俺の異世界冒険譚 作:勢いでやりました
太陽が最も高い位置にある正午。
鍛練の疲れによって、泥のように眠っていた光一は自分がベットの上で寝ていた事を思い出して、ゆっくりと起き上がった。
「ふぁ〜」
ぐいっと背筋と両手を伸ばして起床する。
ぼやけた視界を手で擦って欠伸を放つ。
「……あれ?ヘスティア様は?今日はバイト休みなんじゃ……出かけたのか?」
部屋の中にヘスティア様がいないことに気づき、キョロキョロと狭い部屋の中を見渡すが、自分以外に人の気配が無い事を確認してベットから降りた。
「ん?これは……」
そして、テーブルの上に
俺はそれを手にとって内容を確認する。この世界の文字はスキルのお陰で難なく読める。が、理解できるだけであって書くことはできない。いずれ誰かに教えてもらうのも有りだろう。
「しばらく留守にします。か、何千万年も生きる神様のしばらくってどれくらいだよ。ヘスティア様のことだから何百年ってわけじゃないと思うけど……」
「すんすん……臭っ!シャツが血だらけじゃん!うわ~、これもうこびりついちゃってるわ」
俺はシャツの袖についた赤い染みを鼻に近づけて臭いを嗅ぐ。鉄のような匂いがし、思わず顔を顰める。
完全に服に付着しており、洗剤で洗ったとしても完璧に汚れを落とすことは無理だ。これはもう捨てて、新しい服を買うべきだろう。
俺は今着ている服を全部脱ぎ捨てて、タンスから替えの洋服を着る。
この世界に来た時に着ていたジャージは寝間着として使っていてまだ残っている。
「ギルドで貰った鎧もベコベコだ。これは新しいの買うしか無いな……」
冒険者初心者に貰えるギルドから支給されたライトアーマーは切り傷や打撃による凹みでもう使い物にはならないだろう。
昨日まではまだそこまで傷はなくて綺麗だったのに、今日の朝だけでここまで駄目にしてしまった。
「……34000ヴァリスか……今日まで無駄遣いせず貯めてきたけど、これだけで防具って買えたっけ?」
財布の中身をそっと開けて、入っている硬貨の枚数を数える。
少し不安だが、有り金全部持っていって何か買うしか無い。何も装備せずダンジョンに潜るなんて自殺行為だ。それは冒険ではなくただの無謀。いくら強くなりたいからって常識まで捨てる訳にはいかない。
俺は今日のダンジョン探索は休みにして、防具を買うために【ヘファイストス・ファミリア】の店へ向かうことにする。
●
廃教会からメインストリートの方にある【ヘファイストス・ファミリア】の武器防具店にやってきたのだが……
「たっっっっっか!?」
目の前に並ぶ商品はどれも数百万越え、一番安いライトアーマーのセットは一千万ヴァリス。とてもじゃ無いが俺が手を出せる物ではなかった。
銀色の鈍く輝くそれは金色の紋様が描かれ、かなりファンタジーしていてカッコいいが、どれだけ見つめていても値段が変わるわけが無く、ガックシと頭を落とす。
「駆け出しにこの値段は無理だろ〜」
「なんだ兄ちゃん、駆け出しなんか?」
一人で嘆いていると、店員のおっちゃんが俺に話しかけて来た。
黒ひげが特徴的な偉丈夫で、駆け出しで弱い俺は拳一発でやられてしまいそうだ。
「あはは、そうなんデス」
「ならこの店は兄ちゃんには合ってないなぁ」
「デスヨネ」
おっちゃんのムッとした表情に俺は冷や汗と苦笑いが止まらない。
何せ、おっちゃんにとって俺は金のない冷やかしであり、店の運営の邪魔者である。このまま叩き出されてもしょうが無い。
なので、できれば早めにこの店から出ていきたい。おっちゃんに殴られる前にさっさとここから消え去りたい。
そう思っていると、おっちゃんは少しふむと考えた後、俺に提案した。
「駆け出しなら
「へ?バベルの……テナント、ですか?」
「おう、あそこなら俺達の後輩の鍛冶師達が売ってる装備も存在する。それなら兄ちゃんにも買えるだろう」
