ん?俺の術式の事がもっとよく知りたい?
そうだな…ま、いいだろ。
今日は炊き込みご飯だし、仕込みは終わって暇だからな。
話してやるよ。
まずは俺の【醤油操術】についてだな。
蒸した大豆と炒った小麦で麹を作り、塩水と合わせた諸味、それをじっくり絞った物を加熱して色と匂いを整えた黒い液体…それが醤油だ。
それをある程度自分の意思で動かす事が出来る。
ただスピードはそこまで早く操れないし、ろくに固くする事も出来ない。
まぁ仕方ない、それが俺の醤油に対する認識だったからな。
何処にでもある、普遍的な調味料だ、ってな。
そんな役立たずな術式だったから、禪院の奴らにゃ滅茶苦茶にボロボロに言われてなー。
ん、ああ、禪院はゴミの巣窟だぜ?
『禪院家に非ずんば呪術師に非ず。呪術師に非ずんば人に非ず』
そう本気で言ってる奴等がいっぱいいるからな、お前達は近付くなよ。
空も俺が…あ、いや、これは俺が言うべき事じゃねぇな。
えーっと、それでだ。俺はそこから何くそと奮起してな、体を鍛えて、呪力を鍛えた。
腐ってはいないがクズの、えらく身体能力の高いあんちゃんに遊びがてら鍛えて貰いながら、毎日ボロボロになるまでやってたんだ。
だがある日、ふと、俺は醤油の事を何もわかっていない事に気付いたんだ。
原材料だってその頃は大豆しか知らなくてな。
作るのに数年かかる事すら知らなかった。
もしや醤油操術が弱いのは、俺が醤油を正しく理解してなかったからなんじゃないか?とそう考えたんだ。
俺は親父に頼み込んで、専門家に醤油作りを教えて貰う事にした。
そしたらすげぇんだ工程が。
職人技さ、全てが。
自分の醤油を初めて手掛けた時、何度も何度もひっぱたかれながらやったもんだ…。
実際初めて作った醤油は大将のに比べて味も色も悪くて、風味もない、ひどい出来の醤油だった。
だが、すげえ苦労したし、達成感があった。
それから、自分が操る醤油の価値を正しく把握した俺の操術は、気付けば強くなってた。
本気で動かせば呪霊を貫く事すら出来るくらいにな。
そこで俺は醤油を作りながら、『自分が作った醤油のみ操る事が出来る』という縛りを課した。
それによって更に俺の術式の威力は上昇…10歳くらいで二級呪霊を祓えるようになってたんだ。
更には醤油と長く過ごした結果、液体が時折醤油に見えるようになってな…。
匂いとか、味とか、ただの水とかから香ってきて…。
その頃丁度手作り醤油だけじゃ手数が足りない、そう考えるようになって…。
やがてたどり着いたのが拡張術式【醤融言】。
まあー、簡単にいえば、自分の認識する範囲で醤油だと思い込める物に醤油が触れると醤油になるんだ。
……わかった?
わからんか…んー。
あ、そうだ、以前ほら、悟と傑を転げ回らせた、って言ってただろ?
高専に入学した時、悟に【醤油操術】ボロクソに言われてな。
腹がたったから空気を醤油だと思い込んで、あいつらの唾液を醤油にかえてやったんだ。
そうするとむせるだろ?すると鼻水や涙が出る。
それも醤油になる。
痛いぞー?粘膜に醤油は。
目と鼻と口から醤油撒き散らしながら転げ回る二人の姿は、あの時じゃないと見れなかっただろうぜ。
ま、そういう事も出来る訳さ。
対策?ああ、呪力ガードして自分をしっかり持てば大丈夫だ。
【醤融言】は自分の思い込みを対象に押し付けて醤油にするから、自我が強ければ強い程効きが悪いんだ。
そんでまぁ、ある日の事だ。
今まで通り醤油で呪いを祓い、土まみれになった醤油を見た時かな。
俺はその醤油を勿体無い、って思ったんだよ。
高専に入って料理にハマってた俺はよく料理をしてたんだ。
同級生、悟達によく振る舞って、なかなか反応も良くて、笑顔を浮かべてくれてな。
そんな中で、今無駄にした醤油があれば何が作れる?どれだけ美味しい料理が出来る?
そう考え出したら俺はもうダメだった。
『醤油は調味料だ!武器じゃねえ!』
そう思って俺は醤油を戦闘に用いないっていう縛りを課した。
十数年必死に研ぎ澄ました【醤油操術】の技術、それらを捨てるような行為をした俺は準一級から四級まで落とされた。
親にも怒られたし、禪院家に呼び出され好き勝手罵られたんだよ。
そんで内心イライラしながら高専に帰ってきてみれば、悟に滅茶苦茶煽られてな…。
時間経ってから思えば、あいつなりに同級生である俺を心配してたんだとはわかったが…そんときの俺にはそんな余裕なくてな。
ブチギレた俺は、感情のまま悟を殴り飛ばした。
…なんだ恵、そんな人外を見るような目して。
ああ、悟には無下限があるからな。
普通はどんなにキレてようと、どんなに力があろうと、あいつの無限は越えられない。
けどな、そん時今までにないくらいキレてた俺は、頭の血管切れて死にかけたんだよ。
そこで覚ったんだよ。
世界は醤油だって。
ピピピピピピピ
っと、炊き込みご飯出来たみたいだな。
今回のラインナップは鶏五目、たけのこ、生姜、牡蠣、鮭だぞー。
鮭にはいくら乗せ放題だ。
ん?勿論いくらは醤油漬けだ…食ってみな、トぶぞ?
