カフェとかバハムートとか   作:ドリベンタス

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番外編


Ovium in Macellum

「姫のご来店でーす!」

 

 明るい髪色の美男子達に混ざって、スーツを身にまとったアタシが歓声を上げる。ヘルソナ・カタリは今、資金集めのためにホストクラブでホストをやらされていた。アタシ、女なんだけどね。

 

「ねぇ、今日も嫌な事あったの?」

「そうそう!聞いてよ〜、バハムっち〜」

 

 何だよバハムっちって。甘々声で泣きついてくるこの女は、早くもドンペリを空けた挙句、ベロベロに酔ってアタシに抱きついて来た。

 

「今日闇バイトクビになっちゃって〜。これじゃあバハムっちに会うためのお金稼げない〜」

「闇バイトクビになるって何!?闇バイトだと分かってんなら辞めなよ!?てかクビになる事あるんだ!?」

「『GOGOティー』ってあるでしょ?あれをお客さんに午前中に飲んでもらうよう誘導するバイトなんだけど〜」

「ずいぶんと小さい闇だなぁ!?そんなんで金稼げんの!?」

 

 いちいち突っ込んでてもキリが無いなと思い始めたとこで、ホストの一人がアタシに耳打ちしてきた。

 

「うちのボスが欲しがってる情報です。しっかり聞いといて下さいね」

「こんな小学生でもやりたがらないようなバイトのどこが貴重な情報源なんだか……」

 

 ホストは立ち去ってしまった。そう。アタシは裏の情報集めにも駆り出されているのである。昨今話題の闇バイトは特に顕著な問題となっており、ここのボスは怪しい闇バイトを管轄下から排除しようと躍起になっているようだ。とりあえず、申込方法とか聞いておこう。

 

「どうやって申し込むの?」

「えっ、バハムっちやるの?」

「やらないよそんなゴミバイト」

「えーっと、まずこのサイトにアクセスして……」

 

 女は、求人サイトから該当の求人を開き、そこから申込サイトのURLを開いた。何とも手が込んでいる……。

 

「で、指定された場所に行って、ガイダンスを受ける」

「どんなガイダンスなの?」

「まず景品表示法の説明から」

「何でそこめちゃくちゃ真面目なんだよ!?」

「『GOGOティー』を午前中に飲んじゃいけない理由の説明も受ける」

「要らないでしょそんな理由。いつ飲んでも同じだよあんなお茶」

「ダメだよ、そういう事思っても口にしちゃ。追い出されるよ」

「それつまり姫もそこのスタッフも薄々意味無いって思ってるんだよね!?!?」

 

 

〜〜

 

 

 そんなこんなで、アタシはこの謎の(ゴミ)バイトの実態を調査することになった。

 

「何でアタシがこんな目に……」

 

 指定された建物の前で呆然と立ち尽くしていると、ここまで電話で情報提供してくれたホストくんから最後の激励が聞こえてきた。

 

「ほんじゃ、俺ら寝るけど、よろしく頼むね〜」

「はーい───」

 

 こっちの方がブラックバイトだよ。そう溢しそうになりながら、メーカーである『SHIMAUMA』が入っているビルの自動ドアをくぐった。エレベーターを待っていると、脇に不審な女がいるのを目撃した。短い茶髪に小さなベージュのリュックサック。女子高生だろうか。その女は、まるでマンガに出てくるあからさまなスパイのように、腰を屈めてゆっくりとエレベーター前までやってきた。

 

「…………何やってるの?」

「げっ」

「『げっ』って言っちゃったよ」

「闇バイトの方ですか?」

「それもう浸透してるんだ……まあ、そうだけど」

「ごめんなさい私の事はどうか内密に……!」

 

 さて、どうしようかな。エレベーターはまだ来ないし、少し話聞いてみるか。

 

「何しに来たの?」

「人探しです。情報でも良いです」

「どんな人?」

「私の友達です」

 

 先程まで怯えていた彼女の目が、急に真剣な目つきに変わった。よく見ると彼女の顔には、マスクと髪で隠れているものの、傷跡のような痣が見える。

 

「…………分かった。何とか嘘ついて誤魔化してあげる」

「ほんとですか!?」

「ただし、アタシの情報収集にも協力してよ」

「何をすれば良いんですか?」

「それはまだ内緒」

 

 よっしゃ。助手ゲット。

 

