「親父!?なんでここにいるんだよ!」
「なんでって……誠一の奴に頼まれてたんだよ。力貸してくれってな。
それより久し振りだな、恵。ちっとは強くなったかー?」
「痛っ!やめろっ!このバカ力!」
ガシガシと乱暴に頭を撫でる甚爾に、恵は顔を歪めた。
一方で琢磨は、そんな二人のやり取りを眺めつつ、首が落ちた二人の呪詛師の生死を確認していた。
態度や口振りから何かが空振りになったような印象を受けたが、それすらフェイクの可能性まで考慮して、念のために、である。
慎重に死体を調べ……そして完全に死んでいる事を確認出来た為に、琢磨は覆面を外し、甚爾へと一礼した。
「えーっと、伏黒君のお父さん、スか。どうも、助かりました」
色々と言いたい事はあった。
呪力を感じない事や、いつの間に居たのか、その明らかにヤバそうな呪具の刃はなんだとか、殺しに馴れすぎてはいないかとか。
だが、万が一、機嫌を損ねて敵対した場合、自分の首もそこに転がっている呪詛師達の仲間入りする事がありありと想像出来てしまい、当たり障りのない態度になってしまっていた。
「おー」
そんな態度に気付いているのかいないのか、甚爾は琢磨のほうをちらりと一瞥だけして視線を切った。
そして、血糊すらついていない刃を肩に担ぎ、背を向けて徐に歩きだす。
「別に助けた訳じゃねぇ。誠一が飯作ってくれるってのと、渋谷に集まった呪詛師や呪霊を狩れば、強弱問わず一匹100万って話に乗っただけだ」
「んな理由で……!てか誠一さん、大丈夫かそんな約束して……!」
「五条の坊っちゃんのポケットマネーから出るらしいぞ」
「……なら良いか」
「良いのかそれ」
屋上の縁にたどり着いた甚爾は、ニヤリと笑って恵へと振り返った。
「て事で、俺は呪霊と呪詛師を狩りまくってくるわ。
終わったら、久々に家族揃って飯だ」
そしてそのまま、屋上から身を投げた。
「え!?ちょっ!?」
「楽しみにしてるぜ、恵」
思わず焦り駆け寄る琢磨に対して、恵は呆れたように肩を竦めていた。
駆け寄った琢磨が覗き込んだ暗闇からは、ガンッ!ガンッ!と鉄がひしゃげるような音が響いていた。
恐らくは落下の衝撃を逃がしつつ、落ちていったのだろうが、そのあまりの滅茶苦茶さに、琢磨は思わず苦笑を浮かべた。
「……伏黒君のお父さんって、なんつーか……その、自由……だね?」
「……」
言葉を濁す琢磨に、恵は返す言葉を持たなかった。
自分のやりたい事だけをやり、好きなように動く。
二人の脳裏に浮かんだ白髪の男と通ずる態度に、二人は気まずそうに顔を見合せていた。
この後、甚爾による破壊の跡が渋谷にいくつも刻まれる事となる。
髪に白いものが混じり始め、全盛期に比べて衰えている自覚のあった甚爾だが、それも蹂躙される有象無象からすれば誤差でしかなかったようだ。
「これで10か。ま、ざっと100くらい狩ればあいつも、ちょっとくらいはギャンブル許してくれんだろ」
呪霊も呪詛師も、最早札束にしか見えていない甚爾を止められる存在は、何処にもいなかった。
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「っおらぁっ!」
「ァア゛ア゛ア゛ァアアアァァァァァ!!!」
ズドンッ!
