FGOのマスターがまつろわぬ神として顕現してしまった話 作:星の王子さま
21話です。
では、どうぞ。
イラン、バグダード国際空港の一画にて。
尋常でない程に美しい姿の、2人のヒトが共に歩いていた。
片方は、白い貫通衣に白いズボンを履き、淡い萌黄色の長髪をそのまま下ろしている、男とも女とも言えない中性的な容姿のヒト。
その姿は、少年と少女、純粋と淫靡、人為と自然、矛盾した印象を併せ持つ、人間離れした美しさを持っていた。
もう片方は、黒を基調に金の装飾が施された衣装に、外面が赤色で内側が金色のマントを羽織った、金髪赤目の若い女性の容姿のヒト。
その姿は、美の化身そのものであるかの様な、尋常ならざる美しさでありながら、何処か昏い闇の様な気配を感じさせるものでもあった。
2人とも、その姿を見られたならば、その様相の美しさから、間違い無く注目を集めてしまう様な容姿だった。
しかし、沢山の人の目がある国際空港の中に居ながら、2人が注目される事は無い。
すぐそばをすれ違った人でさえ、まるで2人がその場に存在しないかの様に、スルーしていく。
「まつろわぬ神」としてのデフォルトの能力である、気配遮断擬きであった。
2人は現在、少し前に合流した盟友「創世
まあ、つまり、この二人も「人理の防人の神話」の盟友である。
お使いを熟す場所についての指定は特にされなかったので、とりあえず目的の物がありそうな場所として、人が沢山集まっている場所、しっかりした建物が連なっている場所を目指した結果、最も早く目についた施設がこの国際空港であった。
空港内の各所の掲示を参照しながら、とりあえず話を聞けそうなところ、いわゆるインフォメーションセンターに向かっていた。
「ねぇ、本当に此処で大丈夫なのかい?この施設、立派だけど、目的の物がありそうには見えないよ」
「私も分からないわよ。でも、依代の子の知識だと、こういう施設、所謂空港には、お土産屋とか食事処とか…色々と併設されているみたいなの」
「目的の物があるとしたら、パンフレットや書店だろう?空港に併設されてる物なのかい?」
「…ビミョーなラインらしいわ。でも、可能性はあるって。国際空港自体がかなりの巨大施設だから、旅行者向けの諸々の中にありそう、ですって」
そうかい、と返答しながら、緑の人は、各所の掲示を頼りに、目的地に向かって歩を進めていく。
金髪の女性も、向こうで現代的な施設に慣れてて良かったのだわ、と思い耽りながら、緑の人についていく。
最初の目的地は、もうそろそろ着く頃合いである。
─────
「少々いいかな。ここが案内所だと、掲示を見てきたのだけど、合ってるかい?」
その日、何時もと同じように、仕事としてインフォメーションセンターの窓口に立っていた女性は、生涯に一度見えるか否かというレベルの美しいヒトに出会った。
窓口に立っていたその女性は、元々天然気質なところがあって、職場の中では、並大抵の事には動じたりしない事で有名だったのだが。
流石に、今回出会った2人の半ば人外じみた美しさを前にしては、ほぇー、となってしまった。
「……(うわぁ、すっごい美人さん…)」
「…あの、大丈夫かい?」
「……はっ!?は、はい!」
いけないいけない、ちゃんと対応しなくちゃ、と。
目の前の緑の人に声をかけられて、気を取り直す窓口の女性。
天然気質ではあるが、任された仕事はしっかり遂行する、ベテランでもあった。
「まつろわぬ神」の2人が、気配遮断擬きを応用して、現地民の人たちが、自身の姿に魅了されない様に偽装しているのもあるが。
それでも只者ではないと見て分かる2人を相手に、動揺を抑えてしっかり業務を遂行するこの女性も、中々に図太い神経である。
「そうか、なら良かった。で、ここは案内所で合ってる?」
「はい、そうです」
「ここら辺一帯…現在のメソポタミア全域の地図か、地図が載ってるものはあったりしないかい?」
「…メソ…はい?」
今度は自分が知らない単語を聞かされた窓口の女性。
恐らく地域の名称だろうというのは察せたのだが、それが具体的にどの辺りを指しているのかは、知識として知らなければ、対応出来ない。
「…あー、なるほど。ごめんね、少し待ってね」
窓口の女性の反応を見て、「メソポタミア」という単語を知らないのかな、と判断したらしい緑のヒトは、斜め後ろに控えている金髪の女性に、小声で何やら相談し始めた。
「『メソポタミア』だと通じない。何か言い換え出来る言葉あるかい?」
「…中東全域、かしらね。少し範囲が広がるけれど」
相談を終えたらしい緑のヒトは、再び此方を向いた。
窓口の女性は、対応する傍で、目の前のこの美しいヒトは男性なのか、女性なのか、どっちなのだろうかと思っていた。
髪が長かったり、声色が高めだったりするから、その点は女性の様に見えるが、女性的な身体つきをしている様にも見えない。