「君、名前は?」

「"ラムダ"」

「コードネーム?」

「そうです。真名の解放は終わった後にしましょう。あなたは?」

「"バハムート"」

「バッ……バハムート……!?くっふっ!!」

「わ、笑わないでよっ!?」

 

 エレベーターの到着の合図とともに、ドアが開く。二人のスパイは、潜入を開始した。目的地は、地上5階のオフィスだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 5階に着くと、すぐに書類への記入とガイダンスが始まった。

 

「まず、『GOGOティー』の表記が景品表示法的に見て正しいかどうかについてですが───」

(ホントにそっから説明するんだ)

 

 思わずツッコミを入れそうになりながらも、胸中に留める。隣に座ったラムダちゃんは、会場をきょろきょろと見回している。

 

「次に、『GOGOティー』を午前中に飲んではいけない理由ですが───」

(はいはい、どうせ名前に『GOGO』って入ってるからでしょ?)

「『GOGOティー』には、午前中に飲むと中毒症状を引き起こす『グレイト・オーガニック・ガングリオン・オキサイド《めっちゃ有機的で、神経節に何かする酸化物》』、通称GOGOという物質が入っているからです」

(初耳ヤバめ情報きたんですけどー!?)

 

 ガイダンス担当者は、スライドに化学物質の構造式を示しながら、さも知っていて当然かのように解説し始めた。隣のラムダちゃんは、いつの間にか夢の中に行ってしまったようだ。

 

「───以上が、皆様にやってほしいバイトの説明になります。質問がある方は後でこちらで支給する端末のチャットbotに問い合わせてください。それでは、健闘を祈ります」

 

 そんなこんなで、トンデモガイダンスが幕を閉じた。これは思っていたよりもデカい案件かもしれない。アタシは、すやすやと寝息を立てている助手を優しく叩き起こすと、寝起きでうつらうつらとしている助手に忠告した。

 

「こっから先は危険だよ。ここでの情報収集は諦めて別の場所ですると良い」

「嫌です。『渡りに船』ってやつです。この悪事を私は放っておけません」

「大事な説明で寝てたのに何言ってるの。あと、それを言うなら『乗りかかった船』だからね」

「バハムートさんには策があるんですよね?」

 

 ラムダちゃんは、こちらを見据えるようにその茶色の瞳を向けてくる。

 

「……まあね」

「協力しますよ」

「うーん……」

 

 ラムダちゃんって結構頑固だなぁ。まあ、やるだけやってみますか。アタシは、知り合いの情報屋の一人に連絡を取った。

 

「ごめん、明日ちょっと時間ある?」

 

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 一ヶ月後、アタシはラムダちゃんを呼んで、ネットカフェの個室に来ていた。

 

「コーンスープありますよっ!」

「好きなの?」

「はい!簡単に作れるんで」

 

 それはドリンクバーの商品を飲みながら言うセリフか?

 

「へぇ〜、自炊するんだ」

「こう見えて、料理学校出身なんで」

 

 ラムダちゃんの意外な経歴が明かされたところで、アタシはスマホの通知が来るや否や、ネットニュースを開いた。

 

「あっ!『SHIMAUMA』の闇バイトがついに明るみになってるじゃないですか!!」

「記者会見までの流れが秒速だったね」

 

 闇バイトというより、原材料に使用している物質が問題だったんだけどね。

 

「さて、どんなもんかな」

 

 アタシは、専用のサイトで『SHIMAUMA』の株価変動を確認する。

 

「株やってるんですか?」

「アタシは、やってないんだよねぇ」

 

 信頼の失墜により、株価が暴落していく。十分なストップ安まで達したところで、スマホに着信が入った。相手は、先日連絡を取った情報屋だ。

 

「どう?反応来た?」

『良いニュースと悪いニュースがある。どちらから聞きたい?』

 

 情報屋は、いつも通り淡々とした口調で、アタシに提案する。

 

「じゃあ、良い方から」

「君の狙い通り、ホストクラブのボスから融資の申し出があったよ」

「やっぱり株買ってたんだねぇ。これで取引成立ってことで良いかな」

「ああ、助かるよ。約束通り口座に振り込んでおく」

「で、悪い方は?」

「君がやったこと、先方にバレたみたいだよ」

 

 アタシは、荷物を速攻で片付けて、コーンスープを嗜んでいる助手の腕を掴んで部屋を出た。

 

「えぇっ、急にどうしたんですか!?」

「ごめんねぇ、ちょっとやらかしたかも」

 

