バーベキューそして、姉妹校交流会編ラストです!
交流会団体戦は、呪霊、呪詛師による襲撃によって無効試合となった。
襲撃による人的被害は幸いにしてなし……。
ただし、襲撃者も全てを捕えるまたは祓う事は出来なかった。
捕えたのは直哉がボコボコにした組屋鞣造のみ。
特級呪霊は上手いこと逃げ仰せ、もう一人いた呪詛師もいつの間にか姿を消していた。
一方で失ったのは宿儺の指七本……大失態である。
上層部は鬼の首を取ったように、嬉々として高専側の責任追及に走っていた。
頭を悩ませる夜蛾学長だったが、彼の姿は今。
「交流会一日目お疲れ様ーって事で、皆様お待ちかね、親睦会バーベキュー、開催しまーす!」
「「イェエエエエエイ!」」
「しゃけー!」
親睦会、バーベキュー会場にあった。
所狭しと並べられた金網、鉄板、そしていくつもの謎の箱。
既にそれらには火が灯り、パチパチと音を立てていた。
アウトドア用の簡素な椅子に座り、左右を固めるのは、教え子の硝子と空。
更に手には、気付けばプラスチックのコップが握られていた。
「……なんで俺はここにいるんだ」
空いてるほうの手で顔覆い俯く夜蛾学長に、酒瓶を直接ラッパ飲みしていた硝子が、瓶から口を離してから話し出す。
「っぷは、折角のバーベキューですよー。ヤガセンも飲みま……食べましょーよ」
ぶはぁと酒臭い息を吐き出しす硝子に、夜蛾学長の眉間に皺が寄る。
注意を言葉にしようとしたその時、シュワワと音をたてて夜蛾学長の持つコップに黄金の液体が注がれ始めた。
「まぁまぁ、夜蛾先生、報告書とか始末書とかは、後でボクも手伝いますから~。先生もたまには羽目を外しましょ~よ」
しゅわわわわわ……。
空は朗らかに笑い、ビールを注ぎ終える。
泡とビール、見事な配分のそれを視界に入れた夜蛾学長の喉が鳴る。
今日は確かに疲れた、本当はこれから色々と対応しなければならない事もある。
先行きも不安だ、誠一を拘束しろとの命もある。
そしてそれに誰も従う気もない事で、全ての小言が自分に来る。
それらを思うと胃がキリキリと痛む……。
「ささっ!遠慮しないでせーんせ♪」
「飲まないなら、私が飲んじゃいますよ」
「ああ……そう、だな。今、くらいは……」
しかし全てを無視して、夜蛾学長は、ビールの注がれたコップを口元に運ぶ。
教え子の中で、比較的マシな二人、見た目だけなら見目麗しい二人に囲まれ、夜蛾学長の判断力は酷く削られていた。
ぐびっ
ぐびっぐびっぐびっ
ゴクンッ
「ッ~~~!ぷっはぁーーー!」
「良い飲みっぷり!さささ、もう一杯!」
「カマンベールチーズとベーコンの燻製ありますよ」
「貰おう」
一口で空となったコップに、透かさず注がれるビール。
更に差し出される、チーズとベーコン。
夜蛾がチーズを手に取ると暖かく、強く握ると潰れてしまいそうだった。
とろ~っ
断面からチーズが伸びて、盛られた皿にチーズの道を作る。
夜蛾はそれをすかさず頬張った。
口の中に広がるとろとろのチーズ、そして燻製特有の煙の香りが鼻を抜ける。
元よりこの夜蛾正道、好物はいぶりがっこ、それを始めとした燻製物は皆好物である。
「美味い……」
口の中のチーズを咀嚼し、残り少なくなった所で。
ぐびっ!
