川での釣りを終えた俺達は、任務の現場へと赴いた。
そこは古臭い廃屋で、2級呪霊がうじゃうじゃいるという、恵にとって出来る範囲ではある任務だ。
そこを悠仁と野薔薇を連れて行う。
二人の経験にもなるが、恵が二人をどう扱うか、それが鍵になるだろう。
「大変な任務だが頑張れよ。終わったら傑の金で焼き肉らしいからな!」
「「「はい!」」」
元気良く返事をして駆けていく三人を見送り、俺はひらひらと手を降った。
「あれ、もしかしてこれ全員に奢るのかい?硝子と空だけじゃなくて?」
「え?そういう話じゃなかったのか、すまん。でも、悟なんかは奢られる気満々みたいだけど…。あー…まぁ、俺も悠仁勝つかもなーと思ってたから半分くらいは出すぞ?」
「誠一も貰ってるとはいえ、ほとんど食事の材料に使ってるだろう?それにいつも作って貰ってる身で、よりにもよって君に出して貰う選択肢はないよ。まぁ構わないさ。美々子と菜々子も乙骨君に着いていって暫くいないし、金は貯まる一方だからね」
「そうか?じゃあまぁ、今回は馳走になるかな。代わりに明日はざる蕎麦用意してやるよ。天ぷら何がいい?」
「それは嬉しいね。かき揚げがあれば文句ないよ。ふふふ」
そう言って不敵に笑う傑を横目で見やる。
……美々子と菜々子…ボロボロの二人を抱えて戻ってきた時の余裕の無さは感じなくなってきたな。
傑が、皆が楽しそうなら料理くらいいくらでも作ってやるさ。
さぁて…蕎麦はどうするかな…粉からやるか、市販の高級品使うか…。
そんな風にくだらない話をしながら暫く様子を見てたが、廃墟からは時折悲鳴やら破砕音等が響くものの、特に危なげなく祓い続けているようだ。
傑と並んで、その光景を眺めていた。
30分くらい経っただろうか?三人とも特に目立った怪我なく戻ってきた。
まぁ、流石に疲れてはいるようだし、少し煤けてはいるが。
「終わりました」
「おし三人ともお疲れ!無事で何よりだな!」
俺はそう言うとチラ、と悟のほうを見る。
何が言いたいのかわかった悟は目隠しを外し、六眼で廃墟のほうを見つめた。
悟は暫くしてから、おっ、と小さく声をあげた。
「あっれ、残ってるね。随分と隠れるのが上手い奴がいるみたいだ」
「えっ!玉犬でしっかり索敵した筈…!」
「やっぱりか。ここは以前も二級術師を派遣してたんだ。だが、短時間でまた被害が出てな、こりゃおかしいと思ってたんだ」
「……わかってたんですか?」
「えー、それなら先生達が最初から対応してたら良かったんじゃー?」
「以前が二級で祓えた規模だからなぁ、調査して窓の人達が死ぬわけでもなかったし。二級呪霊の巣窟ってのは、経験しておいて悪い事はないしな。正しい任務の形としては、お前達は露払い、その後俺と傑で詳細調査って感じだ。悟がいたから見て貰ったけどな」
「こういうのは結構あるンスか?」
「そうだね、割りとあるよ。そもそも呪霊を祓い損ねていたり、その土地自体が呪われていたり……強い呪物があったり、ね。大体は調査でわかるものだけど…今回は本当に隠れるのが上手なパターンのようだ」
悠仁がうっ、と声をあげる。
そして傑は、顎に指を添えてじっと廃墟を見つめた。
「んー、もしかして取り込みたいのか?」
「二級で戦闘力も無さそうだけれど、少し欲しいかな。頼めるかい?」
「はいよ、お前らじゃ廃墟毎壊すしかないもんな」
俺はパン、と音を鳴らして手を合わせた。
「拡張術式…【醤融言】」
対象は、あの廃墟内、と。
「『醤油』」
そう呟いて手を再度鳴らして、俺の呪力がごっそり減ったのを感じる。
さて、そしたらさっさと操作して、と。
指で何かを掴むようにすると、くいっ、と手首を引く。
