「迎えに来たで。真依ちゃん、遅なって堪忍なー」
「いえ、お疲れ様です。直哉先生」
「ちっ、真依を置き去りにしやがって……」
「お?なんや、二人ともえらい綺麗な髪飾りつけとるやん。似合っとるで?」
「うふふ、良かったねお姉ちゃん、似合うって」
「うっ……うっせえよ……それにそもそも、直哉の金だし……」
「あはは、二人とも取り柄のお顔が更に輝いとるわ。やっぱ女の子は着飾ってなんぼやなぁ」
「あー、直哉先生、そういうのあれですよ、男女差別になりますよ」
「何言うてんねん、女なんてのは男の三歩後ろで適当にやっときゃええねん。僕の好きな漫画でも言うてたわ、『幸せになるのは女子供だけ』『男なら死ね』いやぁ、カッコええわ。ま、僕は死ぬ気ないけどな」
「その女とやらは捕まえられたのかよ」
「いやぁー、なかなかおらんねん。呪術界で見つけんの嫌やし。一般人引きずり込むのも嫌やけども」
「もう先生30じゃありませんでした?そろそろ焦ったほうがいいかもしれませんよ?」
「僕に言うのはええけど、歌姫ちゃんには絶対言うたらアカンからね?それ。ま、もう少し悟クン達と呪術界ぶっ壊してからやろなぁ、まだ僕はその辺考えられへんわ……さ、真依ちゃん、そろそろ行こか、しっかり捕まっとくんやで」
「あ、そういえばなんか空さん、なんか子供出来たとか言ってたぞ」
「……!?はぁ!?あいつ子供作れん天与呪縛やったやろ!何したんや!?」
「先生、そろそろ行かないと、ちょっとよくない時間になりますよ?」
「うっ……しゃあない、後で詳細教えてな真希ちゃん!」
「じゃあ、またねお姉ちゃん、交流会負けないから」
「ああ、私だって負けねえよ」
「ほな、また!」
「……にひっ」(チャリ
さあて、午後の訓練の時間だ。
早速手合わせを始めた野薔薇が、パンダに投げ飛ばされてる様子を眺める。
「そーれわっしょーい」
「いやぁああぁ!」
後は昨日から妙にテンションの高い真希が恵をボコボコにしてる様子とかな。
「おらおらおら!守ってばっかじゃ訓練にならねぇぞ!」
「くっ、痛っ、そう言われてもっ!反撃の目もないんですけどっ!」
「あぁ?相伝の癖にだらし、ねえなっ!」
「うわぁっ!」
どうにか隙をついて攻撃に転じた恵を、真希は容易く避けて投げ飛ばした。
野薔薇と恵の総合力は悪くないが、二人ともどちらかといえば遠距離タイプの術式だからな。
ある程度鍛えてはいるが、バリバリ前衛の二人には軽くあしらわれる程度でしかない。
この機会にしっかり鍛えてやるべきだろう。
「こんぶ……」
そんな中で何故か棘は俺の隣に座って茶をしばいてるが……まあ、今は手持ち無沙汰だろうから別にいいか。
授業中なのに穏やかな表情だ。
……いや、俺も手が空いてるし、折角だから少し揉んでやるか。
「棘」
「しゃけ?」
「暇みたいだし、いっちょ俺と手合わせするか」
「しゃ……高菜!?おかかおかかおかか!」
顔を向けてそう言ってやればすごい勢いで首を横に振る。
そんな棘の服の襟を、がしりと掴んでやった。
暴れる棘に穏やかな笑みを浮かべてやって、俺は掴む腕に力を込める。
「まぁそう言うな、遠慮すんなよ」
「おかかー!」
そうして、棘も空を飛ぶ奴等の仲間入りを果たした。
ついでに、パンダと真希も空を飛んだ。
「よし、そろそろ終了かな。俺は晩飯の用意に行くから、お前達は回復した奴から……」
「やっと終わりね…疲れたー…身体中痛いわ……早くお風呂に」
「グラウンド十週して終わりな」
「「えっ」」
「出た、誠一のスパルタ」
「疲れきった身体でやるのが一番身に付くんだ、しっかり見張っとけよパンダ」
「あいさー」
「裏切りパンダ……」
「所詮畜生だ」
「もふもふ罪も追加」
「塩」
「俺そんな言われなきゃいけないか?」
食堂までの道程で、俺は久々の再会を果たす事となる。
特徴的な眼鏡をつけた、七三分けできっちりとした社会人風の男性、俺達の一年下の元高専生、七海建人だ。
一度は雄と空の件で卒業後は呪術界から足を洗っていたが、今はまた戻ってきて一級呪術師でもトップクラスの実力者となっている。
「お久し振りです、禪院さん」
俺に気付いた建人は頭を下げて挨拶をしてくれる。
相変わらず丁寧な奴だな。
「おう、久し振り。建人も元気そうで何よりだ。それで?悠仁はどうだった?」
「そうですね、良くも悪くもまだ子供で、まだ一般人といった印象……でしょうか。先ずは呪力の操作が形にならなければ、話にもなりませんね。……あの善良さは好ましく思います。彼のしたことを肯定する訳ではありませんが」
ふむ、まぁまぁの評価だな。
悠仁はそもそもこの世界に足を踏み入れて、間もない。
呪力の扱いも我流で荒く、無駄が多い。
故にここで一度ガッツリと基礎を固めて貰っている所だ。
