異端の魔族がフリーレンに殺されるまでの話 作:マハトの幻影
「ハイター様はノングラータ様の事を魔法使いと言ってしました、私は一回しか会っていないので
道中、フェルンはノングラータの事を話した。
とは言っても一度の会合しか無かったためそれ程長い時間はかからなかったが。
それを聞きながらフリーレンは先程読んだ手紙の事を思い返していた、あまりに整い過ぎた字のことを。
同じ単語が二回出てきたのをフリーレンは見た、その二つが一切のブレもなく同じ文体で書かれていたのをフリーレンは見た。
普通にペンにインクをつけて書いたのでは決してそのようにはならない事を、フリーレンは知っている。
「着いたよ。フェルン、杖を構えて」
「フリーレン様?
丘の上に、彼女はいた。
雪の多い場所で使われるような帽子を被って、見たこともない形の杖を持って、美しき彼女はそこに立っていた。
「驚いた、本当に驚いたよ。僕の気配に気づくなんて」
「少し前、迷宮でお前のような魔獣に会ったことがある」
「魔獣扱いか、あながち間違ってもないのが辛いところだ」
フェルンは得体の知れないソレを警戒していた、警戒の理由は何も突然現れたからだというわけではない。
嘗て一度だけ会ったノングラータと同じ姿をしているのに、同じ声音だと言うのに、それは気味が悪くて仕方がなかった。
「体外へ放出される魔力をゼロにする……そんな芸当が出来る奴が僕以外にいたとはね」
「正しく言うなら魔力を隠す魔獣だけどね、お前も何かの魔法で隠してるの?」
「なんでそんなに高圧的なんだ、僕は別に敵対しようと思ってきたわけじゃ無いよ。手紙だって出したろ?」
普段の優しげな声音は鳴りを潜め、敵対者へ向けた冷徹な言葉が彼女の口から吐き出される。
正確にはまだ敵と決まったわけでは無い、もしかするとハイターの友人が少しのおふざけをしてコッソリ現れただけかも知れない。
だが、長年の経験によって培われたフリーレンの勘が女を敵だと告げていた。
「……帽子から角がはみ出てる」
「ウソ⁉︎………しっかり隠れてるじゃん心配させないでよ」
「やっぱり魔族だったか。フェルン、私の側から離れないで」
そう言うとフリーレンは杖を用いて魔法による攻撃を行った。
フリーレンに確信があったわけでは無い、そもそも魔族が角を隠すといった事は滅多に無いし魔力を隠すとなればそれ以上にあり得ないことだ。
だが、フリーレンは既存の常識より自らの直感を信じた。
ヒンメルたちとの戦いで磨かれた直感を、自らのあだ名となるまで魔族を殺し続けた故に手にした直感を、彼女は信じたのだ。
「ブラフ?まんまと引っかかったよ……
女は宙空に浮かび上がると、様々な角度より襲いかかる魔法を防御魔法で捌いていった。
「さて、僕としては君と話がしたいだけで戦うつもりはないんだ。一旦停戦といこうよ」
「フェルン、魔族の言葉に耳を貸さないで。それと援護お願い」
「わかりました」
「返答もなしね、冷たい人だ」
魔族に続いてフリーレンの空中に浮かび上がる。
フェルンの援護射撃を物ともせずに、魔族の女はフリーレンへと語りかける。
「魔王を倒した伝説の勇者一行の一員にして千年生きるエルフ……魔力切れは期待しない方がいいかな。僕と同じく体外放出魔力を抑えてる。前評判通りなら魔力量もこんなもんじゃ無い筈だ」
「ノングラータは何処?」
フリーレンは魔族の言葉に耳を貸さない、会話の通じる相手だと思っていないからだ。
魔族に対話を期待するな、魔族の考えに共感できると思うな、それはフリーレンの根底に根付く常識である。
「僕がノングラータ本人だ、まあ、どうせ信じないだろうからフェルンに確認してくれ」
「フェルン」
「角がある以外は同じ姿です、声も一緒でした……歳を取った様子すらありません」
地上から途切れる事なく援護を続けるフェルン、その脳内では幼い頃の記憶が流れていた。
聞いた事もない昔話を聞かせてくれた人、自分と遊んでくれた人、それが今魔族であると自称して目の前に立ちはだかっている。
フェルンは複雑な心境を抱えていた。
「そう、ならお前は最初から魔族である事を隠してハイターのところに行ったの?」
「勇者一行の一員が僕の擬態を見抜けないとでも?ハイターも僕が魔族だって事くらい知ってたさ」
「おかしいね、それならお前はハイターに殺されてる筈だ」
「老いた彼に負けるほど僕は弱くないよ。それに、一応とはいえ僕と彼は友好関係にあった。信じるか?フリーレン、人の心を理解する魔族を」
二人の会話は猛攻の中行われていた。ゾルトラークを基本に幾つかの魔法で魔族を殺さんとするフリーレンに対し、その全てを防御魔法で受け切る魔族の女。
地上のフェルンにとって、それはまさに異次元の戦いであった。
今の自分では到底参戦出来ない戦いの場が、そこにはあった。
「そうだな、このままだといつまで経っても埒があかない。仲良くテーブルでお話しなんて絶対無理だろうし、このまま話すとするか」
この戦いでこれまで一切攻撃魔法を使わず、防御のみに徹していた彼女がようやく攻撃に転じた。
地上で咲き誇る花の花弁が彼女の手の中へと吸い込まれるように登っていき、やがてそれらは一本の剣を作り出した。
「