「あ、ありがとうございます!そこに行ってみようと思います!」
「おう!稼げるようになったら今度はウチで買いに来いよ!」
俺はおっちゃんにお礼を言って、店を出た。
顔は強面でちょっと怖かったけど、全然優しい人で良かった。
俺はそう思いながらいつもは下へ向かう階段へ行くところだが、反対の上へと登る階段を上がっていった。
●
おっちゃんに言われた通り、
「ひっっっっっっっろ!?」
予想以上の広さで困惑した。
当然【ヘファイストス・ファミリア】が超が付くほどの大手だと言うことは知っていたが、まさか四階から八階まで全てそうだとは思わなかった。
俺はこの広さに驚いていても仕方がなかったので、一店一店見て回り自分が買えそうな防具を売っている店を探すことにする。
剣、槍、斧、鎚等々、様々な種類の武器や防具が売られており、どれを見ても元一般人の自分からすれば興奮物だ。
しかし、四階に置いてある装備はどれも数千万ヴァリスもする一級装備ばかりで、俺の求める物が売ってあるのはこの階ではなさそうだ。
俺は五階、六階、七階、八階と順番に巡り、今の所持金で買えそうな防具を探す。
そして、八階の隅の方でひっそりと開店している店の中でふと、異様に目についた装備を手に取る。
「……これは」
見た目はシンプルなライトアーマー、全ての部位が鈍色で統一され、胸、膝、肘、小手、腰等最低限の箇所のみ保護する構造。
もしかしてと思い制作者のサインを探して見る。
だが、そこに書かれていたのは俺が予想していた人物ではなかった。
【フラー・アルベルト】、聞いたことのない名前だ。てっきりヴェルフ・クロッゾの作品かと思ったが、よく似ているだけで別人の物であった。
しかし、これに惹かれたのは事実だ。
どの防具も『良いな』『カッコいい』『強そう』と思っていたが、目の前にある防具を見た瞬間に目が離せなくなった。
サイズも俺にぴったしだし、もうこれ以外は無いと言える。
「……」
チラリと値段を見ると12000ヴァリス。十分予算のうちに入る。
「よし!」
俺はライトアーマーを持ってカウンターで会計をする。
残金は22000ヴァリス。財布の中にはヘスティア様がバイトで稼いだお金も入っているので、生活に困らない程度は残った。
●
新たな防具を買ってホームに戻って来た俺は暗闇の隠し部屋の魔石灯の明かりを付けて、購入したライトアーマーを早速装備してみる。
右左とステップを踏んで動きに支障が出ないか確認するが、今の所全く無い。重さも軽いし、これならスピードを殺すことはないだろう。
それに、ギルドから支給された物よりかなり丈夫だ。これなら直ぐに壊れることもない。
満足した俺はライトアーマーを外して服も脱ぐ。先に夕食よりもシャワーを浴びる事にする。
「……ヘスティア様帰ってこないなぁ」
シャワーを浴びながらそんな事を考える。
正直かなり心配だ。
しばらく留守にすると書いてあったが、そのしばらくがどのくらいか分からないし、行き先も分からない。
もしかして誘拐された!?と嫌な考えが頭をよぎるが、考え過ぎだと冷静になる。
ヘスティア様を拐った所でうちのファミリアの全財産は22000ヴァリス。零細ファミリアの主神を誘拐した所で得られる物はほぼ無い。
それならばもっと眷属を持って稼いでいるファミリアを狙うだろう。
今のヘスティア様にそこまでの価値はない。
『なんてことを言うんだ!』とヘスティアが憤慨する空耳が聞こえるが、俺は無視してタオルで濡れた身体を拭く。
「夕飯は……パンでいいか」
ヘスティア様がいないのに俺だけ食べる為に夕食を一から作るつもりはなかった。
朝食時と同じ様にパンを焼いて、ジャムを塗っただけの物を食べて、寝るまでの時間、俺は静かに読書して過ごした。
誰も居ない空間が少しだけ寂しい。
今回は短めだったかも。