FGOのマスターがまつろわぬ神として顕現してしまった話 作:星の王子さま
第11話です。どうぞ。
ところ変わって此方はギリシャ。
盟友たちの集合場所になった、超巨大青銅巨人がデンと構える、とある砂浜にて「剣の魔王」サルバトーレ・ドニと、盟友の1人「王
ジリジリと細かく動いていた2人だが、遂にドニの方が焦れた。
「きみ、すごいよ。全然隙が無くて、斬り込めない」
「そうかい、そりゃどうも」
「でもさ…このままじゃ、面白くないね」
剣の魔王さまは、武芸そのものについては誠実なようで、守勢を得意とする「槍兵の彼」の隙の無い構えを見事と褒めてくれた。
「槍兵の彼」も、別にそんなに捻くれた性格をしている訳ではないので、言葉と表情には出さなかったが、褒め言葉は素直に嬉しかった。
が、その後のドニの言葉は、とても不穏だった。
そして、直後。
「だからさ、そろそろ、やろうか」
「っ⁉︎」
戦士としての直感が、その場に居ては拙いと判断した。
かつて、目の前の剣の魔王さまより数段早い「駿足に
無念無想の構えから、剣の間合いまで一息に進み、右下から左上への斬り上げ。
「槍兵の彼」は、上体を逸らすことで、ドニの斬り上げを回避する。想定される直後の追撃を更に避ける為、そのまま足に力を入れて、後方に飛び退った。
追撃の想定は当たり、「槍兵の彼」が飛び退った直後に、ドニは斬り上げた剣を、そのまま袈裟掛けに切り下ろしていた。
飛び退った「槍兵の彼」は片膝を地面に付いた体勢から、剣を振り下ろした直後で、即座には動けないドニに向かって、槍を突き出し突進する。
動けないドニの身体の中心に、あと少しで槍の穂先が触れるかといったところで、彼の周囲に楔形文字のような記号が百近く現れ、「槍兵の彼」の穂先を受け止めた。
2つ目の権能を確認、と攻撃が届かなかったことを確認した「槍兵の彼」は、即座にドニの側からの離脱に動く。
体勢を整えたドニは、「槍兵の彼」に向けて、横薙ぎに剣を振るう。
しかし、ドニが剣を構え終えた段階で、「槍兵の彼」はドニの正面から身体をずらして、ドニの身体の側面から後方に抜け出ていた。
そして、お互い向き合って、また最初の状態に戻る。
最初の時との違いは、ある程度お互いの手札が判明した事くらい。それを踏まえた上で「槍兵の彼」は
「…なるほど?キッツイねぇ」
と、あんまりキツそうじゃない様に聞こえる声音で愚痴った。
方向性は異なるが、「槍兵の彼」は今のところ、生前嫌というほどやり合った「騎兵の彼」と、どっこいどっこいなレベルで厄介な手合いだと感じていた。
「っふふ、あぁ、この感じだよ。この、全力で命のやり取りをしている、この感覚」
「…ドンパチやってたオジサンが言えることじゃあ無いが、こんなこと、好き好んでするもんじゃ無いよ。文字通り命が縮んじまう」
あぁ、そういう精神性の奴なのか、と「槍兵の彼」は感じつつも、人生の先達、そして戦士の先達として苦言を呈する。そんな生き方してたら長生き出来んぞ、と。
今の彼は神さまだが。
「へぇ、意外なことを言うね?槍持ちの神さまなんだから、武神の類だと思っていたんだけど、違うのかな?」
「…別に、戦士であることを否定はしないさ。オジサンもそうだからね。ただ戦士であるのみならば、そういう生き方もあるだろうさ。多分、早死にするだろうが」
先程までは後ろにいたが、「剣兵の彼」から定められた自身の役割を果たす為に動き出し、今は既にこの場にいない、生前幾度となくやり合った、あの「騎兵の彼」を思い浮かべる。
あいつは確か、彼の母親に「普通に生きるか、戦士として鮮烈に死ぬか」を選ばされた時、迷う事なく戦士として死ぬ事を選んだという。
事実、生前の「騎兵の彼」は、当時最速最強の戦士として華々しく生き抜いたが、結局は早死にした。
そして、不本意な事に、自分も巻き込まれて早死にする羽目になった。
自分にとっては理解し難いと思う反面、当時色々と背負うモノがあった自分にとっては、そんな生き方が出来るなら気楽で良いだろうなという、ちょっとした憧憬も無い訳ではなかった。
それはそれとして…
「だが、オレは戦士であるだけじゃないんだ。あの時も、今も、背負ってるモノがあるんだ」
「…ふうん?武神以外にも何か側面があるってことかなぁ」
そんな「槍兵の彼」の心意など知る由もなく、知ったとしても、自身の剣を極める事を最上として、一切考慮することの無いお相手の魔王さまは
「まぁ、僕はそんなの知らないし、満足のいく斬り合いが出来ればそれで良い。さぁ、続けようか」
そう言って、再び剣を振るい始めた。
一足飛びに剣の間合いに入り込み、斜め上から袈裟懸けに斬り込む。
「槍兵の彼」は、一歩下がる事で剣の間合いから後退して回避する。
ドニは、後退した「槍兵の彼」を追って更に踏み込み、左から右へ横薙ぎに切り払う。
「槍兵の彼」は、中途半端に距離を取るのは逆に面倒くさくなると判断して、一足飛びに後退する。
再び最初の時と同じような状況になる2人。