…まぁ、どっちでもイケてしまえそうな程に美しいヒトなので、結論など出さなくても良いが。
「中東全域の地図、ならどうかな」
「中東全域…でしたら、書店で地図をお買い求めいただいた方が早いかと思います。ここに置いている地図は、バグダードとその周辺までしか記載しておりませんので」
「そうか…ありがとう」
「いえ、良い旅を」
─────
「さて、書店で地図を買う…どうしましょうね」
インフォメーションセンターでのやり取りを終えて、目的の物である、現代のメソポタミア一帯の地図を、書店にて購入する必要が出てきた2人。
金髪の女性は、緑のヒトに今後の方針を、問いかけた。
「商店で物を買うんだ。今の時代、金銭が対価として必要だけども、今の僕たちは持ち合わせは無い」
2人はつい数日前に顕現した「まつろわぬ神」なので、当然ながら、彼らの手持ちには、現地の人間社会で使用可能な金銭など有りはしない。
人間社会の事など気に掛けないような、一般的な「まつろわぬ神」であれば、目的の物を入手する為ならばと、堂々と強盗に入りそうな場面であるが。
この2人の「まつろわぬ神」は、かつての主人との旅の道中の経験で、現代の人間社会を体感・理解していた。
「…金銭を得る手段を考えないとね」
「そうは言っても、私たちには、ここでの伝手とか一切無いわよ。分かっていると思うけれど」
先述の通り、2人とも、つい先日何処からともなく
これで、現代の人間社会の規則に則って、正当にお金を稼ぐには…
「……」
「……」
2人とも、ほぼ同じ様な結論になった様である。
即ち「これ無理では?」であった。
ホワイトな方法で金銭を得る事が無理ならば。
グレーな方法で金銭を得るしか無い。
ついでに言うならば、即時とか即日とか、それくらい出来るだけ早く調達したいところでもある。
「仕方ないか。あまり事を荒立てたくは無いけれど、早急に金銭を入手するには、これくらいしか無さそうだ」
「どうするつもり?」
「現地の魔術関係者から巻き上げようか」
「…えぇぇ…」
グレーな方法で金銭を得るにしても、先立つものは彼らの身1つのみ。
出来ることならば、魔術関係の仕事だと尚良し。
此方において、魔術や神秘がどういう扱いになっているかは分からないが、あまり表に出して良いものだとも思わない。
なので、魔術や神秘が関わらない様な仕事も、せっかくの「まつろわぬ神」としての自身の優位性や使える手札が限定される為、あまりやりたくはない。
…なんか、やろうとしてること、普通の「まつろわぬ神」とあまり変わってない気がするところだが。
純正の神格の1柱である金髪の女性の方は、依代の関係もあって、割と常識人寄りの思考回路をしている。
なので、緑のヒトの挙げた手段に、それしか無さそうと分かっては居るが、やっぱりちょっと引いた。
「他に何か案があるなら言ってくれ」
「無いから返答に困ってるのよ…」
「僕たちには、金銭になりそうな持ち合わせは、今のところ一切ない。なら、あとは『まつろわぬ神』という僕たち自身の身体を使って稼ぐしかないだろう?」
「それは、確かにそうだけれど…」
「これでも、ここの人間社会の事を、それなりに考えているつもりだよ。直接物品を盗みに行かないだけ、まだマシだろう?」
裏社会寄りの位置にあるとはいえ、一応人間社会を構成している組織の1つに殴り込みに行くのは、人間社会のことを考えていると言えるのか…
あちらの魔術関係のヒトや組織は、完全に裏社会に隠れていたので、こういう事をしてもあまり表社会には影響が出ない事が想定された。
しかし、2人の預かり知らぬ事であるが、此方の魔術関係の組織、所謂「魔術結社」と呼ばれる団体は、大抵地元の表社会でも、何らかの名義を持って活動している事が多い。
つまり、残念な事に、魔術結社からお金を巻き上げる為に、結社の元に「まつろわぬ神」が突貫する行為は。
人間社会においては、相応に迷惑以上の打撃を与える事に、なってしまうのだった。
「はぁ…私の中の良識が、途轍もない拒絶反応を示しているのだわ…」
自分の写し身にして姉妹である、あの天空の女主人がこの場に居たなら、宝石の1つでも出させて換金出来そうなものだが。
双方の意思疎通がちゃんと上手くいって、此方の要求が相手に正しく理解されれば、死者が出る可能性が低い、というのが、まだ救いになるか。
金髪の女性は、とりあえずポジティブに、そう考える事にした。
「まつろわぬ神」が人間社会に突撃してくる様な案件で、死者が出ないだけでも上出来過ぎる成果であるという事を、この金髪の女性の姿をした「まつろわぬ女神」さまは、幸か不幸か、知らなかった。
(まだ見ぬ魔術関係者の方々、申し訳ないのだわ…)
今回、敢えて新規登場人物の名称を挙げませんでしたが。
割といい感じになってる気がする。
FGOやってなくて2人が誰か分からなくても、ほぼ問題は無い構成になってる…と思う…