 アタシは会計を済ませる間、横目でドリンクバーのメーカーを確認する。『SHIMAUMA』の文字が書かれていた。作業服を着たスタッフが二人、「ドリンクバーの点検に来ました」と言って、店舗の入口から入ってきた。

 

「このバッグ持ってシャワールームに入って鍵閉めて。合図あるまで出ちゃダメ」

「えぇ、それって───」

「急いで!」

 

 助手がこちらの様子を伺いながらシャワールームに入るのを確認すると同時に、作業服のスタッフがこちらにやってきた。

 

「すみません。ちょっとお尋ねしても?」

「何でしょう?」

「一ヶ月前、うちの会社のバイト説明ガイダンスに来てましたよね?」

「はい。それが何か?」

「実は、その中に機密情報を外部に漏らした不届き者がいまして、もしよろしければお話伺っても良いですか?」

 

 男二人は、ゆっくりとアタシの退路を塞ぐように回り込んできた。

 

「どうして、アタシから話を聞こうと思ったんですか?」

「あの日の登録者の情報を照合してみたら、一人だけ偽の情報を書いている人がいまして、調べてみたら巷で噂の”グランドロンの詐欺師”って出てきましてね」

「他人の空似じゃないですかね?」

「そうだと信じたいので、一応手荷物を確認しても?」

「ネカフェで止まってたんでメイク道具入ったポーチしか持ってませんよ」

 

 そう言って、アタシは手にしていたポーチを渡した。

 

「では、失礼します」

 

 話しかけていた男とは別の、もう一人の男が中身を確認すべく、ポーチのファスナーを開いた。その瞬間、小さな金属音が鳴った。アタシはすぐさま、身を屈めた。

 

「っ!?」

 

 ポーチからは、勢いよくガスが放出された。通常の形式でファスナーを開くと中の催涙弾が起動する特殊なポーチである。男たちが怯んだ一瞬の隙をついて、アタシは入口から外へ脱出した。隠し持っていたゴーグルのおかげで、催涙ガスの影響は少ない。一般客が少ない時間帯を狙っていて本当に良かった。

 

「まあ、なかなか逃がしてはくれないよね」

 

 店外に出た途端、目の前に黒いバンが停車し、中からスーツを着た男たちが出てきた。アタシは、人混みに紛れるように逃げ出す。

 

「待てゴラァ!!」

 

 治安の悪い怒号を背に、アタシは狭い路地裏へ駆け込む。室外機に足を掛け、二階の窓を開けて中に侵入する。この街の至る所にある、非常用の避難場所の一つだ。

 

「はぁ……はぁ……一旦は撒いたかな」

「いや、アンタはここで終わりだ」

「!?」

 

 暗い部屋の奥から、男が現れる。事あるごとに情報収集を依頼してきたホストの男だ。

 

「ボスは見事株に失敗して、アンタとグルのヤツらから金を借りることになった」

「元から会社の悪い噂あったでしょ」

「その情報を集めて揉み消すのが俺らの裏の仕事だったんだよ!」

 

 男は刃物を取り出し、アタシの方へ向かってきた。アタシは入ってきた窓から飛び降り、来た道を戻る。追ってくる「SHIMAUMA」の手先はいないようだ。アタシは、人の多い通りへ出る。後を追う男は、ポケットからメダルを取り出すと、アフロン(アフロヴェナトル)を召喚した。

 

「こんな人多いところで!?」

 

 リバイバーに追われたら逃げられない。アタシは苦肉の策として、メダルを投げた。

 

「適当に足止めお願い!」

 

 突如出現した”全てを失ったアレクトロ(アレクトロサウルス)”は、向かってくるアフロンに襲いかかった。

 

「逃がすか!!」

 

 男は、暴れ回るアレクトロとアフロンを避けつつ、人混みをかき分けてアタシを追跡した。持っていたスマホをポケットにしまったアタシは、近くの店の中に入る。まだ少し煙たい店内を抜け、アタシは突き当たりに差し掛かった。男は、廊下の入口側に立ち、アタシの逃げ道を塞ぐ。

 

「俺らにも『SHIMAUMA』にも追われて、タダじゃ済まねぇぜ?アンタ」

「一つ、伝えておくよ」

 

 アタシは、我ながら不気味な笑みを浮かべていたと思う。抑えきれない興奮の中で、アタシは男の目を見て言い放った。

 