悠仁の振り抜いた拳が肉塊へと炸裂し、断末魔があがった。
ビチャビチャと有毒の血を撒き散らし……けれどもそれが悠仁を襲う事はなかった。
壊相と血塗の操る血が、悠仁を害そうとする血を触れた端から溶かしつくしていた。
「あ……ア゛ァ…………あ…………」
ビクンッ……ビクン…………
「……ごめんな」
ずしゅ……
肉塊の脈動がゆっくりと止まっていき……悠仁はなんとも言えない表情で拳を引き抜いた。
意思も何もなく、ただ有毒な血を振り撒き、暴れる肉塊を倒す事は難しいものではなかった。
壊相を解放してからは、あっという間だった。
「……膿爛、青瘀……」
張相は一人、動きを止めた肉塊へと歩を進める。
血で汚れる事も厭わず、その肉塊へと手を触れ……愛おしそうに撫でた。
「噉相、散相、骨相、焼相……」
そうして一人一人、愛を込めて名前を呼んだ。
生まれ出る事も出来ず、最後の最後まであの醜悪な男に利用された、哀れな弟達を、心から憐れんでいた。
自分達が今、母と呼んでいる人物の体内にいられたなら、まだ救いがあっただろうに……と。
「ゆっくり、休んでくれ」
張相は微笑みを浮かべ、背後では壊相と血塗が涙ぐみながらも強く、強く頷いていた。
そんな様子を、悠仁はただ黙って、手を合わせていた。
生温い血の感触が……どうしようもなかったとは言え命を奪ってしまった重みが、強くのし掛かっていた。
「……ありがとう、悠仁。弟達を止めてくれて。
あんな姿になって、理性も何もなく暴れるなんて、弟達にとっても不幸だった。
そして……憐れんでくれてありがとう」
「ッ……!」
ひどく、穏やかな表情だった。
悠仁はそれに何も言えず、ただ俯き、拳を握り締めた。
やり場のないもどかしさを感じながらも、ただ、その肉塊と成り果ててしまった張相達の弟達……その冥福を祈った。
そうして、暫しの静寂が流れ……張相がゆっくりと立ち上がる。
「……すまないな、時間を取らせた。
そろそろ行こう、母さんを取り戻す!」
「ズビッ……うん」
「ええ、行きましょう」
「……応!夢乃先生を乗っ取った奴をとっちめるんだよな?任せろ!」
皆が各々気を取り直した、その瞬間だった。
カツン
響き渡る足音に、皆の視線が一点に集まった。
そこにいたのは、いつもの黒コート姿の、夢乃空の姿。
「あれ?もう終わってたんだ、早いね」
その額には縫い目、浮かべる笑みの邪気を微塵も隠そうとせず、へらへらと笑うその姿。
「キサ、マッ……!よくも俺に、弟達を!」
「母さんを返せ!」
「報いを受けて貰います……!」
即座に戦闘態勢へと移る張相達、一拍遅れて身構える悠仁。
そんな息子達の姿を眺め、空の体を操る羂索は、ゆるりとした動作で左手に鍵を真っ直ぐ構え、その腕に右手を乗せた。
右手が作るは、深沙大将印。
「領域、展開」
「しまっ……!」
瞬間的に広がった漆黒の世界に、張相達は飲み込まれてしまった。
「ここ……は……」
ドサドサドサッ
「なっ……!張相!壊相!血塗!」
悠仁が目を開いた時、そこは不思議な空間だった。
四方には漆黒の暗闇が広がり、足元はまるでステンドグラスのように様々な色に発光していた。
まるで真っ暗な空間の中で、自分達がいる場所だけが浮かんでいるような、そんな空間。
そして、同時に張相達は力なく倒れこんでしまっていた。
「ぅ……あ……」
「く……」
「おい!大丈夫か!?血塗!」
痙攣するように微かに蠢く張相達も、自分に何が起きているのか理解しきれていないようだった。
悠仁が血塗を助け起こすも、焦点の定まらない目で虚空を見つめ、ただ震えるだけだった。
「くそっ……!何が……!」
「他人の心配をしている場合か?」
ゾッ
その声が響いた瞬間、悠仁の額から冷や汗が吹き出た。
今まで、考えないように、感じないようにしてきた……呪力を学んだからこそ理解出来る……出来てしまうようになってしまったその圧倒的な圧に、悠仁はその身を震わせた。
「頭が高いぞ?」
キンッ
バッ!
それは、反射だった。
ただ、今のままでは死ぬと、そう感じたが故に、血塗を押し倒すように、その身を伏せた。
ザンッ
パラパラ……
後頭部、僅かに何かに掠れた髪が落ちていくのを横目で眺めて、震えの収まらない体を律し、その声の主へと、視線を向けた。
「ほう、少しは貴様に相応しい、無様な態度になったじゃないか」
そこにいたのは、自分とまったく同じ容姿の、まったく違う者だと断言出来る存在だった。
顔に浮かんだ文様、目の下には新たなもう一対の瞳。
頬を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべたそいつは、ゴミを見るかのように、悠仁を尊大に見下ろしていた。
「小僧」
両面宿儺、顕現。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?