ダンジョンお昼寝部~転生少女は最高のお昼寝を追い求める~   作:コロリエル

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天才探検家クレハ・ヴァレンタインとは

 

 

 天才ダンジョン探検家、クレハ・ヴァレンタインは正しく天才そのものである。

 

 若干十六歳にして最高峰の探検家である証……オリハルコン級探検家と認定されている。探検家へのランク付け制度が実装されて以来、史上五人目の快挙であり、また最年少のオリハルコン級探検家でもあった。

 圧倒的な魔力量から放たれる魔法は最早災害と遜色なく、本気を出せば国の一つや二つを簡単に滅ぼせるだけの力を持つ彼女。当然、どの企業もどの国も、彼女を無視するわけもない。

 さらに言えば、彼女は超人気配信者でもある。探検家としての実力に加え、愛嬌のある語り口調。さらに言えば、幼さを残す顔立ちに一層目を引く空色の髪が特徴的な彼女は非常に愛らしい。彼女の容姿に惚れ込んだ視聴者も数多く、毎回の視聴者数は数万人。国内外問わず、身分関係無く彼女の配信は人気であり、一挙一動に注目を受けている。

 

 当然、各企業並びに国家は彼女のサポートをするためにスポンサーになろうとした。が、クレハはその全てを一蹴し、彼女が大好きで仕方ないという幼なじみが営む工房……『メル工房』と、これまた彼女が大好きな幼なじみである貴族の家『ライオット家』のみをスポンサーとした。

 もっとも、スポンサーとは名ばかりでメル・シーカーが行っているのは彼女への新作アイテムの提供のみ。金銭的なサポートは一切無し。これには大企業の社長並びに国家元首は大激怒した。

 

 しかし、金銭に関してはダンジョン攻略の稼ぎや配信での収入によって下手な貴族よりも莫大な資金を有しており、クレハに必要なのは自分の帰る場所とダンジョン攻略を快適にするアイテムなのだ。そして、彼女の幼なじみ……メル・シーカーは天才である。

 

 彼女がこの世に生み出したアイテムの数は数千件。初心者冒険者用のアイテムから超高級の、それこそ完全魔物排除装置など。この世に与えた影響という意味では、クレハなどとは比べ物にもならないほどの、正真正銘の偉人である。

 

 つまり、クレハとメルはこれ以上ないほどのベストマッチであり、他者が入り込む余地はこれっぽっちも存在しない。

 

 さて、そんな彼女の本日の配信は、いつも通りのお昼寝準備配信。彼女の配信のメインコンテンツであり、配信の六割はこれである。その名の通り、これからお昼寝を行うクレハの準備を垂れ流す配信なのだが、これが非常に人気だ。

 大抵は、ダンジョン攻略を雑談をしながら片手間に行い、目的の場所に辿り着いたらそこでキャンプの準備。昼食を作りそれを食べる、というところまでがワンセットだ。

 

 

「……なぁ、クレハちゃん大丈夫か? 真っすぐ歩けてないけど……」

「あ? お前クレハちゃんの配信見るの初めてか? これは、設置されたトラップを回避しながら歩いているからあんな感じになってるんだよ」

「へ……で、でも! トラップ感知はもっと丁寧に──」

『あー、一応探検者らしいこと言っておこっかな……はーい、皆見えるー?』

 

 

 とある酒場。情報収集がてら集まっていた探検家達がこぞってクレハの配信を見ていた。その中の一人が発した疑問に、丁度いいタイミングでクレハが三台のカメラの内、一台を床に、一台を壁に向ける。残りの一台は自分の姿を映すのを忘れない。

 

 カメラがアップにした場所には、かすかに見える突起物や、張り巡らされた細い糸……凡そ自然のものとは思えないそれは、ダンジョン内に自然発生するトラップである。一日一回、新たなトラップが生成されるそれは、時に探検家の命を刈り取る大変危険な存在であり、探検家の死因の半分はこのトラップ関係の事故などである。

 つまり、探検家にとってトラップ感知技術とはそのまま探検家としての熟練度であり、生存率に直結する。

 

 

『ダンジョン内のトラップの起動……大体ボタンか糸か感圧板。感圧板に関しては下にトラップ本体がある関係で地面が盛り上がってるし、糸は注意深く見れば大体見極められる。一番厄介なのがボタンだけど……床が地面のダンジョンは実はボタンだけ確実に見えるようになってる。ゆっくり慎重に見ていけば、見落とすことはないよ。大事なのは、焦らず冷静に、丁寧に見ることだよ』

 

 

 ま、これが水路系ダンジョンとかだと地獄見るんだけどね! と笑いを取った彼女。酒場の探検者たちは、彼女の言葉を忘れてしまわぬよう、一心不乱にメモを取っていた。

 なるほど、彼女がきちんとトラップ感知を行っているのは分かったと、疑問を抱いた探検者はひと先ず頷く。

 

 

「……で、なんでクレハちゃんはあんなスピードでトラップ感知できてるんすか?」

「……クレハちゃんは、天才だから……」

「……ウス」

 

 

 このように、彼女のダンジョン攻略は非常に参考になる。彼女がダンジョン攻略の手引きを配信するようになってから、ダンジョン攻略での死亡者、重症者の数は圧倒的に減った。

 探検者たちは、天才的な一面を覗かせつつも彼女の体系がしっかりとしたダンジョン攻略技術に敬意を示し、『ダンジョンの申し子』と呼んでいた。

 

 

「……父上、エルダーコッコの養殖って、現実的なのでしょうか?」

「うーん……戦闘力に関しては正直普通の鶏に毛が生えたようなものだから、大丈夫だろうけど……繁殖がなぁ……」

 

