ダンジョンお昼寝部~転生少女は最高のお昼寝を追い求める~   作:コロリエル

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天才発明家メル・シーカーとは

 

 メル・シーカーは幼なじみが大好きである。

 彼女は内向的で人見知りが激しく、そのためおどおどとした態度が嫌いな同年代の子供たちからは嫌われていた。

 メル自身も、そんな自分が嫌だと思っていた──4歳の幼子が、この時点で自分の性格に難があるということを把握していた時点で、彼女の特異性を語るには十分だろう。

 そのため、幼少期の彼女は自分に自信の無い少女だった。

 

 

『こんにちはっ! わたしはクレハ! あなたの名前は?』

 

 

 しかし、そんなメルの前に現れたのは、齢4歳にして17歳の精神を持った少女──クレハ・ヴァレンタインだった。

 

 

『わ、わたしは……メル。メル・シーカー……』

『メルちゃんだね! なんの本読んでるの?』

『え、っと……これは……おとうさんのほん……』

 

 

 彼女の父親は貸本屋を営んでおり、家に本があることが当たり前だったメル。

 友人もおらず、家に引きこもっていることの多い子供だった彼女が読書に走るのは自然の摂理だった。その日も、静かに本を読めるお気に入りの木陰で本を読んでいた。

 

 しかし、読んでいた本は所謂幼児向けの本などではなく、所謂魔法技術書。魔法を使った道具の作成の手引きが書かれた入門書だった。

 

 それを見たクレハは、大きく目を見開いた。そして、満面の笑みでメルの手を取る。

 

 

『凄いよメルちゃん! こんなに難しい本読めるなんて!』

『──────っ』

『ってええ!? め、メルちゃん!?』

 

 

 家族以外の人から、初めて褒められた──その経験は、メルの脳裏に強く焼き付き、溢れかえった感情がぽろぽろと雫となって落ちていった。

 突如としてメルが泣き出したクレハは、そんなメルを抱きしめて泣き止ませようとする。

 

 やがて、ようやく泣き止んだメルは、すんすんと鼻を鳴らしながらクレハに語りかけた。

 

 

『あ、あの……クレハちゃん……わたしとっ、おともだちになってください!』

『うんっ! もちろん!』

 

 

 ──こうして、クレハとメルは友人となった。

 大人しいメルに比べ、クレハは天真爛漫、天上天下唯我独尊。自分のやりたいことに向かって猪突猛進。まるで自分の体が動くことが楽しくて仕方ないと言わんばかりのクレハだったが、他人のことを慮れる性格であった。

 

 メルが外に出るより家に居たいと理解してからは、クレハはよくメルの家に遊びに行っていた。メルの両親は自分の娘が友人を連れてきたことにそれはそれは喜んでいた。

 

 

『ねぇ、メルちゃんは何になりたいの?』

 

 

 メルとクレハが遊ぶようになってから1年──不意にクレハがメルに将来を問いかけた。

 しかし、この時代は良くも悪くも自分の家に左右される時代。家業の手伝いをしていくのが基本とされていた時代にその質問は大して意味の無いものだった。

 

 

『えっ、と……わたしは、おとうさんとおかあさんのおしごとのおてつだい、かな』

『そうなんだ! わたしはねー……探検家!』

 

 

 だから、その目にいっぱいの希望を詰めたような目で自らの夢を語るクレハは、メルにとってただひたすらに眩く見えた。

 えっ、と言葉を詰まらせたメルを他所に、クレハは立ち上がって身振り手振りで夢を語る。

 

 

『世界中のダンジョンに行って、いっぱいいっぱい冒険するのっ!』

『あ……あぶないよ……ダンジョンはキケンだって、おとうさんが……』

『──それでも、私は行きたいのッ!』

 

 

 この夢は何人たりとも邪魔させない──そんな決意の籠った顔で、クレハは叫ぶ。

 その顔に──メルは、ただ見惚れていた。

 

 

『……ねぇ、クレハちゃん。私……やりたいことできたかも』

『ほんとっ!? なになに?』

『私……クレハちゃんをてだすけしたい』

 

 

 その笑顔を、一生見ていたい──生まれて初めて抱いた明確な目標に、メルは心が打ち震えていた。

 誰よりも輝き、誰よりも大切な彼女を支えたい。それがどのような方法かはまだ理解していなかったが、それでもメルは彼女の助けになりたかった。

 

 

『ほんとっ!?』

『う、うん……私はからだが弱いから、いっしょにダンジョンには行けないかもだけど……でも! きっと何かほうほうがあるはずだから!』

 

 

 これまで大声を出したことの無いメルの大きな声。自分のために何かをしたいという健気な少女に心を打たれたクレハは、そんなメルのことをぎゅうっと抱きしめた。

 

