呪術高専さしすせそ!   作:如月SQ

37 / 48
渋谷事変②

「……悟のバイタルが……途絶えた……?」

 

 俺の呟きは側にいた補助監督に伝わってしまい、あれよあれと言う間に全体に行き渡ってしまっていた。

 

『……どういう事です?まさかあの人に限って……』

 

 七海の言葉は、程度は違えど全員の総意だった。

 五条家の傑作、現代最強の呪術師。

 悟と戦える存在が、この世にどれだけいるか……。

 

 俺達にはそれぞれ無下限に対する対抗策はあるが、それだけで悟に勝てるなら苦労はしない。

 六眼による相手の手札の看破に、完璧な呪力操作、それによる圧倒的な体術と、同格を相手にし続け磨き上げられたバトルセンス。

 ()()()存在はいる。

 だが、()()()存在がいるとは思えなかった。

 

「……いや、多分死んだ訳じゃない。

 確かに戦闘中だったみたいだが、本当に突然途絶えたんだ。

 消し飛ばされでもしない限りこんな反応にはならねぇ」

 

 悟が反応も出来ずに消し飛ばされるのなら、感知範囲外から広範囲を吹き飛ばすような攻撃じゃないと無理だろう。

 となれば、考えられる可能性は自ずと絞られていく。

 

「……封印、が妥当な所か」

 

 悟を封印出来るような呪物に思い当たる節は……まあいくつかある。

 死んだ可能性よりはあるだろう。

 ……なら、悟を助けにいかねぇとな。

 

 バイタルの揺れは、いくつかのチームが既に戦闘中であることを示している。

 途絶えた者や、危険な者はいないが……少し前から張相達の反応が激しい。

 だが、あいつらは術式で血を使うから、バイタルだけじゃ参考にならん。

 一緒にいる筈の空の反応は普通。

 なら、そう大事にはなっていないと……。

 

「待て、張相達が戦闘してるのに、空が普通、だと?」

 

 あれだけ張相達を可愛がってる空が、ほぼ無反応……多少の興奮を感じるくらいで、見ているだけなんて、有り得るのか……?

 なんだが嫌な予感がするな……傑も少し前から戦闘中らしいし……何かが起きてる。

 仕方ない、俺も動くと―――ちっ。

 

「このタイミングで補助監督に異変かよ?」

 

 一部の補助監督のバイタルに突然の変化があった。

 これは……不意打ちなんかで負傷した感じだ。

 このタイミング……作為的な物を感じるが……無視は出来ねえか。

 ……中の事は、皆に頼むしかないな。

 取り敢えず、異変の起きた補助監督の所に行くしかねえ。

 

「頼むぞ、皆」

 

 そう小さく呟いて、俺は駆け出す。

 

 はてさて、後は……一応事前に連絡はしてたけど念の為にもう一度鳴らしておくか。

 

 走りながら携帯を取り出して、登録してある番号へと電話をかけた。

 数回のコールの後、携帯の向こうから不機嫌そうな声が聞こえて、俺はゆっくりと口を開いた。

 

「もしもし?――――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 張相は何が起きたのか理解仕切れず、壁にめり込んだ状態で呆けていた。

 

「……何が、起きた」

 

 張相は呆然と呟いた。

 ズキズキと痛む腹に手をあて、術式を回して内出血をおさえていく。

 ……そもそも、何故このような負傷をしたのか。

 それは空と一緒に行動していた時の事だ。

 閉じ込められた人を襲う呪霊を祓い、一息ついたその時、突然空が体をふらつかせたのだ。

 

『母さん?大丈夫か?』

 

 心配そうに駆け寄る張相、壊相、血塗の三人に、空は顔に手を当てながらゆっくりと顔をあげた。

 同時に髪をかきあげ、額の縫い目を露出させて。

 

『大丈夫、予定通りだよ』

 

 そう言っていつものポヤポヤとしたものではない、顔の歪んだ、邪悪な笑みを浮かべたのだ。

 

 嫌な予感を感じた三人がその場を離れるより早く、空の体からドロリとした赤黒い血が溢れた。

 驚く壊相と血塗を瞬く間に捕らえたその血。

 それから感じる血の繋がりに、二人は思わず動きを止めた。

 

『な―――』

 

 突然の事態、信頼しきっていた空からの害意に戸惑い、一瞬動きを止めた張相へと、空は既に大きくした鍵を振りかぶった。

 そうして目を見開く張相へ、空は感情のない声色で言い捨て、鍵を力強く、躊躇いなく振り切っていた。

 

『君達は、ここで暫く大人しくしててくれ』

 

『貴様、加茂憲のっ……!』

 

 そこで漸く気付く。

 目の前の人物が、第二の母親として心から慕っていた人物とは中身が別人になっている事に。

 加茂憲紀。

 自分達を、呪胎九相図を産み出し、母を苦しめた元凶。

 瞬時に怒りが沸き上がるが……現実は甘くなかった。

 張相は鍵で腹部を殴打されて吹き飛ばされて壁にめり込み、壊相と血塗は赤黒い血肉の塊に捕らえられてしまっていた。

 

『さて……始めるとしようか』

 

 空……空を中から操る脳ミソはそれらにまったく視線を向けず、歩きだす。

 まるで興味無さげに、どうでも良いとばかりに。

 

『ま……まて……!』

 

 張相は身体中に走る激痛に顔を歪めながら、背を向ける空へと手を伸ばすも……脳ミソは一歩も止まることなくこの場を去っていった。

 張相は動けない、ただ呆然と手を伸ばしたまま、壁にめり込んだままであった。

 その場には蠢く赤黒い肉塊だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の肉塊から、鼓動を止めた弟達の鼓動を感じた。

 三番、血塗以降の弟達……呪物となって幾年が経ち、意思の疎通が出来なくなっていった、幼いままに生きる事を止めてしまった可哀想な弟達……。

 そんな弟達を母さんはどうにかしてやれないかと四苦八苦していた。

 

 それを、あの男は、母さんの頭に潜んだままのあの男は……!

