呪術高専さしすせそ!   作:如月SQ

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生姜焼き定食

「久し振りだな、じいさん」

 

「いきなり随分なご挨拶だな、醤油小僧」

 

 目の前で酒片手に座っている老人、禪院直毘人。

 今現在、禪院家において唯一形を保っている人間だろう。

 他の奴等は誰も防げなかったみたいだしな……うーん、由緒正しい禪院、精鋭、エリートが聞いて呆れる。

 一方でじいさんは流石だ、咄嗟に『落花の情』で俺の領域をカウンターしたみたいだ。

 他にも『落花の情』を始めとした領域対策を習得してた奴等は何人もいた筈なんだがなぁ……だらしねぇ。

 

 ぎろり、と強い眼光で睨み付けてくるじいさんに対して、ひらひらと手を振った。

 

「まぁ悪いとは思ったけどさ、会う度にいちいちぶちのめすのも面倒でさ。

 帰る時全員戻すからよ、勘弁してくれ」

 

「ふん……」

 

 呆れたように鼻を鳴らし、ぐびぐびと酒を浴びるように飲む。

 体に悪そうな飲み方だなぁ、と思った。

 

「つまみくらい食えよじいさん。体に悪いぞ?」

 

「つまみを作る女中も纏めて醤油にした口で言うか?」

 

 おっと、そりゃ俺が全面的に悪いわ。

 更に眼光が鋭くなるじいさんの視線から逃れるように、俺は後ろに立っていた恵に振り返った。

 

「っとと、そうそう、今回来た本題はこっちだ。

 こちら、伏黒恵くん。『十種影法術』の使い手で、あんちゃんの息子だ」

 

「なに……?」

 

 ピクリ、じいさんの眉がひそめられた。

 鋭い眼光は俺から離れ、ペコリと頭を下げた恵へと向けられる。

 

「初めまして、伏黒恵です」

 

「ふむ……何をしにきた?」

 

「『十種影法術』の資料とか残ってるだろ?それを見せて貰いたくてな」

 

「構わんぞ」

 

 え、と恵が拍子抜けしたような声を出すが……。

 じいさんのにやりとした笑みに、そう上手くは行かねえだろうなと直感した。

 

「恵といったか。お前は禪院に婿入りしろ。同年代は……真希と真依がいるか。どちらでも、二人ともでも良い。

 二人が好みじゃなければ、好みの女を宛がってやる。

 禪院の一員となればいくらでも見せてやる事が出来るだろう。

 逆に、部外者に見せられるものではない……わかるな?」

 

 恵は顔を歪ませたが、まぁ、妥当な所でもある。

 他の奴等は感情的にギャーギャー騒ぐだろうが、じいさんの話は筋は通ってると言えるだろう。

 言ってしまえば禪院家の持つアドバンテージを、無料で手放せって言ってるようなもんだからな。

 当主としては流石に見過ごせない、か。

 さて、恵はどう答えるか?ちら、と顔を向ければ。

 

「なら……結構です」

 

 そうキッパリと断る恵の姿があった。

 

「ほう……?良いのか?見る限り、力の渇望が見てとれる。

 我流で鍛えるにも限界があったからわざわざここに来たのではないか?手っ取り早く強くなれるぞ?」

 

「それでも、尊敬する先輩の二人をそんな物みたいに言う家に、頼りたいとは思いません。

 それなら自力でなんとかします」

 

 ひゅー、言うねぇ。

 じいさんは流石にそこまでハッキリ言われてしまえば二の句をつげず、目を見開いていた。

 

 そして、暫しの沈黙の後、沈黙を破ったのは。

 

「くっ、はーはっはっはっ!」

 

 じいさんの笑い声だった。

 バンバン、と自身の膝を面白そうに叩くじいさんの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

 

「いいだろう、気に入った!

 資料そのものを見せる事は出来んが、口頭で多少教えてやろう!

