異端の魔族がフリーレンに殺されるまでの話   作:マハトの幻影

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理想像、又は傲慢なる魔族の夢

「ハイターに手紙を送ろうと思ったのはたまたまだ、強いて言うならヒンメル亡き今勇者パーティーで一番話が通じそうだと思ったからかな」

 

 厄介、それがフリーレンの実直な感想であった。

 ノングラータを名乗る魔族の攻撃を防御魔法と浮遊魔術で避けつつフリーレンは思考する。

 何が厄介か、その理由はいくつかあるが最も大きいものは戦闘場所だろう。

 ノングラータの射線上には町がある、ノングラータの花弁の攻撃範囲内にはフェルンがいる、その気になればいくらでも被害を出せる位置に魔族が浮いているのだ。

 そのためフリーレンは村を狙った大技を警戒する必要があるのに加え、地上のフェルンに気を配らなければ行けない。

 フェルンの強さを疑っているわけではなく、目の前の魔族が強過ぎるためだけに。

 

「彼も初めは信じなかったさ、だから僕は実際に自分の姿を見せることにしたんだ。とは言ってもリモート───つまりは遠距離での通話でだけどね」

 

 操られている花弁はフリーレンとノングラータの間を舞い、視界を遮っている。

 それだけでなくフリーレンに近づいた花弁は多種多様な状況を作り出した、発光する花弁爆発する花弁多量の酸へと姿を変える花弁。

 

「……お前のそれ、入れ替え魔法だね。しかも随分と練度が高い」

 

「よくわかったね、僕の話をガン無視して解析でもしてたのかな?」

 

 これだけの魔法、初めフリーレンは『花弁を多種多様な物体に変える魔法』ではないと予測していた。

 本当にそうならば魔力消費量は恐らくかなり高い筈だ、それにかの黄金卿マハトといえど魔法による変化先は黄金のみで多種多様な物体を作り出す事はできない。

 そして最大の根拠は花弁が爆発する際、一瞬別の何かが見える事。

 更に幾つかの確認を終えフリーレンは疑惑を捨て新たな確信を手に入れた。

 

「どこかの倉庫に爆発物とか酸を置いておいて、花弁と入れ替える。光るやつはわからないけど多分きっとそう。違う?」

 

「正解だよフリーレン、確かにこれは『指定範囲Aの物体を任意物体Bと入れ替える』魔法だ。生憎省略名までは考えてないけどね」

 

「フェルン、花弁に気をつけて。多分嘘は言ってない、これは知ってる方がやりにくい魔法だ」

 

 相手に教えた方が魔族の得になる故に、嘘はついてないとフリーレンは判断した。

 花弁が別の何かを入れ替わる、この上なくシンプルな魔法だ。

 だが、それ故に脅威たり得る魔法でもある。

 あの魔族は最低でも数百枚の花弁を同時に操れる。

 ならばそれら全ては爆発物や毒物に変わる可能性を考慮しなければいけないと言うのは、あまりに難しい。

 相手がこれほどの強者となれば尚のこと。

 

「戦闘しながら話すって言ったけど、それだと流石に僕の体が持ちそうにないな。勇者一行を舐めてたわけじゃないけど、老いによるデバフがないってのはこれほどのものなんだね」

 

 ハイターを基準にするのは不味かったかな、と付け加えて魔族は地上に降り立った。

 地上という同一のフィールドに戦場を移され接近を余儀なくされたフェルンは、バックステップで魔族から距離を取った。

 戦いというのは空中対地上ならば条件にもよるが基本的には空中が有利だ、だが魔族の狙いがわからないためにフリーレンもまた地面への着地を行った。

 

「最後に一応もう一回言うけど、ゆっくり話し合おうよフリーレン。フェルンも一緒にさ」

 

 返答はない、フリーレンは次なる魔法をいつでも放てるように備えていた。

 相手が如何様な攻撃を行っても反応できるように、

 

「反応ナシか……想定通りだし嬉しいよ。君のその行動こそが人と魔族が共存可能である事を示しているんだから」

 

「何を───」

 

