ダンジョンに『元』冒険者がいるのは間違っているだろうか   作:チキンうまうま

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「本当に彼は呼ばなくて良かったのかい?」
「ああ。あいつは呼ばなくていい。と言うか呼ぶな。絶対にだ。もし呼んだら事が起きる前に私があいつを殺す。」
「…そこまで言うのか。なあザルド、アルフィアと彼の間に何があったんだ?」
「…大した話じゃない。アルフィアの妹に時雨(あのバカ)が懸想していただけだ。ただ、その…」
「あの変態はそのレベルがまあ気持ち悪くてな。片思いを拗らせた挙句魔法を一つ生やしたんだ。」
「…流石ゼウスの眷属と言ったところか。」
「その言い方だと俺も同じ扱いになるからやめてくれ…。」
「側から見ても分かるくらい片思いしていたくせに何も行動をせず、それでいて妹を摸した魔法を生やしたんだ。姉の立場とか除いても普通に気持ち悪いだろう、あいつ。まあそれでもメーテリアを孕ませたあの男よりはマシではあったがな。」
「ゼウスファミリアの男にまともな奴はいなかったのか?」
「本当に返す言葉もないな…。」




女神

 

「待たせたわね。」

 

 摩天楼(バベル)の中にあるヘファイストス・ファミリアの店舗。その一室に時雨はいた。そして木箱を持った1人の女性─ヘファイストス・ファミリアの主神である鍛治の女神、ヘファイストスが扉を開けて彼のいた部屋に入ってきた。

 

「お久しぶりです、ヘファイストス様。急に頼んですみませんね。」

「別にいいわよこのくらい。この刀の手入れできるのなんて打った張本神(ちょうほんにん)である私くらいでしょうし。」

 

 そう言ったヘファイストスの手によって木箱の蓋が開けられ、中から二振の大小の刀が取り出された。長い大刀の(つか)には赤の、短い小太刀の方には藍の柄糸が巻かれている。

 

「この二刀、頼まれた通りにちゃんと手入れしておいたわ。ただ、あまり直すところはなかったけど。この15年の間もちゃんと手入れしていたようね。」

「まあたまに素振りするくらいでそもそも使う機会がなかったですしね。それでもたまに手入れはしてましたけど。」

 

 時雨が木箱の中から大刀を取り出し、するりと鞘から抜いた。現れた刀身が光を反射して輝き、思わず時雨の口から感嘆のため息が漏れる。

 

「…やっぱりとんでもない刀だ。」

「当たり前でしょう?私が打ったんだから。」

 

 その賛辞にヘファイストスが当然のように応えた。超越存在である神々の中でも指折りの鍛治師が顧客の満足できない仕事をしないわけがない。

 

迷宮(ダンジョン)50階層より下、深層の素材をふんだんに使用した至高の二振り、『曙光(しょこう)』に『無明(むみょう)』。下界全てを見渡してもそれに勝る刀は存在しないわ。」

 

 大刀『曙光』に小太刀『無明』。時雨がゼウス・ファミリアに所属していた頃に作られた文字通りの『神造兵装』であり、長時間の激戦にも耐える不壊属性(デュランダル)と高レベルの魔力伝達を両立させた奇跡の如き武装。

 

「…こいつらがもう一度日の目を見るなんてな。」

「…そうね。私ももう一度見るなんて思ってなかったわ。それと時雨。」

「なんです?」

 

 鞘に収めた『曙光』と『無明』を腰に刺しながら時雨が聞き返した。

 

「その二振りの手入れ代金、ちゃんと払えるんでしょうね。」

「俺をなんだと思ってます?払えるに決まってるじゃないですか。」

「ええ、そうよね…普通はそうなのよね…。」

「…なんかあったんです?」

 

 差し出された高額の請求金額に眉一つ動かさず証文にサインをする時雨に対して、ヘファイストスは何かを思い出したかのようにため息をついていた。

 