「っぷはぁー!堪らんっ!」
ビールで流し込む、これが至福の時である。
続いてベーコンに手を伸ばし、食べ、飲む。
そんな夜蛾を空と硝子は、笑みを浮かべて見守っていた。
「……何あれ、キャバクラ?」
バーベキュー、調理は基本的に全て誠一が担っている。
大量に用意された金網の上には所狭しと生肉にソーセージに魚にと、多種多様な具材が並べられていた。
それらを、鬼気迫る表情で一心不乱に焼き続ける誠一は、次々と見事な焼き上がりで仕上げていく。
「んっ、んま!このカルビ、いくらでも食えそう!」
そんな誠一から、悠仁は焼き上がった肉である漬けカルビを頬張り、目を輝かせた。
程好く油の落ちたカルビ肉に染みた、甘辛いタレが絶品であった。
肉自体も柔らかく、けれど噛み締めると肉の旨味が溢れる。
「白米欲しいーっ!」
そう悠仁が叫んだ瞬間、山盛りのご飯茶碗が差し出されていた。
「張相さん……」
「欲しがる奴がいると思ってな」
エプロンをした張相は、鉄製のへらを片手に白米を悠仁に持ってきていたのだ。
それを悠仁は満面の笑みを浮かべて受け取った。
「サンキュー!」
「ん……俺は焼きそばを作っている。良ければ後で食べてくれ」
「おぉ!いいなぁ、焼きそばも楽しみ!」
無邪気な悠仁を見てから、張相は自らの担当する鉄板へと戻っていく。
胸に灯る暖かさに、微笑みを浮かべて。
「加茂さんは好きな部位とかあります?」
「強いて言うなら……ハツかな。そういう恵君、君は?」
「あんまり油っぽくないほうがいいですかね。だからハツも結構好きですよ」
「噂をすれば、ハツが丁度焼き上がったみたいだ……頂こうか」
「ですね」
恵と憲紀……二人は交流会において一戦交えたのだが、現在は穏やかに言葉を交わしていた。
その間に隔たりはなく、笑みすら浮かべて互いの好みの話をする。
御三家の相伝術式を受け継ぐ者同士、今後どうなるかはわからないが、今はただの学生の身。
気ままにしても構わないだろう。
憲紀は不思議な解放感を感じながら、恵を始めとした東京校の面々と交流を深めていくのだった。
「んっ!このハツかなり良い物だ。それに加えてタレが堪らないな……何処で売っているんだろうか」
「ああ、誠一さんの手作りのタレだと思いますよ。
きっと言えばお土産にでもしてくれるんじゃ……」
ドーッ
2リットルのペットボトルにギッチリ埋まった焼き肉のタレが、テーブルを滑って憲紀の前でピタリと止まった。
二人が思わず滑ってきた方を見れば、誠一が親指を立てて良い笑顔を浮かべていた。
一瞬呆気に取られるも、直ぐに正気に戻った憲紀はペコリと頭を下げ、そのペットボトルを手に取る。
それを確認した誠一は焼きの作業に戻るのだった。
「……ありがたく貰っていくよ」
少し困ったように笑った憲紀に、恵も苦笑を返した。
「うわ、これケバブ?こんなのも作るのね……」
用意された箱の一つ……中には巨大な肉がゆっくりと横回転していた。
ドネルケバブと呼ばれるそれは、塊肉からナイフで削ぎ落として野菜と共にパンで挟んで食べる。
その傍らには野菜にいくつかのソース、それらを包むパンが置いてあった。
ドネルケバブを眺める桃に気付き、誠一は直ぐ様ナイフを手に取り声をかけた。
「お、桃ちゃんだったか、一つ包むか?」
「あ、じゃあ一つ――」
「二つお願いしまーす!」
指を一本立てた桃の言葉を遮り、野薔薇の元気な声が響いた。
驚いたように振り替える桃に対して、野薔薇はニッと挑戦的な笑みを浮かべた。
手早く用意する誠一を横目に、野薔薇の差し出したジュースの入ったプラコップを受け取り、桃はジト目で野薔薇を見つめた。
「野薔薇ちゃんだっけ、あんたが箒壊したせいで落下した時ので、私まだ少しお尻痛いんだけど」
「そんな事言ったら私だってまだ、あの糞箒がめり込んだ鳩尾痛むわよ」
わざとらしくお尻に手を当てる桃と、此方もまたわざとらしくお腹抑え、見下ろす野薔薇。
二人は視線を交わし、互いにジト目で見つめあい。
「「ぷっ」」
途端に吹き出して、笑みを浮かべあった。
この二人も交流会で一戦交えた者同士だったが、特に気にする様子はない。
「箒ぶっ壊した時は貰った!って思ったんだけどねー」
「流石にピコハンは嘗めすぎ。痛かったけどあと2発は耐えられるわよ」
「マジ?普通の人間だったら即死レベルでそれかぁ……呪術師って怖いわぁ」
「年季の差って奴ね。まだまだ甘いわ、一年」
