いつもか。
恵はどうやらちゃんとじいさんから【十種影法術】の事を教わったようで、調服した式神がいつの間にか増えていた。
今はそれらの組み合わせや連携なんかを確認しているようで、試行錯誤を楽しんでるように見える。
うんうん、万事楽しんでやらねぇとな。
さて、それはそれとしてだ。
俺の本業は飯作り。
伸び悩む若者に対してはある程度の義理を果たしたとして、今日も今日とて飯作りだ。
人参、白菜、キクラゲ、いんげん……。
豚肉、イカ、エビにうずらの卵、と。
具材はこんなもんでいいかな。
「そんで、主役の……中華麺!」
小麦粉から練った自作の麺……今回はこれだ。
これと用意した具材で何を作るかといえば……ずばり、餡掛け焼きそば!
普通に焼いたのと揚げたのを用意するつもりだ。
どっちも美味いんだよなぁー。
ただ個人的には……揚げたほうが好きかな。
てことで、下拵えとしては……具材は野菜に火を通しておくか。
丁度良いくらいにしといて、出す直前に纏めて餡掛けにすれば良し。
揚げはカリッカリにしたいから、今からやっておくかね。
油を鍋にたっぷり入れて、点火っと……。
さて、そんじゃまずは野菜を食べやすい大きさにカットしていくとしますかね。
「誠一さーん!ご飯恵んで欲しいッスー!」
「お?」
「おや」
昼前の少し早い時間帯、これから任務だっていう傑に飯を用意していると、そんな明るい声が食堂に響き渡った。
顔を向けてみれば、金髪の若いスーツ姿の女性が、にぱっとした笑顔を浮かべて顔を出していた。
「あっ、夏油さんチーッス!」
「やぁ、新田明さんだったかな、こんにちは」
「特級の夏油さんに覚えられてるなんて、光栄ッス!」
新田明、若手の補助監督だ。
京都高専の生徒だったんだが……交流会で振る舞った俺の料理を気に入ったとかで、高専の近くに寄ると結構な頻度で飯を食っていく。
まぁ、つまりは殆ど食いに来てるって事だ。
とはいえ本当の飯時には来ないで、こういう少しズレた時間帯を狙ってくる辺り、迷惑だとは思っているらしい。
俺は別に構わないんだけどな。
「おお、良いタイミングだな。今日は餡掛け焼きそばだぞー?好きだったろ、餡掛け焼きそば」
「マジッスか!?大好物ッス!」
人好きのする笑みから満面の幼い笑みへと切り替わった明は、そそくさとコップに水を汲んでテーブルにつく。
見るからにウキウキとはしゃぎ出した明に、思わず苦笑が浮かんだ。
「普通の焼きそばと揚げそばがあるが、どっちが良い?」
「えー!?究極の選択ッスー!?どっちも食いたいッス!」
「どっちもか?じゃあ半分ずつ用意するか?」
「あっ、それアリッスか!?ならそれでお願いするッス!」
「了解っと」
だがまずは傑の分を完成させないとな。
カンッカンッ
中華鍋に放り込まれた具材が、とろみのある餡に絡んでいく。
既に焼きそばは器に置いてあるから……いよし、こんなもんだな。
完成した餡を焼きそばの上にかけて……と。
「よし、完成。餡掛け焼きそば!ほれ、傑出来たぞ」
「待ってたよ。うーん、良い香り……美味しそうだ。冷めないうちにいただこうかな」
パン、と手を合わせた傑の目元に笑みが浮かんだ。
「ふーっ……ふーっ……あー……ずるるっ………………。
うーん、香ばしくてもちっとした麺に餡がよく絡んで最高だ。
具材の旨味も染み出してて、味わい深い……今日も美味しいよ誠一」
「良かった良かった。さあて、明の分も作ってやらねえとな……」
目の前で好物を美味そうに食われて、ひどく悲しそうだからな……。
さて、普通の焼きそばに焼き色をつけていくとするか。
「……美味そうッスねぇ……」
「美味しいよ。ふーっ……ずるるっ……うんうん……。
誠一の料理はやっぱり最高だね。任務に忙殺されそうな中での唯一の癒しだよ……」
「あー、まぁこの季節は毎年大変ッスよねぇ」
「夏はどうしてもねぇ。
ただそれだけじゃなくて、上が虎杖君関係での私達の邪魔に酷く苛立っているようでね、単純に去年の倍になってるよ」
「うへー……大変ッスね」
「いや、一番大変なのは君達補助監督の皆さんだよ。
特に、伊地知君は酷いね、基本的に担当が悟だろう?彼。
書類もろくに書かない悟に気儘に振り回されてるよ。
そろそろ倒れるんじゃないかな……。君も気を付けてね」
「伊地知さん……おいたわしやッス……」
事前に軽く火を通してあった食材達を放り込んで軽く温めて、と。
醤油ベースの鶏ガラスープをいれて一煮立ち……。
塩胡椒で味を調えて……と。
カッカッ
ああ、折角だ、かた揚げ焼きは、揚げ立ての出してやるか。
丁度さっき揚げたばっかのがあるからな。
半分にしてやって、とあちち。
ザクッ!
