「……さて、今回、色々な事が起きたようだけど、皆の口から直接聞きたいな」
傑はマグロ寿司を二貫食いしながら、微笑みを浮かべた。
口いっぱいにしたいのはわかるが……いや、まぁ、細かい事は言いっこなしか。
折角のめでたい場だしな。
「お、そうだね。それならー……悠仁が黒閃キメたーとか?」
「……予想以上の話が出てきたね」
悟の言葉に、傑は苦笑を浮かべた。
まぁ、予想外だわな。
そもそも傑は黒閃キメた事ねぇし。
「僕が帳に阻まれてる間、東京京都問わず、生徒達が特級を相手どってくれてたんだけど……犠牲者が一人も出なかったのは悠仁のそれがでかいと思ってるよ」
悟はそう語りながら、中落ちをスプーンに山盛りにして、それを一気に頬張った。
うんうん、と頷きながら咀嚼する悟の口角はつり上がり、美味そうだ。
「ま、それもその後、帳ぶっ壊した僕が良い所全部持ってっちゃったけど……そのままでも良い所までは行ったんじゃない?あの特級相手に今それなら、充分充分。次に対面したらきっと祓ってくれるでしょ」
悟は冗談っぽく言うが、まぁ強ちズレた期待でもない。
黒閃をキメた、それはつまり呪力の核心を掴んだという事だ。
その経験は、間違いなく呪術師に飛躍的な成長を促す。
そもそもポテンシャルは悪くなかった悠仁だ、これからが楽しみだな。
俺は傑のお猪口に日本酒を注ぎながら、悠仁のこれからの飛躍を願い、期待に胸を膨らませていた。
「おっと、悪いね。そうだな、他には何かないかい?」
傑の奴、ちょっと焦ってるな。
あいつ、黒閃キメた事ないからなぁ。
生徒に先を越され、嬉しいながらも内心複雑って所だろう。
そこいらの雑魚じゃ自分が出る幕もないだろうし……呪霊操術の弱点とも言えない難点かもな。
ま、黒閃を狙って出せる術師は存在しねぇ。
そう焦らずにやってけばいずれは出せるだろうさ。
ふと悟を見ると、笑みを深めているように見えた。
……狙って出せる術師は
悟ならやりかねねぇんだよな……。
「ん……私はただ空に守られてただけだから、なんもないよ。んー……うっま。日本酒が進むわぁ」
硝子はかま焼きを頬張り、いつの間にビールから変えたのか、コップに注いだ透き通った酒を煽る。
ごくごくと喉を鳴らして飲むようなもんじゃねぇだろそれ……。
「っぷはーっ」
まぁ、何も言わん。
繰り返すがめでたい席だからな。
めでたい席じゃなくても呑んでるがまぁ、そこはご愛嬌……愛嬌……。
見た目は良いんだけどなぁ。
「でも、そうね、空の出産……あれを出産なんて言いたくはないんだけども。あれは心臓に悪かったわ。二度と立ち会いたくない」
荒んだ目で言い切ると、硝子はガリを口に放り込み、少し荒くボリボリと噛み砕いていた。
まぁ、なんでも血みどろだったらしいからな……んな姿見たい奴なんざいないわな。
グイッとコップに残った酒を飲み干し、疲れたように息を吐いた。
「まぁ……そうだろうね。硝子もお疲れ様。空の治療もしてたんだろう?災難だったね」
「っとと、なみなみとお願いね」
そのコップに、傑が瓶から日本酒を注ぐ。
なみなみと注がれたそれを、硝子は空かさず口に運び、幸せそうに目を細めた。
「あ、でも、血塗は可愛かった。ちっさい空みたいな見た目で、中身も見た目相応に幼くてね。まるで……」
そこまで言って、硝子は一度言葉を切った。
そして、一度口を閉じると小さく首を振る。
「いや、やっばなんでもないわ。はぐ……んー、目玉の煮付けさいっこー」
再度コップを傾ける硝子に、誰も追及する事はなかった。
「交流戦自体はまー……途中までは普通にやってたよね。あー、でも真依チャンには驚いたなー。まさか真希チャンが一時的にでも気絶するような威力の銃撃してくるなんてね……はむ」
空はそう言って、テールステーキを頬張った。
「なに?確か彼女の術式は【構築術式】で、燃費が最悪な上に、本人の呪力は大した事がなかったんじゃないかい?」
おっと?それは俺もよく知らない情報が出てきたな。
真希は生まれつき呪力がない代わりに、身体能力がバカ高い天与呪縛の持ち主だ。
無論タフさも折り紙つき……その真希を気絶させるなんて、真依はどんな手を使ったんだ?