そうすれば廃墟からは黒い液体が飛んできて、ひゅるりと俺の手の中に収まった。
「ほれ」
「ん、ありがとう」
俺の手の中でふわふわと浮いている黒い液体は、手を翳した傑の手の中へと吸い込まれ、黒い球体へと変化する。
それを大口を開けてゴクン、と一息に飲み込んだ傑は、顔をしかめた。
「お味のほうは?」
「醤油風味の吐瀉物だね。何時もよりはマシだから、毎回やって貰いたいくらいだ」
それは流石に呪力がもたねえな。
「そいつは勘弁だな…。さて、そんで後は…空、頼むわ」
「はあい」
そう声をかけると、空は胸元から取り出した金色の鍵を右手に持ち、廃墟へと向けた。
途端、キンッという音が鳴り、その鍵がそのまま巨大化する。
まるで剣のようになった鍵を左右にブンブンと振り回し、クルクルクルクルとバトンのように回す。
鍵の先に灯った光がそれに伴って輝きを増していき、空は両手で鍵を押さえ、廃墟へ向けて付き出した。
その鍵の先の光は廃墟へと延びていき、入り口付近にそれが触れると、その建物全体が淡く光りだす。
「この地を呪いから解放せよ……光よ」
空が真剣な顔でそう呟いた後、鍵を左側に回す。
同時に何処からかガチャリ、と重厚な音が響き、廃墟を包む光が少しずつ消えていった。
残るは呪いから解放された廃墟だけ、と。
おー、と呆けた声をあげる悟と硝子。
「いやぁ、いつ見ても幻想的な光景だね」
そう言って笑う傑は労る為に、小さくした鍵を胸元にしまう空の元へ歩み寄っていった。
「お疲れ様、空」
「あ、傑クンもお疲れサマ。口直しにラムネどうぞー美味しいよ?」
「ありがたく頂こうか」
さて、これで完全に任務完了だな。
あの廃墟は長年呪霊が隠れて住み着き、その廃墟自体が呪いに「囚われて」いた。
後は簡単、空が【解放呪法】でその呪いから解放すればいい。
これですぐには呪いは発生しないだろう。
「さ、帰って焼き肉に行くとするか…」
そう呟いて踵を返すと……恵、悠仁、野薔薇の三人が廃墟を見つめ、目を点にして肩をいからせて固まっていた。
……ふむ、そういえば空の解放を見るのは悠仁と野薔薇は初めてだったか。
恵は見たことあったと思ったんだがな…。
「何々、三人ともなんで固まってる訳?これから夏油の金で高級焼き肉よー?」
強!とかかれた缶チューハイを片手に硝子が寄ってくる。
「空の解放は派手だからビックリしたんじゃないか?」
「ふーん……ぐび…ま、後々馴れるでしょ。さー焼き肉焼き肉ー」
ふふふーんとご機嫌で鼻唄を口ずさみながら硝子は足早に帰路につく。
その足取りはしっかりしてて、相当飲んでる筈なのに酔ってる感じはまったくない。
「やー。みんなお疲れー。焼き肉はちゃんと貸し切りで予約してあるから、そう急がないでも大丈夫だからね」
その後をクーラーボックスを抱えた悟が続く。
「悟?今貸し切りと言ったかい?それかなり別途料金かかる奴じゃないかい?おい!」
「あははー楽しみだねえ、やきにくー」
額に冷や汗を滲ませて悟に詰め寄る傑と、呑気にふわふわと浮きながら着いていく空。
それらを見送り、改めて三人に目を向ける。
三人は漸く正気に戻ったようで、俺に そのまま詰め寄ってきた。
「「「禪院さん!」」」
「なんだなんだ、聞きたいことあるなら順番に聞いてくれれば、順々に話すよ」
めんどくさいけど、仕方ない。
俺は色々な道具を入れたリュックを担ぎ直し、三人の疑問に答えつつ歩きだすのだった。
「禪院さんの拡張術式初めて見ました……問答無用で相手を醤油に変えるんですね」
「いや、帳って醤油みたいだろ?」
「……???」
「じゃあ帳の中にあるのって醤油だろ」
「?????」
「伏黒が宇宙猫になってる…珍しいわね」
