FGOのマスターがまつろわぬ神として顕現してしまった話 作:星の王子さま
第二話です。どうぞ。
顕現した少女は、最初に自身の周囲を見回した。
吹雪である。強烈な、というほどではないが、割と強めの吹雪である。
合間から見渡した限りでは、雪が積もった下り坂の斜面になっているようだった。
そして、背後には如何にも険しそうな山脈の壁がある。ということは、ここは背後の山脈のうちの麓か中腹くらいの位置なのだろうかと、少女は何となく当たりをつけた。
また、視界に入る限りでは、自分に力を貸してくれていた盟友達は見当たらない。ついでに、いつもの如く通信も繋がらない。敵になりそうな何かしらも、一見した限りでは居ないようだった。
彼女は今、正真正銘のボッチであった。
次に、自身の状態を確認していく。
着用している礼装は、最終決戦用の白いコートに黒の手袋、黒のロングブーツ。右手の甲には盟友達との繋がりを示す刻印もしっかりある。
また、自分で分かる限りでは、自身が何らかの状態異常に掛かっているような兆候も無し。至って健康である。礼装の体温調節機能もしっかり働いているようで、こんな吹雪の真っ只中でもちょっと寒い程度に感じるくらいだった。ただし、手持ちの食料品などの物資は何も無い。このままだと餓死まっしぐらである。
今この場から判断できる情報はこれくらいだろうかと、この場から移動することにした。彼女自身は飛んだり浮いたりすることは出来ないし、登山家でも無いし登山に使える道具なども手持ちに無いので、目の前の下り坂を降りていくことにした。
しばらく坂を下っていっても、地面の雪が途切れることは無く、彼女はやがて平坦な雪原に出た。この辺りは吹雪がだいぶ収まってきており、見晴らしはかなり良く、明るくなっていた。
彼女は、ふと気づいて太陽の位置を見る。今は日中のようで、太陽は煌々と輝き、その光を彼女に浴びせにきていたが、太陽自体は、地平線にかなり近い位置にあった。
「…だいぶ低い」
そんな呟きをした後に、少し考える。
現在地の時刻は何時になるのだろうか。日の出の後なら、暫く太陽が沈むことはないが、日の入り直前だとちょっとまずい。
現在地は雪原のど真ん中で、夜を越すには見晴らしが良すぎる。また、周囲に一夜の宿に出来そうな地形も見当たらない。最悪の場合、穴を掘って潜り込み、そこで一夜を過ごすことも考える必要があるかもしれない、と思いながら、彼女は少し足を早める。
とりあえず、今夜を凌ぐことが出来そうな地形に出会えることを祈りながら、先を急いでいくのだった。
…そして、結局良さげな地形に出会うことの無いまま暫く歩き通していた彼女は、またふと気づいた。
「…日が沈まない?」
足を早め始めた時間からすでに割と時間が経っている。
通常であれば、先ほど足を止めて太陽の位置を確認した時が日の出直後なら、今現在は太陽は空高くに昇っているくらい時間が経っている筈であり、日の入り直前であったならば、今現在は既に夜の暗闇に包まれている時間の筈。
なのに、太陽は地平線の向こうに沈むことが無い。そして、逆に太陽の高度が上がることも無かった。これはどういうことなのか。
少女は、一見すると特殊に思える、この現状に考えを巡らせて…
「…白夜?ここ、もしかして北極圏か南極?」
若しくはそれに近い地理をしている場所か。
流石に少し立ち止まって本格的に考え始める少女。改めて周囲を、今度は注意深く見渡してみると、遠くに動く何かがあるのが見えた。
「あれは…」
情報を得るためにもう少し近づいてみると、それは黒い背中の毛皮と白いお腹の羽毛を持った、120センチくらいの高さの生き物。
「…ペンギン?」
いわゆるコウテイペンギンと呼ばれる種類のペンギンさんのコロニーが、そこにあった。この時期のペンギンさんのコロニーは、そろそろ雛が成長し切る頃。
白夜でペンギンさんがいる、ということは…
「ここ、12月の南極かぁ…」
ということであった。
─────
日本を拠点とする「神殺し」草薙護堂と、お付きの4人の少女は、先日、正体不明の弓の英雄と神獣2柱をけしかけてちょっかいをかけてきた、南の島にいるという「火の女神」を名乗る、魔術に長けた「まつろわぬ女神」を相手にするために、その足となる空港に来ていた。この後、深夜の便でマレーシアまで機内で睡眠を取りながらひとっ飛びする予定でいる。
彼らは、空港までの足として車を走らせてくれた甘粕さんと、付近の着席スペースで歓談しながら、入場ゲートが開くのを待っていた。そして、ちょうどゲートが開き、さて行こうかとみんなが席を立ったその瞬間、お付きの4人のうちの1人、霊視の力を持つ媛巫女の万里谷祐理が、その動きを止めた。
「…ん?万里谷?どうした?」
護堂が、動きを止めた彼女にいち早く気づいて声をかけるが、祐理は座ったまま動かない。
何か身体的な変調だろうかと、彼らが祐理の側に寄った時、彼女は呟いた。
「人理……さい、ごの……」
それだけを呟いた後に、ハッとして周囲を見渡す祐理。
優れた霊視の巫女である祐理や、魔女として霊視を受ける事があるリリアナ曰く、霊視の授かり方には、幾つかのパターンがあるらしいが。
今の様子から、祐理が何かに関する霊視を受けたことは、この場にいる全員がすぐに分かった。
「あ、あの!多分霊視だったと思うのですが、私、なんと言っていました!?」
本人が何を呟いたか覚えていないくらいのトランス具合のようだ。
それにしても…
「人理、ねぇ…」
「人理というキーワードがハマるような神話は、何かあっただろうか?」