 ついでに、今の貴様の力を儂に見せてみろ、伏黒恵」

 

 すくりと立ち上がるじいさんは赤ら顔にも関わらず、まったく体幹がブレてない。

 その鍛え上げられた姿と溢れる戦意に、恵は咄嗟に身構えていた。

 ふむ……こうなるのか。

 どうなるか正直行き当たりばったりでここまできた訳だが、まあ事態は好転してるようで良かった良かった。

 

「そんじゃ俺は昼飯でも作ってくるぜ。じいさん、良いだろ?」

 

「好きに使え。ついでに旨いつまみも頼むぞ」

 

 そう言ってじいさんはゆるりと構える。

 視線は完全に恵を見つめ、もう今ここでおっぱじめるらしい。

 恵は事態の急転に戸惑い、俺に一瞬視線を向けたが、俺が視線を反らした事で覚悟を決めたらしい。

 構えを取り、じいさんと静かに向かい合った。

 

「『玉犬【渾】』」

 

「頑張れよー恵ー。その人どエライ強いからな」

 

「は――」

 

ズトンッ!

 

 黒と白の混じった毛並みの犬を呼び出した恵。

 だが、俺が声をかけた瞬間、襖をぶち破って吹き飛んでいった。

 それを成したじいさんは、不敵な笑みを浮かべたまま、犬もろとも吹き飛んでいった恵を追って駆け出して行った。

 

 おーおー、いきなりかよ、容赦ねぇなぁ。

 元、最速の術師は伊達じゃねえ。

 まぁ、色々教えて貰え恵。

 強くなるかは……正直わかんねぇけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなものか伏黒恵っ!」

 

「ちっ……なんつージジイだ……!」

 

「なんだその口の聞き方は!グランパと呼べ!」

 

「キャラが掴みづれぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……お、いい豚ロースがあるじゃねぇか。生姜焼きでも作るとするかね」

 

 台所にお邪魔して冷蔵庫を漁ると、かなり良い豚ロースが置いてあった。

 脂身もたっぷりだが、そこを削いで油でカリッカリになるまで揚げればいい酒のアテにもなるだろう。

 生姜も……どれどれ。

 

「がりっ」

 

 ふんふん……生姜ひとつとっても良いの使ってんなぁ。

 これなら生姜たっぷりにしても旨い生姜焼きになる。

 さあて、後必要な材料はーと。

 頭に思い浮かべるのは、豚の生姜焼き定食。

 生姜焼きをメインに、ご飯と味噌汁に漬物でもつけた、シンプルな奴だ。

 てことで、後必要な材料はーっと。

 

 頭の中でそれらを整理しつつ、次々と必要な具材を集めていく。

 だがまずは、時間のかかる米の用意からかなー。

 完成形を思い浮かばせながら、米を研ぎ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、お疲れ」

 

「……うす」

 

 案の定ズタボロにされた恵と、目立った損傷も消耗もないじいさんのいる座敷に、料理を持って訪れていた。

 じいさんの赤ら顔は既に抜けていて、どうやら酔い醒ましの運動にはなったみたいだな。

 ふーむ、中々やるんじゃないか?俺が思ってたよりは食いついたらしい。

 証拠にじいさんは酒もないのに機嫌良さそうだ。

 

「実力も確かめた。まだまだ粗削りだが、いいだろう。

 飯を食い終わったら、儂が知る限りの『十種影法術』について、話してやる」

 

 生姜焼き定食をじいさんの前に置いてやれば、挨拶もなしにがつがつと食べ始める。

 ご機嫌なのはいいが、態度わっるいなぁ。

 ……まぁ、いいけどよ……。

 

「ほれ、恵も食え食え。結構いいモン使ってるから旨いぞー」

 

「いただきます」

 

 手を合わせ、ぺこりと頭を下げる姿に、じいさんのマナーの悪さが際立つぜ。

 だがまぁ……二人とも旨そうにしてるし、良しとしてやるか……。

 