「ああ、あれね。僕も見てたけど、すっごい縛りつけまくって無理矢理作ってたね、スナイパーライフル」
「…………は?」
傑が呆けた声をあげるが……いや、俺もあげそうだったぞ。
何?スナイパーライフル?
確か、銃弾の一発でも作れば呪力切れになるって言ってたぞ真依の奴。
それを……どうやって?
そんな疑問は、悟が憶測交じりではあるが、簡単に説明してくた。
「あれは多分『術式使用中まったく動かない』『一度の使用で崩壊する』辺りの縛りを設けて、呪力を底上げして、術式の出力を上げてるね」
「それで説明つく上昇値じゃねーだろ」
「そだね、多分まだ縛り設けてるだろうね。それこそ……冥さんみたいに、ね」
そこまで言われて漸く、悟が懸念してる事柄に遅れて気付く。
縛りによる上昇値ってのは、本人にとって重ければ重い程でかくなる。
流石に銃弾がスナイパーライフルになんのは桁違い過ぎる。
何か無茶してんじゃねえか、って事か。
「む……直哉や歌姫先輩が見てるのに、そんな無茶な縛りさせるとは思えねえが……一応後で確認しとくか」
「そーしときな」
とはいえまあ、あの二人の教え子だ、大丈夫だとは思うがな。
「京都校のほうも粒揃いって事かな?」
「そうだねー。今の世代は豊作だよ。誰一人欠けずに青春を満喫して欲しいね」
同年代が全滅する事も珍しくない呪術界隈、これだけの人材が溢れているのは奇跡みたいなもんだ。
是非ともそのまま順調に育って欲しいもんだが……。
「それにはやっぱ、あの特級呪霊どもが邪魔だな」
「悟と誠一からそれぞれ逃げ仰せるとはね、敵ながら天晴れだね」
傑が何処か感心したように笑ったので、俺はそこで釘を刺す事にした。
呪霊を取り込む為に弱らせる必要があるからな、そこをつけこまれる可能性も万にひとつくらいはある。
「取り込むなっては言わねえけど、あの真人って呪霊相手すんなら油断すんなよ。下手に弱らせて刺激して、変に成長されちゃ堪ったもんじゃねえ」
「わかってるさ。っと……寿司も終わりか。美味しかったよ。さてそれじゃそろそろ、私もかま焼きをいただこうかな……」
傑は最後の一貫を口に放り込み、ニコリと笑った。
そして、かま焼きに箸を伸ばし始めるのだった。
「あ、あとそう、内通者の話」
そこで、悟が唐突に口を開き、一瞬全員の動きが止まった。
「それ、本当にいるのかな?あんまり信じられないけど……」
「
「呪霊と内通、ねぇ」
俺は腕を組んで首を傾げた。
仮に内通者がいたとして、どんなメリットがあるんだか……。
腐った奴等の中にでもいる可能性はあるか?
頭の腐った連中の考えはわかんねぇな。
「僕はいると思ってるよ。ま、歌姫にも頼んだし、それは追々だね。それより傑、海外はどうだったのさ?」
「あー、ミミナナも慣れない生活で大変な思いしてたりしてんじゃねーの?……そこんとこどーなのよげとー」
「皆元気そうだったよ。私の滞在中にもリカちゃんに二人は良く吹き飛ばされててね、仲良く出来てて一安心だよ」
「お前それ仲良くの基準ぶっ壊れてんぞ」
「二人とも憂太クン大好きだもんね。ふふふ、誰が射止めるのかなぁ」
「あ、そういえばさ――」
やがて話はくだらない話に移っていく。
笑い、食い、飲み……。
賑やかに、穏やかに、夜は更けていく。
笑顔の絶えない、心から楽しいと思えた時間だった。
「何回やっても、親しい奴等との飲み会ってのは良いもんだな」
俺は誰にともなく、小さく呟いた。
「あがががが……頭がががが」
「飲み過ぎだっつーの」
ただ次の日、二日酔いの硝子の相手しなきゃならんのだけがネックだな。
ま、それこそご愛嬌ってやつだな。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?