ズルルルルルル……
麺の啜る音がいくつも響く部屋の中、何人かの視線は中央で正座している二人に向けられていた。
正しくは、正座している二人が首にかけている札に、だ。
「「…………」」
『私は油断してむざむざと封印されてました』と『私は肉体を奪われて好き勝手されてました』とかかれた札を下げて正座させられてる二人は、対照的な表情を浮かべていた。
「ちっ……」
悟は不貞腐れたような顔で。
「…………はぁ」
空はしょぼくれた顔で俯いていた。
渋谷のテロの対処を終え、漸く事態が一段落ついた俺達は、一度高専に戻ってきていた。
「まだまだ解決の目処はたってねぇし課題も山積み。
今暫くは忙しくなるだろうが、今だけは一時的に忘れていい。
ここでたっぷり食って、鋭気を養ってくれ!さあ遠慮しないで思う存分食ってくれよな!」
「「「はーい!(しゃけ!)」」」
あれからなんだかんだともう一週間……俺も何日か寝ちまってたし、まったくもって厨房が懐かしいな。
数日間渋谷でこき使われて溜まったストレスを料理で解消してやろうと、思う存分腕を奮った。
久々に作ったラーメン……前作ったのは、悠仁と野薔薇の歓迎会の時か?
ま、みんな頑張ったみたいだし、存分に食ってくれ!
「誠一のラーメンはうめぇなぁ。特にこのチャーシュー」
「しゃけ!」
パンダと棘は一般人の避難に尽力して貰った。
特に棘の呪言は呪力のない人間には効果覿面だからな。
パンダも何人もかついで運んでたみたいだし、ありがたい限りだ。
地味な仕事だが、一般人を守るのは呪術師の本分でもあるからな。
「二人とも大活躍だったからな、好きなだけ食えよー」
「勿論」
「しゃけしゃけ!」
ズルズルと頬張る二人の隣で、真希と野薔薇の女性陣は少し不貞腐れてる様子だった。
「私らはあんまり実感がないんだよな。
突入したら呪詛師や改造人間のバラバラ死体に、呪霊の残骸ばっかりだったし。
ジジイはなんか納得してたみてぇだけど、聞いても意味ありげに見てくるだけで何も言わねえし……」
「渋谷の被害見るに、文句言ってられない状況なのはわかるけどぉー……勇んで来たのに肩透かしっていうか、ちょーっと不完全燃焼って感じー」
あー、ジジイの班でしかもあんちゃんと場所が被ったか?
そりゃ獲物なんざ残ってないだろうな。
「ズルルルルルル……」
真希からしたらここらで一旗あげて、三級なんかに上がりたかったところだろうが、結局は人命救助や復興作業等、呪術師としては殆ど評価されない部分でしか活躍出来なかったんだろう。
二人は不幸だったがまぁ、それでと腐らずに尽力するたぁ、良い子達だまったく。
「ほれ!特製チャーシューもっと食え!」
「うっす」
「はーい、いただきまーす」
少しでも気分がマシになるように、チャーシューを渡してやった。
二人はまだまだ不満げではあったが、ラーメン自体は美味そうに食ってくれている……。
ならまぁ、今はそれでも良いかもな。
復興作業はまだまだ続く……是非とも切り替えて頑張って貰いたいもんだ。
「美味しい……お店のラーメンよりも美味しいかも」
「だろ?禪院先生のラーメン最高なんだよ!」
楽しそうに談笑しながらラーメンを啜るのは、悠仁と順平の二人だ。
悠仁の体から宿儺が一時的に飛び出した訳だが、今は大人しくしてるらしい。
悠仁の意思じゃなかったみたいだし、悠仁は悠仁で激しい戦いがあったみたいだ。
援護にきた順平のクラゲの式神に痛みや疲労を麻痺させてもらって、ギリギリ真人を撃退出来たのだと言う。
捕り逃した事に上層部はブツクサ言いそうだが、今は悟を嘲笑うのに躍起になってて、悠仁にはまだ向けられていないようたった。
二人とも頑張ったみたいだし、おとがめなしになる事を願ってるよ。
「ズルルルルルル……」
恵は相変わらず堅実な動きをしてたみたいだ。
あんちゃん……自分の父親と遭遇したらしいが、それと反対方向に動いて、健人と琢磨と一緒に呪霊と改造人間の対処、一般人の避難をやり通してくれたらしい。
呪術師としちゃ正しいんだが……ちょっと前相談してきた内容を考えると……うーん、いやまぁ、どっかでいつか一皮剥ける事もあんだろう。
まだまだ若いし、やることも山積み……思い詰める事がないようにだけ見守ってやりゃ良いだろう。
「ちるちるちる……」
「血塗、大丈夫か?熱くないか?」
「本当に誠一さんの作る料理はどれも美味しいですね」
九相図の三人は空の近くでラーメンを啜っていた。
なんでも、空が脳ミソに体を奪われてた時、対応したのは三人で、不意をついた血塗の活躍で脳ミソに一泡噴かせる事が出来たらしい。
ご機嫌で麺を啜る血塗は、張相と壊相にこれでもかとちやほやされていた。
今回空が体を奪われたことで危うく渋谷で大量虐殺が起こるところだった。
悟が封印され、宿儺が解放され……文字だけ見れば呪術界の終わりを思わせる内容だ。
今回のテロ、甚大な被害だが、心の何処かで軽微な被害だと考えちまうのはそのせいだろう。
故に、そんな事態の切欠になった空には、今後は似たような事が起きないように処理していくとの事だ。
まぁ……また土壇場で顔を出されても困るしだろうしな。
硝子が中心に、空の現状をより正しく認識し、悟も協力して科学、呪術両方からアプローチして、脳ミソの脅威を取り除く……らしい。
「はぁー……」
深くため息をはく空は、心底反省しているようだし……そろそろ飯くらいは食わせてやるとするかね……。
「硝子、空にそろそろ」
「ん?りょーかい。空ー、もう良いよ。そろそろ食べなー」
「硝子ちゃん……うん、ありがとね……ごめんね」
目尻に涙を浮かべ、ふらふらと立ち上がった空は、覚束無い足取りで硝子の隣の椅子へと歩いていく。
札は掲げたままで。
そんな姿に苦笑しつつ、硝子はその体を受け止め、優しく椅子に座らせている様子だった。
空の回りに張相達が集まっていくのが視界の端に見えた。
……うん、空は大丈夫だろう。
「ごめんねぇえええ!」
泣いて謝る声も聞こえるし、同じ徹は踏まない事だろう。
……問題は……。
「けっ」
「悟……」
反省の色が見えない
『よお、五条の坊っちゃん。猿に助けられた気分はどうだ?
