これからもまったりと皆には美味しい思いをして、笑顔で過ごして貰いたいと思います。
交流会が終わって次の日……。
今日は海外から傑が帰ってくる筈の日だ。
バーベキューも寿司も食えなかった傑の為に、少し特別な飯……兼教師陣の打ち上げの予定だ。
久々に五人で集まって飯が食えると、今から楽しみだ。
今回使うのは、寿司では使わないないし使えない、まぐろのかまや中落ち等の部位だ。
見た目は悪いが美味いんだなこれが。
特にまぐろの目玉なんかはビジュアル最悪だが、煮付けも塩焼きも美味い。
頭の肉も捌くのは本体以上に大変だが、その苦労の甲斐はある。
まぐろのかま焼きとして一つ、頬肉や頭肉、中落ちを刺身や丼で……。
後はテールステーキか。マグロの希少な部位を食べつくして貰おう。
ただ、重ねて言うとビジュアルは悪い。
皆受け入れられるかはわからんが……まあ、傑は美味しく食べれるだろう。
いつも呪霊飲み込んでる奴が、まぐろの目玉くらいでピーピー言わねえだろ。
夜蛾先生は可哀想な事に壊相と血塗の件、更には俺を拘束しなかった件でお偉いさん方から呼び出しだ。
今日は傑を優先するが、明日も帰ってきてなければ悟達と一緒に殴り込みに行くつもりだ。
勿論俺は拘束されてな?掌印組みながらだが。
さて、それまでは普通通りだ。
いつも通り生徒達の希望に応えた飯を作る。
交流会も終わったから俺が指導する事もなくなるし……料理に専念する事にしよう。
「おはざーす!」
「おはようございます」
「おはよーございまーす」
「お、おはようございます」
っと、考えてたら一年の四人がやってきたか。
「おはよーさん。さ、今日はなに食う?」
今日も一日が始まるな。
「サバ味噌!」
「納豆ご飯でお願いします」
「フレンチトースト!」
「あ、ボクもサバ味噌で」
「了解、ちょっと待っててな」
四人が顔を見合わせるのを微笑ましく思いながら、俺は料理を始める。
……納豆だけじゃ味気無いし、恵のには塩鮭でもつけてやろう。
そんなこんなで気付けば放課後。
両手いっぱいに荷物を抱えた傑が、生徒達にお土産を手渡している所だった。
「現地で売ってたお菓子だよ。
いっぱい買ってきたから仲良く分けて食べなさい」
「夏油先生あざーっす!」
「明太子!」
「なんかすごい高級そうなチョコがあるわ……」
「パンダ君にはカルパスもあるよ」
「おおー、傑はわかってるな」
「俺もカルパス貰いますね」
「海外のポテチって妙に美味いよな」
和気藹々とした空気で傑のお土産を漁り、頬張る生徒達は皆笑顔だった。
その様子を眺める傑はとても嬉しそうで、疲れの滲んでいた雰囲気がみるみるうちに解れていった。
うんうん、海外で何してきたかは知らんが、妙に疲れてたからな、癒されてるようで良かったよ。
「しっかしお前らよく食うな、さっきまで晩飯たらふく食ってただろうに……」
呆れたように呟いたが、それは生徒達の喧騒に紛れて、聞こえてはいないようだった。
「これがちょこれいとかぁ……あむっ……うまぁああ!
