FGOのマスターがまつろわぬ神として顕現してしまった話 作:星の王子さま
では、どうぞ。
気がついたら、祐理は、知らない街並みの中にいた。
なんの変哲もない、至極普通に見える現代的な街並み。
視界に入る文字はどうやら日本語で、祐理でも問題無く読めるものだった。
しかし、地名や人名、固有名詞を表す様な言葉は、全て黒く塗り潰されていて読めないし、ノイズが掛かった様に聞こえなかった。
「…ここは?」
多少混乱しつつ、現状を見直していく。
周りの会話を聞いている限りでは、祐理が何時も見聞きし、使っている言葉遣いと同じで、特に分かりやすい訛りなどは無さそう。
今、祐理は媛巫女としての巫女装束を着ており、割と目立っている筈なのだが、何故か周囲から視線を感じる様な事は無い。
…この街並みが目に入る直前の出来事と、自身の巫女としての直感の様なものを踏まえて、祐理が出した結論は。
「これは、霊視なのでしょうか?」
誰に話すでもなく、そう呟く。
今までの「まつろわぬ神」に関する霊視は、映像を見せられる様なイメージだったり、頭の中に情報が浮かび上がる様なイメージのものばかりで、今回の様な、まるでその現場に居合わせる様なパターンは、一切無かった。
霊視ならば、これは「人理の防人の少女」に関する情報の筈であり、今後「人理の防人の少女」と対峙する護堂の為にも、出来る限りの情報を此処から拾い上げなければならない。
何か得られるモノはないかと、その場から周辺を見回す祐理。
見回しているうちに、何となくある方向に目を向けると、そこに「人理の防人の少女」の姿らしき人を見つけた。
祐理が見つけたその姿は、霊視に入る直前に見た、白いコートや黒のロングブーツを履いた姿では無かった。
何処の学校なのかは分からないが、何処にでもありそうな、一般的な学校指定と思しき「女子高校生」の服装であった。
友人なのかクラスメイトなのか、周囲にも同じ様な服装をした少女達が居て、彼女達と「人理の防人の少女」は、お喋りしながら歩みを進めている。
祐理と、制服姿の「人理の防人の少女」が、すれ違う。
「人理の防人の少女」は、祐理に見向きする事は無かった。これは記録なのだから、当然だ。
そのまま、学校があると思われる方向に、学友達と歩いていく。
少しずつ遠ざかっていく、少女の背中。
何となく動きづらくて、ポツンとその場に留まっていると、なんと身体が勝手に動き始めた。
「っ!身体が、勝手に…」
目を逸らすな、という事なのだろうか。
祐理の身体は、そのまま「人理の防人の少女」に着いていく様に動いていく。
少女を追いかける様にして辿り着いたのは、本当に何の変哲もない、何処にでもありそうな高等学校だった。
そこから暫くの間は、特筆する様な事は無かった。
本当に、ただ「少女」の、学生としての1日を見続けただけだったから。
学生として授業を受け、子どもとして友人たちと遊び、持参してきた弁当を学友達と囲んで食べて…。
何事も無く、山も谷も無く。
本当に、それだけだった。
学校が終われば家に帰り、家にいる家族に帰ってきた旨の挨拶をして。
学校で出された課題を、自室で進めて。
家族団欒で夕餉を食べて。
寝るまでに、携帯を弄りながら、友人たちとなんて事無いやり取りをして、夜更かししそうになって母に小言を言われて。
そうして布団に潜り込み、やがて寝息を立て始める。
少女の意識に連動しているのか、少女が眠りに落ちていくほど、周囲の景色は帷が落ちる様に薄く、暗くなっていく。
祐理は想った。
あぁ、この人は、本当にただの一般人だったのだ、と。
唯々、それだけを強く感じさせる、霊視だった。
「この霊視は、いったい…」
であれば、この霊視は、一体自分に何をさせたいのか。
祐理がそう思った、ちょうどそのタイミングで、場面が切り替わる。
徐々に明るくなっていく周囲。
今度は、何処か近未来を感じさせる様な施設の、廊下の一画だった。
少女は、何故か廊下の床で、眠りについている。
少女の側には、もう1人の少女がしゃがんで声を掛けている様子。
もう1人の少女は、薄紫色のミディアムボブに紫色の目を持っており、黒い細身の眼鏡をかけている。また、片目が前髪に隠れていて見えない、所謂目隠れという髪型だった。
紫の少女に起こされる、少女。
後に緑を基調とした服を着た、何処か胡散臭い男性も現れ、施設の奥に進んでいく3人。
祐理の身体は、彼ら彼女らを追いかけるように、動いていった。
そこからは、もう、怒涛の展開であった。
恐らくこの施設の中核に当たると思われる、近未来的な機材が纏まった部屋。
何か大事そうな集会の最前列で居眠りをしてしまい、立場のある人と思われる女性から、平手打ちを貰う少女。
自室と思われる部屋で、恐らくサボりの、医療に関する立場と思われる男性と駄弁る少女。
此処までは、まだ良かった。
突如発生した轟音。
停電でもしたのか、部屋の電気が落ちる。
そして、灯る警告の赤い光。
緩そうな顔で少女と駄弁っていた男性は、顔色を変えて、先程の集会があった部屋へ走る。