「『SHIMAUMA』に追われてたのは嘘だよ」

「……………………は?」

「君は、アタシのスマホで居場所を確認してたよね?ここで『SHIMAUMA』の手先に追われて逃げていたのも知っていた。でも、『SHIMAUMA』の手先なんて、最初から存在しなかったんだよ」

「じゃあ、アンタを追いかけてた奴らは何だったんだよ!?」

「アタシの知り合いに協力してもらったんだ〜。アタシが株価を下げるような操作をしたと勘違いさせるために、ね」

 

 男は驚愕の表情を浮かべるも、刃物を握り直し、アタシににじり寄ってきた。

 

「だとしても、アンタはここで終わりだ!」

「ひどいなぁ〜。アタシは情報を漏らしてないのに。『SHIMAUMA』が勝手に事実を認めただけだよ?」

「真実か嘘かなんてどうでもいい!アンタは俺らにとって危険だ!」

 

 男は、そのまま歩を進め、扉の前に来た。

 

「今だっ!!」

 

 アタシの合図で扉は勢いよく開き、男はドアに押し飛ばされた。

 

「んぐえぇ!!」

「バハムートさん!怪我とか無いですか!?」

 

 ドアの向こうから出てきたのは、ラムダちゃんだ。さすがは我が助手。

 

「ありがと。おかげでご覧の通り五体満足!」

「もう……心配したんですからね!」

「こ……この……」

 

 立ちあがろうとする男から、アタシは刃物を奪う。

 

「『SHIMAUMA』に追われてるという事実を作れば、君達も口を割ると思ってね。融資の契約が成立してから、君達を通報する手筈になっている」

「な、何だと!?」

「君達のとこでバイト始めた時から仕組んでたんだ〜!意外と上手くいって良かったよ〜!」

「さすがバハムートさんです!」

 

 現れた警察官によって、男は取り押さえられ、アタシは録音していたスマホを渡す。

 

「ヘルソナ。今回はそういう契約だから見逃してやるが、あんまり好き勝手動くと容赦しねぇぞ」

「はいは〜い。行くよ、ラムダちゃん」

 

 警察を事前に取引で買収しておくのは、当然だよね。

 

 

 

 

 

 

〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「───つまり、ホストクラブの会員に融資の契約をさせた上で、闇バイトの関与を暴くことで、街を裏で牛耳ってたホストクラブを完全排除したって事ですか」

「そういうことだね」

 

 後日、アタシはラムダちゃんと小さな喫茶店に来ていた。ラムダちゃんは、カフェオレを飲んでいる。アタシは、一番安いコーヒーに砂糖を入れている。

 

「バハムートさんって、頭良い感じなんですね」

「アレで頭良いとは言わないよ」

 

 アタシは、コーヒーに口をつける。まだ熱い。

 

「それでも、カッコよかったですよ。バハムートさん」

「…………」

 

 あまり言われたことのない褒め言葉に、アタシはどう返して良いのか分からなかった。生まれつき誰かに嘘をついてきたアタシは、そんなに周りから褒められるような人間じゃない。

 

「………………その、ラムダちゃん。アタシは───」

「っ!?」

 

 突然、ラムダちゃんは血相を変えて立ち上がり、店外へ飛び出した。アタシは、店員に「すぐ戻ります!」と伝えて後を追った。

 

「はぁ……はぁ……急に、どうしたの……?」

「……見失いました」

「誰を?」

 

 ラムダちゃんは、俯いたままアタシの方へ振り返る。目にうっすらと涙を浮かべて。

 

「バハムートさん。一生のお願いがあります」

「……え?」

「私、バハムートさんの仕事手伝います。何でもやります。だから…………」

 

 ラムダちゃんは、縋るようにアタシに懇願した。

 

「私の親友を、見つけてください!」

「親友……?」

 

 そういえば、人探しをしていたと言っていたのを思い出した。ラムダちゃんは涙声で続けた。

 

「私……本名は真屯(ますみ)らむって言います!隣町の料理専門学校に通ってたんですが、途中で野良リバイバーに襲われて……私の親友の一人が、行方不明になってるんです……」

 

 聞いたことがある気がする。女子高生3人が襲撃されたってニュースが連日報道されていたような…………。

 

「お願いします!私の大事な親友を──────」

 

 らむは、アタシの手を強く握り、深々と頭を下げた。

 

「”ジェシュイ”を、探すの手伝ってくださいっ!!!」

 

 その女性の名前を、アタシは知らない。しかし、アタシは、とんでもないことに身を突っ込むことになりそうだと、確信した。

 

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