「なーに言ってんだこの四ツ目野郎」
「っ……!貴様ァ!宿儺様に向かって、なんと無礼な!」
「ケヒッ!まぁそう言うな。貴様にとっても悪くあるまい?
貴様の大好きな料理をするだけで、この俺を足止め出来るのだぞ?」
「……ハァ。まぁ、選択肢はねぇし、俺に選択権も……ねぇか。でもどうすんだよ?さすがに調理器具もねぇし材料もねぇぞ?」
「なぁに、何処かに飯屋の一つや二つあるだろう。そこで存分に腕を奮うが良い。俺の為にな」
「へいへい……仰せの通りに、宿儺様~」
「貴様ァッ!」
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ゴォオオオオ
「ふむ……流石に本体は格が違うか」
首のない呪霊が、炎に包まれて燃えていく様子を、傑は冷静に眺めていた。
「次は貴様だ、夏油傑」
相対するは仮称火山呪霊、名を漏瑚。
先程まで戦っていた氷の術式使いの女と入れ替わるように……いや、女に押し付けられるように傑と戦い始めていた。
とはいえ戸惑いや困惑は一瞬、傑の操る自分の首のない体を見た漏瑚の額に青筋が浮かんだ。
そうして戦闘となり……程無く傑の操る漏瑚の体は焼き付けされたのだった。
「ふむ……誠一からの贈り物が燃やされてしまって、私は悲しいよ。ふふ……焼けた醤油の良い匂いがするね」
実際はそんな匂いはしない。
ただ、醤油だった漏瑚の体を操っていた事を指して、煽っているだけだ。
そしてそれは当然、漏瑚の逆鱗に触れた。
「貴様……灰すら残さん……!」
静かに殺意を漲らせ、漏瑚は掌印を組む。
領域展開、即殺の構えだ。
そんな漏瑚の様子に、傑はつまらなそうに視線を切った。
「……はぁ、やれやれ。私の術式を知らないのかな?」
「知っているとも、呪霊操術。我々を使役する、忌々しい術式だ。
だからこそ今ここで燃やし尽くしてやる……!
所詮呪霊頼りの術師、儂の敵ではないわ!」
炎と呪力を滾らせる漏瑚に反比例するように、傑の機嫌は下降を始めていく。
呆れるように肩をすくめタメ息を吐くと、ゆるりと首を横振った。
「誠一に手も足も出なかった身でかい?私なら勝てると?
私も嘗められたものだね……まったく」
薄く開いた瞳からは、隠しきれない不愉快さが滲み出していた。
そんな傑の様子を気にする素振りも見せず、漏瑚は殺意のままに呪力を解き放つ。
「領域展開!【蓋棺鉄囲山】!」
周囲の景色が塗り変わっていく。
溶岩に囲まれた火山地帯へと。
急激に上昇していく気温、只人では存在すら許さない灼熱の領域。
術師の中でも抗えるのは一握りだろう。
「……ふぅ、本当に、心底呆れるよ」
そして、特級術師夏油傑は、当然その一握りに含まれる。
傑は小指だけを曲げながら、両手を合わせていく。
人差し指だけをたてて、顔の前に……。
「本当なら適当に、他の領域展開出来る呪霊を繰り出していく所なんだけど……正直誠一に負けた君に嘗められるのは、下だと思われているみたいで不愉快だ」
夏油傑が領域展開出来る事実は、まったく知られていない。
それは領域対策はストックしている呪霊が行えるからでもあり……必要する相手がいなかったからでもある。
しかし傑はここでその札を切った。
それは漏瑚に自分への認識を改めさせ、思い知らす為であり……
「領域展開……」
毘沙門天印を結んだ傑は、静かに領域の名を告げる。
漏瑚はその一つ目を限界まで見開き、そして……。
「【奇々怪々蠱毒廻】」
自分の辿る末路を見た。
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特級呪霊、陀艮。
海への恐れから産まれたこの呪霊は、特級呪霊達の中でも一際仲間思いな呪霊だった。
花御が殺された事を知り、陀艮は力を蓄えた。
渋谷に閉じ込められた人々を食べて、食べて食べて食べまくっていた。
陀艮は領域展開こそ可能だったものの、他の特級呪霊と比べても戦闘能力は勿論、言語も拙く、性格も幼い。
それもある意味、当然であった。
陀艮はまだ呪胎だったのだ。
時がくれば特級呪霊に相応しい容姿、肉体……そして傲慢さを手に入れる……筈だった。
ズバンッ!