消極的な行動しか取ってくれない「槍兵の彼」に対して、今度はドニの方が不満を露わにした。
「…付き合ってくれないのかい?ずっと避けるだけじゃないか。こんな一方的な戦いじゃあ、僕は満足出来ない」
「全身鎧の権能に迎撃不可な剣の権能とか、まともに相手出来るかってんだ…。こちとらただのオジサンなんだぞ」
全身に及ぶ、高い防御力を持つと思われる加護の権能に、中途半端な防御や迎撃を纏めて全て斬り伏せる剣の権能を見て、西欧出身の黄昏の竜殺しや、インド出身の黄金鎧の施しの英雄を思い浮かべる。
…あんな最高峰クラスの強さの相手に、唯のオジサン単騎で相手しろって、そりゃ無理だ。
守勢の戦闘行動を得意とする「槍兵の彼」だが、それでも彼らが相手では継戦するだけで精一杯だろう。
目の前の魔王さまも、そんな彼らと同程度以上の強さなのだ。
このままでは拙いと、戦術の再構成を行う為に考える時間を入れる「槍兵の彼」である。
(今のオレじゃあ、あの全身鎧の如き権能は突破出来ない。アレを貫通するには援護が欲しいところだが…)
そこで「槍兵の彼」は、そういえばと、この戦闘の本来の目的を思い出した。
(いや、そもそも勝つ必要は無いんだったな。戦闘行動であの魔王さまを拘束するのが、この戦いでのこちら側の本来の目的だ。なら、いくらでもやりようはあるか)
攻勢に出る必要が無いのであれば、あのルーン文字の加護を突破する必要は無い。守勢を保ち続けつつ、隙を見て時々反撃を入れて相手をヒヤッとさせつつ焦らしていけばいい。
となると、課題は守勢をどうやって維持し続けるかだが…問題は、お相手の魔王さまの剣が生半可な迎撃を不可とすると思われる権能である事だった。
(とはいえ…ずっと回避し続けるのもかなり負担がデカい。何処かで絶対に打ち合わなければ詰む場面が出てくるだろう)
自身の宝具である槍の刃を見る「槍兵の彼」。彼の持つその槍の穂先は、後の世で、折ろうとして逆に大理石を叩き切ってしまう程、一切の刃毀れをしない名剣として名を馳せている。
まるで「矛盾」の逸話の再現だ、と思いながら、「槍兵の彼」は賭けに出る覚悟を決めた。
ダメだった時の被害を出来るだけ抑える為に、背後に控えてくれている「教導者に
(…逸話的には、打ち合うだけなら、行けると思うが…やってみるか。もしダメだったら、その時は援護を頼むぞ、教導者の弓兵)
自身の宝具である槍に、魔力と言霊を込めていく。
「槍兵の彼」は魔術師では無いので、本来ならこんな事は出来ないが、今の彼は「まつろわぬ神」であるので、その能力として自身の武具の強化位は出来た。
そうだ。自分の剣にして槍は「不毀」を謳う宝具だ。
全てを斬り裂く剣の権能が相手であっても、存分に打ち合って見せろ。「不毀」の名に相応しい様を見せろ!
「我が宝具よ。不毀たる我が剣にして槍よ。不毀を名乗るというのならば、その刃、一片も損なう事なく、打ち合って見せろ…!」
「へぇ?打ち合う気になってくれたのかい?いいねぇ。なら、僕もそれに応えるべきだよね…僕は、僕に斬れぬものを許さない。その槍ごと、君を斬って見せようとも!」
ドニの方も「槍兵の彼」が覚悟を決めたのを感じ取ったようで、それに応える為に、自身の銀腕に言霊を籠める。
攻勢に出たのは、やはりドニだった。
「槍兵の彼」の元に飛び込み、右から横薙ぎに剣を振るう。
「槍兵の彼」は、今度は後退しなかった。
手持ちの槍の柄を切り離し、自身の武具を剣とする。そのまま、ドニの剣に合わせるように、自身の身体の側面に添えた。
結果としては。
「槍兵の彼」は、賭けに勝った。
ドニの剣と「槍兵の彼」の剣が打ち合う、剣戟の音が聞こえる。「打ち合える」という事実を確認出来た「槍兵の彼」は、自身の右腕の掌底で、即座にドニを自身の側から吹き飛ばした。ドニの方は、何故か素直に吹き飛ばされてくれたので、その間に「槍兵の彼」は自身の得物の状態を確認する。打ち合わせた場所がほんの少しだけ損傷している。
(…乱用は出来ないが、打ち合い自体は可能ってところか。相応に魔力を持っていかれるが、後方からの援護もある)
これなら、最悪の想定よりは楽が出来そうだと、吹き飛んでくれたドニの方を見ると、彼は何故かとても打ち震えている様子だった。
え、なんだ何があったと、不気味なモノを見るような目でドニを見ていると、当の剣の魔王さまはこんな事を宣った。
「ははっ!凄いじゃないか!権能込みの僕の剣と交わることが出来るなんて!しかも、君のそれには洗練された戦士の技術もある!いい!いいねぇ!君のことが好きになったよ!もっと、もっと打ち合おうじゃないか!!」
どうやら、自分の権能込みで剣を交わす事が出来る相手を見つけて、その感動に打ち震えていた様である。
(うわー…面倒くさい奴に好かれちまったかもしれんな…)
やらかした気がする、と、ギリシャ組の中では常識人にして苦労人でもある彼は、再び構え直しながら、苦労の元がまた新しく出てきた気配を感じていた。