君と一緒に強くなりたい」
「光一……」
俺は立ち上がり座ったままの彼女に手を伸ばす。
君が好きになり憧れた。だからこそ君も夢を諦めずに一緒に歩んでほしいと願う。
我が儘で傲慢かも知れないけど、俺はセレナに英雄の道を諦めてほしくなかった。
「私、七年もダンジョンに潜って強くなれないんだよ?」
「だったら俺が強くなれるようにする!君と一緒に英雄になりたいんだ!」
不安そうな彼女に俺はさらに手を伸ばす。
彼女のその綺麗な瞳は揺らいでいた。
●
(いいのかな?私が英雄を目指しても……)
初めてダンジョンに潜った時はゴブリン一匹すら倒せなかった。
一年賭けて漸く一階層を攻略してそれからずっと次の階層で戦えるようになるまで一年賭けた。周りの人達はずっと速くて私の何倍も速く強くなっていく。
私よりも後にダンジョンに入った人もいて簡単に抜かされた。
(そんな私が英雄に?)
無理だ。不可能だ。できないに決まってる。
でも……
『君は間違いなく俺の英雄だった!』
彼はそう言ってくれた。
不安と恐怖に蝕まれそうな私の目の前に手を伸ばす彼の顔を見える。
黒髪黒目の私と同い年か少し年上くらいの男の子。その目は真剣で本気でそう思っていることを伺わせる。
(私は……私は…………私も!英雄になりたい!)
私は彼の、光一の手を掴んだ。
主人公は成長系スキルを取得しますが、それはまだ先です。ベル君みたいに超成長するのはもう少し後なので、もう暫くお待ち下さい。