凄いなぁ!美味しいものばっかりだ!兄者達も食おう!」
「ええ、折角なので頂きましょう。兄さんも、ほら」
「ああ……うん、美味いな」
九相図三兄弟も嬉しそうだし……言うことなしだな。
三人を、特に血塗を見る傑の表情が怪訝なものになってってるが、まぁ誤差だな、誤差。
何処か疲れたように息を吐く傑だが、やはりその表情には笑顔が浮かんでいる。
騒がしく、賑やかな食堂の様子を、ただでさえ細い目を細めて穏やかに見守っていた。
「……ところで、あの小さい空は?」
「血塗っていう九相図の三男だが、呪いの力が弱めで受肉体の影響をもろに受けちまってるらしい。
だから体を作った空とそっくりなんだとさ」
「……空はいつ彼等を産んだんだい……?」
「交流会の途中、襲撃があった後だな」
「……」
「いや、そんな目で俺を見るなよ。
俺だってそのタイミングでやるとは思ってなかったって」
「あっ!傑クンおかえりーっ!あ、これお土産?ボクも」
「空、君にはちょっと話がある」
「えっ?いや、ボクもご飯食べたいし、お菓子も……」
「教師として、強者として……その弛んだ考えを少し叩き直す必要があるね。
君が子供を欲する事を否定したくはないが、タイミングというものがあるだろう?
その辺りの考えの甘さ、叩き直させて貰うよ」
「ひぇ……せ、誠一クンたすけ――」
「少し外で話そうか」
「さて!少しトラブルはあったが、傑海外出張お疲れ会と、交流会祝勝会という訳で!マグロ食べ尽くし会をやるぞー!」
「いぇー!って、あれ、なんか空妙に煤けてない?」
空が傑にドナドナされて暫くした後、生徒達もいなくなった食堂にて、俺達教師陣は集まっていた。
目的は生徒達にはナイショの祝勝会。
あとはバーベキューも寿司も食えなかった傑の為にだな。
そんな傑はニコニコと笑みを浮かべ、空はテーブルに突っ伏してグッタリしている。
随分絞られたらしいな……硝子もこればかりは空が悪いとわかっているのか、知らんぷりだ。
「早く酒のアテになるようなもん頂戴よ」
ちげぇわ、ただ酒飲みてえだけだったわ。
高専時代から酒とタバコに溺れてた奴は違うわ。
「まぁまてまて。まずは傑にマグロの寿司セットをご馳走してやんねぇとな」
「お、嬉しいね」
ネタ自体は手巻き寿司の時の残りだが、まだまだ新鮮で美味いぞー。
「赤身に中トロ、大トロにそれぞれの炙りに、ネギトロとまぐたく軍貫、そして鉄火巻きだ!」
それぞれ二貫ずつ……寿司下駄に乗せて傑へと差し出した。
ネタはキラキラと輝き、それを見た傑の目も嬉しそうに細められた。
「マグロ尽くしだね。いやぁ、贅沢だ。それじゃ遠慮なく頂くよ」
早速とばかりに大トロを手に取った傑は、醤油すらつけずにパクリと頬張った。
もぐもぐと美味しそうに咀嚼する傑の頬が吊り上がるのが見えて、俺も思わず笑ってしまう。
「ん~……堪らないねこれは。口の中でとろけて、しゃりも程好く口の中でほどける。
……誠一、悪いけどもう1つ握って貰えるかな?」
「勿論いいぞー。さて……硝子にはこれだ、マグロの目玉の煮付け」
煮込んでたそれを硝子に差し出してやれば、硝子の目がキラリと光る。
「きたわね……見た目は最悪だけど最高の酒のアテ」
煮込まれた目玉が器で硝子を見上げているのを、横から見ていた悟が気味悪そうに顔を歪めた。
「うげぇ、目玉ァ……?んなもん食うの?」
「美味いんだぞ?マグロの目玉」
「食わないなら五条の分まで私が食べるよ。あむっ」
怪訝な悟にマグロの目玉の魅力について語ろうとした所で、硝子が煮付けを口に放り込んだ。
咀嚼する硝子は頬に手を当て、うっとりと頬を染める。
容姿の良さも相まって、なかなか色っぽいが……。
「……んー!……あー、もう、我慢出来ないっ!」
カシュッ!
ごきゅっごきゅっごきゅっごきゅっ……
カンッ!