「神話で見るような言葉じゃなかったねー」
ワタワタしている祐理を半ば放置して考え込む一同。途中から落ち着いた祐理も一緒に2分ほど考える時間をとったが、護堂と彼のお付きの少女達からは特にそれらしいものは出てこない。
そうして暫く考え込んだ後、もしかして、と甘粕さんから答えが出てきた。
「人理と『さいご』という言葉がセットで出てくる神話というと、アレかな。『人理の防人の神話』ですかねぇ」
甘粕さんが、あれは霊視に出るようなガチの神話じゃないと思ってたんですけどねぇ、とボヤきながら言った、その神話。
護堂は何処かで名前だけ聞いた事があるものだったが、お付きの少女たちは一切知らない物だった。
「そんな名称の神話があるのか。何処の地域の神話なのだ?」
なので、当然ながら知っていそうな甘粕さんに、お付きの少女たちから質問が飛んでくるのだが。
その質問に対して、甘粕さんは眉を寄せて、困った様子な顔色をした。
「それが、分からないんですよねぇ」
「分からない?どういうことだ?」
いつもなら、ここからは甘粕さんの神話解説を聞くのが定番の流れであったが、彼もその神話のプロフィールを把握していないらしい。
ただ、甘粕さんが「知らない」ではなく「分からない」と言ったという事は、現在、神話自体の解析が進んでいないという事になる。
考古学が相応に発展している現在において、神話の発祥の土地が特定出来ないというのは、どういう事なのだろうか、と甘粕さんの話を聞く体勢に入った5人は思っていた。
「その神話の原典が17世紀の中頃から存在していた事、その話の出所が日本である事は確定しているんです」
意外と近代、そして、意外な場所。
ていうか場所分かってるじゃん。
と、話を聞きながら思えたのも束の間。
「が、その神話の舞台になっている土地や、大半の登場人物の特徴が世界各地・各年代の幅広い史実や神話の舞台や登場人物と一致するというデタラメぶりなんですよねぇ。一致する内容が1番古くて紀元前27世紀、1番新くて西暦1900年代後半ですよ」
「何だそれは…色々とおかしくないか?」
発祥地が近場だったり、年代が連続していたり等で、何処かの神話の神性や登場人物が、形を変えたり変えなかったりして、他の神話に登場するというのは、まぁよくある事ではあるが。
護堂は、4600年(ざっくり)は幅があり過ぎるだろう、と思った。
お付きの少女たちは、神話についての知識が豊富にある事が裏目に出て、背後に宇宙を背負いかけた。
「ええそうです。17世紀の日本は江戸時代の前半。世界各地の神話を調べていた日本人の記録なんてありませんし、そもそも考古学自体が発達していません。世界全体で見ても、ヨーロッパは30年戦争とかフランスの絶対王政とかの時代ですよ。なのに、その神話は当時の全世界が知り得ないような内容を17世紀半ばの時点で記している…ホラー以外の何者でもないですねぇ」
元々聞き手に回るつもりだったとはいえ、あまりにもぶっ飛んだ話が出てきて、押し黙ってしまった5人に対して滔々と語り続ける甘粕さん。
「タチの悪いイタズラ…では無いのでしょう?」
「はい。恐ろしいことに、事実確認が取れてしまっています」
祐理の苦し紛れのちょっとした抵抗も、甘粕さんによって即座に鎮圧された。
「まぁ、こんな有様の神話ですので、考古学界や我々の世界ではあまり本気にされずに、何かの片手間に研究する程度の題材となってしまっています」
お付きの少女たちが形容し難い表情で話を聞いている様子を見て、苦笑を含みながら、話を一旦締めた甘粕さんは、少女たちがどうにか呑み込んだのを見て、話を再開した。
「しかし、私も念のためと読みましたが、その神話の内容は見事としか言いようがないくらい完成されていまして、読み始めれば皆さんハマると思いますよ。今では全世界に愛読者がたくさんいますからね」
特に、まるで今目の前にしているかの様な情景描写、まるで自分が今感じているかの様に登場人物の心情が書かれているのが、甘粕さんの推しポイントらしい。
我々のようなオタクにとっては、極上の話題になっています。と、甘粕さんは、今度こそ話を締めた。
「私たちが知らなかったのは…」
「我々の業界では信憑性に疑問がある神話だったため、積極的な教授や資料を残したりなどをしなかった、ということでしょうねぇ」
と、ここまで甘粕さんの話を聞いていた一同。そろそろ入場ゲートに入ろうという話になり、ようやく動き出す。
「この件が終わった後にでも、『人理の防人の神話』の本をお渡ししますよ。今後のためにも読んでみてください。こちらも、万里谷さんの霊視の件は報告しておきますので、まずは目先の『火の女神』に集中していただければと」
そう言って、甘粕さんは護堂たち5人と別れた。
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「それにしても、気になるわね…」
飛行機の機内で、護堂の隣の座席に座ったエリカが呟く。
「さっきの『人理の防人の神話』そのものもそうなのだけれど、それが祐理の霊視に出てきたことも気になるのよね…」
そういえば、話のネタは万里谷が霊視でキーワードらしき言葉を呟いたところだったなと、隣で聞いていた護堂は思い出す。それで
「なんか具体的に気になることでも?」
「いいえ、神話の内容を知らないのだもの。だから、神話そのものについては何も言えない。でも、この話、ほぼ確実にあなたに絡んでくるんじゃないかって思って」
そんなことをエリカが言うものだから、護堂はとてもイヤそうな顔をした。