映画を見ながら呪力が一定でなければ殴ってくる呪骸を抱えて、平常心を保つ修行。
並行して建人に見て貰って体を動かしたりしてる筈だ。
呪術師の中で恐らく一番まともな建人に気に入られた悠仁の先行きは明るいな。
これならこのまま任せても良さそうだ。
「教師でもないのに悪いな、礼に晩飯作るよ。あ、遠慮すんなよ?後輩は大人しく先輩のパワハラを受けておくもんだ」
「わかりました、遠慮なくご馳走になります」
小さく笑いながら礼儀正しく頭を下げる律儀さに、俺は苦笑を返した。
さて、建人の好物はアヒージョだ。
簡単だが奥深い料理で、一度作った時はあまり良い出来ではなかった。
だがまぁ今なら大丈夫だろう、わざわざ協力してくれてる建人にしっかり満足して貰おう。
材料はエビとムール貝、タコ。
マッシュルームに、ブロッコリーにアスパラ。
ベーコンと鶏胸肉……と。
バゲットも焼き上がったし…うーん、いい匂いだ。
オリーブオイルを用意して、にんにくと鷹の爪、塩で味付け…あとは材料の旨味をしっかりと活かしていくだけ。
まぁ、それが一番難しいんだが。
さあ、やりますか。
「よし、出来たぞ建人、具沢山のアヒージョだ。食ってくれ」
建人の前に小さな鍋ごとアヒージョを置く。
ぐつぐつと音をたてるその鍋からは、豊潤なオリーブオイルの香りが立ち上っている。
「良い香りですね……いただきます」
手を合わせた建人は、フォークを手に取り、まずはエビを口へと運ぶ。
さあて、建人の口に合うか?
咀嚼した建人は小さく笑みを浮かべ、口を開いた。
「……美味しいです。以前とは雲泥の差ですね……」
「やっぱ前のは微妙だったか」
「……ノーコメントで……ふー、ふー……はぐ」
以前は建人が呪術界から抜ける時に卒業祝いも兼ねてご馳走したもんだが、涙ながらに食ってたのは不味さからだったか……まぁ仕方ない、俺も美味いとは思えなかったからな……。
続いて口に運んだのはマッシュルーム。
薄くではなく、今回はただ真っ二つにしただけだから食べ応えあるぞー。
ほふほふと熱そうに咀嚼する建人の元に、食べやすく切ったバゲットを運ぶ。
バゲットをちら、と見た建人はまだ手に取らず、ブロッコリーを口に運んだ。
ブロッコリーがなぁ、具材の旨味が染みた油を吸うから、美味いんだこれが。
果たして今回は上手く……。
「美味いっ…!具材の旨味が…一つに…最高ですね」
「おいおい、誉めてもビールくらいしか出ねえぞ」
ポンッ
嬉しくなった俺は気付けば瓶ビールを開けていた。
キンキンに冷やしてあるジョッキを取り出し、注ぐ。
しゅわわわ
みるみるうちに炭酸が立ち上り、ジョッキの中はビールと白い泡で7対3。
うむ、完璧だ。
ドン、と建人の前に置いてやれば、少し戸惑うように視線をさ迷わせつつ……ジョッキに手を伸ばした。
「はぐっ……んぐ、んぐ、んぐ」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ
再度ブロッコリーを口にした建人は、堪らないとばかりにビールを煽る。
喉を鳴らしながら飲むその様子に、俺は今回の料理の成功を感じて、笑みを浮かべた。
「っぷはー!労働後の一杯は、堪りませんね!」
ドンッ
一口でからになったジョッキが、それを証明してくれている。
俺が二杯目を注いでいる間に建人はネクタイをゆるめ、バゲットに手を伸ばしていた。
オリーブオイルに浸したそれの上に厚切りベーコンを乗せ、頬張る。
咀嚼しながら、笑みを浮かべた建人は、二杯目のビールに気付いて会釈し、ビールを啜った。
「っぷはぁ、美味い!……このバゲットは?」
「勿論俺が焼いたやつだ。どうだ?」
「美味しいです、私の行きつけと比べても甲乙つけがたい……」
パンにうるさい建人にそう言って貰えると嬉しいもんだな。
まったく、この後輩、先輩を喜ばせ過ぎだろうよ。
俺はまたジョッキを空にした建人に更に楽しんで貰うため、次の瓶ビールに手を掛けるのだった。
「……ところで夢乃さんの姿が見えませんが」
「あー、あいつ子供産んで今ちょっと硝子の所で治療中なんだよ」
「……子供!?御結婚なされていたんですか!?」
「あぁ、いや、結婚はしてない。ちょっと複雑でな……まぁ、話は長くなるが……」
「……出産祝いが必要ですね。さて、どのような物を……」
「あ、おーい、建人?」
「ぶつぶつ……他の方々と被らないような……ぶつぶつ……知育玩具……」
「建人ー?空を慕ってるのはわかるが、ちょっと冷静になってくれー」
「何を言ってるのですか、貴方もしっかり責任とって下さい」
「……え?これ俺が空孕ませたと思われてる?違うよ建人?建人君?」
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?