「っぶっはぁーーーっ!」
その色っぽい雰囲気は次の瞬間完全に霧散していった。
缶ビールを一口で飲み干し、おっさんみたいに息を吐く。
まぁ、本人は満足そうだから別にいいが……。
「おっさんかよ……」
呆れたように呟く悟の言葉等耳に入ってないかのように、硝子は煮付けを更に頬張り……。
カシュッ
また新たな缶ビールを開けるのだった。
「ま、目玉が嫌ならこれはどうだ悟?中落ちだ」
そんな酒に溺れ始める硝子を後目に、俺はマグロの中骨を取り出す。
「んー……?これ骨だよ」
「いや、この骨の間に少し残ってるだろ?これをスプーンで……こう掬ってやって……」
自分でこそぎおとして食うのも楽しいんだこれが。
マグロなんざ解体する機会なんてそうないから、やる機会もほとんどないんだがな。
「おお?」
中骨の身がみるみるうちに削ぎ落とされていき、その身がスプーンの中に溜まっていく。
スプーンに乗せられた赤とピンクの身に、悟の視線が吸い寄せられている。
「ほれ、醤油つけて食ってみな」
それを差し出してやれば、大人しく受け取る悟。
スプーンに醤油をちょろりと垂らして、そのまま頬張った。
「はむ……んむんむ……んっ、悪くないね」
パアッと表情を明るくさせた悟は、機嫌良さげに中骨を手に取った。
言葉とは裏腹に、何か琴線に触れたらしいな。
中骨から身を削ぎ落とす悟は、とても楽しそうだった。
「さて、ほんで今回のメイン!マグロのかま焼きだ!」
大皿に乗せた本マグロのかま焼きをズドン、とテーブルに乗せた。
じゅうじゅうと音をたてるマグロのかま焼き……芳しい香りのするそれに、皆の目線が集まる。
「わぁ、すごいね、なかなか見ないよこんなのは」
「これも良い酒のアテになりそう」
「頭だけなのにでっけぇ……」
思い思いに呟きながら、今手元にあるものを一時止め、それぞれがマグロのかま焼きに箸を伸ばした。
ほじほじと暫しかまから身を取る時間が流れ……それぞれが程々の大きさの身を箸に挟む。
そうしてそのままパクリと口にした三人の顔が笑みを形作った。
「うーん、脂がたっぷり乗ってて美味しいね」
「塩がきいてて、ぐびっ……酒止まらん……ぐびっ」
「うっま。なんかぷりっとしてる、不思議な食感だね」
そんな三人の反応で、漸く空も再起動したのか、ピクッと体を震わせた。
そして、のろのろと顔を上げると、半目でかま焼きを見つめる。
「むー……皆美味しそう……うー、ボクも食べるぅ……」
疲れた顔の空に、先程まで説教していた傑は苦笑を浮かべる。
やり過ぎた……とか考えてるんだろうか?
そんな中で、硝子は空にかま焼きの身を差し出した。
身を差し出されている事に気付いた空は、ぱかりと口を開く。
まるで親から餌を貰う雛鳥のようだった。
「はいあーん」
「あーん……んむ」
その身を咀嚼すると、虚ろだった空の瞳に輝きが戻り始めた。
開かれた瞳がキラキラと光りだし、頬が緩んだ。
「おいひぃー!」
元気よく声をあげ、復活を果たした空の様子を見て、各々笑みを浮かべた。
困ったように笑う傑、微笑ましそうに笑う硝子、そして悟は楽しそうに笑っていた。
「はははっ、幸せそうで何よりだ」
俺は傑の次の寿司の用意をしつつ、皆の喜ぶ様子を眺めていた。
全員で美味いもんを食い、楽しい時間を過ごす……。
これ以上に良い時間の過ごし方はそうそうないだろうな。
良い友達を持ったもんだ。
皆の美味い飯を食って浮かべる笑顔を眺めながら、俺は胸に広がる充足感に自然と笑みを浮かべていた。
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?