「はな……み……」
ドシャァッ
「一丁あがりっ……と」
無骨な刃を振り、僅かについた呪霊の血を振り落とす。
伏黒甚爾は、夢中で熱心に人を食らう陀艮を偶然見つけ、そしてそのまま切り捨てた。
本来であれば孵った陀艮は特級呪霊としての力を奮い、禪院直毘人、禪院真希、七海健人らに重傷を負わせ、それらは更に大きな被害に繋がっていく筈だった。
だが、そんな運命は天与の暴君の知ったことではない。
呪力の柵から解き放たれた暴君は、ただ自分と……その家族の為に力を奮う。
「さぁて、誠一には何を作って貰うか……黒毛和牛……すき焼き、ありだな」
既に思考は切り捨てた呪霊から離れ、最期の言葉すら耳に入らず、事を終えた後の食事に思いを馳せていた。
家族で鍋を囲んで食らう高級肉は、さぞ美味いことだろう。
一仕事終えた後なら、尚更だ。
「……ついでに馬か船で一稼ぎして、たまにはプレゼントでもしてやるとするか」
『わー、どうしたの甚爾君!ありがとうー!』
脳内で妻が喜ぶ姿を思い描き、思わず甚爾の顔に笑みが浮かぶ。
ぐ、と背筋を呼ばして体を解し、首を鳴らして辺りを見回した。
「よし……そんじゃ、もう一稼ぎしますか」
甚爾はそう呟き、その場を後にする。
後に残るは、陀艮に食い散らかされた人々の亡骸だけ。
暴君の刃は、鈍らない。
その刃は、ただ守るべき家族の為だけに。
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誠一達が辿り着いたのは、何の変哲もないファミリーレストランのチェーン店だった。
宿儺の斬撃の跡が残り、食べかけの食事や、コップや割れた皿等が散乱していたが、比較的無事な類であったからだ。
人の死体も血痕もなく、まだ
宿儺はなんの思巡もなく店内に入り込むと、比較的無事な席にどさりと腰掛けた。
そのテーブルの上に乗っていたコップや、僅かな瓦礫は裏梅が即座に取り払い、いつの間にか手にしていた布巾でテーブルを拭きはじめていた。
「さぁ、禪院誠一、魅せてみろ」
腕を組んでふんぞり返り、宿儺は笑みを浮かべたまま告げる。
傲岸不遜、傍若無人、誠一の都合などまったく考えていないその在り方。
身近な最強に通ずる物を感じつつ、誠一は頷いて、言われるがままにゆるゆると動き出す。
そこで一つ、宿儺は誠一へと釘を刺す。
「言わずともわかると思うが……」
「嘗めんな、わざと料理で時間稼ぎなんざ狡い真似するかよ」
「ケヒヒ……ならば良い」
宿儺は笑みを浮かべたまま目を瞑り、脚を組み……それから微動だにすることなく待つ姿勢となった。
そんな宿儺へと一礼し、裏梅が一足先に厨房へと足を踏み入れていった。
直前に誠一を一睨みしていきながら。
改めて誠一は今の状況に呆れ果てていた。
なんでこんな事になったんだろうか?
答えは出ない。
出ないが……料理をするならば、俺の料理を食う奴がいるなら……と誠一は頭を切り換えていく。
するからには呪術師としてではなく、料理人として、存分に、全力で。
そう胸に刻み込み、自身も厨房へと足を踏み入れてく。
「必ず満足させてやるぜ、宿儺」
自然とそんな言葉を紡ぎながら。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?