渋谷に下ろされた帳の外周、そこをぐるりと囲う補助監督達。
直接戦闘は出来ずとも、それぞれの形で力になる為に集う、彼ら彼女ら。
一般人と比べれば比較にならない程に呪術に精通し、ある程度の自衛も行える補助監督達へと、凶刃が襲い掛かっていた。
「へへへ、こーいうのが向いてるよな、俺って!」
帳を見張っていたスーツを着ている一人の男への腹部へと不意打ちをかまし、続いて側にいるもう一人の男へと切りかかっていた。
サイドテールの金髪、その男の名は、重面春太。
自分が楽しければそれで良いという、刹那的な思考を持つ呪詛師である。
自分より弱い者をいたぶり、悦に入る、救いようのないクズである。
故に今、基本的に戦闘向きではない補助監督を狙い行動を起こしていた。
性格はクズでどうしようもない男だが、実力だけは無駄にあり、並の補助監督では成す術もなかった。
このままであれば、補助監督の殆どは、この重面の凶刃に倒れてしまう事だろう……。
「おい」
「あ?なんだよ?今良いとこなんだよ、邪魔すんじゃ――」
更には独自の術式を持ち、その術式も優秀。
日頃の小さな奇跡を忘れることで、『奇跡』をストックする術式……それは自分の命が脅かされる場面で放出され、今までも重面の命を守ってきた。
呪詛師の中でも無駄にしぶとく、厄介な存在である。
「時間ねぇから、お前は『醤油になれ』」
だがそんな重面の『奇跡』は、それを容易く越える『不運』に塗り潰されてしまった。
悪運尽きた、それが正しいだろう。
「え」
パシャッ
誠一の拡張術式【醤融言】は、対象を醤油に変えてしまう術式。
その過程で、命を奪う事はない。
呪力でガードすれば防げないものではないが、重面は「いざとなれば術式がなんとかしてくれる」と気楽に考えてそれを怠っていた。
結果、重面の術式は、誠一の術式に反応することはなかった。
醤油となった重面春太は、五体満足で人の姿に戻る事は可能だ。
誠一がその気になれば、とつくが。
カランッカラカラ……
柄の部分が人の手首になっている不気味な刃が音をたてて落ちて、かつて持ち主だった醤油の上に転がった。
あからさまな呪具、とても趣味の悪い刃を気持ち悪そうに見下ろし……。
「『醤油』」
パシャッ
それもついでに醤油へと変えてしまった。
誠一が手を翳せば、醤油はふわりと浮かび上がる。
そして、その手に握られている小さな器へと、みるみるうちに吸い込まれていった。
体積を無視し、小さな醤油さしに収まった醤油を眺めて、誠一は補助監督達へと声をかけた。
「大丈夫かー?怪我した奴いるなら、連れて下がっとけよ」
「は、はい!ありがとうございます!禪院一級術師!
おい、大丈夫か?しっかりしろ!」
「う……」
血を流して倒れていた補助監督も、支えられながらも自らの足で立ち上がっていた。
その様子に、大事になる前に間に合ったと、誠一は安堵の息を吐いた。
問答無用の不意打ち、完全な初見殺し。
それは呪術の世界において、なんら珍しい事ではない。
故に常に細心の注意を払わなければならない。
怠った者の末路は、常に同じ。
油断、慢心……呪詛師重面春太は、そんなありふれた理由で、特に何も成すことなく、無力化されたのだった。
「これで一安心か……けど、狙われたのは確かだ。
一応補助監督みんなの様子、見に行くとするか……」
先に突入していた夏油傑と、それを抑えに向かった白髪のおかっぱの術師との戦いは、激しさを増していた。
「……のらりくらりと。面倒だね」
「……ふん」
傑が雑な呪霊を放てば、あっという間に凍り付けにされ、かといって本腰を入れようとすれば逃げに徹され、ならばと放置しようとすれば無視するには難しい規模の攻撃が放たれる。
「時間稼ぎのつもりかい?」
「さあな」
時間稼ぎをされている、そう認識した傑は一つ、強めの手札を切る事を決める。
