「ようこそ呪術高専へ!俺は君達を歓迎するぞ!」
腕を組んでねじり鉢巻をした平凡な顔をした男が、真新しい高専の制服に身を包んだ男女を迎える。
きょとんとした顔でその男を見返す男女……虎杖悠仁と釘崎野薔薇。
二人はお互いに見つめあったあと、小さく頷くと、その男の前にある器を同時に指差した。
「「それ、なに?」」
「しょうゆラーメンだ!」
「また始まった……」
そう呟くのは二人と同学年の伏黒恵。
呆れたように言いつつも、用意されたそのラーメンを密かに受け取り、マイ箸を取り出していた。
一方悠仁と野薔薇の二人は一瞬面食らったものの、その器から香る香しい醤油の香りと、昼近くという時間帯もあって、咥内に唾液が溢れるのを止められなかった。
「麺から俺が手作りした特製しょうゆラーメンだ!好きなだけ食っていいぞ!」
「えっ!いいんっすか!?」
「ラーメンかぁ……」
喜色満面の笑みを浮かべる悠仁の隣で、野薔薇はラーメンに眼を奪われながらも、少し悩ましげに顔を歪める。
「おお、女の子だもんな!安心してくれ、油減らして麺もヘルシーに出来るぞ!それに…硝子用のさっぱり海鮮しおラーメンもあるぞ!」
「おぉ!気い利いてるぅー!私そっち!」
「硝子?」
「ああ、高専に所属してる医者。ズルッ…この人も含めて、昔の高専の同級生だった五人全員が今この高専に所属してんだよ。五条先生もその一人…ズルルッ」
「あ!おい伏黒!お前何先食ってんだよ!」
「うだうだしてたら伸びんだろ…ズルルッ…ちなみにこの人は高専の食堂やってる。無料でなんでも食いたいもん作ってくれるぞ。ズルルルルッ…」
無表情で淡々と啜りながらも、何処か嬉しそうな恵の様子に、二人は口の端からよだれを垂らす。
ゴクリと喉が鳴り、腹も鳴る。
男はにっ、と笑うと、二つのラーメンどんぶりをレンゲと割り箸をつけて、二人に差し出す。
「ほい!特製しょうゆラーメンと、さっぱり海鮮しおラーメンだ!気が向いたらしょうゆラーメンも食ってみてくれよ!」
「うぉお!美味そう!いただきまーす!」
「こっちも美味しそー!いただきます!」
眼を輝かせた二人はラーメンをそれぞれ受けとると、早速とばかりにその麺を啜った。
「「ズルルルルッ」」
「「うっま!」」
思わず飛び出たその言葉に、男は満足そうに腕を組んで頷く。
「そうだろうそうだろう!さぁて…ん?」
男が次のラーメンを用意しようと動き出そうとした時、ガラララと音をたてて部屋の扉が開いた。
そこから現れたのは、目の下にひどい隅が出来た不健康そうな女。
そんな女が顔を青くしてフラフラと入ってくる様子だった。
「んぁー…昨日飲み過ぎたぁ……頭いたぁい…さっぱり海鮮しおひとつ…」
「おう、今から作るから、ほれ、しじみ汁でも飲んどけ」
「んーさんきゅー……っはぁあああ……染みるぅ…」
「ちゅるんっ……伏黒、もしかしてあの人が?」
「ああ、さっき言ってた家入硝子さんだ」
「ごくっ…さっきまで死にそうな顔だったのに、しじみ汁飲んだら輝き出したぞ」
「あっれー?そっちは新入生?高専によくきたね、死なない程度に頑張りなー。死ななきゃなんでも治してやるよ」
ひらひらと手を降る硝子は何がおかしいのか、そのままケラケラと笑いだしてしまう。
ラーメンどんぶりを直接傾けてスープを啜る悠仁は、一気にその器を空にする。
「っぷはー!美味かったー!」
「おー。いい食いっぷりだな!名前はなんていうんだ?」
「あ、虎杖悠仁です!よろしくお願いシャス!」
「はははっ!元気良いなぁ。まだ食うだろ?次は何がいい?」