フフン、と得意げな桃に、野薔薇は不覚にも、少し可愛いと思ってしまった。
そんな和やかな会話を交わす二人に、完成したケバブサンドが差し出される。
「へいお待ち!」
「あ、ありがとうございます」
「いただきます、誠一さん!」
二人が礼をすると、嬉しそうに笑った誠一は、直ぐ様その場から立ち去る。
他の肉の世話に向かったようだ。
「さて、早速……あむ」
「あーむ」
それを見送った二人はほぼ同時にそのケバブサンドを頬張る。
まず、ピリッと辛く、けれどまろやかなソースの風味が口いっぱいに広がる。
続いてシャキシャキとした野菜の食感とともに、噛むと旨味の染みでる肉、それらを包み込む香ばしいパン。
嚥下した二人は顔を見合せ、笑みを浮かべあった。
「「美味しい!」」
「おいひい……おいひいよぉ……」
霞は口いっぱいにお肉を頬張り、涙をポロポロと流していた。
食べるお肉のどれもが、今まで食べた事のない美味しさで、感動のあまり涙を堪える事が出来なかったのだ。
いくつか持ち帰れないかな……。
脳裏には食べ盛りの弟達の事が浮かび、後で交渉してみようと心に決めたのだった。
「良い食いっぷりだなぁおい」
感心したように真希が笑う。
交流会では霞と競って呪霊を狙っていた真希だが、その刀の軌跡は素早く、鋭かった。
刀の扱い一つに絞れば自分より上だと素直に認めた真希は、霞への好感度を高めていた。
ずぞぞぞぞ
張相が焼き上げた塩焼きそばを啜り、真希は後で改めて手合わせでも出来ないものかと、一心不乱に肉を食らう霞を見ながら思ったのだった。
「ん、美味い。張相、おかわり」
「ああ」
あまりの美味しさに、あっという間に皿に盛られた焼きそばを平らげた真希に、山と盛られた焼きそばが差し出される。
「お、きたきた」
ズルズルと焼きそばを啜る真希の傍らで、棘がフグの干物を恐る恐る食べ進めていた。
直ぐにその美味しさに、目を輝かせていたが。
「しゃけ……!」
「それフグよ」
「明太子」
「……真希」
「考えんな、感じろ」
「……はぁ。ねえ、私はソース焼きそば食べたいわ」
「わかった、少し待っていろ。もうすぐ出来る」
ジャッ!ジャッ!
張相は、真剣な表情で忙しなくへらを動かし続けている。
その額には汗が滲むが、その表情は何処か満ち足りていて、楽しそうだった。
「
「また出た……俺焼きそば食いに行きてぇんだけど……。
うーん……どれも好きだけど……強いて言うなら……ハラミかなぁ」
「!!!ああ、最高だ。やはりお前は
「また始まった……もういい?俺焼きそば食いてえんだよ」
「まて、ここで共にハラミを食らい、友情を深めようじゃないか。
あの頃、河原でバーベキューした時のように」
「そんな時ねーって!」
「……あんた、何焼いてるの?」
「ん?見てわかんない?ビッグマシュマロ」
「あっま!匂いがもう甘過ぎ!そういうのってシメで食べるんじゃないの!?」
「そんなの僕の勝手でしょー。
あーむ……はふっ、ほふっ……とろっとろ……堪んないなぁ」
「あーあーまったく、あんな事あったってのに気楽なんだから……あむ」
「んぐ、あんな事があったからこそでしょ。
あ、てかそれ僕が仙台行った時に買ってきた最高級牛タンじゃん。
どうせ食べる機会なんてここ以外ないんだから、よおく味わって食べてよね」
「いちいち一言多いのよ!余計なお世話!あむ…………悔しい……美味しい……」
「うーい、お前は混ざらねえのかー」
バーベキュー会場から少し離れた所で、その様子を眺めているだけだったメカ丸。
そこにパンダが皿にステーキを乗せて歩み寄ってきた。
「……俺は食べられないからナ」
何も食べない木偶が立っていても邪魔だろう、そう言外に伝えていた。
「そりゃー残念。はぐっ……んぐ、でも混ざって雰囲気だけでも味わっても良いんじゃないの?」
口の中でとろけるステーキにご満悦のパンダだったが、一人ポツンと立っているメカ丸に気を使ったのだろう。
交流会では殴りあった二人だが、そこに隔たりは感じない。
「……むしろ何故お前ハ食えるんダ」
「知らね。まさみちに聞いてみたらいいんじゃないのか?」
「……いや、止めておこウ」
「あっ、メカ丸こんな所にいたんですねっ!」
パンダとロボ、バーベキューの会場から少し離れた所で話していた二人の元に、霞が両手に串を持って駆け寄ってきた。
「見てくださいこの、正にバーベキュー!って感じの串!
