FGOのマスターがまつろわぬ神として顕現してしまった話 作:星の王子さま
第5話です。どうぞ。
鎌倉に顕現した「まつろわぬ神」に対する偵察の為に、正史編纂委員会東京分室から即座に出立した甘粕冬馬は、その視界に「まつろわぬ神」と思しき者を捉えていた。
彼の視界に捉えている「まつろわぬ神」と思しき者は、喫茶店の店外に設けられた座席で、串刺しのお団子を食べていた。
軽装の和鎧を着込み、長く伸ばした黒髪を頭上左上で一度纏めた後に、そのまま後ろに流したような髪型をしている。その側には一本の狸尾の飾りがついた鞘入りの、恐らく長刀。着込んでいる和鎧は、年代的には初期の和鎧に近い仕様のもののようだ。性別は、見る限りどうやら女性のようなので「まつろわぬ女神」となるだろうか。
甘粕の立場としては、少しでも多くの情報を得ておきたいが、これ以上アクションを起こして、かの女神の逆鱗に触れたりしたら不味い。
さて、どうしましょうかねぇ…と思考を始めたその時。
「そこの者、あんまり不躾な視線を寄越さないでほしいものです」
と、視線の先の女神が、明確に此方を見ながら告げた。
バレている。完全にバレている。
この時点で甘粕は、自身と周囲の人々の命運が、完全に女神に握られている、ここで対応を間違えると、鎌倉が壊滅するかもしれないことを自戒した。
ここから逃走するのは論外。相手は女神なれど、その得物を見る限り武神・闘神の類い。であれば、多少の心得があったとしても、たかが人間が振り切れる筈もない。
彼は、覚悟を決めて、目の前の「まつろわぬ女神」に接触した。
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「はむ…はむ…んぅ!さっきのも良かったですが、このお団子も美味しいですねぇ」
「お気に召したようで何よりでございます」
目の前の「まつろわぬ女神」は、甘粕との接触において、最初にお団子のお代わりを所望した。お団子程度で「まつろわぬ女神」の信用を少しでも得られるならば安いものだと、彼はポケットマネーを使用して、今いる喫茶店でお団子を購入する。目の前の神さまは先程胡麻団子を食べていたようなので、別種のみたらし団子を買った。
「それにしても…」
お団子をパクつきながら、目の前の「まつろわぬ女神」は、何やら感慨深い様子で周囲を見渡している。
「彼方において、生前では結局、一度も入る事が出来なかったこの地に、此方のほうで、まさか直接顕現してしまうとは…なんとも不思議な気分だ。一体どんな由縁でこんな場所になったのやら…」
(この地に入れなかった、か)
少しでも情報を得ようと、女神さまの口から溢れる言葉を拾って、推測を広げていこうとする彼だったが、そこに当の女神さまから待ったがかかった。
「あぁ、別に敵同士というわけでもなし。率直に、端的にいきましょう。私の正体を探っているのでしょう?」
甘粕は、まぁ、そりゃバレるだろうなとは思っていたので、頭を下げることで肯定と謝罪を表現する。
しかし、それにしても…今までのまつろわぬ神々と違って、随分と只人に気を遣ってくれる神様だ。
「ま、理由はそれなりに推測出来ますから、何故とは問いませんとも。私のようなものが、本来、この地の者達にとってどれ程の脅威になるのかは、分かっているつもりですからね」
「……」
「あまりにもまつろわぬ神らしくない想定外の反応、と思っていますね?」
あまりにも「まつろわぬ神」らしくない不審さに、甘粕のどこかに疑う様な気配が出てきていたらしい。彼女自身も「まつろわぬ神々」が本来、現地民にとってどのような存在なのかは分かっているような様子であった。
ここまで飄々としていた彼女だったが、甘粕の、言葉に表さなかったその問いに答える時だけは、とても真剣な表情をしていた。
「わたし、これでも一応、人理を取り戻すべく戦ってきたのです。…目の前のこの光景を取り戻すべく、戦ってきたのですから。我らが主人の命でもない限り、無粋な真似はしませんとも」