おかずはなし!……ウソウソ、希望があればなんか作るぜ。
鶏とたけのこの天ぷら?カキフライ?焼き鮭?
オッケーオッケー、任せな。
おつゆは松茸のお吸い物と鮭のあら汁があるからなー。
美味いか?
そうか、へへへ、やっぱこれが性に合ってるぜ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……なんつった五条…」
「はっ、何度でも言ってやるよ禪院。お前バカだろ?ただでさえカスで雑魚い術式の癖に、それ全部捨てるとかさ。わけわかんねー」
五条悟はへらへらと嘲笑う。
疲労の色濃く出た湿気た面を浮かべた禪院誠一を、最強である自分に一矢報いた同輩を、磨き上げた全てを投げ捨てた大馬鹿野郎を。
「……別に捨てた訳じゃない。醤油を戦いに利用したくなくなっただけだ」
ふい、と視線を反らす誠一を笑い飛ばす。
「はっ、同じだろ。そんなんじゃ遅かれ早かれ死ぬぞ?無駄死にする前にさっさと術師やめれば?なんならウチで飯炊きとして雇ってやろうか?」
瞬間、振り返った誠一は拳を悟に振るった。
ビッ
しかしその拳は無下限に阻まれ、悟の目と鼻の先でピタリと止まってしまう。
震える誠一の拳を、つまらなそうに眺めた悟は更に嘲笑う。
「はっ、本当の事言われてキレるとか、マジでガキじゃん。無駄だよ、醤油があっても俺に敵わなかったの忘れちゃった?それよりも役立たずになった身で敵う訳―」
「……無下限には、呪力が流れてるよな」
目を見開いた誠一は、悟を見つめる。
「……あ?」
「流れてるなら液体だろ」
誠一のこめかみに、血が流れていく。
「……何言ってんの?頭おかしくなった?」
「じゃあ無下限って『醤油』だろ」
パシャッ
悟の回りに、突然黒い液体が現れた。
それに悟本人が戸惑う前に、その頬に誠一の渾身の拳がめり込む。
そして。
「は、ぶぐぅっ!」
意識を失う直前、悟の目には、誠一の拳に黒い閃光が走ったのが見えた。
殴り飛ばされた悟は校舎の壁を破壊し、教室の机と椅子を巻き込み、黒板に大きな亀裂を刻んでそこに崩れ落ちた。
突然血みどろで飛んできた同級生である五条の姿に、家入硝子は呆然と咥えていたタバコを落とした。
「うぇ…?ご、五条!?アンタ何したの!?」
すわ何かの危機かと悟に駆け寄り、吹き飛んできた方向を見る硝子。
が、そこから現れた憤怒の表情を浮かべた誠一を視認すると、関わりたくないとばかりに教室の角に移動していった。
心配して損したとばかりに、新しい煙草を咥えてライターを取り出す。
「悪い家入。怪我なかったか?」
「ないでーす。気を付けてよね」
「後でなんか作るよ」
肺いっぱいに吸い込んだ煙を吐き出し、硝子はその様子を眺める。
気絶していた悟は、自分から分泌される液体を醤油にされ既に醤油まみれ。
悟は傷口や粘膜を醤油に触れられ、その痛みに目を覚まし、もがき苦しんでいた。
「(あれ、禪院の奴の術式はもう対策した、二度とあんな無様は晒さない、って言ってなかったっけ…ま、いっか、撮っとこ)あははー」
「いっでぇええってぇ!それやめろ本当に!っぐぁああ!目がぁああああ!!!」
叫ぶ悟に構わず、誠一は術式を行使し続ける。
叫び、唾液が醤油に変わり、噎せて咳をし、涙や鼻水が溢れ、それも醤油になる。
悟はそのまま、音に気付いた夜蛾と夏油傑が来るまでの数分間、醤油に苦しみ続けた。
そのやり取りを、教室の外から上から下まで真っ黒で、フードまで被った夢乃空が眺めていた。
フードから覗くその瞳を無感情に細める。
「……くだらない。小学生か」
悟と誠一を無理矢理対面させているのを見て、小さく呟いた空は踵を返す。
「……どちらも死んでおけばいいのに…」
そう吐き捨て、冷たい目をした空は、その場から立ち去っていった。
【醤油操術】【醤融言】
なんでも醤油に出来る。
個体、液体、気体、物質、非物質関係なく、あらゆる物をこじつけて醤油に出来る。
誠一の課した縛り、汎用性を捨て、十数年研ぎ澄ました力を捨てる、それらが非常に重く判断されている。
ただ、それには誠一が本気でそれらを醤油だと思わなければ変化せず、自我があると抵抗出来る。
これからの話
-
このままストーリー継続
-
もっと飯中心にまったり進行
-
そもそも過去に何が?