少女は、直ぐに脱出して助けを求める様に言い聞かされた様だが、彼に続いて走る。
ボロボロになった、生存者の居ない先程の部屋。
瓦礫に下半身を潰され、もう助からない程の重症と思われる、先程の紫の少女。
緊急事態に従って、降ろされる隔壁。
紫の少女の願いを聴き、その手を握る、少女。
日常の中に突然現れた、非日常。
普通の人だったら、きっと、ただ硬直して、何も出来ないだろう。
しかし少女は、動く事が出来た。
あぁ、これが、彼女がこの物語の、主人公たる所以なのかもしれない。
側で見て想いを馳せる事しか出来ない祐理の頭の中に、唐突に「人理焼却」「冠位指定」の2つの言葉が浮かび上がる。
「ここが彼女の、物語の始まりなのですね」
そして、また、場面が切り替わる。
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人理定礎値:C -.- ----
序章:炎上汚染都市●●
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次に祐理が見たものは、炎上する現代的な街並みと、周囲の彼方此方から湧いて出てくる骸骨たち。
そして、後に盟友になると思しき、襲い来る一騎当千の英傑。
何でこんな事にという狼狽/混乱、そして、それでもきっと何とかなるという希望が、少女の心情が、祐理に伝わってくる。
少女は、道中で合流した、先程の集会で平手打ちを喰らわされた、立場のありそうな女性と共に、人理の盾となった紫の少女と、味方として合流してくれた青の魔術師を、辿々しくとも主人として指揮し、度重なる敵襲をどうにか弾きながら、やがて事の原因と思われる場所に辿り着く。
そこは、超級の魔力炉心であった。
その前には、黒く染まった、人理の防人の先達である、反転した●●●。
先達の切り札の一撃に、競り負けそうになる、紫の少女。
危険を顧みず、競り合いの真っ只中、紫の少女の元に駆け寄る少女。
重なる、掌。
『ーーーーーーーーー』
あぁ、自分の直ぐ側で主人にそんな事を言われて、奮い立たない従者が居るだろうか。
先達の切り札を凌ぎ切り、見事勝利する少女達。
そこに現れる、本性を現した、緑を基調とした服を着た、何処か胡散臭かった男性。
「●●●●●」に引き摺り込まれてしまう女性。
崩壊する世界。
そして、それに合わせる様に、祐理の意識は再び落ちていく…
───
炎上汚染都市●●:定礎復元
───
……り。祐理!大丈夫!?」
「っ!」
すっ、と意識が戻り、辺りを見回す。
どうやら、自分が受け取った霊視は、世界が崩壊するあの場面で最後の様だった。
「ぼーっとしたまま反応が無いから、どうしたのかしらと思ったのだけれど」
「霊視か何か授かったのか?私は特には何も得られなかったが」
「祐理だいじょうぶー?」
再び祐理の意識が戻った時の、祐理の目の前にある景色は、先程の浜辺に近い道路の上だった。
霊視を受け取っている最中、何の反応も出来なかったであろう自分を心配してなのか、護堂たちに囲まれている。
「霊視、だったと思います」
自分でも、あまりよく分からない。霊視だとは思うが、今回の様なことは初めてだったから。
受け取った霊視だって、恐らく最初の触り程度の物でしか無いのだろう。護堂が受け取った「人理の防人の神話」は、分厚そうな本だったから。
しかし、今まで受けた霊視の中では、最も鮮明で、印象深いものだった。
ただ知識を受け取るだけでは無く、主人公たる「人理の防人の少女」の心がダイレクトに伝わってきた。
「恐らく、あの『人理の防人の少女』の物語の、始まりの部分だと…」
「どんなだったか話せるか?」
護堂から、受けた霊視について訊かれる。
でも、どう答えれば良いか分からない。
受けた霊視は、知識であり、そして同時に、物語であり、只人だった少女の心の移ろいであった。
この場で端的に纏められる様なものでは無いし、纏めてはいけないものだと、祐理は思った。
「…そろそろ、帰りますか?」
「え? まぁ、顔合わせは無理そうだし、やる事ももうあんまり無いから、そろそろ帰ろうかと考えてはいたけど」
「でしたら…多分長くなると思いますし、自分の中でも少し整理をしたいので、帰りの車の中で、お話するのでも良いでしょうか?」
「そういう事でしたら、また車を出しますので、乗ってください」
だから、護堂たちに、自分が見たものを正しく伝える為にも、先ずは「人理の防人の神話」を、知らなければならない。
祐理は、そう想った。
今回は初回という事で、それなりに諸々書きましたが、今後の展開の中で、FGOのストーリーを事細かに描写するつもりはありません。
ていうか普通に童話風に要約して書くのがムズい…
あ、霊視の最初の場面ですが。
時期的には一部前半、立香がまだ昔の生活を思い返せるくらいの時期に。
インタビューで、立香のカルデア来訪前の生活がどんな感じだったのかを尋ねられたので答えた結果です。