「あ、そッスね…じゃあ」
「特製みそラーメンオススメだよ」
悩む悠仁の肩に、ふわりと手が乗り、耳元でそう囁かれる。
「うぉう!?」
ビクリと肩を跳ねさせて声のした方に振り向くと、逆さまになった顔が悠仁を覗いていた。
体は宙に浮かび、まるで悠仁の上で逆立ちしているようだ。
けどまるで海に浮かぶようにゆらゆらと揺れていたり、長い髪が下にまったく落ちてこない様子からは、重力をまるで感じない。
「えっ!?何この人…空、飛んでる…?」
「あー…この人は夢乃空先生。五条先生や夏油先生と同じく教師やってる人」
「夢乃空です。よろしくねぇ」
逆さまにぷかぷか浮かびながら笑顔を浮かべる、中性的な茶色の髪。
空はそのまま宙をすぃーと移動すると、硝子の上空に移動する。
「あれ、硝子チャンまた二日酔い?飲み過ぎは良くないよー」
「うっせー……はぁーしじみ汁美味い…」
「……見ての通りふわふわしてるし言動もふわふわしてるけど…まぁ…五条先生よりはマシな先生」
「アレで…」
野薔薇はうんうんと頷いていた。
ぽわぽわしてる奴はあんまり好きなタイプではないようだが、あのクズ目隠しよりは明らかにマシだろう。
脳内で五条悟がダブルピースしてる姿が自然と浮かび上がってしまったのか、野薔薇は苛立ち交じりにスープを飲み干した。
すると、噂をすれば、というものだろうか、再度扉が開く。
そこから目隠ししたツンツン白髪と、一房だけ前に垂らしたオールバックのようにした黒髪の二人組が現れ、黒髪のほう、夏油傑が麺を真剣な顔で茹でる男に話しかけた。
「やっ、今日は蕎麦あるかい?」
「お、傑か。今はラーメンしかねぇな。それで良ければ好きなの言ってくれ」
「んー、じゃあ酸辣湯麺かな。出来るかい?」
「出来らぁ!……良いトマトがあるから、トマト酸辣湯麺でいいかー?」
「それでいいよ」
「おっし、硝子、しおラーメンお待ち!」
「おー、きたきたぁ!」
「空!みそラーメンお待ち!」
「はぁい、いただきまーす」
空中に放り投げられたラーメンの器を、空中でくるりと反転した空が危なげなく受け取る。
その際、投げられたラーメンや、続いて空がラーメンどんぶりから手を離してもそのまま空中にふわふわと浮いてる様子に、悠仁と野薔薇は眼を見開いていた。
「恵は二杯目は?」
「大丈夫です」
「悠仁はどうする?」
「あっ、じゃあ…みそお願いします!」
ちら、と空中を見上げ、空がご機嫌にちるちると啜る、その器から香る味噌の香りに、悠仁は魅了されているようだ
「そっちの女の子…えーっと」
「あー、釘崎野薔薇です」
「野薔薇ちゃんね、二杯目食うか?」
「うーん……半ラーメンとか出来ます?しょうゆを半ラーメンで…」
「勿論!しょうゆ食ってくれるの嬉しいねぇー」
男は改めてラーメン作りにいそしむ。チラチラと食べる様子を伺いながら、男は嬉しそうに笑みを浮かべる。
そんな中、傑が悠仁と野薔薇の二人に手をあげながら近付いていった。
「やっ。君達が新入生の虎杖悠仁君と釘崎野薔薇さんだね?私は夏油傑。悟と空と同じく高専で教鞭を取らせて貰ってるよ。よろしくね」
ニコ、と愛想の良い笑いを浮かべる傑に、二人は恐る恐る恵のほうを見つつめた。
「ああ…夏油先生は高専の教師の中で一番まともだぞ。ただ、根本的には五条先生と同類だから気を付けろよ。あの二人親友だから」
ふぅ、と息を吐きながら腹を擦る恵の言葉を聞いた二人は、同時に傑を見る。
愛想よく笑ってるけど、隣にいる悟と、同類!?
