呪術高専入学から一ヶ月ほど経ち色々と慣れてきた頃、俺はグラウンドで五条に虐待を受けていた。
「だからぁ!!お前の呪力操作ヘタクソすぎんだって!もっと効率良く回せよ!」
「はぁーー!?お前のその便利な両眼くれんならやってやるよ!ボケが!」
「相変わらずだね、あの2人は」
「まぁいいんじゃない?仲良さそうで」
「「仲良くない!!」」
仲良いじゃん、と硝子ちゃんが言う。本当にやめて欲しい、気持ち悪くて吐きそう。
「腹から回して身体に寸分違わず浸透させんだよ!!呪力量だけなら俺より多いんだからせめて無駄遣いすんじゃねぇ!」
「わかんねぇよ!こちとら最近まで一般ピープルじゃオラァ!!」
「傑だって最近まで一般ピープルだったんだからいけるだろ!」
「いいか、金輪際あそこにいるポケモンマスターと俺を比べるんじゃねぇ。あれはお前を殺すためにこの星が作り出した伝説のマサラ人だ」
「…っ!?嘘、だろ…傑…」
「本当に殺されたくなかったらそろそろ黙ろうか2人とも」
青筋を立てながらにこにこしている夏油傑がとても怖い。あいつの前で煽るのはやめとこう、本当に殺されそうだ。
「でも本当にわかんねぇよ、呪力全力で込めて殴っちゃダメなのか?」
「バカか、そんなんしたら十発殴ったら気絶する役立たずが爆誕するだろうが。あと呪力には個人によって出力差があるって話も前に聞いたよな?」
「あー、そういやそうだった…」
そう、例えるなら呪力量は貯水槽で呪力出力は水を一度に取り出せる大きさと言ったところだろうか。さらにいえば、術式は水を取り出すための道具となる。
「お前は術式無いんだから呪力還元の効率上昇と黒閃の会得だけ考えとけ、それができたら雑魚にはやられねぇよ」
「黒閃ねぇ…そんなもん本当にあんのか?」
「なに?疑ってんの?」
「いや、そんなクソみたいにシビアなタイミングで殴らないと出ないって聞くと見本とか見ないとあんま信用できないっていうか…」
「ほー、いいんだな?」
「へ?」
「全力で両手に呪力込めてガードしてろ」
「え?」
嘘でしょ?まさか、そんな酷いことしないよね?と思ったが束の間、ありえないほどの衝撃と芯にまで呪力を叩き込まれる感覚と共に俺は気を失った。
「掴んだ」
「お?とうとう頭おかしくなったか?」
「言ってろ、あと無限ガードよろしく」
いきなり気絶から目を覚ました俺は、開口一番五条に対して言外にサンドバッグになれと言った。
「殺す気で打って来いよ」
「言われなくても」
そう言って笑い合う俺達、そこには遠慮のかけらもなく、奇妙な友情のようなものも芽生えていた気がする。
「誠也、頑張れ〜」
「おひょひょ」
「うわきも」
やっぱ嘘、こいつはいたぶって殺す。そう思いながら俺は全力で拳を叩き込んだ、
「うっし!!やったぞ!!どうだ!」
「一発で成功させやがった…変態だな、お前」
「誰が変態だ!」
「やっぱり吸収力と土壇場でのポテンシャルの高さは目を見張るものがあるね、彼」
「私が認めた男だからね〜」
「お?硝子にも春が来たのかい?」
「そんなんじゃないよ」
手をフリフリしながらそう返す硝子ちゃん、そんな否定しなくても…とも思ったが何も言わない。藪蛇は突かないし、嫌われてなければなんでもいいのだ。
「あとは実戦でどこまで使えるかだな。てか、黒閃決めた今なら呪力操作も前よりマシになってんだろ。やってみろよ、ホラ」
「ふっ、見とけよ?」
そう言って身体に呪力を巡らせる、さっきの1.5倍は早くなってるな、たぶんだけど。
「まだへなちょこだな、俺の足元にも及ばねぇよ」
「なんだとぉ!!?」
「ま、でもマシにはなったんじゃねーの。二級くらいならギリ祓えるだろ」
ほんとに素直じゃねぇなこいつ、面は良くても絶対モテねぇだろ。夏油の方がモテるって言うのも納得だわ。
そんなこんなで俺は、中途半端ながらも呪力の核心の一端を掴んだのだった。
その後も模擬戦や組み手をしながら全戦全敗の戦績を刻むという作業をしつつ時間は過ぎていった。夏油にもボコボコにされるしどうなってんだこの学校…。
「そういや、任務とかの報酬って階級によってどんだけ差があるんだっけ?」
「脅威度にもよるけど、二級と一級の間で桁が違うくらいには差があるよ。特級ともなれば、普通に億を超えて来る奴もいるんじゃないかな」
「ガチか、命懸けとはいえ金で困ることは無いな」
「私は呪霊倒すのは無理ゲーだから、特別報酬として治した人数と怪我の度合いとかによってプラスになるうえに固定給があるよ。反転術式様々だね〜」
「そんなの気にしたことねぇ」
「実家がバカ金持ちな奴が言うと、もはや嫌味に聞こえねぇな…」
五条が興味無さそうに答える。まぁ、こっちはゴリゴリの一般家庭だし家に金入れて、貯金して、って将来のことも考えとかないとなぁ。
「あ、呪具ほしいんだよな俺。五条、相場とかわかる?」
「ランクによる、何が欲しいんだよ」
「メリケンサック」
「は?」
「だから、メリケンサック」
「あるわけねぇだろそんな呪具。いや、あるかもしんねぇけど特殊すぎるだろ」
「そうか?持ち運びしやすいし緊急時にもつけやすいからよくないか?」
そういうと呆れた顔でこちらを見てくる五条。なんだよ、そんなおかしいこと言ってないだろ。
「…一応、実家の蔵を見といてやる。あと、もし高専の倉庫にも無かったらワンオフで作ってもらえよ」
「おお、ありがとな。てか、そんなんもできんのか」
「呪具の作成をしてる人間は希少だけどいるよ、まぁその中でも一級やら特級を作れる人間とかになると両手で数えるくらいしかいないけど」
夏油もすかさず横から言ってくる。こいつもなんか呪具持ってんのかな?
「ほーん」
「夜蛾先生に紹介してもらったら?」
「そうだな、あとで聞いてみるわ」
とりあえず、来週は修行と並行して呪具探しでもしますかね、そう決めながら自室に戻り気絶するように眠りにつくのであった。