メカ丸も一緒に食べませんか?」
ソーセージ、玉ねぎ、肉、ピーマンが長い串に刺さり、タレを滴らせているそれを差し出す。
その目はキラキラと輝いていて、純粋な好意から差し出された物だとわかる。
だが、先程本人が言った通り、メカ丸のこの体は物を食べる事は出来ない。
傀儡操術……本体はここにはおらず、遠隔で操作されている人形なのだ。
端から見ていたパンダが、気まずそうに視線を二人の間で彷徨わせていた。
「……その好意は嬉しいガ……」
メカ丸は心の底から嬉しく思いながらも、その好意を受け取る事は出来ない為、断ろうとする。
しかしその時、暫しメカ丸の動きが止まる。
その不自然な様子に霞が首を傾げ、手に持つ串からタレがポタリと落ちた。
「……いや、いただこウ」
再度動き出したメカ丸は差し出されている串に、手を伸ばした。
「はい!どうぞ!」
霞は嬉しそうに微笑み、串を手渡した。
そのまま自分の串のソーセージを齧り、モグモグと咀嚼し始める。
「はわわ……」
横で見ているパンダはその様子をハラハラしながら見守っていた。
そんな二人が見守る中、メカ丸は口を開き、ソーセージを口の中へと放り込んだ。
「どうですか!?」
キラキラと目を輝かせて問い掛ける霞に、メカ丸は暫しの沈黙を挟み、口を開く。
「ああ、美味いナ……」
「えへへ!ですよね!」
霞は、花が咲くような笑みを見せた。
そしてそのまま、メカ丸の手を引く。
「一緒に楽しみましょうよ!」
そう朗らかに笑う霞に、メカ丸はコクリと頷く。
大丈夫なの?と視線で問い掛けてくるパンダに、手で問題ないとジェスチャーで伝え、メカ丸は霞に手を引かれてバーベキュー会場へと足を踏み入れる。
東京校の悠仁と棘に妙に気に入られる一幕があったり、京都校の面々とも改めて親睦を深めたり。
皆が笑顔で舌鼓をうつ中に混ざり、口に同じように放り込む……。
どう?と皆の視線が自分に集まるのを感じながら、メカ丸は答える。
「あア……」
「美味いよ……」
遠く離れた、メカ丸の本体……与幸吉。
身体中包帯に巻かれ、浴槽に浸かりながら、様々な管に繋がれた彼。
天与呪縛により生まれつき右腕と膝から下がなく、下半身の感覚もなく、脆い肌は常に痛みを訴えてくる、そんな状態の幸吉は。
「はぐ……」
今、メカ丸が口に入れたものと同じ物を、唯一ある左手を使い、頬張っていた。
唇や顎を伝うタレが肌に沁みて激痛が走り、咀嚼する度に何処かしらに痛みが走る。
だがそれでも、幸吉は食べる手を止められなかった。
思わず流れる涙は、痛みのせい……だけではないだろう。
メカ丸を通して皆の笑顔が、皆と共にする時間が、幸吉の心を満たしていた。
「美味い……」
その様子を、傍らで静かに直哉が眺めていた。
ケバブサンドを頬張り、小さく頷きながら。
「(直哉デリバリー、お仕事完了やね……まったく、教師も楽やないわ)」
心の中で呟き、生徒の交流を眺め続けたのだった。
「……直哉先生……お話が、あります」
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?