 

『ありがとうっ! メルちゃん、だいすきっ!』

『──わっ、私もっ! だいすきだよ、クレハちゃんっ!』

 

 

 ──そのような幼い約束から、約10年。

 

 

「全く……クレハは変わらないねー」

 

 

 仕事場に取り付けた大型の画面に映し出された幼なじみの顔を見て、メルはやれやれと笑う。

 画面の向こうでは、クレハが鼻歌を歌いながら森の中をスキップで突き進んでいる光景が映し出されていた。なお、クレハが歌う鼻歌はこの世界には存在しない元の世界の曲であり、それを元にした楽曲がこの世界独自の進化を遂げ世界に浸透していた。

 うんと伸びをしたメルは、作業机の前の壁に飾られた写真に目を向ける。

 

 8歳の頃の自分たち。真ん中で堂々とピースサインをするクレハと、クレハにもたれ掛かるメル、そしてそんな私たちを呆れたように笑いながら見つめるノエル。

 

 自分が初めて作った道具──オリジナルのカメラで取った、思い出の写真。

 

 

『あああああああああああっ!!! メルちゃん印のカメラがあああああああっ!!!』

 

 

 突如として部屋に響き渡った悲鳴。何事かと画面に目をやると、涙目になりながら泥だらけになったカメラを拾い上げるクレハの姿。どうやら、手を滑らせてカメラを水たまりに落としてしまったらしい。

 

 

『むう……きちんと映るかな……お、バッチリじゃん! さっすがメルちゃん印のカメラっ! ちょっとやそっとじゃ壊れない! という訳で、みなさんも配信するなら是非『メル工房』のカメラを!』

 

 

 出会った頃から変わらない、きらきらと輝く笑顔を浮かべながらカメラを……いや、メルを褒め称えるクレハ。

 そんなクレハの姿を見て……メルはほぅ、と細く息を吐き、机に突っ伏す。

 

 

「……配信の度に褒められるの、まだ慣れないよー……くふふ……」

 

 

 顔を紅潮させながら、静かに笑みをこぼすメル。

 

 彼女にとってクレハの喜びこそが、自らの喜び。

 自分が丹精込めて作り上げたアイテムを使うその姿が自らの喜び。

 彼女の笑顔が、自らの喜び。

 

 

「……さぁてと……新しい道具の準備でもしようかなぁ」

 

 

 自分の胸の高鳴りをひとしきり堪能したメルは、緩やかに気合いを入れて立ち上がる。

 今朝家に遊びに来ていたクレハが、ダンジョン攻略中にアイスクリームを食べたいと零していたなと思い至る。普通ならダンジョン攻略中に嗜好品を食べる余裕などある筈も無いのだが、クレハ・ヴァレンタインは天才である。

 

 

「そうだなぁ……量は少なくてもいいから、とにかく小型でとにかく軽い持ち運び用の保存容器……まぁ、二日あれば試作品くらいなら作れるかなぁ」

 

 

 さらりと言ってのけたメル。彼女の頭の中は、最愛の幼なじみの喜ぶ顔と、これから生み出す道具のことで埋め尽くされていた。

 

 ──メル・シーカーは天才である。

 

 彼女が生み出してきた道具は数千種類。彼女が本格的に工房を立ち上げ、アイテムの販売を始めてから既に5年。

 その5年でダンジョン攻略での死亡者数は激減。怪我人すら3分の1にまで減少し、探検家のダンジョン生還率も圧倒的に上昇している。

 

 様々な要因が考えられてきたが、世界の共通認識はメル・シーカーが生み出した道具の存在である。

 

 隠されたトラップを見つけ出す『トラップ探知機』に、魔物の群れから逃げ出すための『煙玉』。極めつけはダンジョンから脱出できる『帰還石』。

 これらの存在によりダンジョン攻略の難易度の低下、生存率の上昇。それによる界隈全体の底上げと探検家の死亡による機会損失の予防。

 

 要するに、彼女の道具のおかげで業界が急成長を遂げている。

 

 それほどまでの影響力を持つメル……それこそ、世界を変えたという意味ではクレハ・ヴァレンタインなど比にならない、正真正銘の大偉人。これは昨年の暮れに発行された新聞に記載されていた、『ダンジョン攻略における重要人物10選』において、3位のクレハよりも多い得票数で2位に選出されていることからも伺える。

 

 ──もう一度言おう。メル・シーカーは天才である。

 ──そして彼女は、クレハ・ヴァレンタインのための天才である。

 

 画面に映し出された湖に胸を撫で下ろしながら、彼女は設計図を書くために製図台に座った。

 

 

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