「さて、私についての情報が欲しい、との事でしたし、お団子もいただきましたから、少し教える程度ならば吝かではないのですが、どうしたものか…」
ここまできて渋るのか、お団子もうちょっと多く買ってきた方が良かっただろうかと少し焦る甘粕。率直に言って気が緩み過ぎている。だが、
「あぁいえ、渋っている訳では無く、どう伝えたものかと。なんせ、私を表現する言葉こそあれど、私自身には名はありませんからね」
名が無いとは、どういう事なのか。まつろわぬ神として顕現するにあたって、神としての名前はかなり重要な筈だが、先ほど彼女が発言した「人理」というキーワードも鑑みるに…と、甘粕が考えているところに
「ふむ…兵法ならば兎も角、こういう事を考えるのはあまり得意では無いので、そのまま引用してしまいましょう。では、名乗らせて頂こう」
そう言って、彼女は名乗った。
「我こそは『人理の防人の神話』にて『遮那王にし
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甘粕と前述の「騎兵の彼女」のように、世界各地で同時に顕現した「まつろわぬ神々」は、その大半が温厚で、即座の戦闘には及ばない様な性格だった。
彼ら彼女らに上手く接触出来た現地の人達は、少しずつ情報を得ていくことに成功していた。
で、だ。上手く接触出来た現地の人達もいれば、残念ながら出来なかった人たちもいる訳で…
代表格かつ最悪の例が此方になる。
「ッハハハハ!ハッハハハ!!!良いぞ!もっとだ!もっと見せろ!お前の力を見せるがいい!お前を殺せば、その力がこのヴォバンのものとなるのだから!」
「…全く。顕現して早々に、このような獣が如き者と闘う羽目になってしまうとは。つくづく運の無い…」
ルーマニアの都市シギショアラの南方にある平原で、まさに「上手く接触出来なかった」代表例がドンパチ繰り広げられていた。
現地の接触者は「東欧の狼王」こと、神殺し「ヴォバン侯爵」であり、相対するは、かの「人理の防人の神話」において、盟友「極刑王に
ヴォバン侯爵が「まつろわぬ神」への接触者の時点で、最初から上手くいく訳がないのである。
侯爵は、権能「貪る群狼」「死せる従僕の檻」を用いて、とにかく数で包み込み押し潰しつつ、権能「疾風怒濤」を用いて、時折落雷を落としてダメージの蓄積を狙っていた。それに対して「槍兵の彼」は、一般的な人の身長以上の長さを持つ正体不明の杭を地中から突き出して狼や従僕達を串刺しにしつつ、雷に対しては、少し離れた地面から斜めに生やした杭を自身の頭上まで延長して、避雷針としていた。
狼や従僕の大半は唐突に自身の足元から出現する杭に反応出来ず、また、正体不明の杭は頑丈かつ電気を通す性質でも持っているのか、侯爵が落とす、ぶっとい雷をしっかり受け止め、避雷針としての役割を全うしていた。
その様は、狼&従僕と杭の陣取り合戦の様相を呈している。
時々飛んでくる権能「ソドムの瞳」を持ち前の対魔力で弾き返しながらも「槍兵の彼」は、この戦いに辟易としていた。
千日手である。このまま新たな展開が無ければ千日手なのである。実につまらない。だが、目の前の神殺しを相手に足止め出来るのは、近場に顕現した盟友の中だと恐らく自分が最適だ。
そう、足止めさえ出来ればそれで良い。近場の盟友達がこのめんどくさい神殺しから離れるだけの時間を、ここで足止め出来ればそれで十分。
ついでに、しばらく大人しくしておかなければならなくなる程度に、相手の魔力を削ることが出来ればなお良し。自分は今いるこの土地との相性が良いのか、魔力の回復が早いので、上手く工夫すれば数日くらいはこの展開を維持出来る。
(だから、早く移動してくれたまえ、盟友たちよ)
と、仲間達に念を送りながら「槍兵の彼」は、戦局の維持に務めるのだった。