一つの皿に焼き色つけただけの麺と、カリパリに揚げた麺を入れてやって……。
ん……よし、餡も良さげだ。
最後に片栗粉でとろみをつけてやれば……。
カンッカンッ
とろーっ……
「よっしゃ、出来たぞー!」
「いよっ!待ってましたっ!」
パチパチパチパチ!
拍手で迎えてくれる明の前に、餡掛け焼きそばハーフ&ハーフを差し出した。
嬉しそうに顔を綻ばせ、早速とばかりにマイ箸を取り出す。
「いただきまーす!ふーっ!ふーっ!」
そうしてまず箸をつけたのは焼きのほうみたいだ。
「熱いからなー、気を付けろよー?」
「ずるるっ……はふっ、はふっ……ふぉー!あっふぃ!」
「……聞こえてないねこれ」
傑が呆れたように呟いた。
「んっ!……んくっ、んくっ……っぷはー!うまいッス!」
真っ赤な顔でどうにか咀嚼して飲み込んだ明は、水を一気にあおった。
そうして輝くような笑顔を浮かべていた。
……ったく、そこまで率直に喜ばれたらなんも言えないっての。
「ありがとな、けど火傷しないように気を付けて食えよ?」
「はいッス。さあて、パリパリのほうも~♪」
「あははは、もう焼きそばに夢中だね。ずるるるっ……うん」
まぁ、二人とも美味そうに食ってくれてるから、良いか。
「ふーっ!ふーっ!あむっ!」
大きく息を吹き掛けた後、明は今度は揚げのほうを頬張った。
パリッ
ボリッボリッ
離れた所からでも聞こえるような小気味の良い咀嚼音……。
しっかり揚がってるみたいで一安心だな。
「んんー!」
瞳を輝かせた明はパリパリと良い音をたてながら咀嚼し、ぶんぶんと首を頷かせていた。
うんうん、今回もお気に召したようで何よりだ。
さて、そんじゃ……と。
明はこれ、つける派だったな。
「ほれ、新品のからし」
「っ!ごくんっ……あざーッス!これがあれば百人力ッス!」
チューブのからしを受け取った明は即座に封を切ると、勢いよく餡掛け焼きそばへと黄色のからしをぶちまけた。
一気に半分は使ったか……?相変わらずたっぷり使うよなぁ。
呆れ交じりに眺めていれば、明は何の躊躇もなくそのからしまみれの餡掛け焼きそばを口へと運ぶ。
入れた瞬間に顔が一瞬だけ強張り、目尻に涙が浮かぶも……表情は笑顔のまま。
「っかーーー!たまんねぇッス!最高ッス!」
興奮した面持ちでその流れのままに次々と口に放り込んでいく。
とても良い食いっぷりだった。
もぐもぐパリパリと交互に小気味良い音を鳴らすものだから、食べ終えていた傑も堪らず、揚げ焼きそばを改めて頼んできたくらいだ。
「餡掛けを吸って少ししんなりした揚げが美味いんスよねぇ……」
少し時間が経ち小気味良い音が鳴らなくなっても、明は最後まで美味しそうに頬張っていた。
うんうん……作り手冥利に尽きるぜ。
「……誠一さん、嫁に来ないッスか?」
「寝言は寝てから言え」
「えーん、いけずッスー!」
「所で夏油さんは次任務何処なんスか?」
「ああ、沖縄だね。私が行くのは高専にいた時以来かな……。
任務ついでに知り合いの顔でも見てこようかなと思ってるよ。
そういう新田さんは?誰の補助をするんだい?」
「ここの一年坊三人連れて埼玉で調査任務ッス!」
「沖縄と埼玉ねぇ、二人とも気を付けろよ?
明は、うちの一年ズを宜しくな」
「はいッス!精一杯全力で補助するッス!
だから、また美味しいご飯お願いするッス!」
「はいよ、いつでも美味いもん作ってやるよ」
「……そういえば今日は張相の姿が見えないね。いつも君の調理の補助をしているのに」
「あー……張相は今願掛けに行ってるな。壊相と血塗が呪物捜索のお使いに行ってるから……無事に戻るようにと……」
「……願掛け?」
「水被ってるぜ」
「しかも禊か。なんとも……いや、仮にも彼は半分呪いなのに、大丈夫なのかい……?」
「あー……呪いと穢れはまた別なんじゃねーの……?知らねーけど」
それより、確か壊相と血塗の捜索先って埼玉じゃなかったっけか……?
まぁ、埼玉って言ってもそこそこ広いし、バッティングするとも限らねえか……。
二人にデザートの杏仁豆腐を手渡しながら、そんなフラグみたいな思考をしていたのだった。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?