これで借り一つだな、返して貰う時を楽しみにしてるぜ』
「むがぁああああ……!」
ガリガリと頭をかきむしり、悟は心底悔しそうに唸った。
あんちゃん……伏黒甚爾が悟が封印された獄門疆とかいう呪物、それに矛をぶっ刺し、悟が解放された後に笑いながら言い放った煽り。
それがあまりにも悟に効いたらしい。
反省の色が見えないくらいに。
そんな様子に流石に傑も呆れ気味で、首を横に振った後ラーメンを取りに来ていた。
傑は特級呪霊を一匹捕まえたと嬉しそうだったが、悟の封印や空の体の奪取、両面宿儺の一時的な顕現なんかを聞いて、顔色を白黒させてたっけな。
一番の鉄火場にいなくて申し訳ないと悪くもないのに謝って、今も復興に最も貢献してる男だ。
頑張りすぎて倒れないようにだけ、密かに監視してたりするが……まぁ、まだ大丈夫そうだな。
ラーメンを美味そうに啜っているし、顔色も悪くない。
自責して頑張るのは良いが、特級は一匹ちゃんと対処してるんだし、健康な状態で頑張って貰いたいな。
「俺だって特級一匹祓ったっての!」
悟の嘆きは部屋にいる誰の耳にも届かなかったようだった。
まぁ、それだけ現代最強の名は重かったって話だ。
実際、一度でも封印されたという事実は五条悟のネームバリューを傷付けるのに充分過ぎた。
各地で呪詛師の動きが目に見えて活発になるくらいには。
だからまぁ、皆悟に反省を促している訳だが……。
「……まぁ、それもそうか。悟もそろそろ食って良いぜ」
いつまでも鞭だけじゃあ、可哀想だ。
なんせ、元々あの日はハロウィンという事もあり、甘味中心のハロウィンパーティをするつもりだったんだ。
それがなしになって、封印から解放された後も休みなく日本中巡って暴れる呪詛師の対処して……そろそろ俺は許してやるとしよう。
ことり
「おぉおおお……!」
悟の目の前に湯気のたつラーメンを置いてやれば、悟はあからさまに表情を明るくさせていた。
……こりゃ、もしやあったかい飯も久し振りか?
ちょっと悪いことしたかと僅かな罪悪感に苛まれながらも、悟の箸を手渡してやった。
「ほれ、熱いからな。気を付けろよ」
「いただきまぁす!」
子供扱いした事を気にした様子もなく……いや、気付いてないだけか?
悟はズルズルと勢いよく、麺を啜りだした。
アレは以前作った甘酢餡掛けラーメン……悟の為の甘めの味付けのラーメンの一応の完成形だ。
味はどうかなと少し不安に思った俺だったが……。
「うまーい!」
悟の浮かべた満面の笑みに、不安は一瞬でふっ飛んでいった。
目隠しもサングラスもしていない悟はニコニコと笑いながら、ラーメンを啜っていく。
まるで子供みたいに無邪気に食べていく姿に、皆も毒気が抜かれたようで苦笑を浮かべていた。
「はー、やっぱね誠一のご飯食べないとやる気でないんだよねぇ。これからも頼むよ、誠一」
「それは同感。誠一には苦労をかけるけど、これからもお願い出来るかな?」
「誠一の作るツマミが至高。この後つくってー」
「うぅ……今日はヤケ酒だぁ……ボクのもお願い……」
「だはははは!任せろ任せろ!」
三者三様の……けれど俺の飯を求めてくれる様子に、俺は自然と笑っていた。
やっぱ、俺はこれで良い。
俺の料理を、皆が美味しく食べて、幸せになってくれれば、それで良い。
皆が笑って麺を啜る様子を眺めて、俺は充実感を覚えていた。
こうやって……ずっと皆で笑っていられると良いな。
残酷で容赦のない呪い廻るこの世だが、そう願わずにはいられなかった。
ま……こいつらがいればきっと、なんとかなるだろう。
後続も続々と育ってきている……まったく、教師冥利に尽きるぜ。
「禪院先生ー!おかわりー!」
「ぼ、僕も……」
「あいよー!」
さあて、じゃ張り切って作るとするか。
皆が、幸せになりますように!
呪術高専さしすせそ―終―
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
本誌の衝撃の展開に耐えきれずかき始めた今作ですが、楽しんでいただけたのならば幸いです。
これでストーリーは完結……後にかくとすれば美味しくご飯を食べるお話となります。
いくつかネタは残っておりますし、いずれ形にしたいと思います!
それでは、改めて閲覧ありがとうございました!
いずれまたお会いしましょう!
誤字報告ありがとうございました、修正しました。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?