「禪院さんの術式?」
「うん、俺今度あの人と任務行くんだけど、そいや知らないなって思って」
禪院さん、一人で高専の食堂を切り盛りしてる、高専所属の術師。
どんなリクエストしてもなんでも作ってくれるし、栄養バランスも考えてくれる。
そしてなんでも美味い!
特に醤油ベースの料理はまた段違いに美味い。
今目の前にあるのは豚の角煮定食。
香りと見た目からして間違いなく美味いんだけど、驚いたのはその軟らかさ。
箸を入れると、脂身と肉が同じように裂けてく。
「うっは、見たこれ伏黒!縦に切れるよこの角煮!」
「おー、流石だなあの人…美味そ」
「一個いる?」
「いや、俺も後で頼む」
「オッケー。いただきまー……んむっ!」
口に含んだ瞬間広がる豚の旨味と脂、それを包み込む香り高い醤油の風味。
甘めの味付けなのにくどくなく、何より噛んでもないのに口の中でホロホロとほどける。
「んっまぁ……」
目尻が下がるのを自覚してしまう程、この角煮は絶品だった。
こりゃご飯だ、と山と盛られた白米を一気にかっこむ。
そして、ご飯と一緒に咀嚼すると、噛み締めた肉の繊維からまたじわりと旨味が溢れる。
最高の、至福の時間…俺の目からは自然と涙が溢れていた。
しっかりと飲み込んだ俺の表情は、意識せずとも笑みを浮かべていた。
「うめぇ……俺、高専きて良かったぁ……」
「んで、あの人の術式の話か?」
伏黒のその言葉にハッとなり、気を取り直して話を聞く事にする。
「ああ、そうそう」
「あの人の術式は、【醤油操術】だ」
…………?
醤油?
「へ?」
「まー、そういう反応になるよな」
苦笑を浮かべた伏黒は俺の手元の角煮と煮卵を指差す。
「その煮卵、食ってみな」
「?」
首を傾げながらも言われるままに煮卵、箸で摘まんだ感じ半熟のそれを、一口で頬張ってみる。
そのまま噛むとさっき食べた角煮と同じ……いや、少し薄い?風味は良いけど味が染みてないのか?
そう思いながら噛み締めた時、とろりとした食感が舌の上に広がり…その瞬間この煮卵の本当の味が口の中に広がった。
「……!?」
なんだこれ、黄身が妙に塩っけが強い…!?黄身だけが!
そしてそんな味の濃い黄身が、さっき味が薄いと思った白身と口の中で混じりあって…。
「ゴクンッ……うっま。え、何これ!?なんで中のほうが味染みてんの!?」
器にもうひとつある煮卵を見つめて、箸を入れて半分に割る。
ぷつりと割れた断面から、とろりと溢れてきた濃いオレンジ色の黄身と、色むらなく薄茶色に染まった白身…。
箸先についた黄身を舐めると、強い塩っけに思わず米を掻き込んじまう。
これも美味いけど…半分に割った煮卵を白米の上にドン!
垂れた黄身がご飯をオレンジ色に染め上げる。
そこを…かっこむ!
がつがつがつ……
気付けば山盛りの白米は空…あっという間に食いつくしちまった……。
「…………さいっこうだ…」
「それが【醤油操術】……醤油を使った煮込みの、具それぞれの味の染み具合を、完璧にコントロール出来るらしい」
「へぇー!成る程、どうりでなぁ!」
感心してうんうんと頷くけど…ふと、疑問が頭に浮かんだ。
「……なあ、それでどうやって呪霊祓うんだ……?」
「……知らね。俺、あの人が素手で呪霊祓うとこしか見た事ない」
「えぇ……」
思わず呆れた声が出るけど、これ俺悪くないよな?
「面白い話してるね」
声がして振り向けばそこには五条先生と似たような黒い服に身を包んだ、同じ高専の先生の一人がそこに立ってた。
「「夏油先生」」
「今日は角煮か、美味しそうだね。私もそれにしようかな」
そう言いながら俺の角煮を獲物を見る目で見つめる夏油先生。
そういえばあの五人は同級生だったらしいし、禪院さんの戦いかたとかも知ってるかもしれない。
折角だし、と俺は聞いてみる事にした。
「あ、夏油先生なら知ってる?禪院さんって【醤油操術】使ってどうやって呪霊祓うんすか?」
「誠一がどうやって呪いを祓うか、か。うーん、そうだねぇ」
腕を組んで暫し悩む様子を夏油先生は見せる。
ただ待つのもあれだし、とまだある角煮に箸を伸ばそうとして、空の茶碗を見て箸を止めた。
いや、これだけ美味い角煮を相手するのに、空の茶碗じゃ無作法ってもんだよな!