「釘崎は禪院さんの言ってる事わかった…?俺意味わかんねーや」
「わかる訳ないでしょ。でもあの人も、改めてイカれてるって事はわかったわ」
「それにしても夢乃先生のあれ凄かったな、本当にあれ呪術なのか?キラキラしてさ!」
「呪いが生まれやすくなる土地を解放するっていうのは、理屈はわかるけど、そんな言葉遊びみたいな事が出来るのね…」
「言ったもん勝ちみたいな所あるからな、呪いの世界ってのは。全ては解釈次第だ。ま、度が過ぎればとんでもないしっぺ返しがあるから、慎重にやんないとダメだけどな」
「術式の解釈、か。私ももっと何かないかしらねぇ…」
「追々考えていけばいいさ。空は高専入学時なんて、ただでかくした鍵でぶん殴るしか出来なかったぞ?」
「へぇー、俺は術式ないからなんか親近感わくなぁ。後で話聞いてみようかな!」
焼き肉を存分に楽しみ、傑の財布をカラにした翌日。
俺はざる蕎麦と揚げたての天ぷらを用意し、傑の自室へと運んでいた。
「おはよー傑、持ってきたぞ」
「ん、ああ、誠一か。いらっしゃい」
傑は別に皆と食うのが嫌いという訳じゃないか、こうやってたまに好物を一人で食うのを好んでいる。
気持ちがわからない訳ではない。
たまには好きな物を好きなように一人で自由に食いたい、そう思うもんだ。
「ほい、ご注文の天ざるだ。蕎麦の手打ちはまだ自信がなかったから、市販の十割蕎麦だ。茹では慎重にやったから自信はあるが、茹で具合の調整も出来るからな」
「いや、いい艶だ。まずは薬味なしでつゆだけで頂くよ……ずっずるるっ……んー良い香りだ」
もぐもくと笑顔で咀嚼する傑に胸を撫でおろしつつ、天ぷらの紹介にうつる。
「天ぷらはかき揚げだけにしといた。いい桜エビがあってな。ごちゃごちゃ用意するよりは、とな」
「ザクッ……いや、素晴らしいよ、最高だ。……同じのをもうひとつ頼むよ。……ずるるるっ」
……どうやら気に入って貰えたようだ。
蕎麦ってのは繊細だからな、緊張したぜ。
温蕎麦ならまた少し違うけど、ざるは苦労するな…。
でもまぁ。
「……ザクッ…ずっ、ずるるっ……」
ご機嫌で頬張るのを見れるなら、料理人冥利に尽きるってもんだな。
「うしっ、じゃあおかわり用意してくるぜ、楽しんでくれ」
そう言い残して部屋を去る俺に、傑はひらひらと手を降っていた。
さあて、食堂に戻ったらおかわり作りつつ、天ぷらを揚げてくとするかな。
今日は天ぷらだ。
そのまま天ぷら定食、天丼、天蕎麦、天うどん、勿論天ざるも。
腹ペコ達は何を食うのかねぇ。
【醤油操術】
拡張術式【醤融言】(しょうゆうこと)
自分が醤油だと認識出来る物が触れた、醤油だと認識出来るものに『醤油』という言霊をぶつけ、醤油に変化させる術式。
高専入学前、自分の作った醤油しか操れないという縛りを設けた後、どうしても手数が減ってしまったので、その頃は手頃な液体を醤油に変える事で補っていた。
自分がそれを強く醤油だと思い込む事が必須。
【解放呪法】
「呪いに囚われている」等の無機物に対する概念的な事象も解き放つ事が出来る。
鍵は大きくする出来て、その状態で呪力を溜める事で直接触れなくても解放する事が出来る。
これからの話
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このままストーリー継続
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もっと飯中心にまったり進行
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そもそも過去に何が?