 豚もいい奴だから普通に焼いても旨い。

 だが、上手い具合に更に柔らかくジューシーに、かつ脂っこさを和らげて焼き上げた筈だ。

 じいさんももりもり食べてるし……。

 ……いや、じいさんじゃ参考にならんか。

 平気な顔でA5ランク牛とか平らげてそうだ。

 

 一方で恵は生姜焼きを頬張って、素直に眼を輝かせている。

 どうやら恵は普通に気に入ってくれたようだな。

 ご飯を掻き込みながら、微かに微笑んでいた。

 

「うまいか?」

 

「むぐ……」

 

「そりゃ良かった、ゆっくり食ってくれ」

 

 こくこくと頷く恵に、俺も笑みを浮かべた。

 うんうん、反応は薄いが、また二人とも満足そうで何より。

 さあて……そんじゃ俺は俺で悟が迎えにくる時間まで……適当に時間潰してるとするか。

 

「んじゃじいさん、酒とつまみは適当に持ってきておいたから、恵の事頼むわ」

 

 部屋の隅に置いたお盆、その上に酒といくつか用意したつまみを指し示す。

 

「なんだ、それだけか?」

 

「もっと飲みたきゃ自分で持ってくるんだな」

 

 じいさんは俺の用意した酒の量が不満なようだが、一升瓶二本は多すぎるくらいだと思うがなぁ。

 それ以上問答するきもなく、俺はその座敷を後にする。

 

 さあて、恵はこの機会をモノに出来るかね?

 ポテンシャルはあるとはいえ、個人的にはそこまで焦らんでもいいとは思うが……健人のように心が折れても困るしな。

 俺には応援する事しか出来んが、恵にはいろんな意味で頑張って貰いたいもんだな。

 

 そんな事を考えながら、味噌汁を二人が同時に啜ったのを最後の光景にし、俺は座敷を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……余談だが、迎えは悟ではなく、傑だった。

 申し訳なさそうな、けれど面白そうな顔で此方を見る傑と、困惑しきりの恵。

 ……そして、恐らく顔を真っ青にした俺が、禪院家の屋敷の前に立っていた。

 理由は簡単……帰る手段に見当がついたからだ。

 迎えは本来は悟だったんだが、緊急で任務が入ったとかで、急遽傑がきたらしいんだが……こいつは知ってるからずっと苦笑してやがる。

 傑による遠距離移動は……使役する呪霊の一匹、虹龍に乗って高高度を高速移動する方法……。

 

「くそが」

 

「覚悟を決める事だね」

 

 ぽんと優しく肩を叩かれるのが、こうまで鬱陶しいとは思わなかった。

 俺は悪態をつきながら、既に準備万端な虹龍へと跨がる。

 背後の禪院家では人の気配と騒がしさが増してきていて、このままでは面倒な事になる可能性が高かった。

 くそ、背に腹は代えられないが……!

 

「どうしたんすか、禪院さん」

 

 やがて訝しげな恵もまたがった事で、事は動き出す。

 虹龍はふわりとその場で浮かびあがり、それに合わせるように俺たちの体も上へと持ち上げられていく。

 そして、同時にぶわりと俺の顔に汗が吹き出し、体が震えだした。

 

「俺、高所恐怖症なんだよ……!」

 

 恵は驚きに眼を丸くさせ、傑は笑いを堪えて此方を見ていた。

 くそ……!後で覚えとけよ傑……!

 

 そうして、禪院訪問は割りと無事に終えた。

 帰り道は想定外に最悪だが……まあ仕方ねえ。

 騒ぎが大きくなり、屋敷の外に人が出てきた禪院家を尻目に、虹龍は高く高く、空へと浮かび上がっていく。

 

「ひぃいいいい!」

 

 高さという恐怖に震える俺を乗せながら、高専へと空の旅をするのだった。




誤字報告ありがとうございます。
修正しました。

これからの話

  • このままストーリー継続
  • もっと飯中心にまったり進行
  • そもそも過去に何が?
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