「禪院さんご飯おかわり!」
「あ、私にも虎杖君と同じ奴を頼むよ誠一」
「俺の分もお願いしますします、禪院さん」
「あいよー!悠仁はそこの炊飯器から好きなだけ盛っていけ!」
キッチンで料理を続ける禪院さんの示す方向にあったのは、巨大な炊飯器。
空の茶碗を抱えてパカリと開けると、ふわりとご飯の香りが広がる。
水に浸されたしゃもじで、さっきよりも大きく山盛りにする。
ざっと二倍…こんくらいなきゃ、あの角煮は攻略出来ねえ。
俺の山盛りの白米を見てギョッとする伏黒を視界に捉えつつ、俺は夏油先生に視線を向けながら席につく。
夏油先生は眼を細めて小さく頷いた。
「そうだね…まぁ【醤油操術】について率直な感想を言うと…雑魚だよね」
たはー、と笑う夏油先生にえ、と声が出る。
凄い朗らかな顔で笑いながら毒吐くじゃん。
伏黒の、比較的マシ、五条先生と同類、という言葉が頭を過った。
夏油先生はテーブルに備え付けられている醤油さしを手に取り、手の中で揺さぶる。
「物質を操る術式の中でも、醤油に限定されてて使い辛いったらない。ほとんど加茂家相伝の【赤血操術】の下位互換みたいなものさ。そこらの有象無象じゃ【醤油操術】を得ても、何も出来ないだろうね」
ちゃぽちゃぽと音をたてる醤油を覗き込む夏油先生の笑顔はいつの間にか消えてて、細められた目から鋭い眼光が覗いていた。
「じゃあ禪院さんは…?」
「……そうだね、誠一は一級呪術師だけど、禪院じゃなければ特級だったろうね。彼が今一級に甘んじてるのは、禪院に他に特級がいないってだけのくだらない理由だからね」
「醤油で…?」
醤油を操る能力なんか…なんかって言うのも失礼かもしれないけど、そんな能力で強いってのは全然想像がつかないなやっぱ。
ふと見れば、伏黒も首を捻ってる。
「ははは!まぁ誠一は、強いとは少し違うかな…?ただ、油断してると痛い目にあうよ?それこそ…」
「そーだな。学生の頃二人で俺の事嘗めくさって二人並んで転げ回ってたもんな」
がちゃ、がちゃと音をたててテーブルにおぼんに乗った俺と同じもの…角煮定食が置かれる。
いつの間にか両手に料理を持って近付いていたらしい、三角巾をしっかりつけてエプロンをした禪院さんだ。
じと、と夏油先生を見つめると、夏油先生は気まずそうに苦笑を浮かべた。
「たはは、痛い所をつくね」
「お前ら二人は自信ありすぎなんだよ。あ、悠仁これ辛子。つけて食うとまた美味いぞー」
「あ、ウッス」
市販のチューブ辛子を手渡される。
ちら、と見ると目の前に角煮定食を置かれた夏油先生と伏黒は既に手を合わせて挨拶してるし、話は終わりかな…。
じゃ、俺も早速残り食べちまうかな!
「そんじゃ早速辛子つけて…と」
そうして角煮を頬張る!
うわ、辛子がまたアクセントになって、こんなん米だろ!
一気に白米を口いっぱいにかっこむ一択!
柔らかいのに、噛めば噛む程美味しくなる…たまんねぇ…!
「「「美味い!」」」
「いやぁ、美味しいね。堪らないよこれは」
「…………」
夏油先生は眼を細めて笑って、ゆっくりと噛み締めているみたいだ。
伏黒は黙々と食い続けてるけど、その目がキラキラと光ってて、随分とご機嫌な様子だった。
俺もご機嫌だけどな!
「相変わらず悠仁の食いっぷりは気持ちいいな!角煮はまだあるから、好きなだけおかわりしてくれ!」
俺らの食いっぷりを見守る禪院さんは満面の笑みを浮かべてそう言ってくれる。
こんな美味いもんまだ食えるのか、という嬉しさに、箸が止まらん!
半分にした煮卵と、半分にした角煮…同時に口に放り込めば、もう最高!
あっという間に山盛りご飯の半分が消えていった。
箸休めのチンゲン菜をしゃくしゃくしながら、俺は、幸せというものを噛み締めた。
「ま、見せる時はいつかくるだろうさ。俺、悠仁の死刑執行人の第一候補だからな。そん時はよろしくな?」
「…………え?」
にこにこと朗らかな笑顔を浮かべて、事も無げに言いきる禪院さんを恐る恐る見上げる。
ああ、この人もやっぱおかしいんだな、と再確認する出来事だった。
いや、高専こえぇ……。
【醤油操術】
醤油ベースの料理をする時、具材の染み具合を操る事が出来る。
無下限呪術の五条と呪霊操術の夏油二人相手に、転げ回らせた?
虎杖、復活した宿儺の死刑執行が出来る?
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?