 

『あ、ア゛ぁあアア゛あぁぁァアアアあァ……!』

 

 全員を纏めて、あんな肉塊に変えてしまった……!

 感じるんだ、弟達の鼓動を。

 あれは間違いなく、俺の弟達だ。

 けれど感じない、弟達の意思を、微塵も。

 

「……加茂憲紀……」

 

 俺はどうする?

 

 あの弟達の肉塊には、壊相と血塗も捕らわれている。

 生きてはいる……体の一部は見えている。

 だが、身動きは取れないようで、もがく様子は見えるものの逃げ出せないでいるようだ。

 

「……加茂、憲紀ッ……!」

 

 知れた事!

 

 怒りが俺を支配する。

 加茂憲紀への怒り、弟達を弄ばれた怒り、母さんを奪われた怒り……。

 

「この落とし前、必ずつけさせるぞ、加茂憲紀ッ!!!」

 

赤血操術

 

 呪力を回す。

 まずは、目の前の理性なき弟達を止める。

 壊相と血塗を助けだし、加茂憲紀を倒し、母さんを取り戻す。

 

「……少し、痛いかもしれない。

 けど、我慢してくれ。……すぐ、楽にしてやる」

 

 俺はお兄ちゃんだ、弟達を守り、家族を守る。

 ……弟達の安らかな眠りを、これ以上邪魔させない。

 ああ、胸が痛い、だが、必ずやり遂げる。

 これが、今俺がやるべき事だ。

 

「全力でお兄ちゃんを遂行する!」

 

パンッ!

 

 手を合わせ、血を圧縮し、放つ。

 

百斂

 

穿血

 

ドシュゥッ!

 

ズシュッ!

 

 凄まじい勢いで放たれた血は、巨大な赤黒い肉塊を抉り、血塗との隙間を縫って貫通していった。

 これで、血塗は……!

 

「うぉっ!っぐ……!早……!」

 

 それに気付いた血塗が即座に離脱しようとするも、肉塊の再生はあまりにも早かった。

 自由になり露出した部分も即座に捕らわれてしまう。

 

「ちっ……!強引に全て引き剥がすしかないか……!?」

 

 思わず舌打ちが出る。

 狼狽は一瞬、次の手を考え始めた所で、けたたましい足音をとらえた。

 

ダダダダダダダ!

 

ダンッ!

 

 確認する間も無く、横から飛び出した人影は肉塊に再度捕らわれかけていた血塗を横からかっさらっていった。

 

「ゆーじ!」

 

 血塗はその正体に気付き、表情を明るくさせた。

 抱えられた状態でその人影、虎杖悠仁を見上げて、ほっと息を吐き出していた。

 

「悠仁か!冥冥はどうした?一緒の班だっただろう?」

 

「張相!なんか色々想定外が起きたらしくて、俺だけ先行してきたんだ!余計だったか!?」

 

「いや、助かった!まだ壊相が捕まっている……俺が引き剥がすから、どうにか引っ張り出してくれ!」

 

「わかった!けど夢乃先生は!?そっちこそ一緒じゃないのか!?」

 

 そこで一瞬言葉に詰まる。

 母さんは……。

 

「……母さんの頭の中に別人が潜んでいたのは知っているか?

 恐らくそいつに乗っ取られている。起きた騒ぎもきっとそいつのせいだ。

 ……目の前の肉塊も奴の仕込みだ、対処したら奴を追う。

 どうせろくでもない事を企んでいるに違いないからな」

 

「……わかった!とりあえず壊相を助けて、目の前の敵を倒す!その後夢乃先生を追っ掛けるで良いんだな!」

 

「ああ、それで良い」

 

 全ての事情を理解する必要はない、頭にはてなマークを浮かべているが、やるべき事を理解してくれれば充分だ。

 

「兄者!俺もやるぞ!」

 

 悠仁の腕から下ろされた血塗もやる気のようで、意気揚々と構えをとった。

 捕らえられたままの壊相も、目だけで私もやる、と言っている気がした。

 

「……ふっ」

 

 ……いかんな、心強さもあるが、微笑ましいと思ってしまって少し気が弛む。

 気を引き締め直せ、張相、俺はお兄ちゃんだ。

 

「……よし、やるぞ、血塗、悠仁。壊相、少し待っていろ」

 

 そして弟達……もう少しだけの我慢だ。

 

「「応!」」

 

 二人の返事を聞きながら、俺はより強く呪力を練り始める。

 少しでも苦しませないように、手早く終えるように……。

 

 兄として、務めを果たそう。

 

「……それと悠仁、俺はお前の()だ。

 これからは気軽にお兄ちゃんと呼んでくれ」

 

 それと……今弟達全員と対面して気付いた……虎杖悠仁、奴との……あの子との血の繋がり。

 どうせ加茂憲紀関係なのだろうが……弟には違いない。

 気付いたからにはこれからは、末弟として、精一杯可愛がってやるとしよう。

 

「応!」

 

「行くぞ」

 

穿血

 

ドシュッ!

 

 気合いを入れた様子で元気よく返事をする悠仁を横目に、俺は再度穿血を放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 悠仁の呆気にとられた声がその場に響いた。

これからの話

  • このままストーリー継続
  • もっと飯中心にまったり進行
  • そもそも過去に何が?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。