 人と魔族の共存、あまりにも荒唐無稽なイカれた発言に思わずフリーレンは疑問を抱いてしまう。

 

「少し自分の言動を振り返ってみなよ。どうして君はフェルンに「魔族の言葉に耳を貸すな」と警告した?」

 

 フリーレンは答えない。

 

「もしここにいるのが僕じゃなく人語を操る危険な獣───と一眼でわかるような異形の生物だったらわざわざ警告する必要はあったのかな」

 

 フリーレンは反応を示さない、あくまで対外的には。

 

「ないだろ、だってそんな獣誰が見ても危険なんだから。つまり君がフェルンに警告した理由は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』というのが大きな要因を示す」

 

「……だったら?」

 

 それがどうしたと言わんばかりの態度で、ようやくフリーレンは沈黙を破った。

 

「それに加えて君は見てきたんじゃないのか?あの輝かしき英雄譚の最中で、『魔族と分かり合える』『この子だけは違う』『反省の余地がある』そんな戯言をほざく人間達を。その結果積み重なった人間の死体の山だって見てきたんじゃないか?」

 

「……」

 

 図星であった。

 魔族の擬態に騙され死んだ人間などそれこそ星の数ほど勇者一行が見てきている。

 それらの殆どはフリーレン達が辿り着く前に貪られた、いわゆる『英雄の助けが間に合わなかった死体』であり、彼らの愚かな行動は近くの村人などから散々聞いている。

 もちろん、かの勇者ヒンメルはその行動を愚かなどと思い糾弾する事は決してないだろうが。

 

「大規模戦争の真っ只中でさえその程度の認識だったんだ、今はもっと酷いはず。実際僕の顔だけ変えて『私は人と分かり合える魔族です』ってアピールを辺境の村でした事があるんだけどね、これまた受け入れてくれる確率が高いんだよ。アホらしいだろ?」

 

「殺したのか?」

 

「いいや、今でも僕の分身や部下はその村に滞在して研究を行ってるさ。っと話が逸れたね、つまりはまぁ『魔族に対して絶対的忌避感を持ち命乞いを無視して容赦無く殺害することが出来る』なんて人材はとてもとても少ないんだ」

 

 魔族の戯言の中には隠しきれない真実がある、隠すつもりの事柄とは別の知識が漏れ出てしまう事がある、それがフリーレンの認識。

 分身、その言葉に彼女は注目した。

 そして兼ねてからの違和感が解消される。

 魔力の流れや攻撃方法に感じていた違和感、これら全て目の前の魔族が分身だというのなら説明がつく。

 

「インターネットもビデオもないこの世界では、直接魔族の脅威を知る事が難しい。彼らの本質を知るときは斬られ撃たれそして喰われ死ぬときだ。さて、ここまで説明したところで僕は一つの仮定を提示しよう」

 

 フェルンは呑まれていた、その魔族の語る異様な話が生み出す雰囲気に。

 対してフリーレンは頭蓋の内を冷たく保っていた、こればかりは経験の差と言えるだろう。

 

「もし仮に、今からすべての魔族が人間を傷つけなかったらどうなる?」

 

 フリーレンは動けない、恐らく分身である相手に火力を集中してしまえばいつの間にか現れた本体に殺されてしまう可能性があるからだ。

 周囲に魔力の気配はないが、入れ替え魔法を持っている相手にその前提は通用しないだろう。

 生物の入れ替えが可能なのかはわからないが、不可能と決めつけ攻撃にかかるのはあまりに楽観的すぎる。

 

「あぁ、もちろんその間僕は人類と魔族の融和を推し進めるさ。王都に交渉を持ちかけるのではなく領主それぞれと話をするさ。魔族の中でも見目麗しき者を祭り上げ……そうだな魔物から市民を守る自警団でも作ろうか」

 

 だが、このまま黙って話を聞いているだけでは居られない。

 元勇者一行所属、葬送のフリーレンは敵を倒すための策を弄していた。

 それはまだ、思索の段階だが。

 

「一年が経った頃、かの大戦を知らぬ世代は魔族へ好意的視線を向けるようになるだろう。なにせ誰も魔族に殺されていない上に自分たちの味方になってくれるんだから」

  

