さて、何を作るか……。
さらっと確認したところ、ファミレスらしく高級食材なんかはないが、一通り揃ってはいる印象だ。
とはいえ時間のかかる下準備なんかは出来ないから……ここは……。
「おい」
何を作るか思巡していると、裏梅と呼ばれていた女が話し掛けてきた。
なんだとそっちのほうを向いてみれば、むっつりとした表情で口を開いてきた。
「貴様、何を作るのだ?」
「んー……まだ決めかねてるが、あんまり手間のかからない奴かな。
宿儺に時間制限があるからには、美味いものをゆっくり食って貰いたいからな」
「ほう、殊勝な心掛けだ。だが、手抜き等したら私が貴様を殺してやるぞ?」
主従揃って殺意たけーな。
「ないない。料理人なら出す料理一皿一皿に誇りと信念を込めるもんだ。
手抜き料理する事なんざないって言うつもりはねぇが、人に食わせる飯で妥協する気なんざねぇよ」
「……良いだろう。その心掛けに免じて、貴様と同じ料理で勝負してやるとしよう。さあ、何を作る?」
俺の言葉に何か感じる事でもあったのか、裏梅はほんの僅かに態度を軟化させたようだった。
少しだけ表情を和らげ、そう言って急かしてきた。
んー……そうだな。
ご飯は炊けてるみたいだからー……ほかほかご飯に合わせるおかずで、手早く出来る料理……。
ときたら、アレかな。
「野菜炒めでも作るかな」
「ふん……いいだろう。精々死力を尽くすと良い」
いちいち大袈裟だなぁこいつら……。
さて、野菜炒めなら話はシンプル。
流石におかずだけは味気ないから味噌汁くらいは作っておくとして……。
具材はキャベツ、人参、ピーマン、玉ねぎにもやし……それに肉……豚肉かな。
それらを塩コショウで味を整えて、醤油で風味づけ……そんな感じでいいだろう。
それらの具材をファミレスの冷蔵庫から拝借し、早速とばかりに下準備を始める。
さて、どう料理するか……。
具材を食べやすい大きさに切り、熱したフライパンに油を適量。
まずは野菜を炒めて、ある程度火を通してから肉……。
豚肉の部位も色々あるが、今回相応しいのはこれだろう。
ある程度火を通してから豚肉を投入。
そんで塩胡椒を満遍なく……醤油はフライパンの縁に投入して暖めて……。
……うん、イメージはこんなもんだろう。
そんじゃ早速……。
「おい」
「ん?」
「この店の醤油がどれも使い物にならん。
悪いが、貴様の醤油を使わせて貰えるか?」
ちら、と裏梅のほうに視線を向ければ、裏梅が立っている場所、調味料をまとめてあっただろう所から黒い液体が漏れでていて、醤油の香りがした。
何かの騒ぎで容器が壊れたか?
まぁ、それなら仕方ないか。
「構わねぇよ。ほれ」
ひょいと醤油を取り出して……。
「っと……これじゃねぇわ」
それが普段使いするほうの醤油じゃない事に気付いて引っ込めた。
「む?どうした?」
「あれだ……なんか変な剣持ってた呪詛師を変えた奴だわこれ。
さっき少し使ったんだけどよ、性根腐った奴って醤油にしても腐った匂いすんだよ。
料理には向かねえよ」
「ふむ……どれどれ」
パシッ
「あっ、おい」
裏梅は半ば強引に俺の手から醤油の容器を奪い取ると、容器の蓋を外し、小指の先につけてペロリと舐めた。
そうして、その端正な顔をくしゃりと歪めた。
「これは……酷いな」
「だろ?ま、こっちなら大丈夫だ、間違いなく俺お手製の特製醤油だからな」
「ふむ……どれ」
ツルッ
ガシャン!
「「あ」」
俺の取り出した醤油へと意識が移り過ぎたんだろう。
裏梅の手にあった醤油はその手から滑り落ち、足元で割れ……醤油はそのまま排水溝へと吸い込まれてしまった。
あれは一応呪詛師だった訳だけど……正直もう半分呪力にしちまったから、戻しても多分まともに戻らないんだよな……。
それにどうせ死刑だろうし……。
まぁ、いいか!
顔を無言で見合わせた俺達は、それを見なかった事にした。
「……ほい、醤油」
「……感謝しよう」
【重面春太、消失】
「……その肉、なんだ?」
「む?人肉だ。宿儺様は人肉が好物であらせられる。
久方ぶりの人肉だ、是非とも美味しく召し上がって貰わねば」
「……久方ぶりかぁ。そっか、千年もなんも食ってねぇんだよな。そりゃあ美味いもん食って貰いたいよなぁ……」
「…………変な奴だな、貴様は」
「よく言われる。
さて……そんじゃあ……ちょっと予定と変えるかね」
俺と裏梅の料理を宿儺はあっという間に完食していた。
見てて気持ちの良くなる、良い食べっぷりだった。
そして、米粒一つ残さず綺麗に平らげた宿儺は、むっつりとした顔で腕を組んだ。
俺の豚肉の野菜炒め定食と、裏梅の人肉炒め定食。
見た目はほぼ変わらず、味噌汁もわかめと豆腐のシンプルなもので、それにご飯というオーソドックスな定食同士。
シンプル故に、料理人の腕がそのまま出る事になる。
正直に言えば、分が悪いなんてものじゃない。
裏梅の手つきはとてもこなれていて、長年の研鑽のあとが見られる。
熟練、達人と言っても良い程の料理人だ。
そんな達人に、俺のような青二才が料理で勝てるかと言えば、それは否としか言えないだろう。
「如何でしたか?宿儺様?」
裏梅は自分の勝利を疑っていない。
微笑みを浮かべたまま、宿儺の側にかしずき、言葉を待っていた。
まぁ、順当に行けば、俺の負けだろう。
野菜炒めと言いつつ、やはりメインとなるのはどうしても肉となってしまう。
その肉が、裏梅が使ったのは宿儺の好物。
その時点で俺は圧倒的に不利だ。
なのに料理人の腕前としては、裏梅が上。
醤油をふんだんに使う料理や、味の染み具合なんかが関わるようなら勝ち目はあるが……野菜炒めじゃそれも望めない。
だが、もしも……もしも俺の考え、頭に過った事が正しければ――。
「……ふむ」
たっぷりと時間をとり、宿儺は静かに瞼を開く。
鋭い眼光が俺と裏梅を交互に見据え、ゆっくりとその口を開いた。
「この勝負……貴様の勝ちだ」
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?