この相手が本命ではない事を認識しつつも、一先ず強く叩いて様子を見よう、と。
呪霊操術の強みは、その手数の多さ。
とはいえ、これ程大規模な氷の術式相手へ有効な力を持つ呪霊は多くない。
しかし、その解決策とも言えるブツは既に、誠一から受け取っている。
それが現れた瞬間、周囲の気温が急上昇するのを感じ、ずっと無表情だったおかっぱの呪詛師の顔が初めて歪んだ。
「貴様っ……!」
「君にばかり構っていられないからね。手早く終わらせよう」
首から上のない、炎を纏う人型の呪霊を操りながら、傑は不敵な笑みを浮かべた。
一級術師七海健人は、二級術師猪野琢真と伏黒恵と共に帳の主を発見。
渋谷Cタワー前にて、前時代的なオヤジ、という印象を受ける装いをした呪詛師粟坂二良と、七海健人が戦闘を始めていた。
「二人は上にいる二人をお願いします。ここは、私に任せてください」
「了解!」
「わかりました……【鵺】!」
健人の宣言に二人は一も二もなく頷き、即座に意識を切り替えた。
目の前の老人の妙に自信に溢れている様子や、一人だけ降りて来た事、高所からの落下した割にはピンピンしてる事等気になる事は多いが……。
「手早く終わらせましょう。
夜更かしは、この歳になるとキツイ」
「あんちゃん、まだわけえじゃねぇの。
安眠の権利は、老人に譲るべきだぜ」
健人と粟坂二良が言葉を交わし衝突する中で、二人即座に自分がやるべき事をする為に動き出した。
七海さんが対応するならば、何も問題はない。
言葉にしないが、それが二人の共通認識だった。
恵の呼び出した怪鳥、鵺に捕まり、二人はタワーの上にいる呪詛師二人目指して駆け上がっていった。
手を合わせ、何かを唱え続ける老婆と、モヒカン頭の男性の二人組の呪詛師。
身構える男性だったが、恵と琢真の二人の視線は背後の老婆へと吸い込まれていった。
「……なにか唱えてますね」
「絶対ろくでもない狙いがあるぞあれ……速攻でカタをつけよう」
呪詛師が此方の様子を見る事もなく、熱心に唱え続けている何か。
此方の得になるものな訳がない。
そう判断した二人は屋上に着地すると、即座に戦闘体制をとった。
琢真は覆面を被り、恵は鵺を消して掌印を組んで……。
「ふ……もうええぞ。孫」
「わかってるよ、婆ちゃん」
しかし、それももう遅かったようだった。
老婆……オガミ婆は呪文を唱えるのを止め、孫、と呼ばれた男は何かを取り出し、飲み込んでしまった。
そして、不敵な笑みを浮かべたオガミ婆が、その名を呼んだ。
術師の天敵、かつて五条悟すら追い込んだ、暴力の化身。
「『禪院甚爾』」
……しかし、何も起こらず、オガミ婆とその孫の表情は歪んだ。
オガミ婆の術式は降霊術、死人の体の一部を使い、肉体情報を自分や他人へと降ろし活用する事が出来るのだが、何故か発動する事はなかった。
何も変わらない事に動揺する二人が、互いの顔を見合せようとした、その時だった。
「懐かしい名前を呼んだのはお前か?」
二人の間に、いつの間にか一人の男が立っていた。
誰も、それに気付けなかった。
いっそ穏やかな口調で、男は言葉を続ける。
「ただ間違ってんぞ?
俺はもう、禪院じゃねぇ。婿入りしたんでな」
その手には、一振の刃が握られていた。
「バカなっ……!貴様は死んだ筈で―――」
「婆ちゃ―――」
スパンッ
オガミ婆とその孫の首は、その次の瞬間には切り落とされていた。
その刃がいつ振られたのか、その場にいる誰も視認出来なかった。
オガミ婆と孫の、何が起きたのか理解出来ない顔が屋上に転がり、男はそれを見下ろして不敵な笑みを浮かべる。
それを、恵は目を見開いて見つめていた。
「今は伏黒だ」
「おっ……!」
天与の暴君、伏黒甚爾、参戦。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?