傑、悟、傑と移っていく視線と、少しずつ怪訝な顔になっていく様子が面白い。
っと、いつの間にか悟が移動し、男に詰め寄った。
「ねー、そろそろ出来た?僕専用ラーメン」
「甘いラーメンなー…バランスが難しいんだよなぁ。まあ、出来てるけど」
ほれ、と差し出された、パッと見は具がなく、表面がとろりとしているあんかけラーメンのようだ。
それを悟は受けとると、躊躇いなくちゅるっと啜り、咀嚼する。
ごくん、と飲み込んだ悟はうんうんと頷くと口を開く
「……うん、甘めの甘酢あんかけって感じ。悪くないね」
口元を吊り上げた悟の笑顔に、男はガッツポーズを決める。
「いよしっ!後は合う具の模索かー。なんか意見あったら言ってくれよ。まだまだ試作品だからな。……いよしっ、出来たぞ!まずはトマト酸辣湯麺お待ち!」
「いい香りだね、美味しそうだ。いただきます」
「特製みそラーメンお待ち!」
「あざーっす!」
「特製しょうゆ半ラーメンお待ち!」
「やっぱ気になっちゃうわよね、いただきます!」
それぞれに行き渡るラーメン。
机に置いて、椅子に座り、ズルズル、ちゅるちゅる、美味しそうに麺を啜る音が教室中に響き渡る。
男はその光景に満足そうに頷いた。
「おかわりはまだ」
ガララ
「あるから、な」
その時勢い良く教室のドアが開く。
そこに現れた、とても堅気に見えない凶悪な顔の男。
ここ、東京都立呪術高等専門学校の学長。
五人の学生時代の恩師であり、現在の上司。
夜蛾正道は額に青筋を浮かべながらそこに立っていた。
静かになる教室の中、空のちゅるちゅると啜る音とぐつぐつと煮える音だけが響いていた。
「またお前か…禪院誠一!教室で料理するなと何度言ったら…」
「解散!」
男…禪院誠一のその声と共に、傑と悟はラーメンどんぶりを抱えたまま教室を飛び出した。
未だに呑気にしている空の手を引き、自分のラーメンどんぶりを空の周囲に浮かせて、先ほどのふらふらっぷりが嘘のように、硝子も次いで教室を飛び出す。
そして、その後を追いかけ、誠一……俺も教室から走って逃げた。
後ろから夜蛾先生の怒鳴り声が響くが、俺達は止まらずに走り続けた。
やがて五人が横並びになる。
悟も、傑も、硝子も、空も、そして俺も。
いつの間にか笑顔を浮かべていた。
「僕達ただ出されたラーメン食ってただけですよー」
「わかってて食ってただろうが!バカども全員同罪だ!」
「うわあ、地獄耳。よく聞こえんね」
「やれやれ……ズルル……走りながらだと食べ辛いね…ズルルルルッ」
「傑クンすっごーい。ぽんぽん痛くなっちゃわないようにね」
「あははははっ!」
俺は楽しくて楽しくて仕方なかった。
全員でこうやって、高専時代と同じようにバカやって、夜蛾先生に怒られて。
いつまでもこうやってバカやっていたいな、なんて思って四人を見る。
……四人全員ドン引き顔してやがる。
「「「「キモッ」」」」
口にも出しやがった。
……今日の晩飯は醤油づくしにしてやる。
「ズルルルルッ……ふぅー。ねぇ、伏黒」
「……なんだ?」
「高専の人達って、皆あんな感じなの?」
「…………呪術界全体で言えば相当マシな部類…しかも実力的にはかなり上澄みなんだよあの人ら……」
「アレでぇ?」
「アレで……」
「っぷはーっ!みそも美味かったー!他のも食ってみたいな!」
「喜べ虎杖、これから毎日いくらでも食えるぞ」
オリ主
『禪院誠一』男
生得術式【醤油操術】
『夢乃空』?
生得術式【解放呪法】
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?