「ちょっと最近まで下界に降りてきた神友の面倒見てたんだけど…その子がちょっと金銭面でアレだったのよ…。」

「…それは、その、大変でしたねえ…。」

「あまりにも目に余るから結局追い出したのだけど…今頃どうしてるのかしら。」

「なんか母親みたいな事言い出した…。」

 

 無事に支払いを終えた時雨が苦笑いをして立ち上がった。

 

「それじゃ、俺はこれで。今からちょっと迷宮(ダンジョン)に行きますけど、欲しい素材とかありますか?」

「今はいいわ。ロキのところの子たちが遠征してるはずだから、後でその買取りもしなきゃいけないもの。今下手な買い物はできないわ。」

「あー…そういや行ってましたねあいつら。下でかちあわないといいけど。」

 

 事前に公表されていたロキ・ファミリアの遠征旅程的に顔を合わせなくて済む階層を考えながら時雨はヘファイストス・ファミリアの店舗を後にした。

 

(…ん?この感じ…。)

 

 二刀を腰に差した時雨が摩天楼の1階に降りていると、まとわりつくような視線を感じた。その視線は、時雨の‘上’から来ている。自分が真上から見られている、という事実から相手が誰かが分かった時雨は小さく吐き捨てた。

 

「…相変わらず悪趣味なことで。」 

 

 そう吐き捨ててはいても彼に何ができるわけでもない。周りの冒険者たちに揉まれながら迷宮の中へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の彼は駄目ね。」

 

 神の鏡を覗いていたある女神が手に持っていたグラスを傾けながら口を開いた。それに応えるのは隣に控えていた巨躯をもつ猪人(ボアズ)、オッタル。

 

「黒龍との戦いの後、彼の魂は濁ってしまった。あれ程赤く、美しく輝いていた魂は灰に濁り、光を失った。敗戦の時に比べたら少しはマシになっているけれど…もう彼の魂にあの輝きなんて存在しない。」

 

 その女神こそ美の化身。オラリオに君臨する最強派閥の一角、『フレイヤ・ファミリア』の主神。

 

「…では、今の『夜叉』とことを構えるつもりはないということでしょうか。」

「ええ。今の彼ではオッタル(あなた)の壁たり得ない。今の彼はあのザルドとアルフィアがその身を犠牲に残した最強であるあなたを倒す事ができない。」

 

 そう言って悠然と脚を組む女神の名こそフレイヤ。愛と美を司り、豊穣を約束する常勝の女神。

 

「今の彼は過去に取り憑かれているわ。そしてかつての同胞の遺したものを絶対に壊せない。だから…もし貴方と彼が戦えばまず勝負にすらならないわ。勝負以前の問題だもの。」

「…では、『夜叉』を打ち倒す時は。」

「ええ。彼の魂が真に輝きを取り戻したその時。その時こそが貴方が雪辱を果たす時。」

 

 フレイヤは隣に控えるオッタルを見た。彼の目はいつ以来見るのかと思うほどにギラギラと闘志に燃えている。

 

「オッタル。」

「はっ。」

「相手はあのゼウス・ファミリア最後の生き残り。強者ひしめくあの千年軍団(ミレニアム)の中で最も多くの人を斬った史上最強の人斬り。それと戦うのは貴方。その貴方に命ずるわ。」

 

「『頂点』を示しなさい。」

 

「御意。」

 

 心酔する女神から直々に下された神命。それに対してオッタルはただ首を伏して応えた。

 

 

 





片思い拗らせて魔法1つ生やした男
 スキルと魔法の違いこそあれど義息子も同じ道を歩むことになる

現役時代の時雨
 ファミリア屈指の切込隊長。どんな状況からでも帰ってくる鉄砲玉。
 対モンスターよりは対人戦が得意。

今の時雨は全盛期に比べてメンタルボロボロ昔話大好きおじさんなのでめちゃくちゃ弱くなっています。もしベルを育ててなかったら間違いなく精神を病んで自殺してた。
ザルドの遺した最強であるオッタルと戦えば、仮に優位状況からでもわざと負けに行ってオッタルを最強の座に縛り付けてしまう。このメンタルが元に戻った時が真に時雨が復活する瞬間。できるのかは不明。
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