 一般攻撃魔法──防がれて終わり。

 フェルンを逃して範囲攻撃を含む全力で戦う────本体にフェルンが殺される恐れ有り、それにフェルンだって戦力にはなるため惜しい、広範囲魔法を使うためだけにフェルンを逃すのは割に合わない。

 フェルンを逃すフリをして遠くから狙撃してもらう───本体からの攻撃リスクがはあるが悪くない手。

 

「まぁ、みんながみんなそうとは限らない。魔族の策略を疑う市民も多いだろう。だが、碌に連絡手段もないこの世界では彼らは団結できない。周囲で魔族肯定派が多数となれば容易く掌を返すさ、誰しも孤立は避けたいだろ?」

 

 ここまで話が進んで初めて、フリーレンに疑問が浮かび上がった。

 魔族は生涯かけて一つの魔法──防御魔法や浮遊魔法を除く──を研究し尽くす。

 ならば花弁を操る魔法と入れ替えの魔法を使うこの魔族はなんだ?

 これ程までに人心を理解した戦法を話すこの魔族はなんだ?

 親に育てられてすら居ない魔族が孤立の概念を理解できるのか?

 私は今、何と対峙している?

 

「そして、それが十年二十年と続けばそれだけで人類から魔族へのイメージは変わる。寿命の長いドワーフなどは大戦の記憶を色濃く残してるからダメかもしれない、だけど彼らはニンゲンに比べて数が少ない。どうにでもなる。王都が魔族を警戒しろとお触れを出すかもしれない、だけどそれになんの意味がある?実際に身近で被害が無ければ人は警戒なんてしない」

 

「……随分練られた話だけど、前提が破綻してるよ。魔族が人を襲わなくなるなんてあり得ない」

 

 それがフリーレンの率直な感想だった。

 恐らくこの魔族は随分と人を研究したんだろう、これまでで一番人を理解した魔族かもしれない。

 

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 これほど人間を知る魔族が同族に知恵を授けたのならどうなるか、今以上に複雑巧妙な仕掛けで魔族は人間を襲うようになるに違いない。

 それはダメだ、それだけはダメだ。

 あのフリーレンが珍しく必死になる。

 脳裏に思い浮かぶは勇者(ヒンメル)の姿、フリーレンはリスクを背負い分身と会話を続け本体を引き出すことに決めた。

 

「そうだね、それが僕の今後の課題だ。魔族にとって人を襲って食べるのは本能だからね、下手にそれを無くそうとすればロボトミー手術の再来だ。それはゴメンだよ。それに、魔族のアイデンティティを無くして人間に寄せるだけの行為を僕は共存とは言わない。同様の理由で僕が魔王になるのも無しかな、実力が足りないのは当たり前として『人を喰うな』なんて命令を魔族に出したくない」

 

「共存……何を企んでるの?」

 

「あぁ、言ってなかったっけ?僕は人間と魔族の共存を目指してるんだ。まだまだ前途多難だけどさ」

 

 アタマが、イカれてる。

 フリーレンはそうとしか思えなかった。

 

「……あの、ノングラータさんはハイター様にもそれを話したのですか?」

 

 ここでようやくフェルンが口を開いた。

 

「そうだね、今話したのより数段詳しく語ったさ。まぁ怪訝な顔されただけだったけどね。っとそろそろ時間だ。ラントのためにレモンパイを焼かないと」

 

 クツクツと笑いながら魔族は語る。

 そして懐からソレを取り出すと魔族はソレをこめかみに当てた。

 

「悪いけど、僕の本体がここに来る事はないよ。そして、これが約束の渡したいものだ。きっと役立つ。使い方は触れればわかるよ」

 

 ソレが何か、説明できる人間はこの世界には存在しないだろう。

 火薬と鉄をを敷き詰めた弾丸を、燃焼と魔力で撃ち出す兵器。

 

「じゃあね、次はアウラと一緒に来るよ」

 

 乾いた音がして、魔族は倒れて分身は消滅した。

 その一部始終をフリーレンは瞬きもせずに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

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