 

 所変わって、ここは彼女が住んでいる領地の領主、『ライオット家』。そこの執務室にて、彼女の配信を見ている父と娘がいた。

 彼らは彼女の配信は毎回視聴しており、彼女が配信で溢した内容を聞き逃さないように気を張っていた。

 というのも、彼女の影響力は最早一個人が持っていていい範疇を容易に超えており、実際問題現在街では卵とパンとベーコンの売り行きが通常の数倍になっている。

 

 そして、何より彼女が口にした「エルダーコッコの養殖」。これに関しては一刻も早く手法を確立させないと、同じように頭を捻っている貴族や企業に先を越されてしまう。

 

 

「……オスが周囲に十羽以上居ないと卵を産まないんだろ? 圧倒的にオスが足りない……どうしたものか……」

「それ、オスの匂いだよ」

 

 

 頭を悩まず二人に降り注ぐ、気だるげな少女の声。

 二人が入口に目をやると、そこには扉に凭れ掛かる一人の少女。

 長めの白髪を適当に後ろでまとめ、ゆったりとしたローブに身を包む彼女を見た瞬間、二人はその表情を緩ませる。

 

 

「おお、メル殿。もう来て下さったのですか」

「まーねー。ノエルもやっほー」

「ったく……私の事を呼び捨てにするのはお前とクレハ位のものだぞ」

 

 

 やれやれ、と腰に手を当てため息をつくノエル。彼女もクレハの幼なじみであり、クレハの事務的な作業をサポートするためだけにクレハのスポンサーになっている少女だ。

 クレハの元に届く仕事の依頼などの事務作業は一旦ライオット家が預かり、ある程度の整理をした上でクレハに渡していた。

 やれやれ、とばかりにメルに近寄った彼女はばっと手を広げる。メルはそんなノエルの胸元にぽすんと凭れ掛かると、ぐりぐりと彼女の胸元に頭を擦り付ける。

 

 

「ははっ、相変わらず仲が良いようだな……ところで、メル殿。匂いというのは?」

「んぁー……エルダーコッコのメスは鼻が悪くてね……オスの匂いが近くにないと卵を産まない癖に、鼻が悪いせいで一羽二羽いた程度じゃ産まないの……だから、オスの匂いを染み込ませた布を顔付近に持ってけば、あっさり産むよー」

 

 

 じゃ、後はよろしくと言わんばかりに、ノエルの手を引き執務室を後にするメル。

 あの様子だと、うちの娘は暫くメルの相手で手一杯だろう──そう考えた領主は、大急ぎで書類の作成に掛かる。

 

 内容はもちろん、エルダーコッコの養殖の実験の指示についてだ。

 

 

 ──このように。

 

 クレハの配信は様々な分野に影響を与える。彼女が美味いと口にした食べ物は飛ぶように売れ、彼女が便利と漏らした道具は途端に流行る……それほどまでに影響力を持ったこの世界最高峰のインフルエンサー。

 

 そんな彼女の配信において1番視聴者数が増えるのは、ダンジョン攻略の光景でも食事シーンでもなく……配信が終わる、最後の数分。

 

 

『あー……ごちそうさま、でした……』

 

 

 スープを飲みながら話を続けていたクレハが、空になった鍋をテーブルの上に置き、丁寧に手を合わせる。彼女が食事の際に口にする『いただきます』と『ごちそうさま』は本来この世界にはない文化だったが、自分の血肉になる食料とそれを調理した料理人への感謝を示すものだと説明されてからは世界中で使われるようになっていた。

 

 ふぅ、と小さく息を吐いた彼女は折りたたみの椅子に深く腰かける。その彼女の顔はうつらうつらとしており、目はとろんと蕩けていた。

 

 

『ふぁあ……それじゃあ、きょうのはいしんは、ここまでー……みんな、きてくれてありがとー……』

 

 

 欠伸をしながら、ぽやぽやと舌っ足らずな滑舌で視聴者への感謝を述べる彼女は、もう既にうつらうつらと船を漕ぎ始めた。その姿は、『ダンジョンの申し子』と呼ばれる天才探検家でも世界最高のインフルエンサーでもなく、ただの昼食を食べて眠たくなった少女だった。

 

 

『これからも、クレハ・ヴァレンタインとメルこうぼうをよろしくー……ばいばーい……』

 

 

 最後に別れの挨拶をした彼女は、もはや開いているのかどうか分からない顔でカメラを掴み、その整った顔を近づけ……ぶつり、と映像が途切れる。

 その様子を固唾を呑んで見守っていた探検家達は、暗くなった画面を暫し見つめ……やがて、皆一様に悶え始めた。

 

 

「っかー! 今日もクレハちゃん可愛かったー!」

「マジでそれな! ぽやぽやふわふわなクレハちゃん、守ってあげたい……! でもクレハちゃんは俺の助けなんて要らないくらい強い……!」

「あー! あんな子が彼女だったらなー!!」

「安心しろ。クレハちゃんは幼なじみガチ勢だ。お前なんかはお近付きになることすらできねーよ」

 

 

 そう、彼女の配信が大人気な理由は──単純に、この最後の眠たげな彼女が、ただひたすらに可愛い。

 それ以上でもそれ以下でもない、非常にシンプルにして究極の理由。

 

 探検家としての実力と、配信の質、そして可愛さ。

 

 以上の三つが絡み合い、彼女の格は際限なく上昇していく……彼女自身が思っている以上に、彼女の影響力は凄まじい。

 

 今日も、彼女の可愛さに元気を貰った人々が、午後からの仕事に向けて気合いを入れ直していた。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、クレハはよだれを垂らして爆睡していた。

 

 

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